捻くれぼっちと拗れボッチ   作:よこちょ

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 前にも言ったとおり、言及しない部分ではほぼ原作通りの流れで話が進んでいます。よって、ここからは原作の流れと平行して城ヶ崎景虎の物語が流れてると思ってくれると相違ないと思います。


やはり仕事はクソである。

「じゃあ部長さん。これ、新しくよろしく。」

 

「了解です。」

 

 

 新たに受け取った資料やらを小脇に抱え、廊下を小走りで駆ける。そのまま職員室、校長室、教室・・・と、様々な関係各署へと走る。扉を開ける度に資料は減り、新たな仕事だけが舞い込んできた。

 

 

「この世の地獄か?」

 

 

 俺がそう零してしまうくらいには、記録雑務の部長という仕事は過酷だった。仕事が少なそうと思っていた過去の自分を今すぐぶん殴りたいレベルだ。

 雑務、と名を冠しているだけあり、その仕事内容が多岐にわたっている。各部署へ足を運ぶという点から連絡を任されたり、ついでとばかりに仕事を回されたりと、一番損な役回りをしている気がする。

 

 そんなこんなで、みんなが仕事をしている会議室へ戻る頃にはへとへとなのだ。しかもそこから更に書類仕事をこなさねばならない。加えてクラスの出し物への参加もしなければならないので、正直しんどいを超えている。世の中の社畜の方々もこんな思いをしていると思うと頭が下がる思いだ。

 

 

「お疲れさまで~す。・・・ちゃんと生きてます?」

 

「なんとかギリギリ。死んだらゾンビになって仕事するしかねぇなこれ。」

 

「死んでも仕事するって社畜根性染みついてますね・・・。あ、これどうぞ。なんか置いてあったんでもらって来ちゃいました。」

 

 

 差し出されたのはあめ玉。多分、机の上に置いてあるお菓子の山から拝借してきたんだろう。誰かが持ってきた差し入れだろうか。飴は、口に入れた瞬間ソーダの爽快な味が突き抜けて中々美味だ。心なしか疲れも取れた気がする。だが、疲れを意識してしまったせいで手が動かない。一旦休憩してから仕事をするとしようか。

 

 

「こんなにやるなんて、もしかして働くの好きだったりします?」

 

「なわけないだろ。むしろ嫌いなまであるし。」

 

「えぇ・・・。じゃあなんでこんなにやるんです?ある程度適当でも、なんとかなると思うんですけど。」

 

「なんでって言われてもな・・・まあ、そうでもしなきゃ終わりそうもないしな。」

 

「それ理由になってます?まあ、今回はそうですけど・・・。」

 

 

 なんか引っかかる言い方をする一色を横目に一服し、お茶を啜りながら見渡す教室には仕事をする人々が。各々仕事をしており、談笑が生まれる様は見ていて余裕がありそうに見える。そう見ると一見順調そうに見えるが、既に所々で綻びが生じている。そのしわ寄せは、主に俺や雪ノ下先輩に来ている。

 

 俺や雪ノ下先輩は上に立つという立場上、普通やらなくていい仕事も引き受けざるを得ず、ねずみ算式に仕事が増えていく。おまけにこれを他の人に回すわけにも行かず、だいたい一人でこなしているのだ。見かねた比企谷先輩や一色も手伝ってはくれているが、残念なことに焼け石に水だ。そもそも手伝うとする人間はごく少数なのだから。

 

 

「根本的にやるべき人が仕事をしなけりゃ機能しないだろ。」

 

 

 比企谷先輩の一言に、この現状のすべてが詰まっている。

 仕方がない、といえばそうなのかもしれない。やろうと思って委員会に入った人はほとんどおらず、やりたくもない仕事を押しつけられているんだから。結論、根本的な解決方法がなければどうしようもないのだ。

 

 

「人間楽な方に逃げたがるもんだ。仕事を押しつけられるなら押しつけるだろ。まして、相手は下級生だ。立場の弱い相手に強く出るのはあいつらの得意技だろ。」

 

 

 はぁ、とため息が出てしまう。・・・正直、このままでもしばらくは回るだろう。だが、先は長くないのは目に見えている。

 たった少数の歯車に負荷をかけ続ければ、いずれその部品は摩耗して崩壊する。後に残った脆弱な部品でこれを回せるかと聞かれれば、答えは否である。そして、その機械の崩壊はほぼ目前だ。

 

 

「それに、司令塔が片方機能してないのも問題ですからね・・・」

 

 

 一色の言うように、それも理由として大きい。本来一番忙しくしていなければならない相模委員長が、ほぼ不在なのだ。これによって、「上がやってないんだし、まあいっか」という精神が生まれてしまう。

 

 

(どうしょうもねぇよな・・・これ。)

 

 

 今年の文化祭は厳しいかもしれない。そう思うには十分な状況が、既に作られていた。

 

 

***

 

 

 それから数日。俺はいつものように仕事をするため会議室に足を運んでいた。ちなみに一色は教室でクラスの出し物の方をやっている。なんでも、俺のクラスは喫茶店をやるんだとか。その衣装選考だとかでそっちに顔を出しているのだ。ちなみに俺は呼ばれてない。残当である。

 仕事したくねぇな~滅びないかな~とか思いながら扉を開ければ、珍しい人が。

 

 

「おや、城ヶ崎君じゃ~ん。久しぶり~。」

 

「げっ。・・・お久しぶりです。雪ノ下さん。」

 

「げっ、とは酷いなぁ。君と私の仲じゃないか~」

 

 

 そこに居たのは、雪ノ下先輩や城廻先輩、ついでに比企谷先輩に絡んでいる雪ノ下さんだった。ちなみに葉山先輩もいた。なんでも、雪ノ下先輩も葉山先輩も有志団体の申し込みに来たんだとか。雪ノ下先輩の方は在学中にバンドやって盛り上げたらしいが、マジでこの人何でもできるんだな。逆にできないことを探した方が早いんじゃないだろうか。

 

 

「ねぇ雪乃ちゃん、いいでしょ?」

 

「・・・好きにすればいいじゃない。それに、決定権は私にはないわ。」

 

「あら、そうなの?てっきり委員長やってると思ったのに。じゃあ誰が・・・まさか、比企谷君とか?大穴で城ヶ崎君がやってたり?」

 

 

 無言で否定する俺と比企谷先輩。雪ノ下さんも本気で言ったわけでもないらしく、まあ知ってたけど、と流された。

 

 

「じゃあ誰がやってるんだろ?」

 

 

 そう言ったとき、ガララっと扉が開かれた。

 

 

「すいませ~ん。クラスの方に顔出してたら遅れちゃって~。」

 

 

 そう。置物司令塔こと相模委員の登場である。終了時刻ギリギリに来たりする彼女にしては、今日は随分早めのご出勤である。重役出勤でももうちょい早く来るんじゃないだろうか。

 相模委員長は小走り気味に自分の定位置――ホワイトボードの前の机まで来たが、俺らがいることにようやく気づいたらしい。どういう状況か飲み込めない様子の彼女は、既に雪ノ下さんにロックオンされていたらしい。

 

 

「あ、はるさん。この子が委員長だよ。」

 

「へぇ。この子が。」

 

 

 城廻先輩の言葉で蛇のような視線が飛び、空気は一瞬で凍り付く。

 

 

「実行委員長が遅刻。それもクラスに顔を出していて、ねぇ・・・。」

 

 

 品定めするような恐ろしい視線は、そのまま相模委員長を絞め殺す・・・かと思いきや、そんなことはなく。

 

 

「やっぱり委員長はそうでなくちゃね!クラスも委員会も楽しんでこそ、委員長の素質があるってものよ!えぇっと・・・委員長ちゃん。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 一転して笑顔になった雪ノ下さんに気を許したか、一気に緊張をほどいている様子だ。

 

 

「で、委員長ちゃん。私もOGとして有志団体で参加したいんだけど・・・いいかな?」

 

「大歓迎ですよ!むしろありがたいです~!」

 

「本当~?いや~よかったよ。雪乃ちゃんには渋られちゃってさ~。」

 

 

 よよよと泣き真似をする雪ノ下さん。茶番だろうか。

 そしてここからは雪ノ下さんの独壇場だった。言葉巧みに委員長を誘導し、他のOG達の参加を了承させたまではいい。だが、彼女の恐ろしさはここでは終わらない。

 

 

「ちょっと相模さん」

 

 

 慌てて止めに入ろうとする雪ノ下先輩に対し、相模委員長が発したのだ。

 

 

「イイじゃん別に。それに、お姉さんとなにがあったのか知らないけど、それとこれとは別じゃない?」

 

 

 そこまで聞いた俺は、後ろを向いて定位置に戻った。後ろから聞こえた葉山先輩の、「やっぱりこうなるか・・・」という言葉に、俺は少しだけ同意した。全く、最悪な気分である。

 自分の定位置に戻った俺は、無言でキーボードを叩く。焦るつもりはないが、できるだけ急がなければならない。恐らく、このままでは文化祭が失敗に終わる。俺がそう思ったからだ。

 

 雪ノ下陽乃の行動には、なにかしらの意味や理由があるんだろう。だが、俺にそれを理解できるとは思わない。俺は彼女のことをほとんど知らないし、知ることもないだろうからだ。

 だが、これだけは分かる。彼女は、この文化祭を失敗ないしそれに近い形で行わせるつもりだ。

 

 なら、俺にできることは一つだ。

 

 

(無事に実行させるために、俺が犠牲になる。)

 

 

 乗りかかった船を沈ませるわけには行かない。中途半端になってしまえば・・・俺は、自分を見失ってしまうだろうから。

 その脅迫感だけが、俺の指を動かし続けていた。




次回予告
 雪ノ下陽乃のせいでずれた文化祭を成功させるため、身を削る城ヶ崎。そんな彼を心配した一色は、一歩踏み込むことにした。

「・・・なんでそんなに頑張っちゃうんですか?」

 城ヶ崎「中途半端ではいけない」、「やるからには最後まで」の強迫観念はどこから来るのか。その一端を、一色に話すことができるのか。

次回、「欠けた心の濁流」

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