捻くれぼっちと拗れボッチ   作:よこちょ

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名誉を失っても、もともとなかったと思えば生きていける。財産を失ってもまたつくればよい。しかし勇気を失ったら、生きている値打ちがない。
――――ゲーテ


似たもの同士?

 黒歴史、というものをご存じだろうか。

 

 発祥こそ某機動なロボットアニメであるが、今では一般的に、なかったことにしたい――恥ずかしかったり、死ぬほど後悔している過去の記憶のことを指すようになった言葉のことである。

 我ながら恥の多い人生を送ってきた自覚があるので申告しておくが、俺にも当然黒歴史と呼べる記憶は存在する。通学中に猫を助けようと川に飛び込んだが猫かと思ったらただのビニール袋であったという小さなことから、勘違いで告白してしまったことだったり、陰口を偶然きいてしまった後の対応だったりと、未だに心に大ダメージを残している大きなものまであり、その種類は覚えているだけでも多岐にわたる。思い出したくもないが、これも過去の俺の失態であるし仕方のない部分ではある。人間は過去が積み重なって今に至る生き物なのだから。

 そしてなにより。黒歴史を忘れたいと思うということは、「そのことを覚えている」という意味の裏返しでもある。

 しかし、人間の脳は辛いことや都合の悪いことを忘却してしまうと言うなんとも素敵な機能が備え付けられている。故に、時には完全に失念していた、あるいは無自覚のうちにやってしまった結果生まれる黒歴史も存在するのだ。

 過去はバラバラにしてやってもミミズのように這い出てくるとはよく言ったもので、たとえそれが自分の記憶から抹消されていようとも必ず誰かが覚えている。逃げるは恥だし、クソの役にも立ちはしないのだ。

 そしてそれはふとした瞬間に現在の自分に牙を剥く。しかも、思いもよらぬ方向で。

 そんなことを思い直させてくれたのは、たった一枚の紙切れ。つい先日、黒歴史を思い出した癇癪から放り投げたあの忌々しい作文用紙だった。

あの時ほど、自分の軽率な行動と千葉への愛国心の希薄さを呪ったことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が怪文書を書き上げてから数日。俺は職員室に呼び出された後に、いつもの昼食時の定位置へと足を急がせていた。

 なにせ教師と少し無駄話をしたせいで時間も残り少ない。ちなみにその教師――-確か、平塚先生だったかは俺に対し、「君の目は腐ってはいないがずいぶんと濁っているな」というありがたい言葉を残した後に、豪快にラーメンを啜っていた。麺を啜っている顔にしてはえらく美人であり、どこか絵にすらなっていたが、そういう点が男受けせずにアラサーに残留しているのだろう。そしてニンニクはマシマシではなかったがことは付け加えておこう。生徒の前でラーメン食ってる時点で大分アレな気はしたが。

そんなことを考えたからか、季節の割に高めな気温が急激に下がった気がする。あの先生のことだ。不遜な態度を取った生徒を鉄拳制裁していてもおかしくはない。こっわ。 考えんようにしとこ・・・(戦慄)

気温とは別の意味で汗をかいてしまったので、足が余計に速まる。外の方が暖かいので、寒気から逃げるためであるのはお察しの通りだ。

 

 さて突然だが、俺が外に出るために利用する扉はテニスコートに面した風当たりのいい好条件の場所に存在する。俺にとっては最初そこで昼食を摂ろうとしたが、テニス部の邪魔になるかと考え直して断念した場所でもある。俺が飯を食うスポットから離れているこの扉を利用するのも、この好条件の立地に未だ未練が残っているからだろう。知らんけど。

 そして、俺は普段かなり早い時間にここを通り、少し遅い時間に別の扉から教室に戻っていたので、そこに人の姿を見ることがなかった。いや、正確に言えばあるにはある。

だがそれは、テニスコートに向かう人だったりと何かしらの部活に所属している人ばかりであり、普通の生徒――要は、「俺、今青春してます!」というオーラが漂う陽キャ共以外に会うことは一度たりともなかったのだ。

 

 しかしそこで俺は初めて、「その男」に出会った。

 若干の着崩しのある制服。この時間特有の風に揺れて存在感を放つアホ毛。自信なさげに丸まった猫背。そして、「腐っている」としか形容できない程に不思議な目。

 後ろ姿を見るだけでわかるほど陰の者であるオーラを漂わせたその生徒――――後に、「比企谷八幡」と名乗るその男は開いたドアの音に驚いた様子で振り返った後、同じく驚いて固まっている俺に向かいこう言い放った。

 

 

「・・・どちゅ、どちら様で?」

 

 

 

 

 

 

 

 噛んでしまった台詞に対する笑いをどうにかこうにかして飲み込んだ後。

 たちっぱなしもなんだから、ということで離れた位置に座った俺は昼食を摂り、彼こと比企谷先輩と親睦(?)を深めていた。

 

 

「比企谷先輩も平塚先生に呼び出されたことあったんですね。」

 

「ああ。作文の内容を犯行声明だのなんだのって言われてな。」

 

 

 どうやら比企谷先輩は俺と似たような内容を書き、あろうことかそれをそのまま先生に提出したのだとか。結果生徒指導を兼任している例の平塚先生へとたらい回しにされて説教されたらしい。そしてそのまま罰則として「奉仕部」なる正体不明な部活へと強制入部させられたというのだから、自分は提出しなくてよかったとホッとしたものだ。・・・まぁその直後に一年の間でも有名な雪ノ下先輩が同じ部活だと聞いたときは自分も作文をあのまま出しときゃよかったと後悔したが。

 

しかし、この比企谷先輩。話してみて思ったが、どうにも俺と似たような匂いを感じてならない。後ろ姿だけでもそれっぽいと思っていた俺は、どこか親近感を覚え始めていた。

具体的にどこがといわれれば返答に困るくらいにふわっとした感覚だが、なんとなくそんな気がするのだ。スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う的なあれだ。

そしてどうやら先輩も似たようなことを考えていたらしい。ズボンのポケットから一枚の紙を取り出しながらこう言ってきたのだ。

 

 

「なぁ、間違ってたらすまない。これ、お前のじゃないか?」

 

 

 その紙はシワこそ寄っているものの、原稿用紙であることは見て取れる。いささか以上に見覚えのある原稿用紙は声高らかに最初の文章を俺の網膜へと刻みつけてきた。

青春とは毒であり、薬でもある・・・・・・と。

 はいこれ完全に俺のですわ間違いない。

 

 えっ、てことは俺が書いたこのこっぱずかしい黒歴史怪文書この人に読まれたってこと?ウッソだろお前・・・なんてこった。

 ふぅ・・・・・・っとクソデカため息を吐き出し、蚊の鳴くよりも小さい声で「そうっす」と答える。

それに対する比企谷先輩の対応は意外なもので、「そうか。」とたった一言告げ、その紙をすっと渡してきただけだった。

 どこか嬉しそうにする横顔から見える口には千葉の名物(違う)であるマックスコーヒーの缶がつけられており、体に悪そうな液体を摂取しているだけであり、続く言葉は出てこない。てっきり罵倒とか脅迫とかのなにかしらの言葉が出てくると思っていただけに、正直驚いた。

 

 

「・・・笑わないんですね。」

 

「別に笑わねえよ。なんだ、笑ってほしかったのか?」

 

「いえ、別に・・・」

 

 

 口下手な俺はそれっきり黙ってしまう。

 先輩もあまり口数が多い方ではないのか、そのあと「千葉にゴミをポイ捨てるんじゃねえ」とめっさ怖い声で言ったっきり黙りこくっている。

 静寂に包まれた空間には、俺らの間を吹く温い風以外に音が聞こえることもない。テニス部の声も聞こえないあたり、そろそろ教室に戻らなくてはいけない時間なのだろう。時計を確認すると、始業15分前を示している。少し早いが、ここらでお暇させてもらうとしよう。

 そう思ってゴミを袋へまとめて袋をキッチリと結び、無理矢理ポケットへねじ込む。

 そして立ち上がろうとした瞬間だった。

 

 

「俺も、似たようなモンだしな。城ヶ崎と。」

 

 

 口を開いた比企谷先輩はさっとゴミをまとめ、マックスコーヒーの缶を片手で遊ばせながら立ち上がる。

 あっけにとられる俺に一瞬顔を向けて「じゃあな。」と一言だけ残し、さっさと教室内へと戻っていってしまった。

 遠ざかっていく猫背を、何をするでもなく見送る。

 脳裏には一瞬向いた顔に浮かんだ表情がこびり付いたっきり、しばらく離れそうもなかった。

 そのまましばらく呆然としっぱなしで、授業に遅れそうになったことは内緒だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

side八幡

 

 

 放課後。それはついこの前までは家に帰った後にプリキュアを鑑賞していた時間のことであり、俺にとっては日々の疲れを癒やすために非常に重要だった時間のことでもあった。

だがそれも、今となっては昔の話だ。今は「奉仕部」なる謎の部活動に強制入部させられたせいでその時間は奪われている。それなのにその部活は活動することもほとんどなく、ただただ読書をしたり部員の雪ノ下や由比ヶ浜と会話をするだけという不思議な状態である。どこぞの団長がやってるSOS団の方が活動してるんじゃないですかね・・・

 そんな益体もないことを考えながらもこうして足繁く部室へと通ってしまうのは、平塚先生のファーストブリットが恐ろしいことだけが理由ではない。なんだかんだといいつつも、あの場所が気に入ってるから・・・だと思う。

 

 

「うーっす」

 

「あ、ヒッキー!やっはろー!」

 

「こんにちは。比企谷君。」

 

 

 かけられる挨拶を顎を引いた無言の動作で返し、もはや定位置となった机の端で文庫本を開く。

確か勇者が魔王退治をするだのなんだのというところまでは読んでいたはずだ。続きを読もうと印字された文字列を目で追う。だが、肝心の内容はあまり入ってこなかった。

 

 脳裏にちらつくのは、昼食時に出会った後輩の存在。

 人生で初めて出会った人種だったからであろう。最初にあったときのぽかんとした間抜けな顔と、俺と似たような波動を感じる目はよく覚えている。

 そして話していて分かったが、あいつはぼっちだった。

 他人に嫌われることを何よりも恐れ、他人に近づかず距離を置く。標的にされぬよう陰を隠し、クラスから姿を消す。典型的な「一人」だった。

 加えて、あの作文。

 俺はそんな姿を見て親近感を感じると同時に・・・どこかむずがゆく感じていた。

 だが、理由が思い至らない。彼――――城ヶ崎景虎の、どこにそんな感情が湧くのか。

 それがどうしても分からなかったのだ。

 

 ふと視線を上げると、そこには雪ノ下の姿が映る。

 彼女もぼっちである。だが、彼女の一人の性質は俺と違い、優秀さ故に来るものだ。それは、「孤高」とも呼べるもの。

 だからこそ、俺はそれに憧れこそすれど、むずがゆく感じることは恐らくない。

 

 

「・・・あまりジロジロと人の顔を見るものじゃないわよ。破廉恥企谷君。」

 

「そんなにジロジロ見てねえだろ。あとなんだ破廉恥企谷って。」

 

「うわヒッキーゆきのんのことガン見してたの!?ヒッキーマジキモい!」

 

「いやガン見してねえし」

 

 

 由比ヶ浜は・・・うん。こいつそもそもボッチじゃねえや。参考にならん。

 しかし困った。俺の友人ネットワークを駆使しても答えが出ないなんて。そもそも友人が無人だから使いようがないんですがね初見さん。一人くらいうるさいデブがいた気がするが気のせいだろう。剣豪将軍なんて知らん。

 まあ、考えて答えが出ないなら仕方がない。俺の座右の銘は、「押してだめなら諦めろ」だ。今回はそれに従って諦めるとしよう。

 

 

「見ていたか見ていなかったかは被害者と第三者が決めることよ。貴方の意見は反映されないと思うのだけれども」

 

「世知辛ぇ・・・。いつからここは雪ノ下帝国になったんだよ。」

 

「ならさしずめ貴方はレジスタンスってとこかしら。とてもそうは見えないけれど。」

 

「悪かったな。反逆しなさそうな小物で。」

 

「れじす・・・タンス?」

 

「由比ヶ浜、アホがばれるからあんましゃべんない方がいいぞ。」

 

「酷い!?わーん、ゆきの~ん」

 

 

 いつものように雪ノ下が放つ罵倒を受け流し、由比ヶ浜のアホ疑惑(ほぼ確定)が露呈し、雪ノ下に泣きつく。極希にくる依頼がないときの奉仕部は、いつもこんな感じだ。

 だが、こんな日常を送っていても、小骨のようなむず痒さは消えることはなかった。




(BLじゃ)ないです
八幡の口調と地の文は再現ムズすぎるので許して・・・
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