捻くれぼっちと拗れボッチ   作:よこちょ

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 今回の前半は原作6巻の受け売りですのでご了承ください。


歪んだ鏡は、違った心を映せるか

 雪ノ下が倒れた。

 

 その報告を平塚先生から受けた俺と由比ヶ浜は、仕事を押しつけて雪ノ下の自宅まで来ていた。快く仕事を引き受けてくれた城ヶ崎には感謝しかない。サンキュー城ヶ崎。今度マッ缶でも奢ってやろう。ついでに葉山も。癪だが。

 

 そして慌ただしくやってきた高級マンション。雪ノ下が住むそこでインターホンを鳴らし、中に招き入れられた俺達は部屋に通され、ソファーに座らされていた。3LDKのリビングは非常に簡素で、まるで来客を想定していないようだった。それは、彼女が一人だったのだという事実を如実に表しているようで。どこか物寂しげな雰囲気があった。

 

 

「それで、話って何かしら。」

 

 

 壁にもたれている雪ノ下が切り出す。

 

 

「えっと・・・ゆきのんが今日休んだって言うから、大丈夫かなって。」

 

「ええ。体調は大分よくなったわ。一日休んだくらいで大げさよ。」

 

「でもまだ顔色悪いよ。疲れてるんじゃないの?」

 

 

 すっと顔を伏せる雪ノ下。だが、顔色が悪いのはもう見えてしまっている。それに、リビングにある机に置かれた資料とパソコン。彼女は、昨晩も仕事をこなしていたのだろう。それを見て得もしれぬ感情が湧いた俺は、黙って聞き役に徹する。

 

 

「多少の疲れはあったけど、大丈夫よ。問題ないわ。」

 

「・・・それが問題なんじゃないの?」

 

 

 こう言うときの由比ヶ浜は恐ろしい。的確に弱点を突いてくる。本当に順調なら雪ノ下が体調を崩すことなどないのだから。既にこうして実害として表面化してしまっている以上、問題は問題として発生してしまっているのだ。

 

 

「ゆきのんが一人で背負い込むことないじゃん。他の人だっていたわけだし。」

 

「わかってるわ。だから仕事だってきちんと割り振ったし、人一倍やってくれた人だっていたわ。」

 

 

 その頑張った筆頭は倒れたがな、とは言えず、由比ヶ浜の追及は続く。

 

 

「ちゃんとできてないのに?」

 

「・・・それは。」

 

 

 怒り任せに怒るのでなく、落ち着いて詰める由比ヶ浜の声には妙に切迫感がある。その切迫感に押された雪ノ下は初めて言葉を詰まらせ、黙ってしまった。

 

 

「私、ちょっと怒ってるからね。ゆきのんにも、ヒッキーにも。ヒッキー、何かあったら助けるって約束したのに。」

 

 

 思い当たる節しかない俺は、自然と肩が下がる。俺が役立たずだったのは事実なので、反論の余地もない。いや本当すみません。

 

 

「・・・彼は記録雑務としての仕事はやってくれてたわ。だから、それで充分よ。」

 

「でも、」

 

「大丈夫。家でもやっていたし、一部のメンバーのおかげもあって実質的な遅れはないの。だから、由比ヶ浜が心配するようなことはないわ。」

 

「でも一部、なんでしょ。そんなのっておかしいよ。」

 

「そう・・・かしら。」

 

 

 先程から顔を伏せっぱなしの雪ノ下。だがいつの間にか、フローリングに吸い込まれたはずの視線は、こちらへと向いていたようだ。

 

 

「・・・・・・どう思う?」

 

 

 その問いが俺に向けられたものだと気づくのには、少し時間がかかってしまった。上げられた顔も、薄暗い照明の下ではその表情を読み取ることもできない。もやつく思考を切り替え、問われた問題に向き合った。

 

 

「そうだな・・・」

 

 

 俺は、少しの間考えた。

 

 「お前のやり方は間違っている」。そう言ってやるのが正しい。

 俺が正しいやり方を実行できるわけではない。

 

 葉山のように、世間的な正しさを説くこともできない。そんなことを言えるほど正しく生きてきたつもりはない。

 

 そして――由比ヶ浜のように、優しいわけじゃない。俺はそんなものを持ち合わせていない。

 

 俺が持っているのは、現状から得られるヒント、そして俺自身の信念だけだ。

 その二つで、雪ノ下の問いに答えるしかない。

 

 

「誰かに頼ったり、助け合ったりするってのは、一般的には正しい。至極まっとうな意見だ。」

 

「そう・・・」

 

 

 興味がなさそうな返答。ただ組まれていた腕が離れ、だらんと力なく下がってしまった。

 

 

「だが、あくまでそれは理想でしかないだろ。」

 

 

 俺は大きく息を吸い、続きを話す。

 

 

「理想は理想だ。現実は違う。誰かが必ず損をするし、嫌なことを押しつける奴と押しつけられる奴がいる。世界はそういうもんだからな。現に今回だってそうだろ。お前が貧乏くじを引いてる。・・・だが、誰かを頼れとか協力しろとか言うつもりもない。というか言う権利もない。」

 

 

 そう。今回に限らずだ。千葉村の時だって、嫌な役を引き受けた葉山達がいたからこそ無事に終わった。

 だが。

 

 

「でも、お前のやり方は間違ってる。」

 

 

 俺はきっぱりと言い切った。

 

 

「・・・じゃあ、貴方は正しいやり方を知ってるの?」

 

「んなもん知らねえよ。でも、今回のやり方は違うだろ。今までのお前と違う。」

 

 

 飢えた人に魚を与えるか魚の捕り方を教えるかの違い、だったか。奉仕部の理念は解決してあげることではなく、解決できるよう促すことだったはずだ。だが、今回は何から何まで雪ノ下だけでやってしまっている。これまで一貫してた雪ノ下のやり方とは、根本から外れてしまっている。

 確かに、このままやっても成功してしまうだろう。だが、それは雪ノ下が掲げていた理想とは違うものになってしまう。

 

 初めて会ったときに彼女が漏らしていた理想。その理想とする世界は、真面目にやった奴や優秀な人間が損をする世界ではなかったはずだ。

 

 俺と雪ノ下は違う。

 ならば、彼女がこの方法を取ることは間違っているのではないか。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 俺の答えに思うところでもあったのか、雪ノ下は答えない。由比ヶ浜も何も言わないので、そのまま痛いほど静かな空気が流れる。

 

 

「・・・ごめんなさい。お茶も淹れないで。」

 

「い、いや、いいよ。あたしやるし・・・」

 

「体調の方は心配しないで。一日休んでかなり楽になったから。」

 

 

 

 体調の方は、ねぇ。普段なら気にならない言い回しすら引っかかってしまう。紅茶を入れようと台所へ向かう背中は、いつもの堂々とした様子はさっぱりと消えてしまっていた。

 

 

「あのさ、ゆきのん。」

 

 

 その背中に、言いづらそうにしながらもゆっくりと語りかける由比ヶ浜。

 

 

「ちょっと考えてたんだけどさ。誰かじゃなくて、あたしとヒッキーを頼ってよ。なにかができるって訳じゃないかもしれないけど・・・きっと、ヒッキーなら!」

 

 

 雪ノ下は一瞬呆気にとられたような表情を取った。だがすぐにその表情を正し、言葉を出そうとしていた。だから俺は、声を被せた。

 

 

「まあ無料の労働力ってのは貴重だからな。使えるんなら使っとけ。なんせタダだからな。」

 

 

 まぜっかえすような俺の言い草に、クスリと笑う雪ノ下。若干弛緩する空気に、俺はようやく、会話らしい会話ができた気がした。

 

 

「貴方労働は嫌いなんじゃなかったかしら。それとも、本当にマゾヒストにでもなってしまったの?」

 

「ちげぇよ。ほらあれだ。俺は養われる気はあっても施しを受けるつもりはないからな。今回あいつに借り作っちまったから、その埋め合わせ的な?」

 

 

 そう。今回は仕方なくだ。城ヶ崎を初めとし、非常に癪だが葉山にも借りを作ってしまった。だから、俺が動かなきゃならんのである。

 

 

「呆れた。律儀なのか怠惰なのか分かりづらいわね。」

 

 

 そう言って雪ノ下は、ここ最近見せていなかった微笑を浮かべてみせる。由比ヶ浜も、心配事が解決したようでなんとなく安心した様子だ。

 

 胸の感情は、もう忘れていた。

 

 

***

 

 

 ゆらゆらと立ち上る湯気が広がるリビングには、少し前まで見れていた光景が広がっている。由比ヶ浜が話し、雪ノ下が答え、たまに俺に流れ弾が飛んでくる。・・・いや冷静に考えたらなんで俺に流れ弾飛んできてるんでしょうね。奉仕部は軍事演習場の近くにでもあるんでしょうか。

 

 そうして何度目かの流れ弾を華麗(当社比)に受け流していると、真っ白いカップの底が見えている。いつの間にか、紅茶はすっかり俺の腹に収まってしまっていたらしい。腹に移った暖かさを感じ停滞期もするが、それはそれ。

 

 

「じゃあ、俺は帰るから。」

 

 

 そう言って退散することにした。今日ここに来た目的は達成したし、特に長居する理由もない。

 特に止められることもなく玄関へ移動して靴を履いていると、背後から足音が二人分。どうやら見送りに来てくれたらしい。

 

 

「んじゃ、後は任せたわ。」

 

 

 そう言って玄関の扉に手を掛ける。スピードワゴンはクールに去るのだ。

 

 

「・・・あの。」

 

 

 だが、雪ノ下の声に止められてしまった。

 

 

「その・・・比企谷君も、由比ヶ浜さんも。・・・今すぐは難しいかもしれないけども、きっといつか。貴方たちを頼るわ。でも今は・・・もう少し考えたいから。」

 

 

 振り返っていない俺には、その表情を見ることはできない。由比ヶ浜なら、見ることができたんだろうか。だが、俺は振り返らなかった。

 

 

「おう。ま、そのうちな。」

 

「・・・ええ。そのうち。」

 

 

 それを聞いた俺は、今度こそ扉を開ける。暖かめにされていた部屋から出たせいで肌寒く感じる外には、確実に秋が迫ってきている。きっと、そのうち紅葉で綺麗になることだろう。

 俺は静かに、マンションを後にした。




 このときの八幡は、まだ理由がないと動けない状態です。私はこのとき八幡が少しでも歩み寄れていれば・・・と思ったのでこうしました。無論、これだけで劇的に関係性が変わるわけではありません。
 ですが、一歩ずつしか進めない彼らの青春では、大きな意味を持つと思います。


 次回は城ヶ崎と陽乃さんに視点を当てた話になります。いろはすメインの話はもうちょい先です。
 次回、「窮鼠VS猫」
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