捻くれぼっちと拗れボッチ   作:よこちょ

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 今回こそ城ヶ崎と陽乃さんの話。・・・なのですが、長くなってしまったので前後編に分けます。
 *今回少し胸糞注意です。


窮鼠VS猫 前

 文化祭の準備は、つつがなく進行していった。

 

 全員参加となったおかげで無理なく仕事が割り振られ、俺を含めて誰かが無理をする必要もなくなった。そのおかげで全体としての負担も軽くなり、文化祭そのものへの熱量も加速していっている。各クラスの出し物の進行状況も良好だ。

 

 そう、上手くいっているのである。まるで、誰かさんの妨害などなかったかのように。

 

 無能な委員長のせいでバラバラになった文実が再結集し、優秀な指揮官である雪ノ下先輩主導の下で文化祭は大成功。・・・これが、あの雪ノ下さんが描いていたストーリーだったんだろうか。

 

 そんなことを考えていた六限も終わり、俺は一人席を立つ。クラスは出し物のラストスパートだといわんばかりに作業に取りかかっているが、俺には俺の仕事があるのだ。

 そんなわけで、今日も一人会議室へと歩いて行っていた。通る教室は熱気に溢れており、否応なしに文化祭が間近に迫ってきていることを肌で感じることができた。それにつられて上がる俺の気分。今日はなんだか仕事が捗りそうだ。

 そんなことを思っていたときだった。

 

 

「ひゃっはろー。城ヶ崎クン。」

 

「・・・どうも、雪ノ下さん。」

 

 

 俺の気分は、一気に最悪になったと言っても過言じゃないだろう。

 

***

 

「いやー久しぶりだね。こうやって話すのも。」

 

「俺からすれば久しぶりって程でもないですがね。・・・で、なんか用ですか。俺この後仕事があるんですけど。」

 

 

 雪ノ下さんに話がある、と言われて後を付いてきてはいるものの、俺には行き先などちっとも分からない。ひたすらに階段を上りながら話しかけられているだけなのだ。

 

 

「つれないな~。私と仕事、どっちが大事なの?」

 

「仕事ですね。期限近いんで。」

 

「可愛くないなぁ、もう。・・・あ、着いたよ。」

 

 

 連れられて来たのは、校舎の屋上に繋がる階段だった。段ボールやらが積まれているせいで通れそうな雰囲気ではないのだが、雪ノ下さんは俺をここに連れてきて何がしたいのだろうか。

 

 

「ここを登ったら屋上に出られるんだよ。知ってた?」

 

「いや、全然。ってか、鍵かかってるんじゃないんですか?」

 

「ここの鍵、実は壊れてるんだよね。女子の間じゃ常識だったよ。」

 

 

 なつかしいなーなんて言いながら積まれた荷物の間をするすると通っていった。ここで帰ろうかとも一瞬思ったが、俺は黙って後ろをついて行くことにした。後が怖いしね。

 なにやらガチャガチャと鍵を弄くり回したかと思えば、あっけなく外れる鍵。開け放たれた扉をくぐれば、そこには間違いなく屋上であった。打ちっぱなしのコンクリートとフェンスが広がるそこには、人の気配など微塵もない。隠れて話をするにはうってつけ、というわけだ。

 

 

「そういえば、今日はあの子は一緒じゃないんだね。ええっと・・・」

 

「・・・一色ですか。別にいつも一緒な訳じゃないですよ。今日はクラスの方に顔出してるんじゃないんですかね。」

 

「ふぅん。まあいいや。」

 

 

 自分から話を振っておいて、まるで興味のない口ぶり。比企谷先輩が「魔王」と呼んでいた気持ちがよく分かる。

 

 

「・・・で、何のようなんですか。これでも俺、忙しいんですけど。」

 

 

 自然と強くなってしまう口調。なにも言わずにこんなところまで連れてきて、あげく話も切り出さない。無理もないだろう。

 

 

「知ってるよ。随分と頑張ってたもんね。全然関係ないのに。」

 

「・・・煽っても無駄ですよ。俺が何か知ってるとお思いで?」

 

「ううん。ただ困っちゃうんだよね~。そういうのって。」

 

 

 ほう。困る、とな。かの雪ノ下さんの口からそんな言葉が出ると思ってなかった俺は、少し驚いてしまった。だが、顔を見たらそんな驚きは霧散した。ボランティア活動の帰りの車で彼女がしていた目。――捕食者のような目をしていたからだ。

 

 

「そういうの、とは。」

 

「分かってる癖に。君がやってた仕事の量だよ。随分と肩代わりしてたもんね。」

 

「そりゃそうでしょ。学校行事が成功して欲しいと思うのは当然だと思いますが。」

 

「ふぅん。でも尋常じゃなかったじゃない。あの量を一人で捌こうとするなんて、ハッキリ言って異常よ?」

 

「・・・・・・何が言いたいんですか。」

 

 

 そういうと、待ってましたといわんばかりに意地の悪い笑みをさらに邪悪に歪めた。それと同時に、俺は己の失敗を悟った。あの声を掛けられたときに、俺は無視して逃げ出しておくべきだったのだ、と。

 

 

「そんな異常さ・・・まるで、何かに縛られてるみたいじゃないの。」

 

 

 放たれた言葉で、俺は理解してしまった。『この目の前に居る女は、俺の過去を知っている。』と。

 青ざめる俺に意地の悪い笑みを浮かべたまま、まるで絵本を読むような楽しげな口調で続ける。

 

 

「君、千葉村で随分大事を起こしちゃったみたいじゃない。男子中学生三人が重軽傷を負って緊急搬送。犯人は同級生だったJ君。現場にいた女子中学生は無傷。・・・どう?」

 

 

 ぺらりと出された紙には、パソコンで打った文字の羅列が。そこには、「城ヶ崎景虎(17歳)の経歴」と、無機質な文字で書かれていた。

 

 

 

***

 

 

 人間というのは賢い生き物だ。他の動物にはない頭脳を持ち、道具を使い、社会を形成している。だが、それ故に「遊び」が生まれている。それはゲームしかりスポーツしかり、様々なところで表れている。

 だが、ここで挙げたのは善の側面だ。光あるところに影があるように、必ず悪の側面は存在する。それは遊びだってそうだ。「いじめ問題」というのはその最たる例だろう。やってる側の認識は、遊びの延長線でしかないのだ。そしてそれは学校や会社といった狭いコミュニティで発生しやすい。そしてそれは、突発的に始まるのだ。テンションやその場のノリといった、その場の空気によっても。

 

 

 当時俺が通っていた中学校は、三年生の時に宿泊学習という行事があった。

 二泊三日で千葉村に滞在し、豊かな自然の下で楽しい時間を過ごす、といったもので、心躍る行事であったはずだ。高校受験を控えた生徒達は、普段の閉塞感ある雰囲気から解放されることを心待ちにしていた。それは俺とて例外ではない。

 

 

「なぁ、城ヶ崎。お前、どうすんだよ。『あのこと』。」

 

 

 当時は友人だった男が聞いてきた。

 

 

「あのことって・・・。」

 

「決まってんだろ。お前が気になってるあの子のことだよ。」

 

 

 顎で指す方には、クラスで本を読んでいる少女が。儚げな雰囲気に、本と栞がよく似合う少女。そして――俺が当時、好きだった女子だ。多分、初恋だったのではないかと思う。図書室で見かけた彼女は、今までで一番魅力的に映ったのだから。

 俺は目線を戻し、赤くなった耳を隠すように髪を弄った。

 

 

「そりゃまあ、そういう関係になりたいとは思ってるけどさ・・・。今の時期じゃ無理だろ。受験期だし。」

 

「んだよ勿体ねぇな。俺の見立てじゃ、お前とあいつは99%両思いだと思うんだがなぁ・・・。」

 

「だといいんだけどな。っつか、お前の見立ては当てになんねぇだろ。今まで何回テストのヤマ外したと思ってんだ。」

 

「おいおい、そりゃ言いっこなしだぜ!?それに今回はちゃんと調べてあるんだっつうの。いい機会だし、お前から行ってこいよ。」

 

「ううん・・・。やっぱやめとくわ。この時期じゃ相手に悪いし。」

 

「ったく。へたれなのか優しいのか分かりゃしねぇや。」

 

「いいだろ別に。」

 

 

 そんな会話をしていた。このときまでは、きっと楽しい思い出になるんだろうな、と思っていた。

 

 

 

 その事件が起こったのは、二日目の夜だった。食事も終わり、束の間の自由時間が与えられた夜九時頃。綺麗な月明かりの下、俺は一通の手紙によって森の中の大きな木の下に呼び出されていた。

 

 

「――ごめん、待った?」

 

 

 俺は少し格好付けて、木の下で待つ人物に声を掛けた。ゆっくりとこちらを振り返るその少女は、クラスでも目立たない、大人しい子・・・そう、俺の好きな子だった。いつも教室の隅で本を読み、数人の友人と喋っていたことが印象的な文学少女。それが、俺が彼女に抱いていた想いだった。俺は彼女のそんな一面に惹かれ、もっと知りたいと願っていた。

 

 

「――いや。今来たとこ。」

 

「――そっか。」

 

 

 夜中の、それも人気のないところへの異性からの呼び出し。正直俺は、かなり舞い上がっていた。今までこういった経験などなかったから。・・・端から見たら、それはもう滑稽だったに違いない。

 しかし、当時の俺はそんなことは露程も考えずにその場にやってきていた。

 

 ・・・そして、その時が来てしまった。彼女が零した涙も、漏らした嗚咽も、濡れた愛の言葉も。そのすべてを、心に刻む瞬間が。

 

 

「――私、貴方のことがずっと好きだったの。」

 

「・・・」

 

 

 涙を流しながらそう言う彼女を前に、俺はどうすればいいか分からなかった。ずっと欲しかった言葉は、涙で流されてしまっている。異性との対人関係のなかった俺は、ただ立ち尽くすことしかできない。そうやって困惑している俺に、一生耳に残りそうな下品な笑い声が掛けられた。

 

 

「ギャッハッハ!ホントに来やがったよ!!それでホントに言いやがった!!アッハッハッハ!!!」

 

 

 木の裏から出てきたのは、三人組の男達。よく言えばお調子者、悪く言えば後先考えないことで有名な奴らだった。

 

 

「あー。おもしれぇよな、こういうのも。出来の悪いドラマみてぇだ。」

 

「お。言えてる言えてる。」

 

「俺らのキャスティング最高だな!冴えない男と冴えない女のラブストーリーってか!」

 

「それな!ちょ~っと脅しただけでコレができるんならコスパ最強じゃね?」

 

 

 彼らは、とても楽しそうに笑っていた。腹を抱え、今にも倒れそうと言わんばかりに大仰に身体を反らしている。まるで、自分達のいたずらが成功した少年のように無邪気な笑顔だった。否。実際、彼らはそういう認識だったんだろう。それが誰かの思いを踏みにじる行為であり、生涯残る思い出となることなど考えもせずにやったのだから。

 

 ぽかんとする俺に、泣きじゃくる彼女。そんな俺達を肴に更にひとしきり笑ったと、彼らは言い放った。

 

 

「ああ、お前らもう戻っていいぞ。」

 

 

 俺はそれを聞いた瞬間、ゆらりと身体が前へと進んでいた。

 巫山戯るな。

 そう思ったときには、俺の拳はもう、一人の顔面にめり込んでいた。

 ふざけるな。

 そう想ったときには、俺の足は既に一人の肋骨を割り砕いていた。

 フザケルナ。

 ・・・三度目にそう思ったときには、もうすべてが終わっていた。

 

 地面には、うずくまる三人組の男達。血でぬかるんだ土に這いつくばり、俺に許しを請うていた。

 

 

「悪かった・・・ほんの冗談だったんだよ・・・」

 

 

 足を縋るように掴み、頭をこれ以上ない程に下げている。さっきまでの威勢の良かった笑い声は血で濁り、かすれ始めている。

 冗談だった、か。

 笑わせるな。

 

 

「ふざけんな。」

 

 

 俺はそう言い、その腕を踏み砕いた。切れた俺の口は、鉄の味がしていた。俺の初恋は、本の匂いで始まり、鉄の味で終わらせたのだ。・・・最後まで、鳴き声がやむこともなかった。

 

 

***

 続く。




 一色にいつかは話せるようになろう。そう思っていたが、思わぬ場所から自分の過去が知られてしまった城ヶ崎。
 しかし、陽乃さんは詳細なことまでは知らないようで・・・?
 わざわざ呼び出した彼女の目的とは。

 後編に続く。
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