パチュリーside
京の町に張られていた結界はどうやら鬼除けの結界だったみたいで、美鈴も普通に入ることができた。紫の結界騙しも流石に数百年も経てば効果が切れていたので、これはかなりありがたい一方で常に警戒しなければならないという難点もあった。こんなに緩いから鵺が出たり玉藻前が居たりするんじゃないのかなあ。でもまあ鬼は単騎で一国を滅ぼせるから警戒するのもわかる。
おかしなことに私たちは戸籍もないのに名前だけで家を一軒貰えた。セキュリティガバガバすぎないか。
仕事をしているとたまに鬼の噂を聞いたりする。討伐に向かって帰って来たものは未だにいない。そこでついに源頼光らに酒吞童子討伐の命が下されたみたいだ。しかしこの世界は似ているようでも前の世界とは大幅に異なる。まず一つ目が鬼の構成だ。前の世界では、酒吞童子に茨木童子、その下に鬼の四天王が来ていたが、この世界では山の四天王としてトップが四人いる状態になっている。この違いが今後の展開にどうつながるのかが心配ではある。更には正史とは異なりこの世界には私の存在がある。決して楽観はできない状況だ。
因みに討伐には誘われないようにわざと頼光たちを避けていたのは当然のことである。
萃香side
なんと山伏たちがこの山に一泊させてほしいと頼みに来たらしい。部下の鬼たちの話によるとなんとも素晴らしいお酒を持ってきているのだとか。そんなうまい話があるだろうか。前にも忠告は受けていたし、私は仮にも山の頂点に存在している者なのだ。部下たちを人間の策謀によって無駄死にさせる気はない。とりあえず殆んど力を込めていない分身で様子を見ておこうか。分身でも酒は呑めるし。
分身)「あんたたちが件の山伏たちかい?極上の酒があるんだってね」
「えぇ、これは神からいただいたありがたいお酒でありまして、飲んだ者の力を底上げすると言われています」
神の酒か。これはかなり怪しいな。そもそも神は人間の味方のことが多い。霊力ほどではないが神力も妖怪にはかなり効く。分身には適当に話をさせておいてこっちで華扇らと少々話をしようか。
「ねえ華扇、あんたはあの人間たちの事をどう思う?」
「かなり怪しいと思うわ。神の酒に加えてあいつらの持ち物からは嫌な感じがするわ。私も分身が居れば直接あそこに行かなくても済んだのにね」
「まあいざとなったら本体の私が助けてあげるよ」「えぇ、よろしくね」
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宴会が始まって一刻ほど経った。あいつらはまだ怪しい動きを見せてはいないが…………私(本体)も行きたいなぁ。
「さあ、これが今回のとっておきの酒だ。酒吞童子殿にはもう説明しておりましたが、これは飲んだ者の力を底上げするという神から授かった酒なのです。今夜の出会いに感謝いたしまして皆さんで乾杯しましょう」
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」
「あ~?なんだか急に眠たくなってきた…………ぐぅ」「俺もだ…………もう寝ちまおう…」
なんだなんだ?急に皆寝始めたぞ。それに対して人間の方はぴんぴんしているな。間違いない、やはり本体は宴会に入らないようにしたのは正解だったか。
「馬鹿どもめが。人間が鬼なんぞに土産など持ってくるものか。何も抵抗できなくなった鬼は実に無様だな!」
あれは渡辺とか言ったか、あっ!?華扇!?あぁ何とか左腕で防いだみたいだ。その後に右手を斬り落とされたみたいだけど。
ありゃ、私の分身も首が落とされたね。分身の首を飛ばして驚かせておいて、その間にできる限りの鬼は隠そうか。数瞬もあれば恐らく大丈夫。…………はい、完了っと。死んだ者がいなかったのは本当に運がよかった。
「はははっ、我が妖刀の前には流石の酒吞童子もあっけなく…………え?お…にが…………消え…た?どうなっているんだ?!首魁が死んだから手下たちも皆滅んだというわけか?」
「そんなわけがないだろう?」「っ!その声は酒吞童子?!まさか!?」
「そのまさかさ。さて、あんたは鬼に横道がないことを知っているかい?特別に教えてあげるよ。鬼はね、騙し討ちや卑怯な手段が大っ嫌いなんだよ。今お前たちがしたようなね。お前たちはここで私が全員摺りつぶしてやるよっ!」
「お前たちっ、退け!退かないとやられるぞ!」鬼たちを隠してなきゃ追いたかったんだけど
はぁ、気分が悪い。もう人間との絆の修復は不可能かもしれない。それほどまでに胸糞の悪い連中だった。結局華扇の腕も持っていかれたか。腕を大事に持っていくとはなかなか鬼の事をわかっているらしい。
あー、もうこの山も天狗に譲って私たち鬼は別の場所に移ろう。もう当分は人間に関わりたくもない。
「あーあ、こういう時に紫が居ればいいところ知っていそうなんだけど」
「呼んだかしら?あら?どうしてこの広い部屋にあなたしかいないのかしら?」
うわぁ、驚いたなぁ。こいつはいつでも急に出てくるから。
「あぁそれはね・・・・・・ってことがあったからさ。そんなわけでさ紫、人間が来ないような場所ってどこかない?わたしもう千年くらいは人間に関わりたくはないんだよね」
「一応あるにはあるのよ。環境はかなり悪いけど」 「どこなんだい、そこは」
「……地獄よ」「は?」「だから、じ・ご・くよ。今も使われているから人間は来ないわ」
「じゃあいったんそこに行くかねえ。どうしても嫌なら別のところを探すことにするよ。
それで、どうやったらいけるの?」
「行きたいときに呼んでくれたらそこまでスキマでつないであげるわ」「ん、わかったよ」
「では、また」 「うん、そん時はよろしく頼むよ」
華扇は恐らく腕を取り返しに行くだろうし、ここに残りたい奴らもいるかもしれないけどその時はその時だ。
「全員起きたかい?それでは重大発表をするよ。…………昨日の事で私は完全に人間への信頼が無くなってしまった。だから私は人間を見限って当分の間地上を去ることにした。次の私の行先は……………………地獄だよ」
「じっ、地獄?!それは本気ですか?」 「勿論。私はいつでも本気さ」
「悪いけど私は地上に残るわ。昨日の事は本当に感謝しているし、貴方が居なければここには一人の鬼すら残らなかったかもしれない。
でも私は切られた腕を取り戻すまでは鬼として生きられない。角もこんなに縮んでしまったのだし。だからごめんなさいね」
あんたならそういうだろうと思っていた。まさか腕を切られるとあんなに角が小さくなるだなんて。
いや、切られたのが妖刀だったからか。普通の刀なら腕は再生してしまうからね。
「あぁ、わかったよ。それ以外で誰かこの地上に残りたい奴はいないのかい?
これが最終確認だ。…………よさそうだね。ここまで皆人間に執着が無くなってしまっていたのか。
「紫」「はいはい、あの鬼以外を連れて行けばいいのね?」「そうだよ、よろしく」
おぉ、ここが地獄と呼ばれる場所なのかい。私たちにとってはこの暑さも十分に耐えることができる。なかなか悪くない場所だね。
「ここは灼熱地獄。鬼なら心配ないだろうけれど焼けないように気を付けてね」
さてさて、次に地上の空気を吸うのはいったいいつになるのやら。まあそれまではこの地獄でもなかなか楽しめそうだ。
パチュリーside
あら?鬼退治はどうやら成功したのかな?何か尖っている包みとお札をたくさん張った細長い箱を持っているようだ。箱の方は恐らく華扇の腕。
じゃあ包みは……まさか萃香の頭?!やはり私がこの世界にいたのが悪かったのだろうか?あぁ、私は何という罪深いことをしてしまったのか。悔もうにも、何に悔めばいいのかわからない。
あぁ、神よ。何故私を転生させてしまったのか。この世界のモブキャラAとして生まれていたのならこんなことにはならなかったはずなのに。
この世界を知ってしまっているが故、世界は私に牙をむいているのかもしれない。
知った瞬間に残酷になる世界を生まれた少し後から知ってしまっていた私は、この世界がどれほどまでに残酷なのかをまだ知らないだけなのかもしれない。
萃香が本当は生きていたと気づくのはいったいいつになるのでしょうね
今回はなんと殆んどパチュリーの関係ないところで話が進み、パチュリーの名前に至っては登場すらしませんでしたね
先に疑問が入るときには「?!」それ以外はおそらく「!?」になっているはずです
初めの一週間は慣れないながらも十四話投稿してみました。予告通り明日は第十五話を投稿して、そのあとは水曜、土曜で週三回にする予定です
では次回も読んでいただければ幸いです