パチュリーside
ぬえを封印してからしばらくたつと今度は西行法師が亡くなったという噂が京に流れ始めた。
彼が残した歌の通りに亡くなった後、この春は彼の屋敷では自殺志願者が後を絶たなかったらしい。
早くいかないと桜が手に負えない程の力をつけてしまう、と思いながらも仕事が忙しくもう冬になり始めてしまった。もう既に桜の木は十分な力を蓄えてしまい消滅させることは不可能だろう。ならば封印するしかないのだが、正直に言うと幽々子を媒体にしたくはない。それ以外の方法を何とかして見つけたいものではあるが、私の手に余ることであるため何もすることができない。
もし彼女を封印に使うのなら桜が満開になっていなければならないはず。でも今のままなら幽々子が気に病んで満開にならないうちに亡くなってしまうかもしれない。
それだけは何としても避けなければならない。今は紫が何とかしているかもしれないけれど、紫も桜を封印するための術式を考える時間は欲しいはず。
だから私たちが彼女の話相手となることで彼女の心をある程度安定させ、何とか自殺を食い止めておかなければならない。
陰陽師は誰かのお抱えでやっていたというものでもないから京を出ていくのは簡単だと思う。家に置手紙さえ置いておけば。
「美鈴、京を出るわよ。明朝早くに」 「急ですが何か用事があるので?」
「西行の屋敷に行こうと思ってね」 「…………まさか自害するのですか?」
「そんなわけないじゃない。もう花も咲いていないから今行く人はいないと思うわよ。
それに私が行く理由は恐らくそこに紫の友人がいるからよ。
そしてここを出たらもう陰陽師としての活動も終わりかもしれないわね」
「それには何かわけがあるのでしょうか」
「昔に紫と初めて会った時があったでしょう?その時にした話を覚えていれば自ずと答えはわかるはずよ。たまには自分で考えることも生きる上では必要よ」
美鈴side
紫さんに初めて会ったときは確か彼女の夢についてまず語られたはず。そのあとは確か
『でもこれから先私たちのような存在はどんどん消滅していってしまう。殺されるのではなく畏れられないほどに人間の価値観で説明され、忘れ去られることによって』
『妖怪とは人間の畏れによって具現する存在。そして人間たちはこれからあり得ない速度で進歩していくでしょう。
そうなったときに妖怪が生きていけないのは当然のことなのよ』
と言っていたっけ。私にとっては凄く衝撃的なことだったからよく覚えている。そしてここから導き出せる答えは一つしかない。私たちの陰陽師としての活動がもう終わりかもしれない、というのは人間が強くなっていくのではなく私たちが弱くなっていってしまうからだろう。
夜の町が明かりに彩られ美しいと感じていたがまさかあれが私たちの消滅の原因だとは思っていなかった。
確かに妖怪といえば夜の闇を恐れた人間の心が生み出したものが多い。それに恐れを感じなくなってしまった人間が増えれば増えるほど妖怪の数はどんどん減っていくことになってしまう、という事だったのか。
それなら確かに私たちの陰陽師業はお終いだろう。パチュリーはこの家に文を置いて京を出ていくらしい。ちなみに内容を簡単に言うと、
『私たちは途中で中断していた旅を今一度再開することにした。この家にはもう帰ってくることはないだろうから他の誰かが住んでもらっても、取り壊してもらってもどちらでも構わない。勝手に出て行ってしまい申し訳ない気持ちはあるが、私たちは大陸にいた時分から旅人であったのでどうか許していただきたい。この町のさらなる発展を願う』
というものだった。夜は陰陽師たちが警戒を強めているので朝早くに出ていくらしい。ここではかなりの好待遇を受けたので、それを手放すのは惜しい気もしたがずっとこれが続くわけもない。
それにパチュリーの話によると今はまだ仙人仙人ともてはやされていても、少しすると仙人さえも生きていくのは不可能な世の中になるらしいので、この辺りが潮時なのだろう。
パチュリーside
美鈴も了承してくれたので朝一でこの町を出る予定は変えずに行けそうだ。残す手紙はかなり雑なものだけれどこのくらいの方が後腐れもなく済むだろう。
西行の屋敷までどのくらいかかるかはわからないけれど着かないことはないだろうからのんびり行きましょうかね。
旅を始めて二日、特に面白いことも無く襲ってくる木っ端妖怪を退治しながら歩き続けていると何か見られている感じがする。
「紫、いるんでしょう?頼みたいことがあるのだけれど」
「……やっぱり気づいていたのね。それで頼みたいことって何かしら?」
「西行の屋敷まで送ってくれないかしら。あなたならすぐでしょう?」
「あら、幽々子に会いに行ってくれるのね。送るのは構わないけれど彼女に何かしないでよ。
とりあえず門の前にでも送るわ」
え…………?門って確か…………「おい、貴様ら」
やっぱりね。この方がいらっしゃいますよね。
「この屋敷に入れることはできぬ。桜が散ってようやく人間どもが来なくなったと思っていたのに」
「あら、私たちは紫の友人としてここのお嬢様に会いに来ただけなのだけれど」
「ほう?紫殿のご友人方とな?ならばそれが真実か私が証明してやろう。
真実は眼では見えない、耳では聞こえない、真実は斬って知るものである」
戦闘狂多いね。知ってたけどさ。辛いけどやるしかないのかなあ。
「私がお相手いたしましょう。剣には拳を、いざっ!」
美鈴が行っちゃったよ。まあ彼女なら斬られても死ぬことは無いだろうからね。
でも相手は雨も空気も時をも斬ることのできる剣士。油断していると致命傷を食らうかもしれない。
「なかなかやるな。ではこちらから仕掛けよう」 『現世斬』
「危なっ!こちらもうかうかしていられませんね」 『波山砲』
おぉ、まさに剣には拳を、って感じだね。美鈴かっこいいね。
「甘いな!これで決めるぞ」 『待宵反射衛星斬』
あっちゃあ、決まったか。幸い彼女はどうやら致命傷というわけではないようだ。治癒魔法かけておこう。ま、そんなものがなくても彼女自身の気の循環を使えば治りはかなり早くなるけど。
「うむ、斬って判った。幽々子様に合わせてやろう」
本当に斬って判るものなんだね。にしても妖忌強いわ。妖夢のラストワードを二枚目に切ってくるなんてね。剣筋も私の動体視力では見ることがかなわなかった。美鈴は見えていたようだけれど。
・
・
・
「あ、美鈴起きた?私が誰だかわかるかしら?」
「パチュリーでしょ。わかりますよそのくらい。それで私はどのくらい寝ていたのでしょうか?」
「およそ半日ってところかしらね。傷の調子はどうかしら?きちんと治っているかしら?」
「えぇ。それでここはどこなのでしょうか?見たことが無いのですが」
「ここは西行の屋敷よ」 「……………………えっと貴方は?」
「私は西行寺幽々子、この屋敷の今の主ってところね。まあ屋敷といっても使用人はあの妖忌しかいないのだけれど」
「それ以外はどうされたのですか?まさか全員自害してしまったとか?」
「…………その通りよ。この屋敷にはもともとはたくさんの使用人たちがいたの。でもみんな死んでしまったわ…………私のせいでね。
私にはある能力があるの。『死に誘う程度の能力』。私にはこんな力は必要なかった。たくさんの人々がこの屋敷の桜の木の根元で死んでゆく様を見るのは決して気分のいいものではないから。
だから私も死んでしまおうかと考えて実行しようとしたのに紫はさせてはくれなかったわ。私のたった一人の友人である彼女にあんな顔をさせてしまうのは嫌だったからあれ以来していないけれどね。でも最近あの桜が強力な力を持ち始めているらしいの。理由はあまりにもたくさんの人間の魂を吸収してしまったからだったかしら。あの桜が強くなるのもすべて元をたどれば私が原因にある。それが私には耐えられないわ」
「ねぇ幽々子、これから毎日私たちがここに来てあなたの話し相手になってあげるわ。私たちがこれまでにしてきた事を話してあげる。だから簡単に死のうだなんて思わないようにしてくれないかしら?」
「…………そうね、もう少し生きてみることにするわ。だから毎日来てね。来ないと死んでしまうかも」
「フフッ。あらあら、それは大変ね。毎日忘れずに来ることにするわ」
天の声side
パチュリーたちが幽々子のところへ通うようになって早半年。既に如月の上旬に入っている。もう桜が咲いてきた、という時期になって再び自殺志願者が屋敷に訪れるようになってきた。何故か、それは桜が力を持ったことで遂に桜が妖怪化し、自ら人を引き寄せるまでになってしまったからだ。ここのところ幽々子の体調は優れない。パチュリーも何とか治療を試みようとしたが、特に病気というものでもなかったので何もできなかった。
そしてそんな日から数日、今夜は満月である。彼女は気づいていた。彼女を使えば桜の封印が可能なことを、それ以外の方法をまだ紫が見つけられていないことを。
『仏には桜の花をたてまつれ わが後の世を人とぶらはば』
そんなことを書いた紙を机に残し
「皆ありがとう、さようなら」
彼女は逝ってしまった。皮肉にも美しく満開になった桜と大きな満月の下で。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「幽々子様っ!?あぁ、これから私はどうすればいいのか…………」
「妖忌、私たちもとても悲しいけれど落ち込んでいる暇はないわ。今すぐにこの桜、西行妖を幽々子の肉体を使って封印するわ。それしか方法はない、私たちの為にも、人々の為にも。
西行妖は恐らく相当暴れるでしょう。死の力をばらまくかもしれないけれど何とか三人で私が封印しきるまでは耐えて頂戴」
「分かったわ。幽々子の魂まで桜に吸われないうちに早くして頂戴ね」
この後紫の封印が西行妖に施されるまで木の暴力に耐え続けるという苦行をパチュリーたちは三人で何とか成し遂げた。彼女らほどの力をもってしても苦行と感じるほどに西行妖は成長してしまっていたのである。
西行妖を封印した途端桜の花びらはすべて散り、幽々子の骸が埋められた場所の上には相当量の桜の花が舞った。これらもすべて紫たちの幽々子への弔いの結果だったのだろうか。
西行は作った歌のうち一首の通りに亡くなった。その娘である幽々子はその一首にさらにもう一首加えた亡くなり方をしたのだ。どこまでも悲劇な少女として彼女は生を終えてしまった。
彼女の犠牲といっていいのかはわからないが、そのおかげで西行妖は猛威を振るうことはできなくなり、自殺志願者がこの屋敷に来ることはすっかりなくなった。今現在この屋敷にいるのは幽々子に仕えていた妖忌、彼女の友人の紫、パチュリー、美鈴の計四人である。彼女らは何かを待っている風にそわそわしている。閻魔からの情報が正しければ(というか閻魔が嘘を吐くはずが無いが)、今日彼女らが待ちわびていることが起こるはずなのだ。
そしてその時は訪れた。
「こんにちは皆さん。紫さんはご存じだと思いますが私は四季映姫、閻魔です」
「あら?ここは何処なのかしら。それに貴方たちはどなた?」
「私は魂魄妖忌、貴方様に仕える者でございます」という風に四人がそれぞれ自己紹介をした。
「私は西行寺幽々子、亡霊よ。これからよろしくね」
「それでは早速ですが西行寺幽々子、貴方には冥界の管理人になってもらいます。今の貴方なら霊魂を思うがままに操ることができるはず。それを使って転生待ちの霊たちの監視などを行ってもらいます。もともとそれが亡霊になる条件でしたから」
「別に構わないわよ、退屈しなさそうだし。でもその前に何か食べましょうよ。お腹が空いたわ」
彼女は亡霊となって復活した。能力は生前から少し変化した『死を操る程度の能力』となった。彼女が復活した背景には紫が自身の苦手とする閻魔に直談判をする、ということもあったのである。
彼女は生前を全く覚えてはいない。だから庭に生えている桜が毎年春になっても花が咲かないことに疑問を感じるようになるだろう。自分が封印の媒体になったことを覚えてはいないのだから。
一応誰が埋められているのかをぼかした上で封印した時の記録としては残してある。それ故に彼女は桜の木の根元に誰が埋まっているのかは知る由もないのである。もし知ってしまったとき、彼女の存在は消えてしまうだろう。死ではなく、消滅によって。
妖忌から妖夢に受け継がれたあのセリフは結構好きです
書いてたら思いのほか分量が多くなったので、間の半年以上は割愛させていただきました。それでも5000字は超えたのですが
では次回も読んでいただければ幸いです