行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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無双的第十八話

 パチュリーside

 

 

 幽々子も無事(?)に亡霊となることができ、私の気持ちは大分スッキリした。後の異変につながるであろう記録は紫が次以降の参考にするからと残されてしまったが、これもこの世界の力が働いたとして仕方がないと思うべきなのだろう。あれからは京に戻ることも無く再び美鈴と旅を続けている。この旅を通じて私たちの名前は案外何処へ行っても通用することが分かった。寄る村寄る村であそこまで歓待されれば嫌でも理解できるってものだ。私たちはもう陰陽師ではなくなったのに。

 

 そんなことがあってから早数百年、珍しく紫が私たちが気づくより前に出てきたからどんな緊急事態だと思ったらただ四日後に幽々子のところに来てほしい、というだけだったから拍子抜けしてしまった。

 

 でも四日あっても私たちだけでは冥界に行くことすらできないんだけど、と言ったら迎えに来てくれることになった。彼女は気心の知れている相手には案外優しい。

 

 幽香などからも散々胡散臭いと言われているがそれは仕方のないことだと思う。彼女は幽香をも負かしてしまうほどの強大な力を持っているが、彼女自身好戦的では無いので相手にはなめられないように立ち回る必要があるのだろう。まあその結果が「胡散臭すぎる」「信用できない」などの妖怪たちの評価に繋がってしまっているのだけれど。

 

 

 で、紫が迎えに来るまでに何の用事かを考えていたわけなのだけれど、原作通りに行くのならそろそろあれを行う時期なのだろう。原作の数百年前、幽々子の屋敷に集合、これだけで何が行われるかは予想できる。私としては紫にそんなことはしてほしくないし、もし可能なのならば私は参加したくはない。痛いのは嫌なのでね。まあ無理なんでしょうけど。

 

 

 

 

 

 

「ここに来てくれたこと感謝するわ。それでは私がここに集まってもらった理由をお話しします。その理由はずばり…………………………………………月の技術を盗みに行きたいからです」

 

 

「月の技術…………ですか。それはまたどうしてです?」

 

 

「月には優れた技術がたくさんあります。それを地上に持ち帰りわがものとしてみたいのです」

 

「私は反対ね。あなたは月の技術を甘く見すぎている。月は穢れを最も嫌うところ、そんなところの都に穢れの結晶が入り込む余地なんて無いわ。一寸もね」

 

 

「けれど私はもう既に大勢の妖怪にこの話はして了解を得ていますし、今更取り下げることなどできません。それに私自身興味があるのです」

 

「恐らく月に攻め入った段階で声をかけた妖怪の大半は死んでしまうでしょう。あなたにそうはなってほしくはない。仕方がないけれど私も一緒に行くわ」

 

月人は一度見ているしね。あの時はこちらのホームだったし相手にもかなりの油断があった。だけれど今回は違う。相手のホームでかつ相手は前回の兵士たちの比ではない。今回私たちが相手取らなければならないのは八百万(たくさん)ではなく文字通りの八百万の神々である。月のリーダーの一員になってから四百年以上は経っているだろう。妖怪たちは穢れを嫌う月人たちにとって最も忌避すべき存在。さらにあの技術だ。紫だから安心というわけにはいかない。むしろ首謀者であるから余計に危ない。

 

 

「そんなに危ないのかしら。いくら技術が優れていようと人間であることには変わらないのではないの?」

 

「それが甘く見ているという事よ。あなたは普段は非常に深慮、でもごくたまに抜けていることがある。それはあなたのこれからに非常にまずい事態を引き起こしかねない。あなたのその癖が治れば素晴らしい管理者になれるでしょうね。

 言っておくけれど月人は生命力も強い。そこらの人間たちとは比べ物にならない程に」

 

 

「忠告感謝するわ。そのうえで幽々子と美鈴はどうするのかしら?」

 

 

「私は行くわよ。死なないし」「私もパチュリーが行くのなら行きますよ」

 

 

「分かったわ。決行は次の十五夜。顕界に出てすぐにある湖から月に攻め入ることにしているわ」

 

 

 

 

 

 

「ここにお集まりいただきました妖怪の皆さま、本日は存分に暴れていただいても結構です。貴方たちの持っている力をえらそうな月の民に見せつけてやりましょう。では間もなく月への道が開けます。我こそはという方々から順にお通りください」

 

紫はああ言っているが入ったものから順にやられていくのは眼に見えている。気分は全然よくない。何せ今から妖怪の大量殺戮を見せつけられるのが分かっているからだ。こんなに楽しみでない月旅行はないだろうね。それにしても紫は一体いくらの妖怪を集めたんだい。ざっと見渡しただけでも千を超えている。

 

 

 

そんなことを考えていたらもう残っているのは私たち四人だけ。もう行くしかないね。

 

「はぁ、今から憂鬱だけれど行くしかないわね」

 

 

「うふふ、私は楽しみねぇ。月の料理がどれほどのものなのか」

 

そっちかい幽々子さんよ。まあ早く月に飛び込もうか。

 

 

 

 

 

 

  紫side

 

 

 月への道を抜けた先はまさに地獄絵図だった。辺りには腕が取れたりして散らばった月人たちの死骸とそれをはるかに上回る数の妖怪の死骸。力の差は歴然だったのだろう。っ、誰か来たわ、隠れないと。

 

 

「ここに三人ほどいた形跡があるのですけどどこに隠れたのでしょうか」

 

三人?まさか幽々子は数に入れられていないのか?確かに彼女は浄土の存在。ならばこの地でも証拠を残さずに行動することができる…………?

 

 

「そこの岩の裏側にいますね?早く出てきた方がいいですよ」

 

「よく分かったわね。流石は月の頭脳の教え子、といったところかしらね」

 

 

「!?な、何故それを貴方が知っている?!」

 

「さて、何故かしらね。ここで私の提案する決闘にあなたが勝てたら教えてあげるわ。あなたたちもこの地で無用な殺生は避けたいでしょう?」

 

 

「構いませんが私があなたの提案する決闘を受け入れるのはいささか不利ではないでしょうか?」

 

「あなたがすることは至極簡単だから安心なさい。相手を殺すことが無いように調整した弾幕をあなたに向かって撃つからあなたはそれを全て避けきるか能力を使って回避する。私がある方から着想を得た命名決闘法よ。これならやったことのないあなたでも簡単にできるでしょう?本来なら両者が撃ち合うのがいいのだけれど長引くかもしれないからあなたは回避することだけに専念して頂戴」

 

 

「なるほど、確かにそれなら無駄な血を流さずに済みますし、対等に近い勝負ができて良さそうですね」

 

パチュリーが彼女の考えたであろう決闘の仕方で相手の月人と勝負することになった。相手の強さは私でも測ることができない。まるで幾多もの神を相手にしているような気さえする。

 

 これならパチュリーの忠告も納得できる。()()()無策で挑んだ私たちの負けだろうが、また必ずここに挑戦しましょう。

 

「では行くわよ」火符『アグニシャイン上級』

 

 

「ふむ、なかなかきれいなものですね。ここは神の力を見せてあげましょう。『火雷神(ほのいかづちのかみ)』よ、七柱の兄弟を従えこの者に神の猛威を今再び見せつけよ!」

 

なるほどね、火雷神は一応火の神としても祭られているものね。

 

「流石は神の火ね。でも火雷神って本来は雷神ではなかったかしら?あぁ、なるほど。雷を呼ぶ雨で私の弾幕を弱めたうえで火で押し切ったのね。

 

 まあこの辺りにしておこうかしら。私がなぜあなたの事を知っていたのか教えてあげるわ」

 

 

「もういいのですか?まだ一つ目ですが」

 

「いいのよ。あなたの実力はかなり高そうだしそんなに長引かせる意味も無いもの。

 

続けるわよ。

まずあなたたち姉妹は月の頭脳、八意永琳の教え子。永琳は数百年前に輝夜を迎えに地上に下りたきり帰ってきておらず今現在彼女らがどこにいるのかはあなたたちはわからない。でも私は輝夜の迎えを撃退するのに一役買った後彼女らと交流をしているの。まあ再会できたのは二百年前くらいなのだけれど。それで彼女らから色々話は聞いていたわけなのよ」

 

 

「なるほど、そうだったのですね。それで八意様は今どこにいらっしゃるのでしょうか」

 

「教えるわけがないわ。彼女が捕まるとは思えないけれどもう月に帰る気はさらさらなさそうだったしね。あなたが彼女に会いたいというのならば量子論を誰よりも早く理解したというあなたのお姉様に頼みなさい。

 

 彼女なら月と地球を一瞬で行き来するなどたやすいでしょう?まああなたが地上に降りるという屈辱を受け入れるのならば、だけれどね」

 

 

「私にはまだその覚悟はありませんね。八意様が来てくださればいいのですが。

 

 

 ところで、ほかの方々はいつまで隠れていらっしゃるおつもりですか?降伏してくれるのなら無用な争いは避けられますが」

 

出るしかないわよね。

 

 

「はいはい、ここよ。()()()私たちの負けよ。都に近づけもしなかったのだし。二人ももう出てきなさい」

 

 

「貴方が八雲紫ですね。倒した妖怪たちに特徴は聞いておきました。それにあと二人?!計三人ではなかったのですか?おかしい、なぜそのようなことが…………」

 

 

「わかったわ~」  「わかりました」

 

 

「貴方はまさか幽霊?!…………だから穢れを感じなかったのでしょうか」

 

 

「あら失礼ね。私は亡霊、幽霊なんかと一緒にしないでほしいわね」

 

やはり幽々子はそこにいたという証拠を残さずに行動できる。これはなかなか使えそうね。

 

 

「そ、そうですか。ところでそろそろ帰っていただきたいのですが」

 

 

「駄目よ、私はここの料理を楽しみにしてきたのにそれが食べられないとなったら来た意味がなくなるじゃない。せめて何か欲しいわ、お腹が空いたから」

 

 

「それなら月に生っているこの桃なんてどうかしら?美味しいわよ」

 

 

「え…………?お姉様?どうしてここに?ていうか何個持ってきたのですか…………」

 

 

「来ちゃいけなかったのかしら?なんだか楽しそうだったからつい見に来ちゃったわ。

 

 

 はい、桃」

 

 

「あら、美味しいわね。腹の足しにはならないけれど今回はこれで満足したことにしておくわ」

 

箱詰めの桃って、幽々子……………………。変わらないわね。はあ。

 

 

「それでは残った妖怪たちは地上に帰して私たちも撤収して構わないかしら」

 

 

「構わないけれどさっき依姫と戦っていた子は残していってくれないかしら。あと貴女も少しお話がしたいわね。

 

 貴方の方は割とすぐ終わると思うのだけれど、彼女には色々聞きたいことがあるから。あぁ、心配しなくてもきちんと地上には送り届けるわよ。

そうねぇ、五日後くらいにその赤髪の子のところに送るわ」

 

 

「……………………きちんと彼女を送り届けてくださるのなら構いません。それでは美鈴と幽々子、あと少数の妖怪たちは先に帰しておくわ」

 

美鈴の様子が心配だけれど仕方ない。

 

 

 

 

 パチュリーside

 

 

私一人月に残らされたんですが。ちなみに紫の用事は本当にすぐ終わった。十五分くらい別室に行った後で疲れ切った顔になりながら帰っていった。

 

 私の事は月人たちに秘密にしてを綿月家に置いておくらしい。まあそうしないとうるさそうだしね。

 

彼女らによると秘密で家に誰かを匿うとか置いておくというのは数百年ぶりの事らしい。しかも前回は人工冬眠(コールドスリープ)させて三百年後の世界に送り返したとか。急に不安になってきた。

 

 

 

 

「それで、八意様は今も元気になさっているのかしら?」

 

「元気よ。まあ彼女なら不調になっても自分で薬を作るでしょうけれど」

 

 

「それもそうね。あ~、私も八意様に会いたいわ~」

 

「あなたの役職ならいつでも会いに行けるのではないの?」

 

 

「そうもいかないのよ。地上は穢れた地だから簡単に降りることはできないのよ。特に私たちのような立場になってしまってはね」

 

「依姫は覚悟ができていないと言っていたけれど…………」

 

 

「覚悟はできても月の連中がそれを許さないと思うわよ」

 

豊姫とはグダグダ話をすることが多い。依姫には軍についてのアドバイスをしておいた。月の民が自らの手を汚すのを嫌がるのなら奴隷階級同然の玉兎たちに戦わせればいい、とか。

 

 

「お姉様、そろそろパチュリーさんを地上に送り返さなければなりませんが」

 

 

「あら、もうそんなに経っていたのね。もっとお話ししたかったわ」

 

「私と話をしたければ地上にいらっしゃい。恐らくあなたたちが地上に来る頃には永琳たちも隠れ住むのはやめているでしょうが」

 

 

「私たちが八意様に会いに行ける日は来るのかしら」

 

「えぇ、きっとね。じゃあ送ってもらっていいかしら」

 

 

「分かったわ。もし地上に行けたらまた会いましょうね」

 

じゃあね。存外楽しめたよ。

 

           ・

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           ・

 

 

 「おっとと、お帰りなさいですねパチュリー。そろそろだと思っていましたよ」

 

「えぇ、ただいま。一人にして申し訳なかったわね。

 

 それで、紫たちはどうしているのかしら?」

 

 

「幽々子さんは月の桃を一日十個ほど大事に食べているようです」

 

…………それ大事に食べていると言えるのだろうか。まあ幽々子にしてはって感じね。というか多すぎでしょ。確かに箱詰めされていたけども。

 

 

「紫さんは彼女の夢の完成に向けて最後の詰めをしているようですね」

 

もうそんな時期なのか。幻想郷自体の完成は1500年前後だったっけ。結界張るのはまだ先だろうけれど。私が欧州に帰る日もそんなに遠くはないね。

 

というか大量に持ってきた喘息の薬がもう底を突きかけているから調達しないといけないのだけれど原料はあちらにあるからね、戻らざるを得ない。

 

「ねえ美鈴、私そろそろ日本を出て大陸の西の方に戻ってみようかと考えているのだけれど。あなたも一緒に来るかしら?」

 

 

「愚問ですね、パチュリー。そうと決まれば早速勉強です!いや~久しぶりですね、言語の勉強も」

 

「そうね。では美鈴があちらの言語を完璧に使えるようになったらあちらに旅をしましょうか」

 

それに今回はあの退屈な砂漠越えもする必要がない。直接あっちに向かってくれる船が最近よく出入りしているらしいからそれに潜り込んでしまえばいいだけ。なんて楽な時代になったんでしょう。

 

先ずは美鈴に言語を教えなければならない。そんな今時分風な欧州の本があったかな、と思っていたけれど、何故か私の謎空間は本が増えていくんだよね。紅魔の大図書館かよ。

まあそれのおかげで旅の途中も全く本に困らなかったのだけれど。

 

 美鈴に教えるのは今のルーマニア語。行く場所は決めているからね。

 




藍はお留守番です。原作では藍と紫が出会う前に月面戦争があった気がするので

月面戦争は数百年前と千年以上前という二つの記述が儚月抄にあったと思うのですが幽々子がいるので恐らく数百年前が正しいのかなと勝手に思っております

この地に来たことを後悔させよ、は何か違う気がしたので勝手にセリフを入れました


前回よりも700字以上長くなってしまいました。どうしてなんでしょうかね

明日オマケとして一話出します


では次回も読んでいただければ幸いです
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