パチュリーside
美鈴の言語の勉強は非常に順調に進んでいる。まだ二年くらいしかたっていないのにルーマニア語は完璧に近い。
で、思い出したのだけれど、そういえばレミリアって英語で手紙書いてなかったっけ?
そんなわけで今は英語も教えている。呑み込みが早いから教え甲斐があるってもんよね。早ければあと二年もすれば旅立てるだろう。日本での生活はとても楽しかったから出ていくのは辛いが、どうせまた戻ってくることになるのだから別れを惜しむ必要もあまりない。妖怪の世界では数百年会わないなんてざらだから。
美鈴が英語もかなり流暢に話すことができるようになった。最近は昔のように英語だけで一日生活したり、ルーマニア語だけで生活したりしている。
たまに混ざっているときもあるけれど許容範囲内だろうと思う。
「そろそろ美鈴も大丈夫そうね。三日後に欧州に向かうことにしましょうか」
「ようやく許容範囲に入ったんですね。ここまで長かったです~」
「あんた数千年生きてきたんでしょうよ。ここまではたったの四年じゃない。大げさねぇ」
「楽しみのない数千年と楽しみなことのある四年だったらどちらが長く感じるのか、ですよ」
そういうものなのかなぁ。かれこれ千年ほどは生きてきたけれどまだわからない感情かな。
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「さあ、いよいよ出発ですね!今回はどういう風にして大陸に渡るのですか?」
「前と同じく船よ。それに直接欧州に着くやつ。
……安心してもいいわよ。今の船はかなり丈夫になって嵐なんかでは滅多に沈むことはないから」
「それなら良かったです。もう前のようなことは嫌ですからね」
先ず目指すは長崎かな。あそこなら外来船もたくさん泊まっているでしょうから変装を解いても大丈夫そうだし。
髪色はごまかすよ?流石にこれでは疑われるからね。服はどうしようかなぁ、結構二条天皇から贈られたこの着物気に入っているのだけれど、
やっぱり全部ごまかしておくか。面倒だし。
「さて、先ずは肥前を目指すわよ。外国の船がたくさん泊まっていそうだから」
「わかりました。また道中で村などに寄って行くんですか?」
「よほど困っていそうなら寄っていくわ。それ以外は基本的に寄るつもりはないわね」
「そうですか、まあいちいち歓待されても旅が長引くだけですもんね」
その通りだよ美鈴。よくわかっているじゃないのよ。
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ようやく港に着いた。困っている村を助けながら来たら二週間くらいかかった。
でもお目当ての船はすぐに見つかった。まあポルトガルからルーマニアもかなり遠いのだけれど。
「美鈴、認識阻害をかけて忍び込むからちょっとこっちに来て頂戴」
「今回もかけるんですね。まあそれが一番楽ですからね」
どうやらこの船はもうすぐ出港するようだ。この船旅も地味に長いのだけれど。
日本を出発してから数か月、ようやくルーマニア、現ワラキア公国にたどり着いた。本当に長かったし、妖怪たちも鬱陶しかった。
美鈴は見慣れない建物や服装に興味津々であるようだ。ちなみに道中あまりにも退屈だったから喘息用の薬草はもう採取してある。材料さえあれば昔一度作ったきりの薬だって調合は可能だ。
どうやらちょっと前にヴラド三世が亡くなったらしい。レミリアが生まれるのももうすぐだろう。
この辺りの妖怪たちは皆周辺を支配している吸血鬼の庇護のもと生活しているらしい。その代わりにこの地に来た人間を渡しているのだとか。
御恩と奉公みたいな関係がこんなところにもあったとは驚きだね。とりあえずその吸血鬼の館とやらに行ってみましょうか。
……………………紅い。
「紅いですね。目に優しくなさそうです」
「そうね、とりあえずお邪魔してみましょうか」
門に誰もいないので勝手に入らせていただくことにしようか。
「お邪魔しまーす。…………誰かいないのかしらね」
「……いや、誰か近づいてきていますね。気配の消し方が雑ですがかなり速いですね」
気配の消し方を美鈴と比べたらいかんでしょうよ。相手が可哀そう。
「貴様ら何者だ?襲撃者にしては数が少なすぎるし、ただの人間ならこの館の門は重すぎて簡単に入れないはずだが」
あっれぇ?もしかして私たちの変装に気づいていないのかしら。
「私たちは人間ではないもの。私は魔法使いのパチュリー・ノーレッジ」
この自己紹介久しぶりだわ。
「私は訳あって種族は明かせませんがとある妖怪の紅美鈴です」
美鈴の種族に関しては未だにわからない。いつ聞いてもはぐらかされるから恐らく永遠に教えてはくれないでしょうね。
「…嘘は吐いていないようだな。しかし魔法使いのノーレッジといえばつい百年ほど前に実験に失敗したとかで二人が亡くなっていたぞ。その娘か何かかな?」
「…………えぇ、おそらくその二人の娘です。しかし魔法使いは親元を完全に離れて俗世に興味を持たずに生きていく存在です。故に今初めて聞いたのにもかかわらず私の中では二人の死は仕方のないことだと割り切られてしまっているのです」
「お前は強い娘なのだな」「両親の死にそこまでの悲しみを覚えない点は薄情とも言えますがね」
これが魔法使いと人間の違いなのか。私に人間の心が残っているからこそわずかでも悲しみの感情が芽生えているのかもしれないけれど。
「…ご存じの通り私はこの館、紅魔館の現当主の吸血鬼だ。スカーレット卿と呼ばれている。
実はな、そろそろ私たちにも子供ができる予定なのだ。お前は魔法使いだから知識量は並ではないだろう?そこでだ、この館に住まわせてやるから教育係になってはくれんだろうか」
「私は構いませんが私の連れはどうなさるおつもりで?」
この吸血鬼、スカーレット卿は実年齢こそ大して変わらないだろうが一応雇用主だ。失礼なことはしない方がいいだろう。ということで敬語っぽいものは使っておこう。
「ふむ、見たところかなり強そうだからな。…………この館の門番にでもなるか?
そうすれば我が子も安心してすごせるだろうしな」
結構親バカな吸血鬼なのね。でも感情表現がストレートな人は嫌いじゃない。別に好きになることもないけれど。
「わかりました、それでいつ門番をすればいいのでしょうか?」
「私たちが休む昼間にしてもらえれば良い。では明日から頼む。
それで魔法使いの方だがこの館の地下に近い一室をお前の部屋として提供しよう。どのように使ってもらっても構わない」
この館の内部がまだ見た目通りの大きさでこれなのならばわざわざ空間拡張する必要もないんじゃなかろうか。
「わかりました。それではお子さんを私につけたくなった時に声をかけてください」
「あぁ、それでは君たち二人の部屋に案内しよう。執事長!来なさい」
「ここに。…………お二人の部屋へのご案内でよろしいのでしょうか?」
ほう、何も聞かずに雰囲気から呼ばれた理由を察することができるのか。かなり訓練されていそうだね。何の妖怪なのかはわからないけれど。
「その通りだ。ではよろしくな、私は眠いのでね」
そういえば今は昼間だったね。だから襲撃者と間違われたのかもね。
「こちらの部屋でございます。二人用という事でかなりの大きさの部屋となっておりますがどうぞご自由にお使いください」
「これで二人用はないでしょう。十人以上は暮らせそうなのだけれど」
というかかなりの数の本棚が置いてあるし元々は図書館のようなものだったのだろう。
「ですがご主人様から仰せつかったのはこの部屋ですので。では美鈴様は明日から、パチュリー様はお嬢様がお生まれになったらよろしくお願いいたしますね」
「私も美鈴もこの館に雇われている身、つまり貴方と立場は変わらないのだからもう少し堅苦しさを抜けないかしら?」
「できる限り努力はしますが慣れるまではご勘弁ください」
「わかったわ、ではこれからよろしくね」
「さて、先ずは私の空間に入れていた本を選別しながら出しましょうか。幸い置いてある本棚のどれにも埃はついていないようだしそこに入れていきましょう」
「パチュリーの本ってかなりの数ありませんでしたっけ。今日中に終わるんですか?」
「終わらなければ明日以降も私は時間があるから一人でやっておくわ。さ、始めるわよ」
今まで勝手に増えてきた本のうち気づいたものには既に防火、防水etc…をかけているから手間はそこまでかからない。
空間から本を出すのもそれだけの目的で作った魔法を使えば問題なくスムーズに進められる。
モデルは世界中で大ヒットした某魔法界のお話の呼び寄せ呪文だけれど、この世界とは完全に別に存在する上に私は杖を使わないからただの似た魔法になってしまった。
そんなこんなで美鈴と二人がかりで整理した一日目はおよそ半分の本を棚に移動できた。全体の六分の一の本は貴重な資料だったりかなり高位の魔法使いの書いた魔導書の原本だったりするので空間に残しておくことにしている。
あと移す本は三分の一、夜通しやれば遅くとも明日には終わりそうかな。
既に本棚はかなり本で埋まってきた。こうなったら本の管理が大変だ。司書雇おうかな。
ちょうど夜になったし雇ってもいいかスカーレット卿に聞いてみようか。
「おはようございますスカーレット卿。少しお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「あぁおはよう。それで聞きたいこととは何だね?」
「実は本の管理をする司書として低級の悪魔を召喚しようと思っているのですが」
「そんなことなら構わんよ。悪魔の館に悪魔が一人増えても大して変わらないだろうからな」
「ありがとうございます、では「ああ、ちょっと待ちたまえ」なんでしょう?」
「ついでだから私の妻にも会っておきなさい。これから色々関わることになるだろうからな」
「わかりました。どこにいらっしゃるのです?」
「この館の療養室だよ。もうすぐ子が生まれると言っていただろう?」
もうすぐってマジのもうすぐだったのね。妖怪単位だとあと五年くらいあると思っていた。
「あぁ、なるほど。そういう事ですね」
「入るぞ」 「どうぞ」
「お邪魔します。おはようございます夫人。あなた方のお子さんの教育係として昨日この館に雇われました、パチュリー・ノーレッジです。以後お見知りおきを」
「おはよう。貴方が子供の教育をしてくれるのね。ノーレッジ家の者なら安心かしらね」
ノーレッジ家ってそんなに有名なの?全然知らなかったのだけれど。
「もうすぐ生まれるわよ。少なくとも一週間以内には。いつ生まれるのか魔法使いの貴方ならわかるのかしら?」
「えぇ、もちろんです」ただし魔法ではなく仙術を使わせてもらうけど。
「………………………………なるほどわかりました。二日後の夜ですね。性別も一応わかりましたがお伝えしておきましょうか?」
「お願いするわ。名前を考える時間が欲しいもの」
「女の子ですね。健康状態は非常に良好、翼も問題なさそうですね」
「あら、そんなことまでわかるのね。流石はノーレッジってところなのかしら」
「協力感謝するぞ。では私たちは名前でも考えているから君は司書を雇うなりなんなりしてくれたまえ。
まだ慣れていないだろうから館内を自由に散策してもらっても構わんぞ」
「はい、ではまた二日後にお会いしましょう」
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この館広いから道を覚えていても戻ってくるまでに多分な時間がかかる。
それじゃあ先ずは本を移し終わることが第一目標ね。その次が悪魔召喚。できれば明日の昼間には召喚したいからちょっと本気を出しますかね。
本気を出せば百冊強は同時に操って本棚にしまうことができる。でもこれ溜まる疲労が桁違いなうえに喘息の危険はいつもよりかなり高くなる。身体に負担をかけるから。
美鈴を起こさないように静かにやっていたけれど、美鈴が起きるころにはもう残り十分の一くらいにはなっていた。
美鈴が初仕事に行った。残りはついに百冊くらいになった。悪魔召喚の本は手元に置いておくとして、あと一回で終わらせられるね。
終わったけれど悪魔召喚をするには体力が足りない。少し美鈴のところに行って休憩しつつ気を練ってもらおうかな。
「あれ、どうしたのですか?パチュリー」「ちょっと疲れたからね、休憩」
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「はっ、寝てしまっていたわ。今何時ごろ?」
「そうですねぇ、正午過ぎくらいですかね」
何か寝たら体調がかなり良くなっているのだけれど。あれ?確か前にもこんなことが…………。
「すこぶる体調がよくなったのだけれどあなたのおかげかしら?」
「私も少しは気を練りましたがほとんどは自己回復だと思いますよ」
普段寝ないからたまに寝ると調子が良くなるのかな?
まあ体調も良くなったし悪魔召喚やってみようか。
「それでは私は戻るわ。寝ちゃ駄目よ」
「寝るわけないですよ。常に身体を動かしていますし」
美鈴が居眠り門番じゃない、だと?まあ知っていたけど。
悪魔は通常術者のレベルに合わせたものが出てくる。しかしあえて自分より弱い悪魔を召還することで対価はかなり少なくできる。
悪魔の対価といえば魂だろうか?そんなもの払えないし、低級悪魔の方が反逆されても対処しやすいからね。
ってことでやってしまいましょうか。魔法陣はかなり複雑だが間違えなければ大丈夫だ。
「#’$&’(’%&=)*<?’&$!#”$’)~%##」
もはや何語なんだ。発音できる自分が怖いわ、とか思っていたら何か魔法陣が光りだした。どうやらちゃんと成功していたみたいだ。
「はっ、初めまして。私を召喚したのは貴方様ですか?」
「えぇ、そうよ。初めまして、私はパチュリー・ノーレッジよ。あなたは?」
「私はかなり下級の存在ですので名前などありません。小悪魔、とでも呼んでいただければ」
ていうかこの時代に小悪魔っていたんだね。何も考えずに召喚したけれど原作通りの小悪魔が出てきてくれて良かったわ。
「小悪魔、ね。じゃあ『こあ』でいいわね。そっちの方が可愛らしいし。
それで対価は何を望むの?」
「そういえば悪魔召喚には対価がいるのでしたっけ。対価によっては力が変わることもあるかもしれませんが、私は下級の者ですので貴方様のいいと思うもので結構ですよ」
「そうねぇ、…………ねえこあ、あなた強くなりたくはないかしら?」
「それはなれるものならなってみたいですがってまさか?!」
「ふっふっふ。貴方にはこれを対価として与えましょう」
「凄い魔力を感じるのですがこれは何なのですか?」
「それはね、私が一番初めに完成させた賢者の石。普段はそれを複製したものを使っているけれど魔力の質は桁違いよ。それをあげるから頑張って強くなりなさいな」
物の性能や質は何でもオリジナルが最も良い。賢者の石のオリジナルは複製とは圧倒的な差がある。私はもうオリジナルを使うことは無いでしょうから対価としてこあにあげたというわけだ。
「そんなものを…………。ありがとうございます。この私精一杯努力いたします」
「あ、でも普段の仕事はこの大図書館の司書ね。私が外に出かけるときには護衛としてついてきてもらうつもりだけれど」
あ、こあがずっこけた。
今回は久々にパチュリー視点オンリーです
キャラに名前は基本付けませんよ。考えるのが面倒だし、ネーミングセンス無いので
『こあ』って響きは個人的に好きです。可愛らしいので
対価はいいものが全然思いつかなかったので妥協案です
徐々に長くなってしまっていて、今話はついに6000字オーバーしました。次回以降は少し減らして5000くらいにしたいものです
では次回も読んでいただければ幸いです