行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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紅魔的第二十話

小悪魔side

 

 

私はパチュリー様に召喚されるまではあまりに弱い力のせいで良い暮らしはできていなかった。悪魔としてこれではだめだと思っていた時期もあったけれど、結局大して変わらなかった。

 

たいていの場合悪魔は自分の護衛や戦力として召喚されるので、私のような力のない悪魔は基本的に召喚されない。召喚されたとしても対価が小さいからだとかそんな理由なので扱いはひどいものが多い。

 

私は召喚された時に何よりもそれを恐れた。召喚されたことへの喜びすら感じ得なかった。何故ならパチュリー様はひどいことをしなさそうな見た目ではあったものの、魔法使いとしての力は数いる魔法に長けた魔界人の中でもかなり上位に入るだろう、というほどだったからだ。

 

力の強い存在に召喚されて良いことはない、というのを契約が切れて戻ってきた仲間がこぼしていたから私は不運だと思わざるを得なかった。

 

でも主人になるパチュリー様は私に優しく接してくれた上に彼女が初めに完成させたという賢者の石を対価としてくださった。どうやら私に強くなってもらいたいらしい。低級の悪魔にとっては規格外の対価、私の身体がもつのか心配だ。

 

それで強くなって私にしてほしいことはこの図書館の司書らしい。あとたまに護衛。流石に予想外だった。もっと何かしら強くないとできない事かと思っていた、というとパチュリー様に

 

「もしそうなのならば初めからもっと上級の悪魔を召喚しているわ」

 

と言われた。まあそれもそうなのか。

 

今は図書館を利用する人もいないし、昨日本棚に本を入れたばかりらしいので掃除なんかもする必要がない。何もすることが無いのでパチュリー様に勧められた美鈴さんと武道の練習をすることにした。美鈴さんは元々長生きなせいでかなり強いのにそれに武道を組み合わせているから勝てる気がしない。彼女によると前に住んでいた場所では負けることも多かったが、ここで負けていないのはここらの妖怪が皆腑抜けてしまっているからだとか。あっちにはあっただけで戦意を喪失したほどの強者もいたらしい。

 

パチュリー様は、美鈴さんが負けていたのは単純に相手が規格外ばかりだったからだという。どちらが正しいのかはわからないけど、あの美鈴さんを見ているとパチュリー様が正しい気がしてならない。でも見ただけで戦意を喪失するような化け物が存在することは確からしい。

 

きっと人間の二倍以上の身長で毛むくじゃらな恐ろしい化け物なんだろう。会いたくないなぁ。

 

 

 

今夜はパチュリー様は当主の妻の出産に立ち会うらしい。なんでも感覚を麻痺させる魔法を使って出産時の痛みを和らげる役なんだとか。私にはよくわからない感覚ではあるけれど出産に伴う痛みって相当なものらしい。

 

だからパチュリー様は大役を担っているというわけらしい。この館に来てからまだ三日目くらいと聞いたのに随分と腕を信用されているみたいだ。やはりパチュリー様は凄い。

 

 

 

   パチュリーside

 

 

赤ん坊の出産に立ち会うのは実は何回目かわからないくらいだ。日本にいたときも仙術(魔法)を頼ってやってきた人たちの出産に立ち会った。

 

だから人間相手ならかなりうまくやる自信がある。でも今回は妖怪。しかも魔力が多い吸血鬼だ。下手をすれば相手の魔力と私の魔力が拒絶反応を起こして痛みを和らげるどころの話ではなくなってしまう。

 

故に今回ばかりは魔法(仙術)を使って和らげることにしよう。仙術はかなり万能。覚えていて良かったと思う瞬間はかなり多い。使いすぎないようには気を付けているけれど。

 

「では今から術をかけます。奇妙な感覚があると思いますが我慢してくださいね」

 

吸血鬼に陣痛があるのかはわからない、でも念のため強めにかけておくべきだろう。

 

 

 

 

 

「!!うっ、生まれそうだわ!」

 

遂に来たか、やはり仙術で調べたとおりに今夜来てくれた。ちなみに今この部屋にいるのは夫人と私だけ。スカーレット卿は扉の前で待機してもらっている。

 

「辛いとは思いますが耐えてくださいね。…………逆子でもないし大丈夫そうですね」

 

 

おぉ、泣いてる泣いてる。これで肺を膨らませているんだっけ。覚えていないけれど。

 

「元気な子ですね。抱いてやってください。

 

スカーレット卿ももう入っていただいて結構ですy「わ、我が子はその子か」…………」

 

速いねぇ、吸血鬼は。

 

 

「えぇ、とても可愛らしいわ。千年もしたら必ず絶世の美女になれるわ」

 

五百年後はまだ小さな女の子だけどね。

 

 

「うむうむ、男の子ではなかったのが少しばかり残念ではあるが我が子には変わりはない。

 

お前の名前はレミリアだ。私と妻とで二日間考えた名だぞ」

 

「いい名前だと思いますよ」

 

ちゃんとレミリアで良かったわ。とりあえず一安心かな。あとは五年後、彼女が生まれるときにどうなるか、だね。

 

彼女を護るために家族が結束するのか、隔離するために崩壊するのか。今は何とも言えない。

 

 

 

 

   レミリアside

 

 

私はもう五歳になったというところだ。スカーレット家では英才教育と名付けて二歳頃から教育を始める。人間ならば英才教育といっても精々三歳くらいから始めるものだ、とは私の教育係を務めるパチュリーの言い分だ。ただでさえ知識の吸収が早いらしいこの時期にもう三年以上も勉強しているのだ。更に教育係がパチュリーだから私の知能はほかの同い年の吸血鬼とは比べるまでもないらしい。

 

パチュリーは最初はかしこまって私に接していたけどやめてくれと言ったら気安く接してくれるようになった。私としてはそちらの方がありがたい。

 

勉強は好きではないけどパチュリーはわかりやすく教えてくれるし、どんな疑問にも答えてくれる。パチュリーは本当に何でも知っているのね、というと彼女は

 

「私の知り合いには私なんかとは比べ物にならない程の知識人が一人と私よりはるかに優れた頭脳を持つのが一人いるわよ」

 

と言う。パチュリーが比べ物にならないとは驚きだ。世界は広い物なんだと理解させられた。その二人は教えるのが上手いの?と聞くと彼女はおかしそうに

 

「知識人の方はとても上手よ。ある姫君の教育係をしていたくらいだから。でももう一人の方は駄目ね。彼女は人にものを教える気が無いもの」

 

と言った。彼女がそんなに楽しそうに語る人に私もあってみたいが、どうやら住んでいるのはかなり東の方で会いに行くのにも海を渡らなければならないらしい。私は海を渡ることができないので会いに行くことはできないというわけだ。

 

パチュリーの他に紅魔館の門番である美鈴も彼女らとは知り合いであるらしい。この館に来るまではそちらに住んでいたみたいだ。聞くところによると空気がとても澄んでいて、早朝に山の上から見る日の出は絶景らしい。私は日の出も見れないけど。

 

小悪魔はこの館に来てから召喚されたらしいのでその人たちの事は聞いたことしかないらしい。

 

 

 

今日の夜食はステーキらしい。パチュリーは人肉の原型が無ければ料理はギリギリできるけれど食べるのは無理、というのでテーブルにはついていない。壁の方で美鈴と談笑している。

 

美鈴も食事に人肉はちょっと、という事で食べていない。彼女らは何も食べなくても生きていくことができるらしい。私のように小食というわけではなく完全に食を絶てるのだとか。

 

因みに小悪魔は普通に食べている。魂の方が良いとか物騒なことを言ってはいるが。

 

 

そんな夜食の途中でお母様から重大発表があった。なんと私に弟か妹かができるらしい。性別はパチュリーに任せればすぐにわかるし、私の時はしてもらったらしいけど今回は生まれるまでのお楽しみという事にしているらしい。

 

パチュリーは子供ができたと聞いたとたんに何か考え始めた。気づいているのもどうやら私だけだしそんなに重要なことではないのかもしれない。聞いたところではぐらかされるのがいいところだろうし。

 

 

 

 

あれから数か月ほど経った時期に急にお母様の体調が悪くなり始めた。パチュリーも最近はその日分の勉強が終わったらすぐにお母様のもとに行くようになってしまった。だから最近は図書館で本を読むか、美鈴とお話をしている。美鈴もパチュリーほどではないが寝る時間が少ないからだ。

 

 

「お母様の体調が悪いのも最近パチュリーが遊んでくれないのもみんなお腹の子のせいなんだわ。いなくなっちゃえばいいのに」

 

 

「本当にそうでしょうか?仮にお嬢様が第二子だったら同じことを思われていたかもしれませんよ。生まれる前から恨まれる、そんな理不尽は流石に可哀そうだと思いませんか?

 

たとえ生まれてくる子がどんな子でも貴方の弟や妹であることは変わらないのです。ですから恨むことはどうかやめてもらいたいですね。そんなお嬢様は嫌ですからね」

 

そうか、確かに美鈴のいう事は正しい。私が生まれてくる子を恨んだところで現状は打開されないし、むしろ雰囲気が暗くなるだけだものね。

 

 

「…………そうね、分かったわ美鈴。私これから今まで通りに明るく過ごすようにするわ」

 

 

「それでこそお嬢様です。では今日の運動を始めましょうか!」

 

美鈴とは雨でなければ毎晩一緒に運動している。彼女の身体能力は非常に高くて、吸血鬼である私でも彼女の動きについてはいけない。彼女が言うには私がまだ幼いからだそうだが、本当に美鈴についていくことができる日は来るのだろうか。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

あれからさらに数週間、私はできる限り元気に明るく過ごすように努めている。お母様の部屋に行ってみたけどパチュリーがいる気配がなかったから今は彼女を探している。

 

…ん?何か聞こえるわね。こういう時に吸血鬼の耳は便利だ、部屋の外からでも何を話しているのかは聞こえてくる。

 

「…………あと僅かですね。非常に拙い状況です」

 

 

「…………子と妻のどちらを優先するか、か。断腸の思いだが私としては子を優先すべきだと思う」

 

え…………?どうしてそんな話になっているの?

 

「…それはどうしてです?」

 

 

「妻はたとえ助かったとしても今まで通りの生活は望めないだろう。

 

それに妻はああ見えて私よりも長く生きている。対して子はまだ生まれてもいない。世界の広さを見る前に殺してしまうのはあまりに酷というものだ」

 

「………………………………あなたがそれでいいというのならば私は子の出産を優先させましょう。夫人もそれを望んでいらっしゃったみたいですし。

 

 

レミリア、こっそり話を聞いていたからわかったでしょう?時間があれば夫人に無理のない程度にお話しておきなさい」

 

パチュリーにはわかっていたのか、私がここにいたことが。

 

 

「…分かったわ。それではまたね」

 

私が知らないうちにそんなことになっていただなんて。お母様が死んでしまうのはとても悲しい。私の知る言葉では言い表せない程に。

 

 

 

私の妹、フランドールが生まれた。それと引き換えにお母様は死んでしまった。

 

フランドールはお母様の生き写しのようだ。不思議な翼を除けば。フランドールの翼はきれいだけれど私たちとは違いすぎている。彼女が気に病まなければいいけど。

 

あと何故かフランドールは右手を包帯で固定されているようだ。

 

 

 

この世に生まれてまだ五年しかたっていないのに親を亡くしてしまうことになるなんて。

 

……あぁ、そうか。人間たちもこういう気持ちなのかもしれない。自分の親や兄弟、子を私たちのような存在に殺されるというのはこれ程までに辛いことだったのか。いやむしろあちらの場合は骸が無いから墓に埋めることもできないのか。

 

私たちは人間を喰らう。でもこんな感情を知ってしまえば私の小食にさらに磨きがかかってしまう。この世界は複雑で残酷なものなのね。

 

 

 

   パチュリーside

 

 

フランドールももうすぐ五歳を迎える。フランドールが五歳になったらスカーレット卿はこの館を出るらしい。どこに行くのか決めているのか、と聞いてみると案の定決めていなかったので私が提案してそこに行ってもらうことになった。

 

それからスカーレット卿はレミリアに当主のイロハを教え込んでいる。レミリアも長女という事で次期当主は確実なのでなんの疑問も持たずに熱心に勉強している。

 

フランドールは勿論私が教育係として二歳から勉強を教えている。フランドールはかなり聡い子だ。レミリアにも匹敵するかもしれない。

 

彼女の持っている能力に気づき、彼女自身も抑えられるように努力をしている。しかし如何せんまだ五歳なのだ。狂気に呑まれてしまう事もある。そんなときには美鈴に頼んで気を落ち着かせてもらっている。

 

フランドールは自分の能力故に地下に住みたがっているがレミリアがそれを許可していない。地下に閉じこもることの孤独感で、より一層狂気がひどくなるのを抑えるためだそうだ。

 

レミリアもまだ十とは思えない程に色々考えている。夫人の埋葬を行ったときに『この世界は残酷なのね』と言われた時は驚いた。世界を知ればこの世界は残酷なのだと気づくことができる。よもや五つの少女がそんなことを言うとは思わなかった。まあただ単純に母が亡くなったことが残酷だ、と言いたかっただけなのかもしれないが。

 

フランドールの右手に巻いていた包帯も彼女自身が能力を自覚してからは外している。彼女は器用なので左右どちらかの手でも生活はできたが、やはり両手を使えた方がかなり楽に生活できるらしい。まあ当たり前か。

 

 

フランドールの五歳の誕生日、スカーレット卿からの重大発表により姉妹に彼の隠居が伝えられた。

 

 

「え?私何か悪いことでもしちゃったの?」

 

彼女らは相当なショックを受けているようだったが流石は長女、すぐに彼による当主の勉強はこの為の準備だったのだと気づいたようである。

 

しかしフランドールの方は心配だ。何せ生まれた日に母が亡くなり、五歳の誕生日に今度は父がいなくなるのだ。彼女が何か悪いことをしたのか、と思ってしまうのも仕方のないことだ。

 

 

「フランドール、お前は何も悪いことはしていない。これは私がずっと前に考えていたことだからね。私はちゃんとお前たちの事は愛しているから安心しなさい。

 

それに私が居なくなってもこの館には私より強い門番がいるし、私よりはるかに賢い教育係がいるんだから何も問題はないだろう?」

 

 

「それじゃあお父様、館に仕えている他の執事たちはどうしたらいいのですか?」

 

 

「それはお前に任せよう。解雇しても良し、そのまま雇っていても構わない。ここは明日からお前の館だからな」

 

私としては調理場担当は残しておいてほしい。人肉調理は正直気分がとても悪くなるからね。咲夜とか自分も人間なのによく調理できるね。まあ人を殺すのに大した躊躇いも無いのかもしれないけれど。

 

 

「ところでお父様は何処に隠居なさるのですか?」

 

 

「それは秘密だ。お前たちが会いに来るようになってしまえば困るだろう?

 

もうじき迎えが来るから私は先に用を足しておこうかな。まあきっとまた会えるさ」

 

用を足すというのはレミリアたちが彼についていかないようにするための言い訳だ。実際には迎えに来たものに会ってもう移動している頃だろう。

 

さらばスカーレット卿、またいつか会おう。

 




単一種族の妖怪は自然発生が多いと思うのですが、そう考えると美鈴も自然発生した、という事になるのでしょうかね

レミリアは5番目に好きです。ちなみにこの小説に登場済みのキャラの中で私の好きなキャラTOP10に入るのはあと6番目の紫、8番目の華扇ですね。パチュリーも13番目くらいには好きです

そんなことどうでもいい人が大半だとは思いますが、今のところの予定では完結までに10人とも出ます。その都度後書きに書いていくかと思います

次話後書きは原曲について書いてみましょうかね。どうでもいい個人の意見ですが

この小説の紅魔館は起床→夕食→夜食→朝食→就寝って感じです

パチュリーは館に”雇われている”、美鈴は”仕えている”という違いがあるので美鈴はお嬢様呼びです

そんなことよりおかしいな。気づいたらまた6000字を超えていましたね

初めの一週間は平均3000字くらいだったのに


では次回も読んでいただければ幸いです
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