パチュリーside
ようやっとこあと夢子が起きたので、彼女らに事情を説明して法界に向かうことになった。
夢子は神綺が案内役なことに少し不満そうではあるが、主が許可を出しているのだから仕方なさそうに文句も言わずについてきている。不満そうな顔さえしていなければ、従者としては満点の行動なんじゃなかろうか。
神綺自身はそんなことを全く気にしていないようで、普段の暇さから解放されて嬉しそうだ。
まあ魔界の最奥にずっといるってのもなかなかに辛いことなのだろう。
そんなこんなで法界に到着。封印されるというのは思いのほか辛そうだ。ぬえには申し訳ないことをしたかもしれない。まあ地獄には村紗たちもいるはずだから孤独ではないだろうが。
「こんにちは、お久しぶりね」
「えぇ、確かにお久しぶりですが本日は一体何の御用でいらっしゃったのでしょうか」
凄いね、声が全然響かない。声が聞き取りづらいような気がする。
「今日は貴方に会ってみたいという子がいてね、連れてきたのよ」
「私に?単身で魔界に来られるような知り合いはいないはずなのですが」
「この子よ。まあこの子も誰かに連れてきてもらっていたみたいだけど。
私たちはしばらく席を外しておくからお二人でゆっくりお話をしていなさいな。ほら、行くわよ。夢子ちゃん、こあちゃん」
こあも連れて行くのね。まあ相手が聖なら攻撃されるようなことも無いし、魔法使いとしての腕ならば私は負けていないはずだから大丈夫だろうけれど。
「…………さて、貴方は一体どうして私を訪ねてきたのです?私は貴方の事を知らないのですが」
「私はあなたの事を知っているわよ。哀れな境遇の妖怪たちを匿うようになって人間に封印されてしまった人間上がりの魔法使い、聖白蓮でしょう?」
「貴方は日本に住んでいたことがあるのですか?私の他に魔法使いの噂はほとんど聞きませんでしたが、いったいどこにいたのでしょうか?」
「貴方が魔法使いになる少し前くらいから諏訪でゆったりしていたのよ。あなたも妖怪との関りがあったのなら聞いたことがあるかもしれないわね。かつて都で名を馳せた陰陽師、大都庶樺菜」
「確かに何度も噂を聞きましたし、知っていますけどまさかそれが貴方だったのですか?でも噂では仙人の陰陽師だったとか」
「それは私が何百年経っても全く歳をとらなかったからよ。あの頃の日本にはまだ魔法という概念は存在していなかったから仙人という事で通していた、というわけ」
「無用な妖怪退治の依頼は避けていると妖怪の間で噂になっていましたが」
「その通りよ。たとえ人間に変装して人間の間で生活していたとしても、私は生粋の魔法使いだから妖怪側の種族だしね。それに私の相方、聞いたことがあるでしょうけど美鈴も長い時を生きてきた生粋の妖怪。
流石に悪さをした妖怪を野放しにしているのは無理なことなのだけれど、私たちから見れば一応同族。何もしていないのに退治したくはないでしょう?」
「なるほど。確かにその通りではありますが、それでは人間たちからいささか不満も多かったのではないのでしょうか?」
「私は他の陰陽師にはできない地脈の安定とかも仙術や魔法を使えばできたから、人間からの不満はあまりなかったわね。それに私は基本誰の依頼でも、わずかな報酬でも受けていたしね。まあ仙術と言っても仙人になってしまうのは困るからほどほどにしか使っていなかったけれど」
「仙術が使えるとなると仙人である、という噂もあながち間違いではなかったのですね」
「まあそうね。
さて、次はあなたの話を聞きましょうか。ちなみにまだ言っていなかったけれど私は大都庶樺菜改め、パチュリー・ノーレッジよ」
「私はご存じの通り聖白蓮です。先ずは私が魔法使いになったきっかけからお話いたしましょう。
私には命蓮という弟がいました。彼は法力という特殊な力を使えまして、私も彼に習って法力を学んでいたのです。
ところが彼は姉である私を置いて先に亡くなってしまいました。それから私は死というものを極端に恐れるようになってしまいました。
そこで手を付けたのが人間の道を外れるきっかけとなる魔法だったというわけです。私は先ず若返りの魔法を習得して捨食、捨虫の魔法を覚えるための時間を作りました。
そして習得した結果魔法使いになれたのです。そこから初めのうちは私自身の力をつけるために妖怪を庇護したりしていました。しかしそうしているうちに、なんだか人間に虐げられている妖怪たちが可哀そうに思えてきましてね。
妖怪だって生きているのです。そのような存在を虐げられて当然、と振る舞う人間たちの如何に愚かで自分勝手なものか。
妖怪たちを匿うために命蓮寺という寺を建てました。そこでは私や命蓮が信仰していた毘沙門天様の代理として遣わされた妖怪を祀っていたのです。
しかしどこからか噂が流れてしまったようで、私が妖怪を匿っていることが人間たちに気づかれてしまったのです。そうなってしまえば私が妖怪を匿っていたのは事実ですから逃れようもありません。
流石に神の代理として遣わされていた私の弟子とその監視役は人間側に付かせました。私は封印されても仕方がないと思っていたので寺にいた他の妖怪たちには人間に見つからないように逃げるよう言っていました。
ところが数名残ってしまいましてね。それほど慕われていたのは嬉しいことなのですが、彼女らには逃げてもらいたかったですね。どうやら彼女らも私とは完全に別の場所に封印されてしまったようです。
そして私もここに封印されてしまいました。ここは魔界神ほどの存在ではなければ封印の中に入ることはできませんから、私はいつも魔界の素材を使った新しい魔道具を作ったりして過ごしているわけなのです」
「……なるほどね。辛い話もさせてしまって申し訳なかったわね。配慮が足りなかったかしら」
「そんなことはありませんよ。私はこれもまた一つと思って妖怪をかばっていたわけですし、封印されているだけなのならばきっとまた会えますからね」
聖はポジティブだね。私ならこんな誰も来ないようなところに六百年以上もいたら気がおかしくなってしまうだろう。聖が大丈夫なのはやはり八苦を滅したからなのだろうか。心が強いのね。
「あなたは強いのね。こんなに長いことここに閉じ込められているのに心が全くぶれていない、本当に凄いことだと思うわ」
「私は僧ですからね。あらゆる苦しみは意味を成しませんよ」
「そういえばあなたは僧なのに尼削ぎでもないのね。何か理由があるのかしら?」
「確かに人間にはありえないような髪色ですし、このような色ですから妖怪と間違われることもありました。でもこの長さである理由を強いていうならば妖怪を匿うに当たっては良い目印にもなりますし、私自身気に入っているからですかね。それに尼削ぎにしてしまうとほとんど一色に近くなってしまうでしょう?」
「なるほど、確かにその長さが一番色調の均衡が保てているかもしれないわね」
「そうでしょう?ところで貴方は日本にいたときは大陰陽師として活動していたのでしたよね。
貴方が陰陽師として対峙した妖怪で最も手ごわかったのはどんな妖怪だったのでしょうか」
「私が対峙したので一番手ごわかった妖怪ねぇ…………あぁ、あなたが封印されて百年近くは経っていたかもしれないけれど、鵺かしらね」
「鵺、ですか。聞いたことはありませんね。人に危害を加えるとなると鬼なんかも退治の対象になったのではないのですか?まさか鬼より強いとか?」
「鬼とは討伐隊が組まれる前に美鈴が戦って、そのあとに宴会をした仲なのよ。それに
「美鈴さんは鬼とやりあったのですか?随分と凄い方だったのですね。いくら妖怪でも鬼はきついと聞きますが」
「その通りよ。あの時も美鈴の改良した必殺技(鬼以外が相手なら)があったから何とか勝負に勝てたもの。私が相手なら相性が悪すぎて勝負にもならなかったでしょうね」
「貴方はどのような魔法を使うのでしょうか?」
「私の専門は属性魔法よ。木火土金水の五つに日と月を加えた七つね」
「木火土金水と言えば大陸の方から伝わったと言われる五行思想ですか。それを自在に操れるとなるとかなり強いのではないですか?」
「確かに弱くはないと思うわ。でもこれは私の実力の及ぶところまでしか発揮できない。
簡単に言うと神の火は私の水では消せないし、神の水は私の土では止められない、といった風にね」
「それでも十分な気がしますが、何故鬼とそんなに相性が良くないのですか?」
「鬼は私の魔法をくらっても平気で動き回れるでしょう。鬼の肉体はそれほどの強度がある」
私だって弱くはないはずなのだ。鬼がどれだけ理不尽かがわかる。
「貴方のような魔法使いにそこまで言わせるほど強いのですね。私は聞いたことしかなかったのですが、一度手合わせ願いたいものですね」
「……………………正気かしら?」
「勿論です。言っていませんでしたね、私は身体能力を強化させる魔法が得意なのです。ですから私の封印が解けたら是非会ってみたいものです」
本気で言ってるね。確かに聖の身体強化は並ではない、だが鬼が相手となるとどうかなぁ。
それに聖が魔界から出たときに地上にいる鬼って萃香か華扇しかいない。華扇は腕を探していて忙しいというか鬼とばれないように生活しているだろうから、消去法で萃香しかいない。
萃香と言えば美鈴のあの時の渾身の攻撃を受けても体に穴が開いただけで動く分には全く問題なさそうだった。そんな化け物と戦うのは私なら勘弁したい。緋想天?天子で終わっておけば大丈夫だよね。萃夢想も私が動く必要はないし、旧知の仲だからどちらかというと紫に近いポジションになりそう。やる気はないけれど。
「まあおすすめはしないけれど、やるときは頑張ってね」
「すごく他人事ですね。まあ実際そうなんですが。
そうです!もしよろしければ魔法使いとして私に修行をつけていただけませんか?」
「…………それは私があなたの師になるという事かしら?」
師の経験はある、まああの時は師であり弟子であったのだけれど。
「えぇ、その通りです。魔法使いとしての格は貴方と私では全然違いますので、私を強くしていただけないかと思いまして」
「私が魔法において誰かに教えたことがあるのは一回きりだし、あなたとは系統が違うから分かりにくいかもしれないけれど、それでもいいの?」
「えぇ、勿論ですし、教えられる方なのに文句なんて言いませんよ」
聖……………………いい人だなあ。
「分かったわ。では始めるわよ、白蓮」
白蓮って呼ぶ人全然いないから私がこれから呼んでみよう。何か師匠してる感出るし。
「!?はいっ、わかりました師匠!」
ノリいいね。好きだよそういう人。
「いい?まず魔法とは……………………」
小悪魔side
パチュリー様と封印されていた魔法使いが二人で話すために私と魔界神様と夢子さんの三人で魔界の中枢ともいえる場所に来た。ここなら魔界神様がいてもあまり目立たずに行動できるのだそうだ。
変装するのならどこに行っても変わらないような気がするが黙っておこう。
私はこんな場所には来たことが無かったので非常に目移りしてしまう。一応パチュリー様にお金はいくらか貰っているが、このお金は西洋では得ることができないので無駄遣いは絶対にできない。
「貴方本当に魔界にいたの?ここにも来たことが無いなんて」
「魔界にはいましたよ。悪魔の最下層なんてものはこんなものですよ」
「悪魔も色々いるのねぇ。そんな最下層だった貴方はどうしてそこまで強くなったの?」
「それは召喚の対価のおかげですよ。あとは地道な努力ですかね」
「あぁ、パチュリーが言っていたやつね。確か賢者の石のオリジナルだっけ?」
私たちが気絶している間に聞いていたのか。
「えぇ、そうですよ。魔界神様と言っても流石にお渡ししませんけど」
「ふふっ渡されたら困っちゃうわ。それはどの異界にも存在し得ない程の賢者の石だもの。恐らくパチュリーでも同じものはもう二度と作れないわね。大切にしなさいよ?」
これってそんなに凄い代物だったのか。道理でここまで強くなれたわけだ。もし私が初めからもう少し力を持っていて中級くらいの悪魔だったとすれば悪魔の中でも最上の存在になれたかもしれない。逆に元から上級の悪魔だったらここまでの効果は出なかっただろう。
実力と対価の価値が違うほど効果は表れるだろうから。
「それを聞いてしまったらむしろ私が持っていていいものなのか不安になってきましたけど、勿論大切にはしますよ」
「あら、この店にも売っているわよ、賢者の石。これはまあまあ良い質ね」
これでまあまあ良い質なのか。じゃあパチュリー様のってどういう評価が下るんだ?
「これでまあまあならパチュリー様の奴にはどんな評価をなさるのでしょうか」
「パチュリーのは私には評価できないかしらね。複製しか見せてもらっていないけど、それでもかなり良い質だったもの。かなり良いの数段上なら何になるのかしら」
なるほど。パチュリー様の魔力に、賢者の石を作り出すのには最適な能力。この二つを合わせればそれほどのものができるのか。
今度は魔導書を取り扱っている場所に来た。魔界の魔導書は凄い雰囲気の物ばかりだ。魔導書を見慣れている私でもこの雰囲気はなかなか味わうことができない。今存分に味わっておきたい。
魔界神様によるとどうやらパチュリー様が魔導書を書くらしい。真面目な二冊に失敗作の一冊…。
私が幾度となく実験に付き合ってきた魔法たちだろうか。あの魔法は確かに面白いし簡単そうだったが、危険もありそうだ。いきなり石の中にいるとか勘弁してほしかった。
真面目な二冊の方はかなり気になる。あのパチュリー様が書く真面目な魔導書がいったいいくらになるのか。売らなくてもいいから値段は聞いてみたい。
ここに置いてある原本に付けられている値はかなりのものだ。いつも勝手に増えていくので私は魔導書の相場を知らないが、恐らく高いんじゃないだろうか。
「ここにある魔導書ってやはり外のものに比べて高いのでしょうか?」
「恐らく倍近くはするんじゃないの?魔界のものっていうのはそれだけで価値が高いから」
「じゃあ魔界って貧乏な人も多そうですね」
「貴方は本当に何も知らなかったのですね。魔界は物価が高いですが、入ってくるお金も結構あるのです。ですからむしろ貧乏な人は外より少ないと思いますよ?」
「じゃあ私たちも働けば魔導書をたくさん買うに足るお金を得られるという事ですね。早速明日から働きましょうかね」
「そんなことしなくても大丈夫だと思うわよ。貴方にお小遣いとしてそれほどの金額を渡すことができるくらいには多く持っているようだし、失敗作の魔導書の方は複写して市場に回す予定らしいから」
「真面目な方は市場に回さないのですね、高値が付きそうなのに」
「読める人が少ないんだから回しても意味がないでしょう?それなら誰でも使えるという方を回す方が効率も良いし、子どもでも使えるようなものだから悪用もされにくい」
そういう事か。確かに読める人のほとんどいない魔導書がたくさんあっても店からしたら売れないし邪魔なだけだもんね。
「そういう事だったのですね。よくわかりました」
「そろそろ法界に戻りましょうか。そういえば貴方たちは何処で泊まるか決めているの?」
「パチュリー様は食事も睡眠も必要としませんし、私もそこまで困ることも無いのでどこにも泊まる予定はないですが」
「ならうちにくる?「ち、ちょ!神綺様」何よ夢子ちゃん。何か問題でもあるの?」
「私の仕事が増えるじゃないですか」「そうですよ、私も畏れ多いですし」
「あらあら、残念ねぇ。折角だから他の子たちにも会わせてあげようと思ったのに」
「会わせない方がいい、とだけお伝えしておきましょう」
「夢子さんも大変なんですね。心中お察しします」
「小悪魔も一応従者じゃないですか。パチュリーはどうなんです?」
「パチュリー様は優しいですし、彼女も掃除や洗濯、料理をやっているので従者の大変さはわかっているんじゃないでしょうか」
「神綺様も大変さが分かってくれればいいのに…そう思いませんか?神綺様」
「え?何かしら。全然聞いていなかったわ。もう一度言ってくれないかしら?」
「いや、もういいです。諦めましたから」
「え?ちょ…夢子ちゃん!大丈夫?」
仲がよさそうな主従だ。魔界神様も優しいところもあるし実は夢子さんもそんなに苦労はしていないのかもしれない。
……………………いや、それは無いか。
聖が初めに若返ったのか、不老になったのか私は知りませんから、つじつまの合いそうな方にしています
魔界って昼夜がないような気がしましたがあった方が都合がいいので
今回は6700字ですから前回よりは減らせました。
では次回も読んでいただければ幸いです