行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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悪戯的第二十五話

パチュリーside

 

 

紫に送ってもらい、久しぶりに外の世界の空気を吸うとあまりの瘴気の薄さに少し驚いた。たった五年しかあっちにいなかったのに、すっかり馴染んでしまっていたようだ。

 

でも五年しかいなくても修行による自身の強化度で言ったら外の三百年分ほどにも相当したかもしれない。私自身はもう増えないかもしれないと思っていたが、意外に魔力の量も少し多くなった。

 

これは嬉しいことだ。まだ私にも伸びしろがある、それだけでモチベーションが上がるというものだからね。

 

 

「はい、ここでいいのかしら?」

 

「えぇ、十分よ。行きも帰りもありがとうね」

 

 

「まあこれくらいはね。ではまた呼んでくれたら応えるわ。寝ていなければ」

 

「藍に迷惑をかけては駄目よ」「大丈夫よ、仕事はしているから」

 

「そう、なら問題ないかもね。ではまた会いましょう。次は恐らく幻想郷でしょうけれど」

 

 

「あら?もうすぐ来るのかしら?」

 

「この調子だと行くのは多分四百年弱あとだと思うわよ。それまで会わないのは多分もうここにいて困ることはないから」

 

 

「そうだったのね。まあでも困ったことがあれば言いなさいよ」

 

「わかっているわ。ではね」「えぇ、さようなら」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「さて、紫も帰ったし私たちも帰りましょうか」

 

 

「そうですね。帰ったら掃除が大変かもしれませんね」

 

確かに本棚の掃除はしないといけないし、館の掃除も美鈴一人では少々無理があるかもしれない。館の中身が広くなっていないとはいえ門番兼メイドの真似事は一人で出来るものではないだろう。

 

「美鈴を労ってあげないといけないかもしれないわね」

 

 

「えぇ、他に使用人が増えていなければですけどね」

 

使用人と言ってもこの時代じゃあまだ咲夜はいないからねぇ。

 

「あら、もう見えてきたわね。結構近かったのかしら」

 

 

「恐らく話しながら歩いてきたからではないでしょうか」

 

「どちらなんでしょうね。でもそういえばさっき紫に送ってもらった森は少し館から遠い場所にあった気もしなくもない」

 

 

「という事はやはり話していたからですね」

 

「そうね」    ……………………あ、美鈴が見えた。今日もしっかり門番をしているようだ。

 

「こあ、少し待ちなさい。いい?……………………」

 

 

 

   美鈴side

 

 

 ここ五年ほどパチュリーがやっていた仕事も一部を除いて私の仕事になっていた。そのせいで私でもかなりキツイ。

 

日中は門番をし、夜はお嬢様と妹様の鍛錬に付き合い、それが終わったら掃除洗濯。流石に働きすぎではないだろうか。料理をお嬢様がしてくれている。なんでもパチュリーがいない間にも和食を食べられるように料理の勉強したらしい。

 

好きこそものの上手なれ、とはパチュリーに教えてもらった言葉だったか。お嬢様はまさにそれだ。料理の腕はかなりのものになっている。

 

話がそれてしまったがいくら休養が少なくていい私でもこの量の仕事はしんどい。そうお嬢様に言うとメイドとして妖精を雇ってくれた。しかしむしろ仕事が増えた気がするのはお嬢様には黙っている。

 

最近はお嬢様も妹様もとても武器の扱いが上手くなり、一筋縄では勝てないようにもなってきた。私としてはとても嬉しいことだ。お嬢様と妹様には是非私より強くなってもらいたい。

 

そんなことを考えていたら顔をフードですっぽり覆い隠した怪しい二人組がやってきた。この者たちは何者だ、私が気を読めない相手などいままでほとんどいなかった。

 

 

「貴方たちが何者かは存じ上げませんが正当な理由でもない限りこの門を通すわけにはいきません。何か理由でもおありで?」

 

二人が何かこそこそ話しだした。何を相談しているのかはわからないが声からして男のようだ。

 

「この館に来た理由だと?笑わせるなよ。人がこの館に来るときの用など決まっているだろうに」

 

 

「つまりは襲撃ですか?しかし二人でいったい何ができましょうか。

 

この館は吸血鬼の館、門番だけがすべてではありませんよ。まあ私に勝てるのなら、ですがね」

 

「ふんっ、面白い。私たちとやりあおうってのかい?二対一でか?

 

言っておくが私たちはもう準備運動としてここらの妖怪どもは狩ってきたから助けは来ねーぜ」

 

 

「問題ありません。二人がかりでも私には届きませんよ」

 

相手にしたらなめられていると思うかもしれないが私はこの館の門番になってからは一度として攻撃すらくらったことはない。

 

ここらの妖怪を狩ってきたくらいで粋がっているのなら問題はないだろう。

 

 

「ほうほう、そっちがその気なら私らには好都合だ。親分、やっちまいましょう」

 

「そうだな。精々二対一にしたことを地獄の底で悔むがいい!」  ……………………来るっ!

 

子分の方は近距離を得意としているのか。で、親分は後方支援ね。これはかなり厄介だ。その上どちらもかなりの技術を持っている。

 

「…………なかなかやるじゃないか、ただの門番にしてはだがな」

 

くそ、もう既に何発か貰ってしまった。私が今まで作ってきた記録があっさりと散ってしまった。

 

 

「私も貴方たちへの認識を改めましょう。認めますよ、貴方たちはお嬢様の危険分子になり得る。

 

だから私も全力でお相手しますよ」

 

「ほう、今までのが前座だったと認めたか。まあ認めたところで結果は変わらないがな!」

 

好き勝手に言いやがって。でもまさか私が本気を出さないといけない相手が攻めてくるなんてね。久々に腕が鳴る。ここのところ退屈続きだったから。

 

それにしても後方支援が厄介すぎる。接近戦の方は私が上回っているが後ろからの追撃は躱さないといけない。姿勢が崩れれば子分の方が仕掛けてくる。先ずは後ろを何とかしないと前に集中できない。

 

私の持つ遠距離攻撃はまだ一つ。だが威力は鬼をも貫くほどに十分だ。一瞬だけ接近戦から引けば撃てるはずだ。

 

前をだまして一瞬で離れる!そしてすかさず撃つ!溜の代わりの集中など今までの実戦で散々磨いてきた。これで決める、絶対に外さない!!

 

 

「はっ!「む、危ない技だな」……………………は?」

 

あの技が障壁に阻まれた、だと?彼は一体何者だ?!

 

「今のが貴様のもつ遠距離攻撃か?接近戦の得意そうな割には威力が高かったがそれだけだ。

 

それならもう少し種類を増やしておいた方が良かったな。ま、後悔しても遅いんだがな。

 

私が本当の遠距離攻撃というものを見せてやろう。くらえ『ラーヴァクロムレク』!」

 

 

「ぐっ、がぁ」   そんな……………………この地に私に勝てる者たちがいたなんて…。

 

「ふっ、もう終わりにしようか……………………」

 

あぁ、これで私も終わりか。門を護れない門番なんて……。

 

 

「そうですね、これ以上続けても意味がないですし。起きてくださいよ美鈴さん」

 

…は?何故この男が私の名を知っている?私は名乗った覚えはない。

 

「早く起きなさい美鈴。何ぼんやりしてるのよ。

 

それとも私がもう一発ぶち込んであげましょうか?」

 

 

「貴方たちは一体?」

 

「何言っているのよ美鈴。私たちが分からないの?」

 

 

「変装して声まで変えていたら誰もわからないですよ」

 

「そういえばそうだったわね。…ほいっと」

 

 

「まさかパチュリー?!帰って来たのですか?

 

というか何故あんなことをしたんですか?」

 

「まあ話せば短くなるのだけれど、」長くならんのかい。

 

「五年もここを空けていたし、美鈴も最近鈍っていたでしょう?だから美鈴を驚かせるついでに私とこあの成果も試そうかな~と思ってね。まあただのいたずらよ」

 

 

「いたずらにしてはものすごい手の込みようだったんですけど」

 

「まあ普通に帰ってきても面白くないからねぇ。それなら少しでも美鈴()遊んでみようと思ったのよ。まあ今言うのもおかしいけれど一応ただいま」

 

 

「あぁ、えぇ、おかえりなさい。しかしこあちゃんもノリノリだとは思いませんでした」

 

 

「私は小悪魔なのでそういうのは別に嫌いではないのです」

 

喋り方まで完全に悪者っぽいから全く分からなかった。

 

 

「それにしてもお二人は戦闘前に何を相談し合っていたんです?」

 

「こそこそ話をしていたあれかしら?

 

あれは私たちの気の隠蔽が有効だったことを確認しあっていただけよ」

 

 

「すっかり騙されてしまいました。次からはやめてくださいね、ただでさえ疲れが溜まっているのですから」

 

「やっぱりそうだったのね。五年もここを空けてごめんなさいね。館の仕事と門番の兼任は大変だったでしょう?お疲れ様」

 

まさかパチュリーから労いがあるとは。

 

「…………何か失礼なことを考えなかったかしら?」

 

 

「とんでもない。パチュリーが他人を労うのが珍しいと思っただけですよ」

 

「それは一般的には失礼なことに相当するわよ。はぁ、まあ実際そうなのだけれど」

 

 

「でも料理はお嬢様がやってくれていたので結構助かっていましたよ」

 

「レミィが料理を…ねぇ。彼女も不器用ねぇ」

 

どういう意図があるのかさっぱりわからない。彼女の頭の中が知りたい。

 

「でもそれ以外はあなたがやっていたんでしょう?寝る暇はあったのかしら?」

 

 

「一応一日に一刻ほどは」

 

「レミィに言っておいてあげるから今日はもう疲れが取れるまで寝ていなさい」

 

 

「門はどうするのですか?」

 

「今日は鍵をかけておくわ。魔法でかけるから心配しなくてもいいわよ。

 

じゃ、お休み」

 

 

「はい、おやすみなさい」

 

仕方がないが今日はもう寝させてもらおう。疲れがしっかり取れるまで。

 

 

 

 

   パチュリーside

 

 

 無事に帰ってこられた。勿論ここらの妖怪を狩ってきた、というのは真っ赤なウソ。そんなことをしても私たちには何のメリットもないし。デメリットがあるか?と聞かれても迷うのだけれど。

 

美鈴にはもう寝てもらった。日中はずっと門の前だし、夜は私が魔界に行く少し前からしていたレミィたちの鍛錬と館の仕事をしていたのだろう。この紅魔館ブラックすぎるのではなかろうか。

 

メイド妖精はいたが全くやる気がなさそうだった。

 

ご飯だけはレミィが作っているらしい。これは恐らく私が居なくなったら和食が食べられない、という建前のもと美鈴を気遣ってやっていたのだろう。直接言えばいいのに。

 

            ・

            ・

            ・

 

そろそろ吸血鬼はお目覚めの時間だ。彼女たちの顔を見るのも五年ぶり。大して変わっていないだろうけど。

 

 

 

   レミリアside

 

 

今日も良い目覚めだ。私は毎日フランよりも早く起きて料理をしている。

 

私は和食が好きだが毎日それを出してもフランは喜ばない。だから私は様々な国の料理を作れるように図書館の料理本を読み漁り、かなりの種類の料理を作れるようになった。

 

美鈴は顔には出さないが毎日しんどそうだ。一度言って来たから妖精を雇ってみたがこれは完全に逆効果だった。美鈴の仕事が増えたような気がする。

 

もともと美鈴に少しでも楽になってもらいたいと思って始めた料理だがこれがとても面白い。ついつい毎日やってしまって今となっては趣味になってしまった。

 

 

何故か今日は私がキッチンに行く前からテーブルに食事が用意されていた。まだ出来立てのようなそれは私の好きな白米と納豆、それに味噌汁が付いた素晴らしいものだ。

 

妖精メイドに和食を作れる者はいない。それにここまでの味を出すのにはかなりの経験が必要で私でさえまだ到達できていない。ならば誰が作ったのかはすぐにわかるというものだ。

 

 

「パチェ、帰って来たのかしら?」

 

「あら、よくわかったわね。まあ料理が置いてあったら流石に気づくか」

 

近くにいた妖精メイドが変装を解いてパチェになった。

 

 

「それにこの味を出せるのはこの館ではパチェくらいよ。誰でもわかることね。

 

おかえり、パチェ。久しぶりね」

 

「えぇ、ただいま。まだたった五年だけれどね」

 

 

「それでも私にとっては久しぶりなのさ」「レミィはまだ子供だものね」

 

 

「もうあの時の私とは別物よ。あれから美鈴のおかげでかなり強くなったんだから」

 

「あぁ、そのことなのだけれど今日は鍛錬休みね」

 

 

「えっ、どうしてかしら?今日は私の番なのに」

 

「あなたから見て私がここを出てからの美鈴はどう?」

 

 

「そりゃあかなりの仕事量があるし大変そうよ」

 

「そう、彼女は少し働きすぎているの。いくら彼女が強い精神と肉体を持っていようとも疲れは溜まる。今日戦って分かったわ。今の彼女は本来の実力の五割も発揮できていないの。

 

まだこの館が無事なのは偏に攻めてくる敵が弱いからよ。紅魔館最強の盾は常に十全でなければならない。わかるでしょう?」

 

 

「えぇ、確かにその通りだわ。私は使用人の事も考えられない無能な当主なのね」

 

「美鈴のために料理をしている時点で使用人の事も考えられているとは思うわよ。ただ同じ目線に立てていないだけ。

 

私が帰ってきたから今日からは私が館の仕事を、美鈴が門番と鍛錬を、レミィが料理をすればいいわね。あなたの料理は食べたことが無いから楽しみね」

 

 

「ふふん、頬が落ちるほどの料理を食べさせてあげるわ」

 

実際はそこまでいくほどではないと思うけど。

 

 

「というか貴方、私が美鈴のために料理を担当していることに気づいていたのね」

 

「少し考えればわかることだもの。当人でなければね」

 

美鈴は気づいていないものね。気づかれても困るんだけど。

 

 

「そうそう、私は美鈴のおかげで強くなっているけれどフランも同じように強くなっているわよ?大丈夫なのかしら?」

 

「勿論フランドールにも強くなってもらわなければならないけれどあなたは勝てない、と思っているのかしら?」

 

 

「負ける気は無いわね。フランの方が私より力は強いけど彼女は少し力任せ感があるから、技術で上を行っていれば負けることは無いわ」

 

「問題は本能的な狂気状態、か。彼女が狂気状態になる仕組みはわかっているからいつかは対策できるでしょうが今はどうしようも無いわね。

 

でも大丈夫だと思うわよ。確か前に聞いた情報からは狂気とフランドールは完全に意識を共有していないはず。だから狂気はフランドールの持つ武術を持っていない」

 

 

「そうだったのね。通りで最近は狂気にあまり怖さを感じないと思ったわ」

 

「それはあなたが随分と強くなったからでしょう。でもだからと言って全員が狂気を怖がらない、という事は無いわ。不用意にフランドールに人間を近づけないようにね」

 

 

「えぇ、分かったわ。そういえばフランの狂気で思い出したんだけど私最近よくわからないものが見えるようになったのよ」

 

「それは他に誰かに言ったのかしら?」

 

 

「いいえ、まだ誰にも言っていないわ」 「そうなのね。まあいいわ、続けて」

 

 

「たまになんだけど、これから起こるかもしれないことがいくつもの分岐になって見えるのよ。

 

それで実際起こることはそのいくつもの分岐のうちのたった一つなわけ。それに私にもある程度の選択ができるようなのよ。起こってほしくない未来は確実に起こることではない限りは消すこともできたりするの。これって私の能力なのかしら?」

 

「えぇ、それがあなたの能力ね。見えている分岐はこれから起こるかもしれない未来、運命よ。あなたはそれを自由に、とまではいかないまでも操ったりできるわけ。でも恐らく自分の運命を変えるのと他人の運命を変えるのとでは勝手が違うと思うわよ。

 

あなたがそれを完全に制御する、つまり好きな時に見て好きなように操ることが可能になればあなたはもはや妖怪の域を超えてしまうかもしれない。

 

他人の運命に干渉するのは危険なこともあるから気を付けて能力の練習はしなさいね」

 

なるほど。何事も不完全が一番良いという事ね。確かに完全な制御ができてしまったら人生(妖生)は非常につまらなくなってしまうだろう。

 

全てが自分の掌の上なのが楽しいのは恐らく初めだけ。そのあとは予想だにしていなかったことは全くもって起きなくなってただ抜け殻のようになってしまうかもしれない。

 

そんなことにはなりたくはないし、私は刺激のある日々が良いから能力は不完全で止めておきたい。でもまずは制御の練習をしなければならない。まったく使えないのは吸血鬼としての誇りが許さないから。

 

 

 




前半はおふざけ、後半は真面目。レミリアの能力って本当に難しいです。実際どんな能力なのかわからないですし

二話後書きで言っていたことを覚えてくださっているような方は悪役の片方がパチュリーだという事は初めの会話でわかるんですよね。細かいことなので誰も覚えてはいないでしょうけれど

今回は6400字まで減らせました。


では次回も読んでいただければ幸いです
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