パチュリーside
レミィが彼女の能力に気づいてからもう既に百年ほどが経過した。あれからレミィは毎日能力を使う練習と制御する練習を交互に行っていたようで、今ではすっかり自在に使ったり使わなかったりができるようになった。
そのおかげで今となっては敵襲のなさそうな日には美鈴が門にいないようになり、館の仕事を手伝ってくれるようになった。これは実際かなり助かっている。
理由は勿論無能妖精たちだ。彼女らは掃除を頼んでいた箇所が余計汚くなるほどの見事な
今日は珍しく美鈴が門番をしている。レミィが毎朝寝る前に運命を見て美鈴が門番をするのかどうかを決めているのだがどうやら今日はそういう日らしい。まあこの館が陥落する運命は全くなかったらしいが、襲撃してこない運命もまたなかったらしい。
つまりは美鈴だけで事足りるくらいの実力の者たちしか来ないという事だろう。仮に美鈴が突破されるなんてことがあってもこの館が陥落するには私とこあ、レミィにフランドールまで揃っている。陥落はしないが私とこあくらいまでは来る可能性がある。億に一つくらいだけれど。
そういうわけで今日は美鈴がいないからなるべく仕事は少なくしておきたい。妖精たちには少し悪いけれど今日は少し催眠術で大人しく働いてもらおう。
これをすれば確かに私たちの仕事は少なくなるけれど私の倫理観がそれを許さないのよね。服従させているわけではない分マシなだけで。
「パチュリー様、人間が攻めて来ましたが。私たちは美鈴さんの手伝いに行かなくても大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫でしょう。彼女も戦うのが好きらしいし、変に助太刀をするつもりで行っても美鈴の邪魔になってそれで終わりよ。それに私は戦うのは好きではないし」
「そうですか。でも流石に美鈴さんが突破されたら戦うのでしょう?」
「それは当り前よ。でもあの美鈴相手に突破できるような奴はもはや人間の域を出かけているでしょうね。そういう者は街に戻ってもむしろ遠巻きにされるのよ」
「それで、結局は何が言いたいのですか?」
「あなたも少しは頭を使わないといけないわね。
いいかしら?人間というのは自分たちと異なるものを排除したがる気がある。そこに美鈴をも突破してしまうほどの実力者は果たしていられるかしら?」
「なるほど、つまり攻めてくる者たちには平均かそれ以下くらいの実力しかないという事ですね」
「基本的にはね。少なくとも街には強すぎる人間はいないと思っていいわ」
「どうやら今回は本当に弱い人たちしか来ていなかったようですね。もう退いて行ってますよ」
「それは拙いかもしれない。こあはここに残っていなさい。私は美鈴のところに行ってくるわ」
いくら何でも退くのが早すぎる。これは流石に囮でしかないことがバレバレだ。それに最近街では魔女狩りとか言って無実な人々が次々殺されているらしい。
となると襲撃者の目的はこの館ではなく私。だから館が陥落する運命は見えなかったのだろう。こうなってしまえば私が出るしか道はない。この館と無実な人々を助けるために何かできるのは現状私だけ。美鈴は止めるだろう、だけどこれは私の中では決定事項だ。
「おや、パチュリーじゃないですか。どうしたんです?襲撃者なら追い払っておきましたが」
「彼らの目的は紅魔館ではない、私一人でしょう。恐らくすぐに第二群が来るわ。私を、『魔女』を街に連行するためにね。だからあなたは館に戻っていなさい。私は彼らと街に行くから」
「確かに最近は魔女狩りが横行しているらしいですが貴方なら退けることも容易いでしょう?何故わざわざ自ら処刑されに行くのです?私としてはやめてほしいのですが」
「美鈴は魔女狩りの実態を知っているかしら?」 「いえ、あまり詳しくは……………………」
「魔女狩りは無差別的では無く差別的に行われているの。ある特定の動物を飼っていたり、社会的に弱い立場にある者だったりが身に覚えのない魔女というレッテルを貼られて次々に処刑されているのよ。私なら彼らが受けている拷問も拷問に感じないし、処刑なんて生温いものでしかない。
「しかしそれでは拷問や処刑が余計厳しくなってしまうのではないですか?」
「安心しなさい。そうならないように本物の魔女の見分け方を教えてくるから無実な人が処刑されることはほとんどなくなるはずよ。
だからあなたは安心して館で待っていなさい。レミィたちに詳細を教えては駄目よ。彼女らが街を襲ってしまえば跡形もなくなってしまうから」
「貴方が必ず帰ってくるというのなら約束しましょう。私は館に戻ります。必ず無事で」
「当たり前よ。皆には少し出かけているとでも伝えておいて頂戴」
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「やっと来たか。遅かったわね」 「貴様がこの館に住むという魔女か?」
「その通りよ。今回の目的は魔女である私一人でしょう?私は本物だから仕方がないけれどあなたたちが今まで処刑してきた者たちは全員ただの人間よ。見分け方もろくに知らないでよく大勢処刑してきたものね」
「ふんっ、今からその仲間入りをする貴様にはわかるというのか?」
「当たり前じゃない、私は本物だから。街に行くまでの間に見分け方を教えてあげるわ。無実な者たちをこれ以上殺させないようにね。
先ず魔法使いは魔力を豊富に持つ、故にほとんどの魔法使いは空を飛ぶことができる」
「でもそれだと意図的に空を飛ばなければいいだけではないか。なんの役にも立たないぞ」
「そこでとっておきの見分け方があるのよ。何か入れ物があるかしら?コップみたいなもの」
「これで良ければあるぞ」 「これで十分ね。これに水が入っていたとする」
ここで私の水の魔法を披露することで私が本物だと印象付ける。
「魔女が本物ならコップを持つと水の色が変わる。こんな風にね」
これは大嘘。実際にはわざわざ魔法を使わなければ水の色は変わらない。これで可哀そうな本物の魔法使いも処刑されない、というわけだ。
「なるほど、これからはこの方法で確実に魔女が見分けられるな。さて、街に着いたぞ。いつもなら裁判をするところであるが貴様はそれをする前に本物だと自白したからな、すぐさま処刑だ」
どこか楽しそうだね。こういう奴がいるから嫌なんだよね、人間社会は。
はい、そんなこんなで今焼かれている。火あぶりなんて私にとっては相性が良すぎる。殺す気がないのではないだろうか。まあ普通の人間だったら焼死してしまうのでしょうけれど。
というかこんなに公開で処刑されるのね。見ている人間たちは何を思っているのだろうか。自分たちの敵が死んでいく様は愉快なのだろうか。
というか魔法使いってほとんどが人間上がりだから人間に敵対する者はあまりいないんだよね。人間たちは知らないからこんなことをしているんでしょうけど。
「な、何故貴様は炎の中にいて死なないのだ」
「今更かしら?私は本物の魔女なのよ。魔女にとっては処刑なんてただ温かい風呂に浸かっているような気にしかならないわね。さて、ここに集まった住人たちに問いたいのだけれど。
あなたたちはこれまで処刑してきた者たちが本当に魔女だと思ったのかしら?ただ精神が不安定になっていた狂人が言い出したでたらめではないのかしら?もう一度よく考えなおすことをお勧めするわ。これ以上付き合う義理もないし私は帰らせてもらうわよ」
「あら?早かったですね。まだお嬢様たちは目覚めていませんがもう用事は終わったのですか?」
「まあね、見たくないものを見てしまったわ」「?…見たくないものとは?」
「人間の汚さよ。街の人間たちは人が処刑されているところを嬉々として見ていた。それが嫌になったから処刑の途中で帰ってきたわ」
「まあそれは仕方のないことですよ。人間は何かを拠り所にしなければ生きていけないのですから。自分さえよければ、というのも持っていて当たり前の感情ではありますし」
「まあねぇ、そうではあるのだけれど。見たいものではないでしょう?
しばらくはここに人間が来ることもあるでしょうがあなたも我慢して追い返して頂戴ね」
「勿論ですよ。骨のない人間たちばかりだったら嫌ですが。
…おっと、そろそろお嬢様が夕食を作る時間ですね。起こしに行かないと」
スカーレット卿が当主だった時は食の好みが合わなさ過ぎたので食べていなかったが、レミィが作るものは人間の料理本を手本にしたものばかりなので今は皆で食卓を囲んで食べている。
その食卓も広いので個人の間の距離は各二メートルくらいあるのだけれど。
「おはよう、パチェ」「おはよう、レミィ。今日は何を作るのかしら?」
「ふふん、今日は私の考えた料理よ。楽しみにしていなさい」
最近のレミィは本のレシピを真似るだけに飽き足らず自分で料理を考えて作ってしまうまでになった。料理の腕は流石に抜かされた。本当に彼女は吸収が早い。
「今日はどんな料理が出てくるんですかね~。ほら、妹様、食堂に着きましたよ」
「う~ん?あぁ、おはようパチュリー」「えぇ、おはようフランドール」
「パチュリーっていつも私の事フランドールって呼ぶよね」
「何かしら?妹様って呼んでほしいの?」
「違うわよ。ただ長くて言いにくくないのかな~と思っただけ」
「確かに初めはそう思っていたけれど慣れればそうでもないのよ。さて、もうすぐご飯ができるから準備しておきなさい」
「パチュリーは今日の夕食はご飯だと思う?パンだと思う?」 「ご飯かしらね」
レミィが新しく料理を作るときはたいてい和食に近いものが出てくる。だから恐らくご飯。
「私もそう思うわ。まあお姉様の料理は美味しいから別にどっちでも構わないんだけどね」
初めの方はレミィの料理より人肉派だったフランドールもすっかり好みが変わってしまった。まあ百年以上も食べ続けていれば変わるのも当たり前なのかもしれない。
「はい、できたわよ。美鈴持ってきて頂戴」
「はい、分かりました。皆さん席について待っていてくださいね」
「お姉様、これは?」
「前にパチェがカレーを作ってくれたことがあったでしょう?それを私なりに工夫して色々と変えてみたのよ。ご飯と一緒に食べてね」
これはハヤシライスにそっくりだ。でもこの時代にハヤシライスなんてものは存在していないはず。レミィの趣味の度合いが分からなくなってきた。
「そうそう、最近私が作り出した料理も多くなってきたじゃない?だからこれを機に私の料理本を出そうかな~と思っているんだけど」
レミィが書いたら必然的に妖魔本になってしまう。そんなおぞましいものを世に出すわけにはいかない。原本は絶対に世に出せないとして、問題は印刷だ。
確か人間が複写しても妖魔本になったはず。なら機械で印刷すればどうだろうか。多分これなら妖魔本にはならないだろう。なってしまったら妖魔本の価値が激減してしまう。
「いいと思うわよ。でもその場合には人間の機械に製本は頼まないといけないわね。あと著者名もレミリア・スカーレットでは駄目よ。あなたは名を知られているから誰も買ってくれなくなってしまうわ」
「有名人も大変ね。私の偽名は書くときに考えるとして、製本は人間の所かぁ。パチェしか頼みに行ける人がいないわね。それでいいかしら?」
「私は特に問題は無いわね」「じゃあ早速取り掛かりましょうか」
「まずはご飯を食べ終えなさいよ。まったくあなたは」
「ふふっ、そうね。話はそのあとね」
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結局レミィが書いた本は珍しい極東の料理だという事でかなり売れた。原本はレミィがくれると言ったので謎空間に大切にしまわれている。
なかなかのお金が入ってきたおかげで生活に困ることは今のところなさそうだ。最悪私と美鈴は何も食べなくても大丈夫だしね。
「かなり売れたみたいで良かったわね」
「当たり前じゃない。この私の本なんだから売る前にこうなることは決まっていたようなものよ」
あらかじめ運命を見て決めていたのか、抜かりないね。
「それにしても最近襲撃がめっきり減っちゃったわねぇ。折角美鈴に槍術を教えてもらったのに使ったのこの百年間でまだ三度くらいなんだけど」
「仕方ないのかもしれないわね。最近の人間は私たちを忘れようとしているのかもしれない。あと三百年もしないうちに私たちは存在を保てなくなるほどに弱ってしまうかもしれないわね」
「暢気ねぇ。いっそのこと街でも襲ってみる?人間たちが忘れないように」
「そんなことをすれば血の供給源が無くなってしまうわよ。あなたはあまり飲まないからいいと思っているかもしれないけれど、吸血鬼という種族は人の血を吸わなければならないのよ」
「じゃあどうすればいいのかしら。領地を広げてみるとか?」
「それだと配下の妖怪が増えるだけで人間にとってはどうでもいいことなんじゃないのかしら」
「難しいわねえ。またすぐ血を採りに行かないといけないのに」
「そんなに少なくなっていたかしら?あと五十年分以上は私の空間の中で保存されているけれど」
「そんなにあったの?いつそんなにとってきていたのかしら」
「単純にあなたの飲む量が少ないだけよ。フランドールみたいな普通の吸血鬼なら五年分無いと思うわ。まあフランドールの分はもうすぐ採りに行かないといけないわね」
何せレミィは夜食に少し飲むだけなのに対してフランドールみたいな標準的な吸血鬼は毎食飲む上に量も全然違う。結果的に十倍以上も違う事になってしまうのだ。
「フランは街には連れていけないからどうせ私が採りに行くことになるんだけどね」
採りに行くといっても献血まがいの事をして血を集めているだけだ。スカーレット家の領地内にある数々の街で行えばかなり簡単に必要分は集まってくれる。
「ただ日陰にずっと座っているだけじゃないの。暇な時間に本でも読んでいなさいよ」
「それはいいわね。実は次は美鈴の故郷の料理を作りたいと思っていたのよね。そんな本あるかしら?」
「勝手に増える本の中に数冊あったはずよ。でも中華は美鈴の得意分野でもあるわ。彼女に直接教えてもらうのも悪くないのではないの?」
「そういえば美鈴はパチェと会う前は自分で料理していたのよね。数千年も」
懐かしいものだ。彼女が料理をしている音がひどく恐ろしく聞こえたのももう千三百年ほど前のこと。私を助けてくれたのが美鈴で本当に良かった。
「えぇ、何度も彼女の料理を食べさせてもらったけれどどれも本当に美味しかったわ」
「でも美鈴の負担を軽減するために私が作っているのにその美鈴に教えてもらったら何だか申し訳ないわ。だから私は自分で本を読んで勉強することにするわ。それに教えてもらったら味付けとかが被ってしまうし」
レミィも料理にはかなりのこだわりがあるみたいだ。でもそのこだわりのおかげで毎日美味しいものが食べられているから感謝しているけれど。
「じゃあ採血の日に持っていけるように何冊か探してみましょうか。
こあ、中華料理の本を何冊か持ってきてもらえるかしら?」
「お安い御用ですよ。確か二日前に入ってきた本も入れて七冊ほどあったはずですが四冊ほどでいいでしょうか?」
よくそんなにきっちり管理できているものだ。流石は司書、というべきか。
「そうね。そんなもので十分よ。またいるのなら取りに行けばいいのだし」
「こちらになります。言語は流石にあちらのものですので、わからなければ私かパチュリー様にでもお聞きくださいね」
「ありがとう、小悪魔。またその時になったら呼ぶかもしれないわ」
「何でもお申し付けくださいね。それでは」
「ねぇパチェ、これはどういう意味なのかしら?」
レミィは料理本を読むためだけに毎回言語の勉強をしている。私たちがいなかったときは独学だったらしいが今は主に私が先生をしている。
和食を作れることからもわかるようにレミィは日本語も読み書きはできる。喋ることはまだできないようだが。
採血は二月後。それまで必死で勉強すれば彼女の頭の出来なら料理本くらいは軽く読めるようになるだろう。
「これは炒める、という意味よ。他にもこれは蒸す、こっちは焼くね」
「流石はパチェね。本当に貴方より賢い人なんているのかしら」
「えぇ、あなたもこれから知ることになるけれど世界は広いものなのよ。
私より賢い人もいる、美鈴を数分で地に付けてしまうような人もいるのだから」
「あまり会いたくないわね。でも貴方が楽しそうに語るのならその人たちも悪い人たちではないのでしょう?」
「勿論いい人たちよ。でも初対面だと対応はかなり違うから気を付けた方がいいかもしれないわ」
特に永琳はやばい。私の初対面時は輝夜がいたから何とかなったけれど、レミィが初対面になるのは恐らく永夜。絶対に怖い雰囲気だろう。
紫もやばいかもしれない。恐らくこちらが幻想入りするときの異変が初対面になる。まあその時はこの館に私もいるしひどいことにはならないと思うのだけれど。
「私も相手も永い生を持つ者。いつかは会う事になるのでしょうねぇ。果たして私の力は通用するのかしら」
「それはどうかしらね。どちらも私の知る限りでは地上で一、二を争う実力者であることは間違いないもの」
その時にレミィがどれほど強くなっているのか、いまの私では想像もできそうにないね。
まあどれだけ強くなっても月に行けばコテンパンだけれど。
(紅魔館内では)平和な日常回です
久しぶりの視点固定になりました。字数は再び7100オーバー
実際の魔女狩りでは死刑になる人の方がかなり少なかったみたいですが、この世界は若干違う世界なので処刑が大半になっています.まあ原作からも少々のズレがあるのですが
もうすぐ原作に入れそうです
では次回も読んでいただければ幸いです