行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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満月的第二十七話

レミリアside

 

 

稀に来る襲撃者どもを時に美鈴に任せ、時に私が自ら戦うという事をずっと続けているが普段は暇で仕方がない。

 

私がこの世に生を享けてからかれこれ五百年に近くなっている。能力は勿論、料理の腕前だってとっくにパチェや美鈴を抜かしたし、戦闘においても紅魔館内を除けば私に敵う者は西洋にはいない程強くなった。

 

しかし百年少し前くらいからだろうか、人間が突然力を持ち出して妖怪を滅ぼしにかかってきているのだ。

 

私たちは人間たちの持つ銃の弾速に対応できるほどのスピードを持っている上に、館自体はパチェの魔法障壁で覆われているから被害が無く済んでいる。だが私たちの領土内の妖怪たちはそうもいかないので次々に人間にやられているのだ。

 

館に来た妖怪たちはできる限り匿うようにしているがここに来るまでにやられる妖怪たちも多い。

 

妖怪は肉体よりも精神に重きを置く。しかし動物から妖怪になっている者は肉体の方が重要になる。ここらの妖怪たちはそういう者が多かったので次々やられてしまっているのだろう。

 

最近の人間は私たちの存在を否定すれば私たちが一気に弱体化することを知ってしまったようだ。

 

『あと三百年もしないうちに私たちは存在を保てなくなるほどに弱ってしまうかもしれないわね』

 

これをパチェが言ったのは三百年弱前だ。彼女にとってはこうなることも想定内だったのだろう。私はあの時そんな馬鹿な、としか考えていなかった。私たちのような強い存在は簡単に忘れられることはないだろうと思っていた。

 

ある者はそんな私に対して『運命を見れば分かったのではないのか』と言うかもしれない。しかしながら運命というのは思っている以上に複雑に絡み合ったものなのだ。何処か一つ間違えてしまえば直ちに未来は変わってしまう。

 

そんな不確実な物を頼ってこの館に誰が避難してこようか。もともと我の強い妖怪たちの事だ、呼びかけても誰も応じないだろう。

 

ましてや『人間に滅ぼされるかもしれないから紅魔館に避難しろ』なんて言っても聞く耳も持たないはずだ。

 

だからこの結末もある意味では仕方のないことなのだ。可哀そうではあるがこれが彼らの運命だったのだ。私が干渉しない、本当の意味での彼らの。

 

 

最近は退屈続きだったが今日はどうやら楽しくなりそうだ。

 

 

「美鈴、今日来る吸血鬼ハンターは私が相手をするわ。なかなか面白いことになりそうだからね」

 

 

「あら、そうなんですか。ということはお嬢様が起きている時間帯に来るのですか?」

 

 

「律義に今夜来るみたいね。夕食後みたいだから食事は大丈夫ね。

 

あと今日は日中の門番はしなくてもいいわ。それじゃ、おやすみ」

 

 

「あ、はい。おやすみなさい」

 

楽しみはあとに残してこそ。来たら存分にかわいがってあげましょう。

 

 

 

 

   パチュリーside

 

 

今日の朝食時の会話から察するに今夜はレミィが戦いたいと思うほどのハンターが来るらしい。正直に言って不安しかない。私の所まで被害が来なければいいのだけれど。

 

 

「パチュリーはどう思います?今夜来るハンターについて」

 

「そうね、先ずレミィが出たがるくらいだから強い人間がいるのは間違いないと思うわ。それか能力者ね。どちらにしろ厄介であることには変わりない。レミィが負けることは無いでしょうが油断はできないわね」

 

 

「まあお嬢様が万一危機に陥った場合にはしっかり戦いますよ。

 

それにしても今日は妖精たちが静かですね。どうしたのでしょうか」

 

「妖精たちなら外で遊んでもらっているわ。こあに頼んで。結界があるから館の敷地からは出られないし、隠れても位置探知はすぐできるように仕込みをしているから安心していいわ」

 

 

「それって雇っている意味あるのでしょうかね」

 

「別に給金も出ていないしレミィが自由を保障しているのだからいいのよ。

 

さて、私は洗い物をしておくから美鈴は洗濯を頼むわ」

 

 

「はい、分かりました。そういえば図書館の掃除はどうするんです?」

 

「普通にするわよ。しなかったら年中咳が出てやってられないもの。ただでさえもう薬の在庫が切れそうなのに。ん?そうだ。美鈴って植物の世話が得意だったわよね」

 

 

「そりゃ勿論。心も癒されますし」

 

「私の喘息用の薬草も一緒に育ててくれないかしら?種は私が用意するから」

 

 

「いいですよ。いちいち採りに行くのも面倒ですもんね」

 

流石美鈴、優しいねぇ。

 

「ありがとう、では仕事を始めましょうか」

 

 

「切り替え速いですね。まあ早く終わらせるに越したことはありませんからね」

 

           ・

           ・

           ・

 

 

さて、もうレミィも起きてきたし襲撃者はいつでも来てくれて構わないのだけれど。

 

「ねぇレミィ、いつ来るのかしら?」

 

 

「もう来るわ。だから貴方たちはその辺に隠れていなさいな」

 

…おっと、誰かが結界を通過したようだ。「来たみたいよ」

 

 

「相変わらずパチェの障壁は便利ねぇ」

 

私の張った結界は外から来るもののみを通過させる結界だ。私の意思で出口を空けなければ、入ってきた者が外に帰ることは不可能になっている。勿論私を殺しても外に出ることは可能だが。

 

つまりこの館の敷地に入った時点で十中八九人生は終わる。逃げられたらフランドールが食べる用の肉が無くなってしまうし。

 

フランドールもたまには人肉を食べたくなるらしい。レミィは全然そんなことないのにねぇ。レミィの場合は人間と戦ってそれで終わりだ。殺しても食べることはない。

 

「どうやら来たのは十五人ってところね。あなた一人で大丈夫なのかしら?」

 

 

「大丈夫よ。私だってそこらの有象無象に負けていられないわよ」

 

そうか、なら私たちは隠れてみていることにしよう。

 

 

 

「貴様がこの館の当主か?随分と幼いものだ。他の奴らはこんなチビにやられたってのか。なっさけねぇなぁ」

 

滅茶苦茶煽るね……………………と思ったら首飛んでたわ。周りにいた他の者たちもようやく戦闘態勢に入ったようだ。遅すぎるけれど…。

 

何か瞬間移動みたいにして攻撃を避けている子供がいる。やっぱり能力者がいたから戦いたかったっぽいね。他の人間たちは弱いし……………………というか普通にスルーしていたけれど、あれって咲夜になる子じゃないの?

 

レミィの言っていた面白いことってそれだったかぁ。まあ変化の好きなレミィにとっては面白いのかもしれないわね。

 

 

 

   ???side

 

 

私には両親の記憶がない。いつ、どこで生まれたかも定かではない。物心がついたころから何故か魔物をハントする団体に属していた。

 

私には誰も知らない、否、誰にも理解できない秘密がある。私は時間を止めることができる。気づいたのは数年前の事だ。私が魔物に返り討ちにあいかけたときに急に世界が凍った。

 

私は何も理解ができなかったけど持っていた投げナイフを魔物に投げつけた。ナイフは不思議と空間に止まり刺さることはなかった。

 

でも私が止まった時の中で途方に暮れていると今度は急に時間が進みだした。時間が進めばナイフは動く。ナイフは魔物に刺さり、私は命を散らさずに済んだ。

 

この時の私はこの力が誰でも使えると思っていたから、ようやく使えるようになったと誰かに報告したかった。その時の私は有頂天だった。

 

しかしそうではなかったのだ。何人の大人に聞いても私の力は眉唾物だと言われ続けた。愚かだった私はその時にようやく気付いた。この力は私だけが使うことができるのだと、他の人間たちにとっては気持ちの悪い力なのだと。

 

私は悔しかった。私は世界でたった一人の特別な人間なのにそれを認めてもらえないことが。

 

それから私は多くの魔物をこの力をもって倒してきた。私は自分の実力に絶対の自信を持っていた。負けたことなどなかったから。

 

 

それからしばらくして団体の中で吸血鬼を狩るという話が出た。私もそのメンバーに選ばれた。

 

吸血鬼と言えば恐怖の象徴。この地域では圧倒的な力を持っている。やっと私の実力が認めてもらえたのかと思った。

 

そして昨晩だったか、私の行く理由を盗み聞きしてしまった。今となってはその理由も仕方のないことだと思う。

 

 

『吸血鬼を殺してもあの銀髪の娘だけは連れ帰ってくるなよ。正直なところ気味が悪いったらありゃしない。他の奴らには吸血鬼に殺されたとでも言っておけばいいからよ』

 

 

『勿論わかっている。()()()()()今回連れて行くんだからな」

 

聞かなかったことにはできなかった。昨晩はよく眠れなかったし、今日の日中も声をかけてくるリーダーの裏の顔を知る私には地獄のようだった。

 

そして今、私と共に来た人間たちは初めにやられたリーダーを含めて全員殺された。私は自分の力によって吸血鬼からの攻撃を避け、今生きていると思っていた。

 

しかし違ったようだ。私への攻撃が圧倒的に少ない上に緩い。一度だけものすごい量の弾幕が来たが私の能力をもってすれば抜け出すことは容易い。

 

 

「何故私を殺そうとしないのよ。あんたなら他の奴らみたいに一瞬で私の事を殺せるはずでしょう」

 

 

「勿論可能よ。でも私は貴方を殺すのは勿体ない気がしてね」

 

 

「何を根拠にそんなことを言っているわけ?!私は街に帰っても居場所がないのよ」

 

 

「運命がそう告げるのよ。あら、貴方には理解できないわね、私の能力は」

 

っ、それって!?

 

 

「大方貴方の居場所がないのも貴方自身の持つ能力のせいでしょう?見たところ時間を操っているようね。……………………あら、何故分かったのか気になるかしら?

 

貴方は初め瞬間移動じみたことをしていたわよね。その時は私も瞬間移動系の能力かと思っていたわ。だから確認のために殺す気がないのに攻撃をしていたの。

 

貴方の能力が瞬間移動ならば大量の弾幕を抜け出すにあたって貴方の服に傷は付かない。傷が付くという事は弾の間を進んで抜け出した、という事に他ならないのよ」

 

なるほど、だから私の持つ力を言い当てることができたのか。

 

 

「それで?私を生かしてどうするつもりなの?」

 

 

「貴方にはこの館のメイドをやってもらおうかと思ってね。何、難しく考えなくてもいい。館の雑事の全てをやってもらおうというわけではないし、食事もある。給金は無いがな」

 

街に帰っても私には居場所がないがこの館にいても居場所はなさそうなんだけど。

 

 

「ちなみに断っても無理矢理やらせるがな」

 

選択の余地なしか。まあいいんだけど。

 

 

「分かったわ。この館で働いてあげる」

 

 

「ならまずは喋り方を矯正しようか。それと貴方には名前があるの?」

 

 

「ないわy……………………ないです」

 

 

「じゃあ私がつけてあげるわ。そうねぇ、貴方の名前はこれよ」

 

何か紙に書き始めた。『十六夜咲夜』

 

私はこの国の文字も読めないのにどこの文字かもわからないものを読めるはずが無い。

 

 

「なんと読むの…ですか?」

 

 

「読み方は知らないのよね。意味は分かるんだけど。ってことでパチェ、教えて」

 

パチェと呼ばれた人が壁から急に現れた。見たところ吸血鬼ではない。

 

「これの読み方は『いざよいさくや』姓が十六夜、名が咲夜よ」

 

 

「意味は日本でいう十五夜、つまりは満月よ。私の従者にはぴったりの名前ね」

 

「えぇ、レミィにしては随分と良い名前を考えたものね」

 

 

「それはどういう意味よ」「そのままの意味だけど」

 

このパチェさんとレミィさんは大変仲が良いみたいだ。と思っていたら今度は長身の女性と変わった羽の生えた子ども、悪魔らしき少女が出てきた。

 

 

「あら、全員揃ったみたいね。どうせなら今自己紹介をしておきましょう。

 

私がこの紅魔館の現当主にして誇り高き吸血鬼、レミリア・スカーレットよ」

 

 

「私はその妹、フランドール・スカーレット」

 

「今この館の仕事の大半をしているわ、パチュリー・ノーレッジよ。種族は魔法使い」

 

 

「私は普段は門番をしています、紅美鈴です」

 

 

「私はパチュリー様の従者的立ち位置にいます。小悪魔と呼ばれています」

 

 

「私は今日からこの館で働くことになりました、サクイャ・イズァヨイです」

 

言いにくいなぁ。

 

 

 

 

   パチュリーside

 

 

咲夜滅茶苦茶言いにくそうにしているね。

 

「自分の名前くらいは流暢に言えるようにした方がいいわね。ついでだしレミィもどう?日本語の勉強」

 

 

「全員がそろった今こそ重大発表をするべきね。この度

 

 

 

……………………引っ越すことにしました」

 

もうちょっと言い方考えた方が良かったのではないだろうか。あまりにもシンプルすぎる。

 

 

「お、お嬢様?いったいどういう事なのでしょうか?」

 

 

「だから引っ越すのよ。日本にあるという幻想郷にね!だから日本語の勉強は近いうちにするつもりだったのよ」

 

幻想郷、と聞いて何か言いたげにしている美鈴には目配せして黙ってもらう。レミィがそれを知るのはあちらに到着して落ち着いてからの方が良い。

 

「なら話は早いわね。咲夜とレミィ、フランドールも今日から勉強ね。私とこあと美鈴が先生役をするわ。マンツーマンの方が頭に入りやすいでしょうし」

 

さて、誰が誰を担当するべきか。

 

「誰に教えてもらいたいかの希望はあるかしら?あぁ、レミィはこあね。あと話すだけなのだし」

 

 

「私はどっちでもいいよ~。でも咲夜にはパチュリーが付いた方がいいんじゃない?私たちの時みたいに小さい子にはパチュリーの方がいいと思う」

 

 

「私もそう思いますね。何事も小さいうちが肝心ですから」

 

「では咲夜もそういう事で構わないかしら?」  「はい、よろしくお願いします」

 

喋り方ももう慣れてきているみたいだし頭の出来はかなりよさそうだ。私が教える子ってどうして皆頭のいい子ばかりなのだろうか。教え甲斐があってこっちも楽しくなるからいいのだけれど。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

まさかたった一年で皆喋れるようになるとは思わなかった。レミィは別として。

 

最近は昔美鈴とやっていたみたいに日本語だけで生活している。咲夜も仕事に慣れてきたようで、最近はかなり明るくなったようだ。

 

 

「パチェ、転移の準備はできたかしら?」

 

「転移魔法なんて昔作った失敗作の中の奴で十分でしょうから準備も何もないわよ。

 

レミィの方こそ本当に幻想郷に宣戦布告するの?私は参加しないわよ」

 

 

「そのためにかろうじてここにたどり着いた妖怪たちを保護していたんじゃないの。でも貴方が参加してくれないとなるとあとこの館からは美鈴だけねぇ」

 

「彼女も参加しないと思うわよ。挑まれる決闘には参加しても挑む決闘はしないと思うわ」

 

 

「そうなったらフランに参加させるわけにはいかないから、あちらで戦力補充かしらね」

 

「まあ精々頑張りなさいな。それで、出発はいつにするのかしら?」

 

 

「なるべく夜に着きたいし、戦力を集めたうえで満月の日に戦いたいから三日後の昼間かしらね」

 

「そう、分かったわ。館の他の皆にもきちんと伝えておきなさいよ」

 

 

「わかっているわ。それにしても引っ越しなんてしたことなかったから楽しみだわ」

 

「私も引っ越しというのは初めてだから少し楽しみかもしれないわ」

 

まあ私は基本定住せずに過ごしてきたからなぁ。同じところに五百年住んでいるのは最長だ。その次に長いのが恐らく諏訪か中国。それでもここの方が二倍近く長い。

 

関係ないけれど日本に行ってひと段落着いたら昔の着物で過ごそうかな。もともと日本人だから着物への憧れはやっぱりあるし、七百年ほども着物で生活していたからそっちの方が落ち着く。

 

勿論帝から頂いたものは着ずに空間にしまってある。絶対に虫に食われたりしたくないからね。

 

 

           ・

           ・

           ・

 

 

「さぁ、今から起動するわよ。結構な衝撃が来るでしょうから何かにつかまっていなさいよ」

 

失敗作からさらに少し修正した。あのままだと建物とその中身だけが転移してしまって門や庭がここに残ってしまう事に気づいたからだ。なんとか間に合って良かった。

 

皆ちゃんと何かにつかまっているね。さて、久しぶりの日本だ。転移先は紫に教えて貰った座標に設定。さあ、行こうか。

 

 




6300字くらいでちょうどキリが良いところまで書けました

紅魔館での出来事をうだうだ書いていても仕方がないですからさっさとヨーロッパから離れてもらいました

???sideを使ったのは本当に久しぶりですね。前回使ったのは萃香の時だと思いますので

本小説では元吸血鬼ハンター説を採用しました

働き始めてまだ一年の従者は戦場に立たせない、レミリアさん上司の鑑


では次回も読んでいただければ幸いです
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