パチュリーside
美鈴によると今日紫がこの館の今後についての話をしに来るらしい。ちなみにレミィが集めた妖怪のほとんどは昨夜の戦争によってお亡くなりになったみたいだ。
もう既に日は昇り切っているがまだ来る気配はない。夜の王である吸血鬼への配慮なのだろうか。ちなみにアリスはもう来ている。今はこあと魔界の事について話をしているようだ。
こあの魔界についての知識は私と同レベルなのに大丈夫なのだろうか。アリスはかなり気配りのできる子だから大丈夫だろうとは思うけれど。
昨日レミィが目覚めた後に彼女から直接聞いた話だが、紫はとんでもない技を使うやばい奴に認定されたらしい。まあ当たり前だと思う。急に自分のところだけ雨が降ったり、夜なのに日光を浴びたような状態になったりしたら誰でもそう認定するだろう。
私でも一個人にだけ雨を降らすなんて芸当はできない。一番狭い範囲でも館の門から入り口の扉付近までだろう。あまり実用的では無い。
それにしても紫か、会うのは実に三百八十年以上ぶりだ。まあ美鈴と紫は五百年近く会っていなかったけれど。
そろそろ夏に近づいてきた。夏は嫌いではない。蚊なんてものは私の虫よけで何とかなるし、今年からは館の隣が霧の湖だからかなり快適に過ごせそうだ。
今朝から紅魔館は平常運転に戻っている。美鈴の仕事はどうやら門番のみになったらしい。花壇の手入れや適度な運動ができるから彼女にとってはそっちの方が良いのかもしれない。
館の仕事は基本は咲夜がやっているが、たまに危なっかしいところがあるので私も手伝ったりしている。といっても掃除のときに壺に気を付けることができればパーフェクトなのだけれど。
夕食、夜食、朝食はレミィが、昼食はこあが作っている。ちなみに夜食を食べるのは姉妹二人だけで、昼食は基本はその二人以外だ。私や美鈴は食べないこともある。
妖精メイドは全然だめだ。最近は外で遊ばせることの方が多くなっていた。この幻想郷は妖精が多いのでその子たちと遊ばせればいいだろう。
館の特殊結界は引っ越しに邪魔だったので取り除いているが、襲撃者はもう来ないし妖精はやめたくなったらやめてもいいので除いたままにしている。
おや、どうやらアリスはもう帰るらしい。彼女は魔法使いになったのに睡眠もしっかりとっているようだ。私は以前寝たのはいつだっただろうか、というくらい寝ていないのだけれど。
「じゃあ私はもう帰ることにするわ。もうすぐ紫が来ると思うけどどうなるのかしらね」
「わからないわね。一応幻想郷も危ないところまで行ったかもしれないから厳しい処罰が下されるかもしれないわ。でも昨日ここの主人を殺さなかったところを見るとただ大人しくしておきなさい、くらいで済みそうではあるわね」
「悪いようにならないことを祈るわ。ではまた明日」 「えぇ、さようなら」
そろそろレミィを起こす時間だ。夕食と言っても食べるのは大体二十時くらいだから。
紫side
吸血鬼の館に行くのには先ず夜まで待たないといけない。私も夜型なのであまり困らないが。
アリスには昨日道を教えておいたから館には着けただろう。今の時間から考えてもう帰っているかもしれない。私が行くのにもちょうど良い時間だろう。
スキマで一気に館の中まで行きたかったが今回は自重する。美鈴にも釘を刺されていたし。
今日は昼間も寝ずにこの幻想郷の未来をより良いものにするための考えを巡らせていた。そのせいで藍に逆に心配されたのは納得がいかない。
では行きましょう。あちらさんを待たせるのも悪いし。
「おや、しっかりと門から入ってきてくれるのですね。嬉しい限りです」
「失礼ね、私だって少しくらいマナーを守るわ」
美鈴の『少しなんですね…………』などという呆れた声は聞かなかったことにしておきましょう。
「今から案内しますからきちんとついてきてくださいね。はぐれたら迷いますので」
「大丈夫よ。最悪迷ってもね」 「変わりませんねぇ…………では行きますよ」
妖怪なんてあまり変わらないものだ。仕方がないだろう。
中はとんでもなく広い。空間に干渉できる者までこの館にはいたのか…………。厄介すぎる。
「こんばんは、レミリア・スカーレット。今日は今後の方針について話に参りました」
「えぇ、こんばんは八雲紫。
はぁ、あの戦争もパチェと美鈴がいれば勝てたと思うのに。残念だわ」
流石にそうなったら幻想郷は壊滅寸前まで行ったかもしれない。確実に負けることは無いが。
「それは無いわね、レミィ。私たちが参加していても決して勝てる戦ではなかったわよ。相手のレベルが高すぎるもの。紫だけでも私と美鈴はやられていたでしょうね」
「そんなに強いの?!そこの胡散臭い妖怪は」
「胡散臭いとか言っては駄目よ。まあ彼女が強いのは間違いないわ。私は長く生きてきたけれど、未だに紫以上の実力を持つ妖怪は見たことが無いもの」
「じゃあその妖怪が昔パチェと美鈴が言っていた妖怪なの?対峙するだけで戦意を喪失するという」
「そうよ。昨晩あなたがそうならなかったのは満月の下で強くなることで精神的に負けていなかったからでしょうね」
そこらの妖怪が何百相手でも負ける気はしないけれど、まさかパチュリーの見てきた中でも私は最強の妖怪だったのね。少し意外だ。月では全く歯が立たなかったし、神綺と初めて会った時にも潜在的な畏れを感じるほどの実力の開きがあった。
妖怪以外の奴らに強いのが多いのかしらね。不思議なことだけれど。
「まあその話はそのくらいにして本題に入りましょう。では今後のこの館の処置をお話します。
この館には特殊な結界を張らせていただきます。悪魔を通さない、この館の事を知らない人間には認識できなくする、というものですから美鈴やパチュリー、それにそこのメイドは自由に出入りができますわ。
人間は入ってくることができません。妖怪は入ることができますが。」
「むぅ、それは残念だがそれはいつまで張られる予定なのだ?」
「簡単に言うと次に貴方方が異変を起こす直前までです。意味が分からないでしょうから今から説明いたします」
パチュリーside
紫はこの館に結界を張るという。まあ想定の内だし、私は外に出ようと思えば出られるのはありがたい。次は異変についての説明か。
「ここに私が今日の日中に考えました今後の幻想郷のあり方を大きく変える決闘ルールを発表いたします。それがこちらの紙に書いてあります」
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命名決闘法案
妖怪同士の決闘は小さな幻想郷の崩壊の恐れがある。
だが、決闘の無い生活は妖怪の力を失ってしまう。
そこで次の契約で決闘を許可したい。
理念
一つ、妖怪が異変を起こし易くする。
一つ、人間が異変を解決し易くする。
一つ、完全な実力主義を否定する。
一つ、美しさと思念に勝る物は無し。
法案
・決闘の美しさに名前と意味を持たせる。
・開始前に命名決闘の回数を提示する。体力に任せて攻撃を
繰り返してはいけない。
・意味の無い攻撃はしてはいけない。意味がそのまま力となる。
・命名決闘で敗れた場合は、余力があっても負けを認める。
勝っても人間を殺さない。
・決闘の命名を契約書と同じ形式で紙に記す。それにより
上記規則は絶対となる。この紙をスペルカードと呼ぶ。
具体的な決闘方法は後日、巫女と話し合う。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
まさか本物を拝めるとは。で、ここに書いてある巫女が霊夢なわけか。
「この規則に則って起こした異変時に結界が解かれるのだな?一体いつ起こせばいいのだ?」
「今代の博麗の巫女はまだまだ幼い。それこそ貴方のところのメイドよりも。だから恐らく十年近くはあとになると思いますわ」
「命名決闘法といえば昔私が依姫とやったようなものなのかしら?」
「えぇ、今回はそれをモデルに作るつもりよ。それで、質問はそれだけでいいでしょうか?まだまだ何かあればお答えしますが」
「結界を張ってもパチェたちは外に出られるのだろう?何故だ?」
「それは勿論買い物などに行くときには人里に行かなければならないからですわ」
「ふむそうか、では次の質問だが人肉の供給についてはどうするつもりだ?ここでは里の人間を襲ってはならないのだろう?私はそこまで必要ではないがフランは週に一人以上は必要なのだが」
「里の人間を襲ってはならないのではなく、里の中で人間を襲ってはならないのです。ですが人肉の件は私が用意いたしましょう。外の世界の自殺志願者でも持ってきますわ。どのくらい必要でしょうか?」
「そうだな…………月に五人で十分だろう。血は咲夜のものがあるしな。私からはこのくらいか」
悪魔の契約は絶対だ。これでもうレミィは逆らう事が許されなくなった。まあ負けたからそのつもりはなかっただろうけれど。
「では次は私から。もうすぐ阿礼の何代目かが生まれるでしょう?御阿礼の誕生祝賀会、私も参加したいのだけれど場所は神社でしょう?参加しても良いのかしら?」
「流石は樺菜ね。別に貴方の変装は誰にもばれないでしょうから変装さえしてくれれば参加してもいいわよ。ついでに言うと次は九代目ね」
「分かったわ。では明日から気が向いたら里に足を運んでみようかしら」
「貴方が里に行くのなら人間は安泰かしらね。まあそれも良いんじゃないかしら」
「じゃあ私は明日からたまに館を空けるからよろしくね、咲夜、こあ」
「私一人で館の仕事を回せるでしょうか。心配です」
「あなたには多くの時間があるのだから落ち着いて掃除ができればもう何も言う事は無いわ。それに買い物は私がついでにしてきてあげる」
たった一年でよくもまあこれだけの仕事ができるようになったものだ。若いっていいねぇ。
昼は里で散策か、この幻想郷の人里がどんなものなのか楽しみだ。
天狗の新聞って発行回数少ないから阿求がいつ生まれるのかよくわからないのも大問題だ。
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翌日、早速人里に来てみた。人里はどうやら私が日本にいた時にたまに立ち寄った村よりも少し大きいくらいの規模だ。
私は都にばかり住んでいたせいなのかそのあたりの感覚が少々鈍いようだが、人里といえば大体こんなものなんだろう。
自警団はあっても陰陽師のように不思議な術を使える者はいない。また幻想郷の人里には指導者である長という存在が無いためか護衛役の特別な人間も特にはいない。
小規模ながらも里は活気に満ちていて人々も楽しそうに生活している。里の中では妖怪に怯えることなく生活できるのも幻想郷の特徴だろう。
ただ、ちらほら妖怪らしき者もいるみたいだ。そんな妖怪たちは昼間から酒を結構飲んでいるからすぐにわかる。
今日の目的は今さっき終わった人里の地形把握と、今からする寺子屋の見学の他は別に今日でなくても良い用事ばかりだ。
裏路地がかなりあるせいで地形の把握に時間を取られてしまったが、まだ昼下がりなので大丈夫だろう。
次は寺子屋だ。一体どのような授業をしているのかが非常に興味深い。
……………………寺子屋なかったよ。
そういえば慧音が寺子屋を始めるのもまだ先か、残念だ。ならば次は稗田の屋敷にでも行ってみるか。まだ阿求はいないが、私が居なかったこの五百年の歴史は知っておくべきだろう。
???side
この里の人間たちは妖怪の脅威から護られて久しい。この里の正しい歴史を知っている者はいないといっても良い。
唯一正しい歴史を取り扱っている場所は稗田の屋敷のみだ。稗田は百数十年に一度転生して、その短い生涯で妖怪への対処法などを書いた書物を書くという。
私が幻想郷に来た時には既に前の代である稗田阿弥は亡くなってしまっていた。だから私はまだ一度も会ったことが無いが、もうすぐ次代が生まれるころだろう。
その前に稗田が編纂してきた千年以上もの歴史をしっかりと読み込んでおきたいものだ。いつかこの里にも外の世界にあるような学び舎を建て、皆が正しく歴史を理解したうえで妖怪に対処するようになってもらいたい。
そのためには私がここに来てから創ってきた歴史だけでなく、私の力が及ばない部分まで知っておく必要がある。
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「ごめんください。ここに歴史がまとめてある書物があると聞いたのですが」
「えぇ、ございますよ。本日は珍しく来客がありましたのにまさかもう一人いらっしゃるとは思ってもみませんでした。今代はまだですが先代までの幻想郷縁起ならあちらにございますからご案内いたします。
もうお一方いらっしゃいますがそれでもよろしいですか?」
「えぇ、勿論構いません。私同様に歴史に興味がある方ともお話をしてみたいですし」
もしかしたら私が寺子屋を建てるときの協力者になってくれるかもしれない。私の種族を知ったら嫌がられるかもしれないがそれでも仕方ない。
「ではこちらになります。本を汚さないようにしていただけるならばごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
それではあの使用人らしき人が言っていたもう一人の方を探してみることにしよう。
結構簡単に見つけることができた。彼女がいたのは六代目の歴史書のところだった。もう既に五代目までは読み終えているのだろうか。
「………………………………そこでじっとしているけれど私に何か用かしら?」
「いえ、ただ私以外にも歴史に興味がある方がいたんだな、と思いまして…………」
思わず言葉を続けられなくなってしまった。彼女の着物はどこかで見たことがある。何冊かの書物にすべて同じ着物で登場していたのは誰だったか。
確かとある高名な陰陽師の本に…………!彼女なら今生きていても辻褄が合う。まさか彼女は…………。
「…間違っていたら申し訳ないのですが貴方は大都庶樺菜様ではありませんか?」
「…………えぇ、私は大都庶樺菜本人よ。どうしてわかったのか聞いても?」
「貴方がお召しになっているその着物はかなり特徴的で、様々な書物で取り上げられております」
「え、私って複数の書物に載るような人物だったの?初耳だわ」
「美鈴様もですが。とはいえこの時代ですから着物で気づく方は恐らくいらっしゃらないと思いますよ。私は少し長く生きているので知っていただけですから」
「そう、ならよかったわ。着物を新しく調達しないといけないかと思っちゃったわ。ちなみに大都庶樺菜は私の偽名。本名はパチュリー・ノーレッジ、種族も仙人ではなく魔法使いよ。一応仙術も使えるのだけれど」
「まさか西洋の方だったのですか。あぁ、私は上白沢慧音といいます。種族は元は人間、今はワーハクタクです」
半獣にならなければここまで歴史に興味は湧かなかっただろう。
「貴方様と美鈴様の噂は五百年ほど前にバッタリ途切れていますがどうしてなんでしょうか」
「それは私が欧州に帰っていたからかしらね。ちなみに美鈴の出身は中国の方よ。名前からしてそんな感じだけれどね」
「ではお二人はどうしてともに行動していたのですか?それもこんな島国で」
「私の旅の途中で美鈴に会って一緒に行動することになったのよ。日本に来た理由は何だったのかしらね。料理が美味しそうだからだったかしら」
「随分と適当な理由だったのですね。それにしてもまさかこんな場所で会う事ができるとは思ってもみませんでした。実際に交流のあった友人から話を聞いたり書物では何度もみましたが」
「恥ずかしいわね。でも様付けだけはやめてくれないかしら。私の本来の姿は外道な魔法使いなんだから。それにほら、変装を解くと人間っぽくもなくなるでしょう?」
見た目を変えてまで人間に味方をしたかったのか。やはり素晴らしいお方だ。
「では貴方の事はこれからは樺菜さんとお呼びします。パチュリーさんと呼ぶよりもしっくりきますので」
「それならまあいいんじゃないかしら。何か困ったことがあれば何でも相談して頂戴。たまに人里に遊びに来るでしょうから」
「里に住んでいるわけではないのですね。相談はしたいことがあればどんどんしていきたいと思います。そこで早速相談なのですが」
「急ね。まあいつでもいいけれどね。それで?」
「実は里の人間にも歴史を教えたいと思っておりまして、学び舎を作るのを手伝っては頂けないでしょうか?」
「つまり寺子屋のような物を作りたいのね。でもそれなら歴史以外にも読み書きや計算は教えておいた方がいいのではないかしら?この里全体の識字率はそこまで高くなさそうだし」
「確かにそうですね。どうせなら様々なことを知ってもらった方がいいですね。という事は手伝ってくださるのですか?」
「いいわよ。ただし私が次に来るのは今やっていることが終わってからになるから二週間後くらいかしらね」
「それでも手伝っていただけるだけありがたいですよ」
「そう、なら私は今日はもう帰るから次はそうねぇ、丁度二週間後に里の門の前に集合しましょうか。ではね」
「はい、ありがとうございました。ではまた会いましょう」
今日は思いのほか有意義になった。協力者を得られたおかげで学び舎の計画がかなり早く進められたのはこの里にとっても良いこととなるだろう。
完成する日が今から楽しみで仕方ない。
その前にまずはこの資料を読み込むところからだ。
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「えぇ?!樺菜にあったぁ?!それは本当なの?慧音」
今は私の友人の一人である妹紅が訪ねてきたので話をしている。
「えぇ、勿論です。彼女は実は仙術も使える魔法使いだったようです。本名はパチュリー・ノーレッジというそうですよ」
「あーあ、私も久しぶりに会いたかったなぁ。でも多分樺菜は私が死んだと思っているだろうから迂闊に会いに行けないんだよね」
「そういえば貴方は不老不死になる前に彼女と接触していたのでしたね。残念なことです」
「それにたとえ会ったとしても髪の色も長さも大幅に変わってしまっているから多分わからないと思う」
「でもそれは貴方の方も同じではないのですか?彼女も普段は魔法使いとしての格好で生活しているようですから髪色も顔も違います。貴方も彼女を見てもわからないかもしれませんね」
「確かにそうかもしれないね。でも広い外とは違ってこの狭い幻想郷内ならいつか会うだろうからその時の事はその時に考えることにするよ」
「そういえば貴方は彼女の事は樺菜と呼び続けるのですね。私もそうですが」
「まあね、そっちの方が呼び慣れているししっくりくるのよ。
まあこの話はここまでにしようか。最近気になることがあってね」 「気になることですか?」
「最近妖怪の山から煙が上がっているでしょう?」
つまりは妖怪の山の真実の姿を話せばいいのか。今宵は永くなりそうだ。
法案の部分は縦書きにすると雰囲気が出て良いのですが流石に面倒だと思うので普通に横書きにしました
大都庶樺菜は忘れていた方もいたかもしれませんね。五百年の時を超えてまさかの再登場
寺子屋建設がかなり早くなりました。
なんだかんだで今回も7500字超えました。
では次回も読んでいただければ幸いです