行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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冥土的第三十三話

   咲夜side

 

 

 私は昔から人と関わるのが得意ではなかった。紅魔館に来た当初もお嬢様に対して失礼な態度を取ってしまっていた。

 

私を変えてくれたのは当時のお嬢様であり、かつてのパチュリー様である。本人は『居候だから様付けなんてやめてくれ』というけれど、彼女は私に様々なことを教えてくれた恩師でもある。

 

ハンターをしていたころは単独行動が多かったから問題なかったが、ここで働くとなると行動は常に私の意思で、とはいかなくなる。

 

だからここに来た時には少しばかり居心地の悪さを感じていた。勝てない、とわかっていたから反抗はしなかったし、逃げもしなかったが。

 

今ではそれでよかったと思っている。もしあの時私が紅魔館に討伐に来ていなければ私は今何をしているのだろうか。

 

パチュリー様によると外の世界では能力者はどんどんいなくなっているらしい。私もいずれは幻想郷にたどり着くか、そのまま消えてしまうかのどちらかだったのかもしれない。

 

人間は異物をとことん排除したがる生き物だ。ならばもともと私の居場所など人間の世界には無かったのだろう。私も人間であるはずなのに。

 

この幻想郷での中心は人間ではなく妖怪などだ。私にとってはありがたいことなのかもしれない。おかしなことだとは思うが。

 

幸い幻想郷には特殊な人間が私以外にもいた。それが博麗の巫女である霊夢と人間の魔法使いである魔理沙だ。彼女らも特殊なおかげで、私は生まれて初めて人間同士のまともな付き合いができている。

 

お嬢様も幻想郷を気に入ったようで、よく神社に遊びに行くようになった。その度に霊夢が面倒くさそうな顔をしているのを知っているのかは知らない。

 

最近は冬の寒さが残っているせいでめっきり通わなくなってしまったが。去年まではこの時期まで雪が降り続けることなんてなかった。

 

これも異変なのだろうか。でも季節一つを奪うなんてとんでもない力が必要になるのではないか?たとえ力ある妖怪でも難しそうだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日の朝食はフレンチトーストらしい。簡単に作れて美味しいから朝起きるのが辛い冬場には重宝するらしい。

 

起きるのが辛いのならお嬢様の代わりに私が朝食を作っても構わないのに。それに冬場どころかもう桜が咲いても良い季節になっているけれど。

 

 

「あー、咲夜」「はい、なんでしょうお嬢様」

 

 

「朝私が起きやすいように冬を終わらせて来なさい」

 

ようやく命が下されたか。かなり遅かったような気もするが。

 

 

「かしこまりました。必ずや巫女よりも先に解決して見せましょう」

 

 

「えぇ、お願いね。ここまで遅くなったのはパチェにある物の制作を頼んでいたからなのよ」

 

ナチュラルに心を読まれた。それにしてもある物とは一体…………。

 

「これよ、咲夜。これは異変解決の道中や勝負になった時にも役に立ってくれるでしょう。手に持たなくてもあなたの周りを浮遊するようになっているわ。頑張って頂戴ね」

 

 

「ありがとうございます、お嬢様、パチュリー様」

 

これで準備も整った。黒幕の検討もつかないけれど適当に当たってみましょう。

 

 

 

   パチュリーside

 

 

レミィから頼まれて作ったマジカル☆さくやちゃんスターとも呼ばれたりするあの補助道具をもって咲夜は異変解決に向かって行った。

 

勿論星の模様は付けている。あってもなくても性能は変わらないのだが、やはり付けておくべきだと思った。

 

 

「さて、咲夜は行ったわね。貴方はこれからどうするの?」

 

「私も少し出かけてくることにするわ。会いたい旧友がいるかもしれないから」

 

まあいない可能性もないことは無い。でも彼女ならいてくれるだろう。

 

 

「そう、もしアリスが来たらそう伝えておくわ」

 

「今日は恐らくアリスは来ないわよ。ただの勘だけれど」

 

 

「あら、そうなの?でも万が一来たら伝えておくわね」「助かるわ。それでは行ってくるわ」

 

咲夜には悪いが先回りさせてもらおう。

 

 

「あれ、パチュリーも出かけるのですか?」

 

「えぇ、ちょっと旧友に会いにね。あなたも来られたら良かったのだけれど」

 

 

「そうですね、まあよろしくお伝えください。では行ってらっしゃい」

 

「行ってきます。風邪ひかないように気をつけなさいよ」

 

先ずは上空の結界の綻びを見つけるところからか。これは恐らくそこまで難しくはないだろう。結界は昔から慣れ親しんでいるものなのだし。

 

勿論マヨヒガに迷い込んだりアリスと遊んだりすることは無い。廃洋館から音がするという事は三姉妹もまだ結界付近にはいない。あとは妖夢か。

 

まあ何とかなるだろう。早く向かわないと咲夜だけでなく霊夢や魔理沙にも追いつかれる可能性が出てきてしまう。

 

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             ・

             ・

 

結界はここか。確か今は上を飛び越えられるはずだ。冥界と顕界の狭間がここまでゆるゆるでいいのだろうか。

 

懐かしい階段だ。いつも紫のおかげで直接門まで行っていたから気にしていなかったけれど、ここまで長かったのか。飛ぶから関係はあまりないけれど。

 

 

「貴方は一体どちら様ですか?ここは冥界、命あるものが来るべきところではないですよ。それに今は忙しいんです。無理矢理にでも帰っていただきましょう」

 

「私は異変を邪魔しに来たわけではないのよ。でもどうしても、というのなら勝負しましょうか」

 

東方好きなら一度は言ってみたい名台詞。をちょっとアレンジ。

 

「妖怪が鍛えなおしたこの妖刀に斬れぬものなど、少ししか無い!」

 

 

「白玉楼の庭師兼剣術指南役、魂魄妖夢。私の修行の成果、その身でしかと受け止めよ!」

 

妖夢も私も魂魄流。しかし圧倒的な修行量の違いがあるから勝つことはできないだろう。ならば負けなければいいだけの事。

 

幸い妖夢も私を殺す気はないようで、スペルカードを構えている。斬られても白楼剣ならあまり問題はないけれど、楼観剣の方は拙いかもしれないし私としてはありがたいことだ。

 

     修羅剣『現世妄執』

 

何故この世界の住人は皆Hard以上の弾幕しか撃ってこないのだろうか。動き回るのは辛いからやめてほしいものだ。

 

ありがたいのは彼女が魂魄流だという事。私も修行の過程で何度も見てきた技が多いから比較的楽に避けられる。

 

 

「ほう、なかなか良い身のこなしですね。では次は…………」

 

 

「あら?貴方はもしかしてパチュリーかしら?」「!ゆっ、幽々子様?!どうしてここに?!」

 

 

「別に私がどこにいても問題ないでしょう?冥界は私の管轄なんだから。それで、貴方パチュリーよね?久しぶりね」

 

「えぇ、本当に久しぶりだわ。五、六百年ぶりかしらね。率直に聞くけれど何故春を奪ったのかしら?」

 

 

「そうねぇ、家にある書物の中にあの桜、西行妖の事が書いてあるものが一つだけあったのよ。その書によるとあの桜を咲かすには春が必要で、満開になれば何者かが復活するらしいの。

 

だから少し興味があったのよ。楽しみでしょう?」

 

「そ、そうね。でも私としては咲かせるのは反対ね。わざわざかけられている封印を解かない方が身のためではないかしら?」

 

 

「そうかもしれないけどね。でも最悪死んでもらえば大丈夫かと思ってね」

 

なかなか凄い考え方をしているようだ。その者が復活した時点で幽々子は消えるので殺せないし、そもそも生きてもいないのだが、そのことを上手く伝えることが私にはできない。

 

真実を伝えればそれだけで幽々子は消えてしまうだろうし。だからこの件の解決は自機組に頑張ってもらう事にしよう。

 

「あなたも大変だと思うけれど頑張って頂戴ね、妖夢」「は、はぁ。よくわかりませんが」

 

 

「まあいいわ。ところで貴方はどうして冥界に来たの?異変の調査?」

 

「違うわ。ここに来たのはあなた以外にもう一人再会したい子がいたからなのよ」

 

 

「あら、貴方妖夢と面識があったのかしら?」「無いわよ」

 

 

「じゃあいったい誰なの?冥界で再会するような霊のお友達がいるの?」

 

「違うわ。その子の住んでいる場所は上よ」

 

 

「あぁ、なるほどねぇ。まったく貴方の交友関係は広いわねぇ。羨ましいわ」

 

「確かあなたの知っている人もいたはずよ。まあ私の友人はいるかどうかまだわからないのだけれど。

 

今から行ってくるわ。あなたたちも侵入者を迎え撃つ準備はしておいた方がいいわよ」

 

 

「大丈夫よ~。こちらの準備は万全だもの。しっかりスペルカードも用意しておいたしね」

 

「それなら大丈夫そうね。まあ精々頑張りなさい。ではまた帰りに会いましょう」

 

純粋なスペルカードルールで戦えば幻想郷では霊夢が最強だろう。前のレミィとの戦闘を見てわかった。彼女は覚えていないのだろうが紫はよくあそこまでの力をつけさせたものだ。

 

今日の私の目的地は冥界とその上空にある島々、天界だ。行こうと思っても今までは幽明の結界が緩んでいなかったからいけなかったのだ。

 

天界には欲を完全に絶った仙人からなった天人や、成仏して至った天人がいる。彼女は果たしているのだろうか。

 

幽々子の父、西行も天界には住んでいるはずだ。話を聞いてみたいが恐らく不可能であろう。

 

一応認識阻害は念入りにしておく。ばれても恐らく問題ない。一部を除けば天人なんかにやられることは無いから。

 

             ・

             ・

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これは凄い。想像を絶する美しさだ。一番低い場所でこれなら上の方はもっと美しいのだろうか。それとも景色自体は大して変わらないのだろうか。

 

天人は思いのほかたくさんいるし、認識阻害も正常に働いているようだ。ばれる気配がない。

 

彼女を探しつつ観光もゆっくりできる。買い物はできないけれど。天人たちは毎日騒いで踊ってを繰り返しているつまらなさそうな人生だ。

 

住宅街が閑散としすぎている。皆広場に集まっているからなのだろうか。閑散としていた方が落ち着くので私はこれで良いのだけれど。

 

さて、表札を一軒一軒見て回ろうか。名前が無かったら今日は帰ろうかな。

 

幸い家の数はとても多いというわけではなさそうだ。これならすぐに見終わるかもしれない。

 

 

「貴方は天人ではありませんね?何故天界にいるのかは知りませんが放っておくわけにもいきません。何、帰りは怖くないようにきちんと気絶はさせておきましょう」

 

あらら、認識阻害が効かないレベルの天人もいたのか。となると防衛役かな。

 

 

「殺しはしないので大人しくやられてください」『稔庶封陣』

 

なるほど。この弾幕構成は…………似ているね。

 

「随分なご挨拶ね、稔里。無事天人に至れたようで何よりだわ」

 

 

「っ!?貴方はもしかしてぱっちゃん?!ど、どうやってここに来たの?!」

 

敬語も外れたし

 

「思い出してくれたのね。まあ話しても長くならないだろうから話すわ。私がここに来られたのは幽明の結界が緩んでいたからよ。

 

天界は冥界の上空に存在する。これは御存じの通りよ。今までは顕界と冥界が行き来できなかったの。まあそれが当たり前なのだけれど。

 

でも今は()()()結界が緩んでいるの。だから冥界に行ける、つまり天界にも来られるというわけなのよ」

 

 

「なるほど、そんなことが。じゃあいつでもぱっちゃんの所に遊びに行けるというわけか。

 

逆もまた然りだけど。でも天界は封鎖的だからねぇ。私が地上に行くしかないかもね」

 

「えぇ、そうね。私もこんなに高い所まで来るのは骨が折れるわ」

 

 

「私だって大変かもしれないよ?」

 

「天人はもともと自由に地上に降りられるのではないの?詳しくないから知らないけれど」

 

 

「うーん、多分行けるとは思うよ。そう言えばそうかぁ、今までも会いに行こうと思えば行けたかもしれないのね。残念だわ」

 

「だから今日来てあげたんじゃないの。それより天人になるまで早かったのね。早くても数百年と言われているのにまさか千年以内になっているとは思わなかったわ」

 

 

「その割にはわざわざ天界まで来たのね。ぱっちゃんったら素直じゃないんだから」

 

「からかっても無駄よ。私は稔里の師匠なのだからね」

 

 

「そんなこと言ったら私だってぱっちゃんの師匠よ?ほらほら、敬いなさい」

 

「はいはい、流石はお師匠様でありますなぁ。で、早かった秘訣って何なのよ」

 

 

「むぅ、まあいいわ。私ってもともと巫女じゃない?だから普通の仙人なんかよりはるかに欲が少なかったみたいなのよ。自覚は無かったんだけどね。

 

それで修行を続けていたらいつの間にかここにいたわ」

 

「適当なのね。まあなんにせよ良かったわ。ここまで来たのが無駄足にならずに済んだし。

 

ところで稔里は西行って知ってるかしら?天界にいると思うのだけれど」

 

 

「あぁ、あの死んで天人になった歌人だっけ?どこにいるかは流石に知らないなぁ。ただこの島よりももう少し上の島にいると思うわ。

 

死後の天人は死神からも狙われないと聞くし気楽でいいわよね。それで、会いたいの?」

 

「いえ、ただ私の知り合いの父親だから気になっていただけよ」

 

簡単に会えないのならば無理に会わなくても良いし。

 

 

「西行の子ってことは人間でしょう?今も生きているの?」

 

「彼女は今までずっと死んできた亡霊よ。冥界の管理人はその子なの」

 

 

「へぇ、じゃあぱっちゃんの所に行くのに冥界を経由すれば会えるのね。私も会ってみたいわ」

 

「天人がそんなに簡単に地上に降りても大丈夫なのかしら?特にあなたはこの島の防衛の要でしょう?」

 

 

「いいのいいの。もう一人私くらいの力を持つ天人がいるし、もともと仕事なんてあってないようなものだから」

 

天子かなぁ。

 

「へぇ、そんなに強い子がいるのね。その子も仙人上がりなの?」

 

 

「いいえ、彼女の一族は仕えていた者たちが天人になった時に同時に天人になった一族なの。

 

まあ特例なのかな。総領の娘なのに実力は高いのよ。何故なのかよくわからないけど」

 

やはり天子か。今会うのは避けたいし今日はもう帰ろうかな。

 

「そうなのね。では今日はこの辺りで帰らせてもらうわ。あまり遅くまで帰らないと心配されそうだし」

 

 

「あら、そうなの?まあ仕方が無いか。じゃあ次は私から会いに行くわ」

 

「助かるわ。私が今住んでいる場所は幻想郷という場所にある霧の深い湖の傍の紅い館よ。目立っているからすぐにわかるでしょう。ではまた会いましょうね」

 

 

「えぇ、身体には気を付けてね」「今は大分マシではあるけれどね」

 

            ・

            ・

            ・

 

もう暗くなり始めている。冥界内の時刻はよくわからないが早めに帰った方が良いだろう。西行妖の桜も完全に散ってしまってただの枯れ木にしか見えなくなっている。

 

異変は無事終了したみたいだ。

 

「桜の封印は解けなかったのね。残念だったかしら?」

 

 

「まあ残念ではあるわね。一度話をしてみたかったし。でも勝負で負けたのなら仕方がないもの、当分は大人しくしておくわ」

 

「また封印を解こうとするかもしれないの?」

 

 

「それは無いわね。あんなに必死に説得する紫を見たのは初めての事だったし。封印されている人は可哀そうだけど」

 

「そう、ところで妖夢はどうしたの?」

 

 

「あの子はねぇ…………情けないことにまだ気絶しているわ。まあそれも仕方がないとは思うわ。むしろ顕界から来た子たちが元気に帰って行ったのが不思議なくらいね」

 

「博麗の巫女は強かったかしら?」

 

 

「えぇ、あの子は別格ね。流石紫が育てただけはあるわね。まあ覚えていないようだったけど」

 

「やはりそうよね。そうそう、天界にいる私の友人があなたに会いたがっていたわ。また降りてくるかもしれないからその時は話をしてあげて頂戴ね」

 

 

「あら、そうなの?楽しみねぇ。あら?もう帰るの?」

 

「ここにはメイドの子も来たでしょう?私が居候している館のメイドなのよ。

 

だから私もあまり遅くなってはならないのよ」

 

 

「そうだったのね。いや~彼女も強かったわよ。将来が楽しみね」

 

「そうでしょう?美鈴が主に育てていたから強くなって当然よね。それでは帰らせてもらうわ。

 

次に来るときは人里の菓子でも持ってくるわ。ではね」

 

 

「楽しみにしてるわ。またね」

 

         ・

         ・

         ・

 

「遅かったですね。それで、一体誰に会ってきたのですか?」

 

「幽々子と稔里よ。二人とも元気そうでよかったわ」

 

 

「私も会いたかったですねぇ。それより早く館に戻りましょう。

 

今日は咲夜さんの異変解決を祝ってお嬢様が普段の二割増しの豪華さで料理を振る舞ってくださるそうですよ」

 

「それは楽しみね。では戻りましょうか」




稔里が再登場。実はこのキャラを再登場させるためだけに名前とオリキャラタグを追加してました。名前が無くても再登場するケースはあるのですが

ちょっとしか出てませんが、今回初登場の妖夢は私の九番目に好きなキャラです

緋想天では妖怪の山上空の雲の上、求聞史紀では冥界の上空と書かれていますがどちらが正しいのでしょうか。私は阿求を信じますけど

念のために言っておきますが異変の内容は次回きちんと書きます


では次回も読んでいただければ幸いです
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