レミリアside
初めて里に来てみたが、パチェの顔の広さには驚かされる。彼女は人間ではないと公言しているらしいが何ら差別的な目で見られているわけではないようだ。
かく言う私も特に不快な視線を向けられることは無い。私の場合は明らかに妖怪だと分かるのに、だ。ここの人間たちは変わっていると思わざるを得ない。
パチェ曰く、里の中で妖怪は人間を襲ってはならないので安心して暮らすことができるようだ。妖怪に怯えていないわけではないらしい。
しかしそれにしても危機感がなさすぎるのではないだろうか。妖怪には自分勝手な者も多い。たとえ規則があってもそれを守る妖怪だけではないのではないか。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、と教えられたならば素直に聞いてみよう。
「ねぇ、パチェ。ちょっといいかしら?」
「どうしたのよ。何処か気になる店でもあったの?」
確かに甘味処とか気になる店はあるけど今は違う。
「違うわよ。この里の人間はどうしてこうも安心しきっているのかしら?規則を守らない妖怪だっているんじゃないの?」
「いるにはいるわね。でもそんなおバカな妖怪はこの里にはそもそも入れもしないでしょう。この里の守護者がしっかりしているから」
「へぇ、守護者なんてものもいるの?なかなか面白いわね。統治者はいないの?」
「いないわ。仮に統治者が生まれたらそこらの妖怪は黙ってはいないでしょう。まあ人間はそんなことを知らないのだけれど」
「ふーん、私にはよくわからないわ。あ、あの店に行ってみましょうよ」
「急ねぇ。へぇ、甘味処ね。今度はお菓子作りでも始めるつもりなの?」
流石、鋭い。和菓子の美味しさは洋菓子のそれとはまた違うところにある。それに和菓子はなかなか料理本がないのだ。実際に職人の物を食べてみるのが一番だろう。
「よくわかったわね。作りたければまずは知らなければならない。というわけで早速行くわよ」
「今日の目的は一応買い物だからそこは忘れないで頂戴よ」
勿論だ。既にいくつかの店の野菜には目を通しておいた。館の庭で育てられそうなものもいくつかあった。
「ここが甘味処なのねぇ。雰囲気が落ち着いていて素晴らしいところだわ」
「そうね。で?レミィは何を食べるの?」
「うーん、迷うわね。どうしようかしら。パチェは何を頼むの?」
「私は桜餅にしようかしら。今丁度咲いているのだし」
なるほど季節によっても作る菓子が違うのか。洋菓子は基本一年中同じものを食べるのだけど。
「じゃあ私は柏餅にしようかしら」
「別に食べたければいくらでも頼んでいいわよ。食べきれなければ保存もしておいてあげるし、お金なら問題ないくらいあるから」
なんて魅力的な提案なんだ。そんなの乗るしかないだろう。
「ならそうしようかしら。柏餅は一つここで食べて館には全種類持ち帰りましょうか。フランと美鈴と咲夜と小悪魔へのお土産にもなるし」
「なら決まりね。すみませ~ん……………………」
注文し慣れているように次々言っている。どうやら土産の分の他にも明日の宴会に持っていく分も注文しているみたいだ。
桜餅と花見団子をそれぞれ五十、明日作ってもらうように予約しているようだ。
まあ流石に今から作るのは無理だろうから丁度良かったのではないだろうか。
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「どう?和菓子は。作れそうなの?」
「独学でここまでの味を出すのは難しいかもしれないわ。何処かに弟子入りすれば作れるようになると思う」
「紅魔館の主が弟子入りねぇ。ま、いいんじゃないかしら?あなたにその気があるのなら」
「予想通りの返事ね。パチェなら絶対に反対しないと思っていたわ。でも弟子入りは駄目だわ」
「へぇ、それはどうしてかしら?」
「パチェならわかっているくせに。職人に弟子入りしてしまったら認められるまで数年以上はかかるからね。だからできないのよ」
「ふふっ、ばれていたのね。でも和菓子でしょう?それなら作れる子がいると思うわ」
「へぇ?そんな都合の良い知り合いがいて羨ましいわね」
「あなたも知っている子よ。最近の宴会料理の和食を作っている子、妖夢よ」
「へぇ、料理はかなり美味しかったけど和菓子まで作れるの?」
「恐らくね。彼女の主人が食事好きだから和菓子もかなりの腕だと思うわ。彼女に頼んでみましょうか?」
「いや、私から直接頼み込むわよ。それだと流石に礼儀がなっていないでしょう?」
「そうね、ではまた明日頼んでみなさい。さて、食べ終わったことだし、今日持ち帰る分ができ次第買い物を始めるわよ」
「えぇ、分かってるわ」
パチュリーside
どうやらレミィは甘味処に行く前に既にあらかたの目利きを済ませていたようだ。寄る店の指定までされたらすぐにわかる。
残念ながら売られてしまっていて狙いが外れた物もあったようだが、残っている物の中にも良い物はあったらしい。
どうやらレミィが和菓子を作りたいと思っている気持ちは本物のようだ。まあ料理において彼女が真剣でないときは無いけれど。
「ねぇパチェ?そろそろ豊穣の神を呼ばないといけない季節なんじゃないの?」
紅魔館の庭は作物多いので毎年呼んでいるがレミィは知っていたのだろうか。いつも呼ぶときには私と美鈴とこあくらいしかいないのに。
「知っていたのね。まあそろそろよ。今日の帰りにでも探しに行きましょうか」
「どこに探しに行くのよ。神なんて神社にいるんじゃないの?」
「彼女の神社はないわ。妖怪の山のどこかにいるはずよ」
「うへぇ~、妖怪の山ぁ?また面倒な所に住んでいるのね」
「大丈夫よ。今まで鴉天狗に襲われたことなんてなかったし」
毎回白狼天狗がじゃれついてくるくらいだ。鴉天狗以上は一人を除いて姿すら見せないし。
「あとは何か買いたいものがあれば寄るけれど」
「今はもうこれくらいでいいかしらね。もう昼下がりだしそろそろ帰りましょうか」
今日はなかなか充実していたのではないだろうか。団子と餅を注文したからまた明日も里に来ることになるけれど。
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「着いたわ。ここが山の入り口ね」「入らないの?」
「入らなくても哨戒中の天狗が来てくれるわ」「それって排除対象として、でしょう?」
「まあそうなのだけれど、少ししたら話の通じる天狗が来てくれるわ。それまで相手をしておけばいいのよ」
「言っておくけど私は日傘から手が離せないからそこのとこよろしくね」
「まあ大丈夫よ。それに運が良ければ最初の一人で話が通じることもあるし」
「侵入者かと思ったら貴方でしたか。用があるのは文さんでしょうか?」
「いえ、今日用事があるのはあなたの方よ」
「その天狗は誰なんだ?」
あ、レミィの話し方が変わった。初対面の時や当主として話すときにはレミィは口調が変わる。たまに崩れているときがあるけれど。
「申し遅れましたね。私は白狼天狗の犬走椛です。貴方はもしや吸血鬼ですか?」
「いかにも。私は湖のほとりに建つ紅魔館の現当主、レミリア・スカーレットだ」
「自己紹介は十分かしら?では要件を話すわ。秋姉妹が今どこにいるか教えてくれないかしら」
「少し待ってください。この時期ですと恐らくここに…………あぁ、いましたね。呼んできましょうか?」
「いえ、穣子様の方に伝言だけ頼めるかしら?」「構いませんよ」
「ありがとう。では三日後に紅魔館に来てくれ、と伝えておいて頂戴」
「わかりました。本日はもうお帰りになるのですか?文さんが会いたがっていましたが」
「なら文も三日後に紅魔館に来ればいいのではないかしら。とにかく今日はもう帰るわ。伝言よろしく頼むわね」
「お任せください。では」
「さて、私たちも帰るわよ。今日は美鈴も咲夜も大変だったでしょうし」
「そうね、少し申し訳ないことをしてしまったわ。早く帰ってあげましょう」
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案の定今日は霊夢による襲撃があったらしい。レミィが留守だと知って案外すんなり帰ってくれたようだが。
美鈴に三日後の事を伝えるついでに労っておいた。レミィは今日買ってきた食材を使って新作を作ってくれるらしい。
食後のデザートも考えれば楽しみは倍増だ。食べきれるかどうかはわからないが。
そんなこんなでついに宴会当日だ。店主が言うには菓子がすべて出来上がるのは正午頃とのこと。それまでは特にすることが無いのでアリス用の魔導書でも書いておくことにする。
彼女の成長は流石に遅くなったがそれでも私から見れば相当なものだ。もともと器用だから教えたことはすぐに応用までもっていけるのだろう。羨ましい限りだ。
私が彼女のために書いた魔導書の数はもう二十を超えているだろう。彼女がだんだん高度な魔法を使えるようになっていくのを見るのは楽しい。弟子の成長を見ている気分になれるから。
そういえば今日はまだ魔理沙が来ていない。彼女も異変解決の手掛かりを見つけたということなのだろうか。彼女に盗られている本はおよそ百二十冊。
そろそろ返してもらいに行かなくてはならない。流石に百二十冊同時に勉強するのは不可能だ。もう読み終わった本や、読む気もない本もきっとあるだろう。
五冊ほど残してあとは今日の里からの帰りにでも返してもらおう。
本棚が空くと勝手に外来本が入ってくるから鬱陶しくてかなわない。大体は香霖堂に格安で売り、残りは鈴奈庵に売るか処分するかだ。料理本などは残しているが正直いらないと思う。レミィが本を見て作っているのは初めの一回だけなのだし。
考え事をしているとあっという間に時間が経ってしまう。もう昼食時だから食堂に行かなくてはならない時間だろうか。
「パチュリー様、お嬢様から食堂に来るように、と」
「ありがとう咲夜。では今から行くからあなたは美鈴を呼んできてあげなさい。
こあ~、昼食だから上に行くわよ」
「はい、行きましょうパチュリー様。今日の昼食は何でしょうね」
「わからないけれど一つ言えるのは出てくる料理が何であっても絶品だという事かしらね」
「当たり前のことを。宴会用のお腹は残るでしょうか」
「運動しておけばいいんじゃない?美鈴と一緒に」
「うげぇ、あれは身体がついて行けませんよ。私にはできません」
「情けない悪魔ねぇ。あれはまだ基礎らしいわよ?私にもできないけれどね」
「パチュリー様も一緒じゃないですか。それとお忘れかもしれませんが私は最下級の悪魔ですから情けなくて当然なのですよ」
「そこでドヤ顔されても…………」「はいはい、口喧嘩は終わったかしら?」
「あら、もう食堂まで来ていたのね。今日の昼食は?」
「今日は宴会まで運動しなくても大丈夫なように軽めの料理にしているわ。何なのかは自分の目で確かめなさいな」
「だそうよ。良かったわね、こあ」 「ソウデスネ」
それにしても軽めの料理か。そもそもレミィの作る料理で重いものはあまり出てこない印象だが。
幽々子side
今日の宴会はなかなか面白いことになりそうだ。まだ始まっていないがそんな気がする。
前回の宴会の後から急に妖気が強くなったところを見ると今回の犯人ももう潮時だと思ったのだろう。そのせいで妖夢が顕界に頻繁に行くようになったのは残念なことでもあるし嬉しいことでもある。
残念なのは退屈な時間が増えることだ。まあこれは紫を呼べば解決することだが。
嬉しいことは人里の菓子を買って来てくれるようになったことだ。妖夢も作ることはできるし美味しいのだがやはり別の味も食べてみたかったのだ。
今日も退屈だし紫と話でもしよう。
「紫」 「どうしたの?」
「話し相手になって頂戴よ。今日このお酒持って行ってあげるから」
「あら、それはかなり古いお酒みたいね。賞味期限は大丈夫かしら?」
「大丈夫よ。賞味期限まであと千年以上はあるし」
「なら安心ね。酒好きのあの子も喜ぶでしょう。でも話し相手になれるのは少しの間だけよ。やらないといけないことがあるから」
「ふぅん、ま、いいわ。少しの間だけでも退屈を凌げられれば。それにしても妖夢も鈍いわね~。
前回の宴会の後から急に妖気が強くなったから気づけはしたのでしょうけど、近くの物ほど見えないものなのかしらね」
「そういうものよ。灯台下暗しとはよく言ったものよね。それにこれは異変を終わらせる決断をしてくれた、という事。ありがたいわね」
「私はそこのところはよくわからないけどね。それで?」「それで、とは?」
「惚けないでよ。宴会は今日で終わりなんでしょう?きちんと解決できそうなの?霊夢は」
「あの子なら大丈夫でしょう。きっと悪いことにはならないと思うわ」
「信頼してるわね~。でも私の妖夢に対する信頼の方が大きいかもね」
「どうかしらね。まああの子が妖怪に容赦なく接するようになってくれたのが私としては嬉しいことね」
「幻想郷を上手くまとめるため、か。本当に紫は幻想郷を愛しているのね」
「当然でしょう?そうでもしないと管理人なんてやってられないわ。博麗の巫女を妖怪に容赦ないように育てるのも私の役目。
情で妖怪を退治できない巫女になられたらたまらないもの」
「たとえ母親代わりとして育てても、ね。だから友人が少ないのではないの?」
「失礼な亡霊ねぇ。賢者に友人は少なくて良いのよ。いざという時に頼れる数名がいればね」
「例えば私とか?」「まあそうなるわね」
「結局は捨て駒として考えているのではないの?」
「そんなことは無いわ。幻想郷を護るためなら私は命だって懸けてみせる。貴方たちを見殺しにしてのうのうと高みの見物を決め込むつもりはないわ。
ただ幻想郷にとって最善だと思う事をしているのよ」
「それならいいんだけど。あら、そろそろ顕界では日が沈む時間じゃないの?行かなくても大丈夫なの?」
「あら、うっかりしていたわ。それではあとでまた会いましょう」
なるほど。紫は今回の宴会にのみ参加するつもりなのか。楽しくなりそうだ、私の勘も捨てたものではない。
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「幽々子様、食事量はほどほどになさってくださいね。私だけでなく皆さんも大変なんですから」
「それは約束しかねるわね。美味しい料理が出てきたら食べるのが礼儀ってものでしょう?」
異変は無事に解決されたらしい。紫の仕事は霧状になった鬼の姿を霊夢の前に現れさせることだったようだ。
確かにそれはいくらあの子でもできないだろう。本当に紫の能力の応用範囲は広すぎる。底どころか縁も見えているのか定かではない。
結果的に異変も解決され最後の宴会が始まる、というわけだ。紫は何処からか大量のお酒を集めてきたみたいだ。
私も持ってきているがいらなかったかもしれない。
今日はどんな料理が出てくるのか、非常に楽しみだ。
「こんばんは、西行寺幽々子。少しお願いしたいことがあるのだが」
「幽々子でいいわよ。それにもっと話し方も柔らかくすればいいのに」
「そうはいってもねぇ。私にも紅魔館の当主という立場があるのだし…………」
「まあいいわ。それでお願いしたいことって何かしら?」
「貴方の屋敷に少しの間通いたいのよ」
「あら、私に何か用でもあるのかしら」
「貴方ではなく妖夢に用があるのよ。少し教えてもらいたいことがあってね」
「へぇ?貴方が妖夢から教わることなんてあるのかしら?」
家事はあの館のほとんどが一級品だし、料理に関してはレミリアが一番と聞いている。
「実は私は和菓子が作れるようになりたくてね。彼女に弟子入りしようと思っているのよ」
驚いた。紅魔館の当主が妖夢に弟子入りを頼み込んでくるなんて。これは面白いことになった。ん?これは交渉を持ち掛ければ私に損は全くないしむしろ超お得だ。
確か紫はこんな状況の事をビッグチャンスと言うとか言っていたっけ。
「そうねぇ、一つだけ条件があるわ」 「条件?」
「そう難しいものではないわ。通っている間の昼食は貴女が作ること。ね?簡単でしょう?」
「まあそうだな。確かに破格の交渉ともいえる。しかしそれならばこちらからも一つ約束をしてもらいたい」
へぇ?約束ねぇ。何だろうか。
「私が昼食を作っていることを誰にも言わない事。私の料理は基本的に家族にしか振る舞わない。それ故この約束事はきっちり守ってもらいたい。
何処かから漏れれば厄介なことになること間違いなしだからな」
なるほど。それだけで料理を振る舞ってくれるのなら約束しないわけにはいかない。妖夢にもよく言い聞かせておかなければならない。
「勿論大丈夫よ。こう見えて口は堅いから安心しなさいな」
「それでは交渉成立だな。では妖夢が戻ってきたらまた伝えに来るよ」
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。なるほどなかなかに考えているようだ。
それに案外礼儀を重んじる妖怪のようだ。今時人間でもこうではないだろう。好感の持てる妖怪だ。
甘味処の事をずっと『かんみどころ』だと勘違いしていました。恥ずかしいです
追記;使う人によってどちらでも良いみたいです。要は自分の思う方を使えば良いのでしょうか
和菓子の事を書くたびに食べたくなります。洋菓子より和菓子、特に生菓子は大好きです
異変解決回なのに元凶も解決者も出てこない不思議
では次回も読んでいただければ幸いです