行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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矜持的第三十七話

   レミリアside

 

 

 前回の宴会で妖夢にも許可は貰えたし早速今日から和菓子作りの修行だ。私としてはとても楽しみだ。これまで洋菓子は散々作ってきたけど和菓子は全くない。心配なのはつぶしてしまわないかという事か。

 

材料費は勿論こちらの負担だ。教えてもらう側としてそれは当然の事だと思うし、里に提供している食品の売れ行きも上々だからお金の心配は全くない。

 

咲夜も連れていくことにする。彼女は一応私に仕えている身だから私の身辺警護は彼女の役割なのだ。私としては特に警護など必要ではないが流石に当主が単独で動くのは拙いのだろう。それに今回は道がわからないから丁度良いのだが。

 

しかしまったく窮屈なものだ。フランは自由に遊んでいるというのに。

 

最初の宴会以降気が合ったのかフランは湖の妖精たちと遊ぶようになった。彼女が明るくなってくれたのはとても喜ばしいことだし、応援してあげたいが相手が妖精となれば手放しでは喜べない。

 

というのも妖精というのは自然の結晶であるがゆえに自然が破壊されない限りは死という概念がない。それに物覚えも悪い者が多い。フランを教育したのはパチェだから大丈夫ではあると思うが頭が弱くならないか心配ではある。

 

今日もフランは元気に遊びに行った。日傘をささないといけないのは面倒みたいだが、それはもともと吸血鬼が昼間に活動するようにできていないのだから仕方がない。

 

ふと外を見ても今は美鈴が作物に水をやっているだけだ。私の部屋とフランの部屋の窓にだけは庇を付けている。もともとは窓がなかったがパチェに言って作ってもらった。その時に気を利かせて庇も取り付けてくれた。

 

そのおかげで日光を気にせずに外を見られるようになったし、夏も涼しくて快適になった。窓がないと蒸し暑くて仕方がない。お父様もお母様もよくそんな館に住んでいたものだ。

 

お父様、か。結局あの日以来一度も会っていない。外の世界にまだ彼の居場所はあるのだろうか。もしかしたらとっくに死んでしまっているかもしれない。

 

そんなことは今考えていても仕方ない。外では既に美鈴が半分以上水を与え終わっている。残念なことは庭が狭いことか。折角パチェが水田を作ってくれたのに育てられる稲の量が少なすぎる。

 

咲夜は空間を広げられるがあまり効果は無いだろう。こうなれば館に屋上を作って葡萄や桃などの木はそちらで育てた方が良いかもしれない。ちょっとパチェに相談してみよう。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「珍しいわね。レミィがここに来るなんて。何か用事でもあるの?言っておくけれど和菓子の作り方が書かれた本はここにはまだないわよ」

 

 

「ただ貴方に聞きたいことがあったから来ただけよ。時間いいかしら?」

 

「別に時間なら問題ないわ。それよりあなたの方が大丈夫なの?時間は」

 

 

「今日は昼前に行くって言ってあるから。昼食は当分貴女に任せるわ。

 

それで今回来たのは相談よ、相談」

 

「何?また飼いたい家畜でもいるの?生憎庭はもういっぱいよ」

 

 

「飼いたい動物ができたわけではないけど相談の本質はそこなのよ。私はコメの収穫量を増やしたいのよ。毎年豊作なのは確かなんだけど、植える稲の量を増やしたいの」

 

「それで?流石に庭は広げられないわよ?」

 

 

「そう、そこで今日の本題よ。この館に屋上を作ってくれないかしら」

 

「屋上?あなたわかっているの?この屋敷の屋根は尖っているところばかりなのよ?」

 

痛いところを突いてくる。

 

 

「うんまあね。でも一部は平らになっているでしょう?そこに屋根でもつけてくれたら、と思うんだけど」

 

「あぁ、一応それなら可能ね。しかしそれだと毎回外から屋上に行くつもりなの?それに屋上に稲作なんてできるスペースは無いわよ」

 

 

「それくらいは訳ないわ。美鈴はいつも外にいるし。それに屋上で育てるのはコメではなく他の作物よ。主に木ね」

 

「ふぅん、なるほどね。それで庭に大きなスペースを生み出そうというわけね。いつすればいいのかしら」

 

 

「やってくれるの?流石はパチェね。もう今年は田植えの季節が終わったからいつでも構わないわ。それじゃあよろしくね」

 

「はいはい、分かったわよ。ほら、もう行きなさい。咲夜が迎えに来ているわよ」

 

 

「本当ね。今日の昼食は頼んだわよ」「わかっているわ、行ってらっしゃい」

 

さて、冥界に向かおうか。私にとっては初めての冥界となる。死者の住まうところといっても雰囲気は悪くないところだと聞いている。

 

むしろ過ごしやすいみたいだし今から楽しみだ。

 

 

「行くわよ、咲夜。道案内は頼んだわよ」「はい、お任せくださいお嬢様」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ほぅ、ここが冥界か。雲の上を飛ぶという苦行さえなければいつでも来たくなるような場所だ。夏は霊で涼しそうだし、冬は雪景色がとても美しそうだ。

 

屋敷までの階段も飛べば大したことは無い。歩いて昇るとなると私でもかなり疲れそうであるが。

 

 

「お待ちしておりましたよ、レミリアさん。咲夜さんが来るのは少々予想外でしたが」

 

 

「そう?従者は主人を一人では歩かせないものだろう?」

 

 

「確かにその通りですね。早速客間にでも上がってもらいたいところではありますが、今幽々子様は突然来た客人と話をしていらっしゃるようなので先に昼食を作ってしまいましょう」

 

 

「こんな場所に突然来る客がいるのね。八雲紫くらいしか思い浮かばないが」

 

 

「いつもはそうなんですが今日は違うんですよ。私も知らない方でしたし、幽々子様も知らない様でしたが何かピンときたようで話を始めてしまったんです」

 

冥界の管理人も知らない客人か。何故冥界になんて来たのだろうか。

 

 

「それで、今日は何を作っていただけるのですか?幽々子様の食べる量はかなりのものですが材料は足りそうですか?」

 

 

「よく聞きなさい、妖夢。料理人とは客の腹を満たすために料理をする人ではない。客を食事で満足させるために料理をする人の事なのよ」

 

他の料理人がどう思って料理をしているのかはわからないが、少なくとも私はそう思って料理をしている。

 

 

「なるほど。そうすれば量は少なくできるかもしれないのですね」

 

 

「その通り。如何に少量で満足感のある料理を作るか、それが重要だと私は考えているのよ」

 

 

「私も料理の腕はかなりのものだと自負していたのですがそうではないようですね」

 

 

「いや、そんなことは無いわ。貴方の日本料理の腕はパチュリーをも凌ぐほどでしょう。品数も多いしすべてを食べたわけではないけれど、食べた料理はどれも美味しかったわ」

 

あー、口調が崩れてきた。まあいいか。妖夢は私の先生になるんだから高圧的な口調はむしろ失礼にあたるし。

 

 

「ありがとうございます。レミリアさんがそう言ってくださるのなら自信が持てますよ」

 

 

「貴方まだ私の料理を食べたことが無いでしょう?そう考えるのは早計ではないのかしら?」

 

 

「ははっ、そうでしたね。では早速作りましょうか。客人もそろそろお帰りになる様ですし」

 

 

「そうね。さて今日は初日だから張り切って作りましょう。調味料は自分で持って来た物を使わせてもらうわ。その方が慣れているし」

 

慣れていない調味料を使う時は大体の味を把握しないとひどいことになり得るし、初日でそれは避けたいところだ。特に持ってきている、というかいつも使っている紅魔印の調味料類は特殊なブレンドの物が多いせいで売っている物とは味がかなり異なってしまっているし。

 

ここにある調味料の味を把握出来たら持ってくるのはやめるが。

 

 

「さあ今から作るから妖夢も咲夜も台所から出ていってもらえるかしら?」「?どうしてです?」

 

 

「お嬢様はいつも料理中は立ち入り禁止にしているのよ。私も昔教え込まれていた時に少し見た程度だわ。そもそも手際が違うから見たらこれから料理する気を失ってしまうかもしれないわよ」

 

 

「そ、そんなにですか?!ほぇ~凄いんですね」

 

咲夜の意見は少し誇張されているようにも感じるがいつも立ち入り禁止にしているのは本当のこと。

 

私が目指しているのは世界でたった一つしかない『私』の料理。だから細かな味付けなどは他人に盗まれたくないのだ。それが例えパチェや咲夜でも。

 

だから咲夜に教えた技術も私の作り出したものではなく、昔読んだ料理本の中で素晴らしいと思ったものなのだ。彼女にもいつか『自分の料理』が作れるようになってほしいと思って教えた。

 

 

「ただ自分だけの料理のこだわりを大事にしているだけよ。妖夢にもあるでしょう?自分にしか表現できない味というものが。それを大切にして極めれば自ずと腕は上がっていくものよ」

 

 

「そうなんですね。わかりました、では私たちは失礼させていただきます」

 

初対面の時から思っていたけど妖夢はやはり良い子だ。素直すぎるのは欠点だと思うが。

 

 

 

   妖夢side

 

 

 美味しい。レミリアさんが作ったのはドリアというものらしい。私にはなじみのない料理だが抵抗感なく食べられる。

 

コメとチーズなんて合わないと思っていたが単なる思い込みだったらしい。明らかに洋食のように見える料理だが、レミリアさんによると初めに作られたのは日本らしい。作ったのは日本人ではなかったようだが。

 

それにしてもここまでの料理は初めて食べた。宴会でもパチュリーさんと咲夜さんが作った洋食を食べたことがあったが、確かにこれは一線を画しているといっても過言ではないだろう。

 

言葉にできない程の調和のとれた味付けだ。これを毎食食べている紅魔館の住人がとても羨ましい。

 

 

「味の方はどうかしら?実は今回の料理に使った食材と調味料はすべて自家製なのよ。そこの所の意見も欲しいわね。第三者の意見ってかなり有用だし」

 

 

「とても美味しいわ。でも驚いたわね、本当にパチュリーや美鈴の料理より数段上だなんて。一体何年料理をしているの?」

 

 

「そうね、確かもうすぐ四百年だと思うわ。始めた当初はレシピを見て作ってもひどかったものよ」

 

信じられない。しかしそれでもめげずに続けてきたからこそのこの味なんだろう。そういえばさっき気になることを言っていたような。

 

 

「そういえばすべては自家製と言っていましたが、収穫や加工も紅魔館で行っているのですか?」

 

 

「勿論よ。育てて、収穫して加工して売る。すべて紅魔館だけでやっているわ。ほとんどはパチュリーか美鈴がやってくれるけど肉の加工だけはパチュリーの使い魔か咲夜がやっているわ」

 

 

「ほとんど紅魔館総出でやっているんですね。って販売までしているんですか?!」

 

 

「えぇ、基本的には里にしているけどたまに八雲家なんかにも売っているわ。今回使ったチーズは勿論、異なる種類のチーズ、納豆、豆腐、バター、小麦粉、香辛料、砂糖とかかしらね。もう少し改良ができたら味噌や醤油なんてのも売り出すつもりよ。

 

あと八雲家にだけは油揚げなんかも提供しているわ」

 

 

「凄いですね。ですが塩はどうしているんですか?幻想郷に海はありませんが」

 

 

「塩というのはね何も海にだけあるものではないのよ。淡水である湖や川にも塩分は含まれている。幸い館は湖のほとりだから塩は結構採れるのよ。

 

普通の方法で採れる量は微々たるものだけど、紅魔館住人の様々な力を結集すればかなりたくさん採れるわ。方法は勿論企業秘密ね」

 

力ある妖怪たちが集っている紅魔館だからこそできる芸当なのだろう。いつか行ってみたいものだ。最近顕界に行くことは多くなっているがどうしても買い物が重要なので寄り道ができないのだ。

 

 

「来たくなったら来てみなさいな。秘密は明かさないけど厄介事でなければ歓迎するわよ」

 

その時の料理は恐らく咲夜さんが作るのだろう。あ、そういえばレミリアさんが来たのは私に和菓子の作り方を教わるためだったっけ。

 

ならばあまりこんなところで時間を使わない方が良いだろう。

 

 

「いつかお邪魔させてもらいますよ。では食べた直後で申し訳ないですが早速和菓子作りを始めましょう。洋菓子とは勝手が違うと思いますがレミリアさんなら大丈夫でしょう」

 

 

「そうかしら。お菓子作りは感覚ではいけないから誰でもてこずるものよ。だからきちんと基礎から教えて頂戴ね」

 

 

「勿論わかっていますよ。レミリアさんは何か作りたいものなどありますか?」

 

 

「そうねぇ、今の季節だし柏餅にしましょう。里で食べたものと比べてみたいし」

 

 

「柏餅ですね、わかりました。では早速台所へ向かいましょう」

 

 

「えぇ。咲夜は幽々子の話し相手でもしておいて頂戴。おやつの時間までかかるかもしれないから」

 

 

「かしこまりました。ですが何か話題などありましょうか」

 

 

「話題なんて探すものではないわ。それに幽々子は話し上手でしょうから聞き手に回っていても良いかもしれないわね」

 

 

「あらあら、これは責任重大ね~。一刻ほども話し続けられるかしら」

 

まあ幽々子様なら問題ないだろう。どちらかというと咲夜さんが話について行けるかが心配だ。




今回はレミリア回。次回は同じ時間のパチュリー回です

異変続きだったので霊夢には少し休憩してもらいます。本当に少しの間だけですが


では次回も読んでいただければ幸いです
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