パチュリーside
レミィが白玉楼に通うようになってからもう数か月が経った。和菓子の方も順調に腕を上げられているようで、初めに食べた物に比べると店の味に近づいたと思う。まあ初めの物もそこまで悪い味ではなかったのだけれど。
流石とも言うべきかレミィは食のことになると気合が入りまくっている。もし私たちが魔界に行っていなかったらこうはならなかっただろう。レミィにとってはどちらの方が良かったのだろうか。
ある意味彼女の人生を狂わしてしまった直接の原因である私はできるだけ彼女の願いには応えるようにしてきた。つい最近も屋上に畑を作ったところだ。
結局屋上へは外からしか行けないようになってしまったが、レミィがそれでいいと言うのならそれに甘えさせてもらうことにした。
そんな感じで今までほとんど彼女の願いは聞いてきたが、応えなかった時もある。それが吸血鬼異変の時であり、また今回もであるだろう。
今夜レミィが図書館に来た時点で色々と察することはできる。まあ一応聞いておくが。
「夜にあなたがここに来るなんて本当に珍しいわね。大体予想はできるけれど何の用事かしら?」
「今夜の月、パチェにはどう見えるかしら?」
「やはりそのことだったのね。今夜の満月は少し歪ね。でも私は異変解決には乗り出さないわよ」
「あら、そうなの。パチェなら力になってくれると思ったのに残念ね」
「まあ咲夜と二人でのんびり行ってきなさい。今夜は当分明けないでしょうから」
「どうしてそう思うのかしら?」
「簡単なことよ。今夜は月がおかしくなっているだけでなく夜も止まっているわ。術者は同じではないから恐らく解決者側が夜を止めているみたいね」
恐らくも何もないがここは知らないふりをしておかなくてはならない。
「夜を止めるメリットは何かあるのかしら」
「この月は妖怪を狂わせる。本来妖怪の力が満ちるはずの満月が満月でない、それはとても恐ろしいこと。なんとしてでも今夜中に解決しておきたいのでしょうね」
「ふーん、そういう意図が。しかしもう先を越されているとなると拙いわね。私たちも早く行くわよ、咲夜」「勿論でございます」
「あぁ、一つ言っておくけれど味方と遊ぶ事ほど無駄な時間はないわよ」
「?よくわからないけど一応心に留めておくわ」「では行ってらっしゃい」
此度の異変、本来なら特に起こす必要も無い異変だ。解決者は恐らく四組とも出ているだろう。私が行くのは場違いにもほどがあるというもの。
永遠亭の歴史は今夜ようやく動き出す。彼女たちも外を知ればもっと楽しめるだろう。
アリスside
今夜はどうやら月の様子がおかしいようだ。しかしどうやら人間には感知できない程の差異らしい。
現に解決するにあたって魔理沙を呼んだが彼女は月の異変ではなく、何者かが止めた夜の方にしか注目していない。まあ来てくれるのならどちらでも構わないけど。
「しかしアリスよ、どこに向かえばいいのかわかっているのか?」
「わかるはずないわよ。まあとりあえず里にでも行ってみましょう。何か情報が得られるかもしれないわ」
「人里ねぇ。異変から一番遠そうだが、まあ動かないと何も進まないからな。行くか」
ようやく里についた。途中で倒れている蛍や夜雀を見かけたがいちいち構っている暇はない。
「ありゃ?里ってこの辺りじゃなかったか?」
「なんだお前たちは。こんなところに何の用だ」
「あら、慧音じゃない」「ん?お、誰かと思ったらアリスだったのか」
「なんだ?知り合いか?それなら話は早い。おい慧音とやら、ここにあった人里は何処にやったんだ?」
「今夜は怪しい月が昇っているからな。人間に危害が加わるのはごめんだから歴史を隠したのさ」
「…………私には普通に見えているわよ」
「あぁ、実はこれは強い妖怪たちには効果が薄いらしい。さっき来た奴らのおかげで判明したことなんだが」
私が見えるのはパチュリーに鍛え上げられたからだろうか。こんなところで自分の成長を実感できるとは思ってもみなかったが。
「ちなみにこの月の原因ならあっちの竹林だろう。里に危害を加えるというのなら戦ってやるが」
「お?やるか?」「やめなさい。とにかくこの異変は早く解決しないと危ないわ」
「ちぇ、つまんねーの。今夜はまだ寄ってくる妖精どもとしか遊べてないじゃないか」
「それで良いのよ。どうして貴方はただの人間なのにそこまで好戦的なのかしら。もしかして人間ではなかったの?」
「れっきとした人間だぜ。今のところはやめるつもりもない」
「ならむやみに突っ込むのは避けた方が身のためよ。自らを滅ぼすことにもなりかねないわ」
「そんときゃそん時に考えればいいことだ。今を全力で生きることが大切だって習わなかったか?」
「生憎習っていないわね。そんなことはいいからさっさと竹林に向かうわよ。時間がもったいないわ」
「今夜はまだまだ明けないんだ。少しくらいゆっくりしてもいいんじゃないか?」
「はぁ、さっさと行くわよ」 「ちぇ、わかったよ」
幻想郷において竹林と言えば迷いの竹林のことだ。その名の通り全貌を完全に熟知していないと必ず迷う。
さらにあの竹林には妖獣が多いと聞く。好んで入りたい場所ではないが、幻想郷の妖怪全体の危機ともなれば立ち入らざるを得ない。
しかし慧音は何故竹林に住む者が原因だと分かっていたのだろうか。今のところ竹林に人が住んでいるという話は眉唾物の妖怪退治集団の物しか聞いたことが無い。
だが少し力を持っているだけの人間にこの異変は起こせない。この異変を起こせるような力を持つ者は魔界でもほとんどいないといっても良い。できることなら敵に回したくないような実力者がこんな場所に住んでいたとは…………。
「動くと撃つ!間違えた。撃つと動くだ。今すぐ動く」
「何やっているのよ…………」「何?魔理沙?どうしてこんなところにいるのよ」
霊夢を見つけたから絡みに行ったのか。今日はなかなか戦闘にならなかったから鬱憤を晴らすためか。面倒なことになった。
「あらあら、霊夢と魔理沙が遊び始めてしまったわねぇ」
「はぁ、こうなることもわかっていたんでしょうに。夜を止めているのは貴女ね」
「えぇ、私を退治するとでも言うのかしら?」
「まさか。夜を止めるのは正しい判断だったと思うわ。
はぁ、私としては遊んでいないで早く異変の元凶にたどり着きたいところなんだけどね」
「此度の異変の元凶は途轍もない実力を持っているでしょう。
「弾幕勝負なら勝機はあるでしょうね。でもどうしても危ないと思ったら退かせるわ」
「まあそれが良いのでしょうね。霊夢は博麗の究極奥義があるから大丈夫でしょうけど」
博麗の究極奥義ねぇ。ただでさえ反則級に強いのに究極奥義なんて出されたら二秒で撃墜される自信がある。
「霊夢は貴女が育てたんだっけ?本当に流石ね」
「うふふ、これも幻想郷のためですもの。それくらい訳ないわ」
妖怪に容赦しないように育てられた記憶まで消す手の込みようだ。幻想郷を心から愛しているであろう彼女には常人以上の母性がありそうなものなのに。
まあそれが彼女を大妖怪たらしめる所以なのだろう。目的のためならば少々の犠牲は切り捨てる、か。言うのは誰にでもできるが実行に移せる者はあまり多くないだろう。
「でも霊夢が魔理沙と仲良くなってしまったのはどうなの?」
「それは誤算だったわね。霊夢の性格上妖怪たちにも気に入られてしまっているようだし。まあ一度以上は退治しているから目を瞑っているけれどね」
「おや?アリスに八雲紫じゃあないか。こそこそ作戦会議でもしているのかい?」
「あら、こんばんはレミリア・スカーレットに十六夜咲夜。別に作戦会議をしているつもりはありませんわ。ただ霊夢たちが遊び始めてしまったから保護者同士で立ち話をしていたところですわ」
「なるほどな。パチェが言っていたのはこういう事だったのね」
「あら、パチュリーが何か言っていたの?」
「えぇ、味方と遊ぶ事ほど無駄な時間はないってね。そういうわけで私たちは先に行かせてもらう事にするよ。ではさようなら」
パチュリーにはこうなることがお見通しだったってわけか。彼女も来たら良かったと思うけど何故来ていないのだろうか。
「ようやく終わったみたいね。どちらも何処か納得できない顔をしているけれど」
何故だろうか。まあ特に意味もない勝負だったし勝負の行方は正直どうでも良かったからきかないけど。
「まさか勝負がつく前に横やりを入れられるとは思ってもみなかったぜ。なあ妖夢よ」
「え?え?私が悪いの?私は幽々子様に言われたことをしただけなのに…………」
「あら~?あれを真に受けちゃったのね。悪かったわね、二人とも」
「はぁ~、もういいぜ。諦めているからな」「ひどいことを言うわねぇ」
どうやら白玉楼の二人組も解決に乗り出していたみたいだ。まあ幽々子は風流だしこの月が気に入らなかったのだろう。
多分これで全員と会ったのかな。まだいたとしてもそれはたぶん私の知らない人だろう。
「もういいかしら?さっさと異変を解決しに行くわよ」
「そうね、大体の目星は付けておいたからそのあたりに行きましょうか」
流石は紫。話している間にも周囲の結界を調査していたようだ。こういう時は本当に頼りになるんだけど普段の振る舞いが胡散臭いせいで信頼されていないのだろう。
何とも悲しい大妖怪だ。
パチュリーside
夜が止まってから早数刻。まだまだ夜が明ける気配はない。この月はなかなかに厄介な代物だ。
私の能力でかなりの影響を抑えているが、一刻ごとくらいにフランドールから狂気が出てくる。それを抑えるために美鈴とこあと私はフランドールの部屋の前にずっといなければならない。
狂気がまだお子様なのが不幸中の幸いだろう。もし狂気もフランドールと同じように成長していたならば私たちにはどうすることもできなくなっていた。
前回の狂気が出たのは半刻ほど前。たまに一刻経たずに出てくることもあるのが非常に厄介な点だ。
「パチュリー様、この異変はいつ終わるのでしょうか」
「わからないけれど恐らくはあと一刻ほどじゃないかしら。眠たくなったのなら仮眠していても構わないわよ」
「いやまあ眠いわけではないのですが。しかし美鈴さんも大変なのではありませんか?」
「いやいや、そんなことはありませんよ。少し気を落ち着けるだけの簡単なお仕事ですし。あ、その本取っていただけますか?」
レミィが館を出てしばらくしてからはずっとこんな状況だ。本を読んだりして次の狂気が出てくるのを待つ。出てきたらこあが引きつけて美鈴が気を落ち着ける。最後に私が強制的に眠らせる、というサイクルだ。
かれこれ四回ほど回っている。大した疲労はないが面倒なことではある。
今のレミィたちは恐らく永遠亭に着くころだろう。永遠亭の面々は皆曲者ぞろいだが弾幕勝負になれば恐らく負けることは無いだろう。
一番楽な終わり方は紫が永琳に大結界の事を話すことだけれど。どうなるだろうか。
過去の一件から月の民の恐ろしさは十分に理解しているはず。それにこの術を行使している時点で実力は計り知れないものとなっているだろう。
月の頭脳を相手に幻想郷の賢者は何処まで着いて行けるのだろうか。
永琳ばかりに注目していたが輝夜も実際かなり強い。昔は全然そんな雰囲気を見せなかったために本当の実力のほどはよくわからないが、本気を出せば幻想郷でも二、三を争うほどには強いのではないだろうか。
何せ紫たちの止めた夜を力ずくで進められるような実力者だ。永琳より弱いと言っても比較対象が既に間違っていると言わざるを得ない。
レミィも紫も油断はしていないだろうがくれぐれも気を付けてほしいものだ。
永夜抄です。基本原作に準拠するようにしたいのでパチュリーは動きません。アリスが慧音と知り合いだったりと違うところも多々ありますが
では次回も読んでいただければ幸いです