諏訪子side
最近は考え事をすることが多くなってきている。理由は単純、私と話ができる者がもうほとんどいないからだ。
どうしてこうなってしまったのだろうか。つい千年前まで私たち神の力は絶大だった。人間たちは神を強く信仰していた。
いつからだろうか、人間が私たちに縋ることは無くなってしまった。神という存在を人間が排除し始めてしまった。
今この世界にある神社のほとんどはもはや機能していない。祭神であった神が消え、観光地と化してしまった神社に一体何の価値があるのだろうか。
幸い私も神奈子もそこそこ強い力を持つ神なのでまだ消えるまでには至っていない。しかしそれも時間の問題だろう。既に私たちを視認することができるのは
私の子孫であるとはいえあの子はかなりの才能を持っている。この神社も早苗の前の代までは巫女になってしまっていた。私たちを視認できないがゆえに風祝はもはや過去の物ともいわれてしまうようになってしまった。
そこにあの子が生まれたのだ。まさに奇跡の申し子ともいえるほど、現代ではまず見られなくなった豊富な霊力を以て私たちを視認した。私たちは当時勿論喜んだが、現実は非情だったのだ。
早苗が私たちを視認できるせいであの子は周りから浮いてしまった。まだ心が純粋だった小学校低学年の内は良かった。しかし成長すれば人間は自分の見える物しか信用しなくなるものだ。
こんなことになるくらいなら見えない方が良かったのではないかと思う。先代までは普通の生活をしていたのを見ていたからだ。私たちは早苗の重荷にしかなっていないのではないだろうか。
「ま~たそんなところで一人考え事をして。一体いつも何を考えているのさ」
「あぁ、神奈子か。別に、何でもないよ」
「付き合いも長いんだし諏訪子が何かに悩んでいることなんてお見通しよ?ま、無理に話せとは言わないけどね。それよりも良い話があるんだけど」
「良い話?もうすぐ消える私たちに良い話なんてあるのかねぇ?」
「それがあるのよ。引っ越し、しないかしら?」「一体どこにさ」
「この世界とは別に結界で閉鎖された幻想郷なる場所があるらしいわ。そこには現代において幻想とされる妖怪や幽霊、神なんかも住んでいるそうよ」
「…………その話、誰に聞いたの?私たちと会話ができる存在自体もはや幻想に消えていてもおかしくないと思うんだけど」
「誰かはわからないのよ。寝ていたら急に声が聞こえたの。周りを見ても何もいなかったんだけど、その後も会話はできたから幻聴ではないのよね」
「胡散臭いなぁ。それで?もし行くとしても場所もわからないのにどうやって行くつもりなのさ」
「それは恐らく問題ないと思うわ。私たちはもう既に幻と実態の間で揺らいでしまっている。それに現代のこの状況…」
「私たちは幻側に大きく寄ってしまっているという事か。確かに実態があると認識できる瞬間は神奈子か早苗と話しているときくらいだもんね。参拝客からは全く信仰を感じ取れないし」
「そう、だから引っ越しに関しては恐らく問題はないわ。早苗も……………………恐らく私たちがいない方が幸せな人生を送れるでしょう。どうやらあちらに行くとこちらの世界では完全に忘れられることになるみたいだから早苗の将来にも全く害が出ないはずだし」
「確かにね。でも私はまだ引っ越しに同意できないよ。考える時間がもう少し欲しい」
これも仕方のないことだ。私たちがその幻想郷とやらに移住するのが最も手っ取り早く事を解決させる方法だろう。しかし今すぐに決めるのは私にはできない。
神奈子は良い。長く諏訪に住んでいるとはいえ、もともとは外部の神だから。だが私は違う。私はこの地で生まれた土着神、この地を離れれば使える力はかなり少なくなってしまうだろう。今のこの状況よりは幾分かましだろうが。
しかし主な理由はそれではない。私は生まれた時からこの地の人間からの信仰で国を治めてきた。この地を離れることにはかなりの抵抗がある。
「あんたはそういうだろうと思っていたよ。大丈夫、消えるまでにはまだもう少し猶予があるからじっくり考えなよ。ま、私は消えそうになったらこの神社ごと幻想郷に行ってやるけどね」
「ははっ、私に選択権は無いのかい?全く困った奴と一緒に生活してきたもんだよ」
「そうでもしないとあんたは着いてこないかもしれないじゃない。ふふっ、でも案外元気そうで何よりだわ」
「神奈子様、諏訪子様、ただいま帰りましたよー」
「あら、早苗はもう帰ってきたのね。お帰り」「お帰りー」
早苗に両親はいない。もう既に他界してしまっているのだ。そんな彼女を一人置いて出て行くとなると一体早苗はどういう顔をするのだろうか。
パチュリーside
何故か最近レミィがそわそわしていると思ったらどうやら藍に唆されて月に行きたくなったらしい。ロケットを作るのは勿論私になるのだがまあそこまで難しくはない。
理由は勿論完成形を知っているからだ。三神の力を借りればロケットは月に行くことができる。
しかし私だけでその結論に至ったとなると流石に怪しまれるだろうから咲夜に課題として三つの筒を探してくるように言ってある。あまりに早くロケットが完成してしまっても紫の計画に支障が出てしまうし。
そんなこんなで課題を出してから咲夜は色々な手掛かりを探しているようだ。私の仕事は彼女が課題をクリアした後だからまだまだだろうから今はゆっくり本でも読んでおけばいいだろう。
「はぁい、ごきげんよう」「あなたから来るなんてかなり珍しいわね。何か用でもあるの?」
「えぇ。貴方、外の世界に出張してくれないかしら?」
「外?何故急にそんな話になったのか説明してもらっても?」
「勿論よ。最近になって外の世界では妖怪だけでなく神も消えていっているわ。ここに来るのではなく消滅という形によって。そこで私は色々手を尽くしているわけなのよ。今目をつけているのは外の世界でもまだ残っている力の強い神々よ」
「で?その力の強い神々というのは何処の神なのかしら?」
「貴方も良く知っているはずの神よ。場所は信州諏訪、守矢神社よ」
「ふぅん、なるほど。その二柱を幻想郷に呼び込むために外の世界に行ってもらいたい、と」
「そういうことよ。行ってくれるかしら?」
「あなたは本当に意地が悪い。あなたに返しきれない恩がある私が断れるはずが無いじゃないの。それでいつから行けばいいのかしら?」
「ありがたいわ。行ってもらうのは明日からにしましょう。今日は流石に急すぎるでしょうからね。では明日寅の刻に迎えに来るわ」
「寅の刻って…早すぎないかしら?まあ寝ないからいつでも変わらないけれど」
「ではそういう事でよろしくね。レミリアにもしっかり伝えておいてね」
「えぇ、任せなさい。それと紫、もし私が外にいる間に咲夜が課題を終えてしまったらどうするつもりなの?」
「ふふ、そんなことはあるわけないわ。いくらあの子が優秀でも誰にも頼らず調べているうちはその心配は必要ないでしょうね」
「確かにそうね。ではまた明日会いましょう」「えぇ、ありがとうね」
昔からそうだがいつもお願いする側は私だった。彼女はいつもお安い御用と言いながら私の願いを聞いてくれていたが、まさか彼女の願いを聞く側になるとは。今回だけでは今までの分を帳消しにはできないがせめて失敗しない様にはしなければならない。
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「えぇっ?!急に外に行くことになったの?ロケットはどうするつもりなのよ」
「それに関しては問題ないわ。恐らく帰ってくるのは秋ごろでしょうからそこから作っても十分に間に合うはずよ」
「そう、ならいいんだけど。でもパチェがいなくなると思うと少し寂しくなるわね」
「昔はもっと長い期間館を空けていた時期もあったじゃないの」
「そうだったわね。あの時は料理で驚かせてあげたから今度は和菓子かしらね?」
二年しか修行をしていないはずなのに、味に関しては店のものにわずかに劣る程度のものになっている。それだけでもう十分すぎるほど驚いているというのにこれ以上どう驚けと言うのだ。
「たったの数か月で今よりもっと味が良くなるものなのかしら?」
「ふふん、私の料理へのこだわりをなめてもらっては困るわね。貴方が帰ってくるまでの数か月で今まで以上に必死に修行すれば不可能ではないわ」
食に関してのレミィはそれが嘘ではないから恐ろしい。本当にどうしてこうなった。
「まあ楽しみにしておくわ。私の留守中は図書館を完全にこあに任せるから館の仕事は与えないであげて頂戴ね」
「そうね。最近は特に泥棒への対応を厳しくしているようだし」
そう、最近の魔理沙はかなり危険な本まで持ち出そうとしているのだ。彼女のレベルの少し上の本なら強くなるためには読んだらいい。しかし背伸びをしすぎると彼女の身に危険が及んでしまう。
もしもの事を考えればこれには目を瞑っていられない。魔理沙にその本を取らせないようにするだけなら私の謎空間にでもしまっておけば十分なのだが、そうするとその本をアリスが読めなくなってしまうのだ。
だから最近は魔理沙に盗られた本は次の日までには取り返すようにしている。勿論ただ取り返すだけではなく彼女に合った魔導書を数冊置いてきているが。
「流石に数か月も館を空けることになるから危険そうな魔導書は図書館から一時的に撤去するわ。勿論アリスには後で伝えておくけれど。こあの仕事はその空いたスペースに入ってくる外来本を処理することよ」
「うわぁ、パチェもなかなかひどいことをするのね。でもその仕事は図書館の本を網羅している小悪魔にしかできないというわけね。別にそんなことをしなくても空きスペースができないように適当なものを詰めておけばいいんじゃないの?」
「…………確かに。それが最も手っ取り早い手段だったわ。あなた天才ね」
「パチェってたまに変な所で抜けてるわよね。
ま、いいわ。出発は明日の朝なんでしょう?今日のうちにアリスには伝えに行かないといけないんじゃないの?」
「アリスは今図書館に来ているから問題ないわ。明日の朝はかなり早いから見送りは必要ないわよ」
「早いってどのくらいなの?」「四時くらいよ」
「はい?四時ぃ?いくら何でも早すぎるわねぇ。でも見送りはしたいわね。今日は早めに寝ることにするわ」
「別に構わないのに。でもその気持ちはありがたいわね。ではまた夕食の時にね」「えぇ」
結局レミィは見送りをしてくれるらしい。うーん、この調子だとフランドール以外は見送りに来る可能性がある。美鈴はまず間違いなく来る。朝の空気はとても澄んでいて良いとか言っていつも早起きだから。
レミィが来るなら咲夜もセットで着いてくるだろう。こあは正直わからない。彼女はかなりマイペースな所があるから予想がつかない。まあ私としては誰も見送りに来なくても全然構わなかったのだけれど。
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見送りにはまさかの全員が来てくれたみたいだ。まさかフランドールまで起きてきてくれるとは思わなかった。
「別に眠いのなら無理に起きてこなくても良かったのよ?」
「眠くなんてないよ。だって早く起きるために昨日は八時には寝たもん」
なんとまあ健康的な吸血鬼だ。夜行性とは一体何だったのだろうか。
「それにこの時間ならまだ日が出ていないから外に出られるし、パチュリーとも数か月会えなくなるって言うしね」
なんて良い子なんだ。ウルっときそうになった。
「まあまあ皆さんお揃いで。愛されているわねぇ、パチュリー」
「まあありがたいことよね。こんな早くから皆見送りに来てくれるなんて」
レミィは朝食まで作ってくれていた。更にお昼のおにぎりまで用意してくれるという親切さ。よくここまで良い子たちに育ってくれたものだ。育て親のような立場の者としては感慨深いものがある。勿論おにぎりは謎空間にいれて保温もばっちりだ。
「それでは早速行ってもらいましょうか」「えぇ、皆元気で過ごして頂戴ね」
「パチェもね。喘息には十分気をつけなさいよ。美鈴がいないんだから」
外で過ごすのは数か月だが一年分以上の量の薬を持ってきている。理由は外の世界の空気の問題だ。幻想郷は空気がきれいなので喘息にはなりにくいのだが、外の空気はかなり汚れてしまっているだろう。山に囲まれた諏訪でも昔のようにはいくまい。
薬は多めに持っていくに越したことは無い。髪色も黒に見えるようにしたし変装もばっちりだ。服は良いものが無かったので仕方なく普段着用の着物だが、まあ多少目立つくらいだろう。
「ではね、また数か月後には会いましょう」
紫のスキマを通るのはかなり久しぶりだ。相変わらず中の趣味は悪いが懐かしいものだと思えば大して気にならない。
ここを抜けた先はすぐに諏訪なのだろうか。それだとかなり楽になるのだけれど。
一瞬だけ出た早苗さんは四番目に好きなキャラです。私の好きなキャラTOP10で出ていないのはあと一人だけなんですよね。どうでもいいですが
早苗は高校生という設定にしておきます。その方が都合が良いので
次回は風神録です。儚月抄の導入はありましたが本編はもう少し先です
では次回も読んでいただければ幸いです