行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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神様的第四十四話

   パチュリーside

 

 

 スキマを抜けた瞬間にここは諏訪ではないと感じた。直感だが恐らく間違ってはいないだろう。

 

これはかなり面倒なことになった。今がどこなのかは少し調べればわかるだろうが諏訪からはどれだけ離れているのだろうか。せめて本州ではあってほしい。

 

とりあえず今どこにいるかを調査しないといけない。昔と違って現代は情報であふれている。会った人に『ここは何処ですか』なんて聞いてしまえば手厚く保護されてしまいかねない。もしくは馬鹿にされる。

 

一先ず周りを歩き回ってみれば何かしらはわかるだろう。

 

少しの間歩き回ったがなかなかに景色の良い場所だ。空気も悪くないし海も綺麗だ。海があった時点で諏訪ではないことが確定したのは残念だったけれど。

 

そして特徴的だったのが五重の塔と所々にある金山の看板。……………………私の前世の記憶が正常に働いているのならここは佐渡島になるだろう。まさか本州ですらなかったとはつくづく自分の運の無さには呆れてしまう。

 

でも悪いことばかりではない。ここが佐渡島なのならば海さえ渡ればすぐに諏訪に着ける。下手に東京何かに送られていれば人目を盗んで空を飛ぶことすらできなかっただろうからその点はありがたい。

 

 

「おや、旅のお方ですかな?今の時代珍しいですが」

 

「へぇ?私を試そうとしたって無駄よ。狸に構っている暇はないわ」

 

 

「なんと、もうばれてしまったか。儂ももうだめかもしれんなぁ」

 

「何を馬鹿なことを。あそこまで妖力を出しておいてばれない方がおかしいでしょうに。それにあなたの伝説は昔に何度も聞いたわ。佐渡の狸の頭領、二ツ岩大明神。いえ、マミゾウさん」

 

 

「最近の妖怪連中はたるんできておるのでな、儂が妖力を出して近づいても儂を人間と勘違いして襲ってくる奴もいるんじゃ。むしろお前さんのような者の方が珍しいくらいじゃ」

 

「今の妖怪はそこまで力を失ってしまっているのかしら?」

 

これは急がないといけない。神もかなりの力を奪われてしまっているだろう。消えさせるわけにはいかない。

 

 

「その通りじゃ。儂ら化け狸の中にも人間に化けたまま戻らず人間として生きている奴もいるくらいじゃ。して、お前さんは何者じゃ?儂が伝説と語られたのはもう随分と昔の事。最近の妖怪は知らぬ事じゃと思うんだが」

 

「私はこう見えても千六百年以上は生きている生粋の魔法使い、パチュリー・ノーレッジ。またの名を大都庶樺菜。日本にいた頃は陰陽師をしていたわ」

 

 

「ほほぅ、お前さんがかの有名な伝説の陰陽師なのか。何じゃ、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。それで何故こんな島にいるのじゃ?」

 

「友人に送られた先がここだったのよ。急いでいるから今夜中には島を出るわ」

 

 

「それは残念じゃな。おお、そうじゃ。漁船に見られても大丈夫なように鳥にでも化けさせておいてやろう。どうせ飛んで島を出るんじゃろう?」

 

流石マミゾウ、面倒見がいいと称される所以はこういうところにも表れているのだろう。

 

「いいの?それは助かるわね。短い間だったけれど楽しかったわよ。また会えるといいわね」

 

 

「生きていればまた会う事もあるじゃろう。その時は酒でも飲みたいものじゃな」

 

「そんなことをすれば間違いなく私が死んでしまうわ。冗談でしょうけれど。ではまた」

 

 

「そりゃそうか。ではまたな。次がいつになるかはわからんが」

 

急に佐渡に飛ばされて戸惑ったがおかげで貴重な体験ができた。

 

化けさせられても中身は変わらない。喘息にだけは十分に気を付けなければならない。幸いここは比較的空気の綺麗な北陸だ。昔のような事にはならないはずだ。

 

明日の朝には諏訪に着けるだろう。いきなり会いに行っても困るだろうから徐々に近づいて行こう。

 

 

 

   早苗side

 

 

 学校に行っても皆が私の事を異常な奴だと思ってしまっているから正直あまり楽しくない。両親がいないから学費免除のためには良い成績を維持して奨学金制度を受け続けなければならない。

 

勉強は嫌いではなかったから高校に進学したのにここまで惨めな学園生活を送ることになるとは思っていなかった。小学生の時は皆神様の話を信じてくれていたのに何故信じてくれなくなってしまったのだろうか。

 

神頼みをしている人たちを見ても全く神に対する信仰心は持っていないようだし、ただ自身の力不足を解決してくれる都合の良い運のような物だとしか考えていないようだ。

 

存在を否定する癖に都合よく力を頼る、なんと愚かしいことなのだろうか。日本の神はそれぞれ得意とする分野が異なる。自身の目的によって行く神社は考えなければならないのに現代の人間たちはそのあたりの事をさっぱり理解していない。

 

たまにうちの神社の絵馬に学業成就の願いが書いてあることがあるのが良い証拠だ。学業成績なら天神様に行くべきだというのに。

 

何故こんなことがあるのかを昔神奈子様に聞いたことがあった。その時は確か『最近の人間たちは神を信じていないだろう?だから神社ならどこでも同じだと考えてしまうのさ。なんでもできるのは外国の一神教の神だけなんだけど』とおっしゃっていた。

 

何故私にだけ神が見えるのだろうか。むしろ何故皆には見えないのだろうか。幽霊を見る事ができる者はたまにいるのに神を見る事ができる者にはまだ一度も会ったことが無い。

 

帰りの神社の階段は考え事をしながら歩くのに丁度いい。何も考えずに登ると長く感じてしまう。

 

 

「神奈子様、諏訪子様、ただいま帰りましたよ」

 

幼いころに両親を亡くした私にとってはこのお二柱が両親の代わりだ。神様が両親代わりなんて贅沢だとは思うがこんな話をしても誰も信じてはくれない。

 

 

「お、早かったね早苗。お帰り」「お帰り。着替えたらでいいから今日の絵馬を見てきて頂戴」

 

 

「わかりました。少しお待ちくださいね」

 

神をすっかり信じなくなった今でも形式だけの参拝客がたまに訪れては絵馬を書いていくことがある。この神社の巫女は私だけなので絵馬は無人販売という事になっているが、このご時世に参拝してくれるような客はマナーの良い人が多いので助かっている。

 

まあお金を払わずに絵馬を書いたり、神社の物を壊したりすると諏訪子様の祟りが身に降りかかることになるんだけど。神を信じない人にも神の祟りは効くそうだ。

 

そんなこんなでいつもの装束に着替えて今日書かれた絵馬を見る。今日は三枚か、いつもとあまり変わらない。

 

 

「今日はこの三枚でした」

 

 

「三枚かぁ。私たちも随分と力を振るえなくなったものね。どれ、今日こそは私たちが何とかできそうなお願いがあるのかしら」

 

 

「うーん、どうだかなあ。最近の人間は願い事を書きさえすればいいと思っているんだから……お、これなら神奈子でも簡単にできるんじゃない?」

 

 

「今の私でも簡単にできることを祈る人間がいるとは思えないけど…あー、うん。確かに簡単ね」

 

 

「一体どんなお願い事があったのですか?」「これよ、これ」

 

”建御名方神の直筆のサインが欲しい。また取りに来るから賽銭箱の上にでも置いていてください”

 

 

「なんですか、これ。今時珍しいお願いですが何か怪しくないですか?」

 

これを書いた人は神が見えるという事なのだろうか。いやいや、そんな人はいるわけがない。

 

 

「きっとこの神社の祭神の名前をわざわざ調べて書いてきたんでしょうね。面白いから本当に直筆でサインしておきましょう。いつ取りに来るかは知らないから明日は一日私が賽銭箱の前で立って見張っておこうかしら」

 

 

「どうせ神奈子の姿は見えっこないもんね。面白そうだし良いんじゃないの?」

 

 

「そうと決まれば早速書いておいてこようか。早苗は夕飯の支度をしてくれるかしら?」

 

 

「あっはい。今から作りますね」

 

しかしわざわざからかうために絵馬を買うなんて失礼な人もいたものだ。幸い明日は休日だから神社に来たところを捕まえて神奈子様たちの代わりに私が色々と聞かなければならない。

 

           ・

           ・

           ・

 

あれからは特に何事もなく朝になった。神社では朝から境内の掃除をしておかなければならない。神奈子様のサインはまだ賽銭箱の上に載っている。神奈子様は風の神でもあるので風で飛んでいくという事はない。

 

 

「おはよう、早苗。朝ごはんまだ?」

 

 

「おはようございます、諏訪子様。朝ごはんは今から作りますよ。十五分ほどお待ちください」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふぅ、ごちそうさま。いやー、やっぱり早苗の作るご飯は美味しいね。昔ながらの味も良いけど現代風の味も悪くないね。あんたもそう思うだろ?神奈子」

 

 

「えぇ、本当に美味しいわ。どこに嫁に出しても問題ないくらいね。ごちそうさま。

 

さて、じゃあ私は賽銭箱の前で陣取っていることにするわ」

 

では私は洗い物でもして境内の掃除の続きをすることにしよう。休日はいつもより多くの客が訪れるからいつもより念入りに掃除をしなければならない。勿論いつも丁寧にしているが。

 

 

「なっ!どういう事だ?!」「そんなに騒いで近所迷惑だよ。一体どうしたんだい」

 

急に神奈子様が叫んだが彼女の声は人間には届かないので近所迷惑にはならない。あくまでも聞こえているのは私と諏訪子様だけなのだ。

 

 

「どうしたもこうしたもない。諏訪子、早苗もこっちに来てこれを見てみなさい」

 

 

「何?また新しい絵馬が書かれていたのかい。それはどんな内容だったんだい?」

 

 

「読んでみればすぐにわかる。そして私のサインも無くなっている。書いたのは同一人物とみて間違いわね」

 

 

「なになに…”洩矢神の直筆サインが欲しい”?簡単な事じゃないか。なんであんなに叫んだの?」

 

 

「は~、まったく諏訪子は。良いかしら?この神社に神が二人いるという事実を知っている人間は早苗だけなのよ?それなのに諏訪子の名前を出してきた。これは確実に普通の人間ではないわ」

 

 

「なるほどねぇ。ま、私もサイン書いて置いておこうか。面白いことになりそうだし」

 

 

「危機感のかけらもないわね。まあ好きにしなさい。ここは貴方の神社なんだから」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

あの日以降は諏訪子様のサインがいつの間にかなくなっていたこと以外は特に怪しいことも無くひと月ほどが経過した。最近近所の定食屋にかなり腕のいいバイトが入ったらしい。

 

何でも定食屋のお手軽な値段で高級料理店以上の味が楽しめるとか。そんなことは嘘に決まっているが一度は食べに行ってみたい。最近できたTwitterというものでもかなり拡散されているようだ。店のレビュー欄でも好評のようだし。

 

だが残念なことに一緒に行くような友人はいない。諏訪子様や神奈子様と一緒に行っても(傍から見れば)一人で四人席を占領するのは気が引ける。

 

 

「神奈子様、知っていますか?近所の定食屋の話」

 

 

「ん?あぁ、勿論知っているよ。私も一度食べてみたいんだけどね。そうだ、早苗。店から一キロ圏内なら宅配ができたわよね。今日のお昼はそうしましょう」

 

 

「おぉ、いいね。私も丁度気になってたんだよ。という事で早苗、電話よろしく。私は唐揚げ定食で」

 

何故定食屋が宅配に対応しているのかは甚だ疑問に思うところであるがしてくれるのならそれに越したことは無い。

 

 

「神奈子様はどうなさいます?」「うーん、とんかつ定食で」

 

私は無難にメンチカツ定食にしよう。

 

          ・

          ・

          ・

 

あれから二十分。もう配達が来たようだ。自転車で配るから店から一キロ圏内なのだろうか。神社の階段はしんどいはずなのだが来た人は息切れ一つない。下手すると彼女は毎日階段を登っている私より体力があるかもしれない。

 

お代は三つで千六百円。まあまあ安いのではないだろうか。

 

 

「あの、さっきから一体どこを見ていらっしゃるのでしょうか?」

 

「いえ、何でもありません。お気になさらず。では千六百円確かに受け取りました。冷めないうちにお召し上がりくださいね」

 

彼女が見ている方を見るが特に変わったところはない。まあいいか、今はこの美味しそうな定食を温かいうちに食べよう。

 

 

 

   諏訪子side

 

 

「ありゃあ気づかれてたね。明らかにこちら側の存在だ」

 

 

「えぇ、その様ね。とりあえず早苗に怪しまれないように私たちは部屋に戻っておきましょうか」

 

さっきの人間、正確には人間に変装していた者は一体何者だろうか。彼女の持っている力はかなり強力だ。妖力ではなかった。霊力でも、神力でもない力。この国で持つ者はほとんどいない、確か魔力だったか。

 

不用意に早苗に近づけない方が良いかもしれない。あの絵馬を書いたのも彼女で間違いない。私の施した小細工がこんなところで役に立つとは思わなかったが。

 

 

「なんですか、この味は。定食ってこんなに美味しいものだったんですね」

 

 

「いや早苗、これはかなり特殊だと思うから普通の定食にここまでの物を期待してはいけないよ」

 

しかし本当に美味しい。高級料理店をも凌ぐという噂は本当のようだ。先ほどの人外が新しく入ったバイトというやつなのだろう。何故妖怪が料理をするのかはわからないが金に困っているのだろうか。




話の進行には全く影響しないけど外の世界という事でマミゾウさんに登場してもらいました

話自体は全然進みませんでした。まあ次回からは展開が速くなります


では次回も読んでいただければ幸いです
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