早苗side
初めて噂の定食とやらを食べてみたが噂以上のものだった。私もいつもお二柱に食事を出している身なので料理においては少し自信があったのに簡単に打ち砕かれてしまった。
諏訪子様と神奈子様は昼過ぎから何やらずっと話し合っていて私が入っていける雰囲気ではない。だから私は仕方なく境内や社務所などの掃除をしているわけだ。
今は誰も来ていないので境内はとても静かだ。神社にとっては良くない事だが、私はこの静寂が幼いころから好きだった。涼しい木陰に入って自分だけの世界に浸れるこの瞬間はとても魅力的だ。
「休憩中で申し訳ないのだけれど…」 「はっ!なな、なんでしょうか?」
いけない。つい自分の世界に入り込んでしまっていた。まさか参拝客の接近にすら気づかなかったなんて。いつもは大概気づくのに。
「まあまあ、少し落ち着いてくれると助かるわ」
「そうですね。取り乱してしまって申し訳ありません。では改めて何の御用でしょうか?お守りやおみくじは無人販売にしているんですが」
「用、ねぇ。神社自体に用があってきたわけではないの。それにおみくじは正月に引いたし。末吉だったけれど。
まあ強いて言うならあなたのご両神に会いたいと思って来たのよ」
「残念ながら私に両親はいません。幼いころに他界してしまいましたので」
急にきて何故両親に会いたいと思ったのだろうか。私の両親の同級生だったとかなのかもしれない。それなら申し訳ないがお帰り願うしかない。
「勘違いしているみたいね。私が会いたいのはあなたの両親ではなく両神。つまりはあなたの保護者代わりの神たちよ」
ここに二柱の神がおわすのを知っているこの人は一体……………………。
パチュリーside
諏訪には着いたがとりあえずお金がないと寝泊まりできない時代になったのでお金を得るために定食屋でバイトをすることになった。初めはかなり渋られたが一品作って出したら即雇ってくれた。
今の時代は工夫して料理をしなくてもそこそこのものがいつでも食べられるようになったため、私の料理でも高級料理店並みだと言われる味らしい。それは流石に盛っていると思う。もし本当なら幻想郷には一体いくつの高級料理店が建つのだろうか。
この時代は前世の私の生きていた時代より少し前なので勿論皆スマホなんかは持っていない。Twitterも最近サービスを開始したばかりみたいだ。この店の事がつぶやかれたのか最近は客が大量に来るようになってしまった。
私は少しお金をもらってあとは神社に行くつもりだったのに大幅に予定が狂ってしまった。でもそんな時のためにやめたくなったら何時でもやめていいという契約にしてもらっている。
そしてついに今日守矢神社に行くことができた。宅配員としてだけれど。ほんの一瞬だったが諏訪子と神奈子がいるのは確認できた。こうなったら早く計画を進めなければならない。
店長には悪いが大人気であったレシピを書き残して辞表を出してきた。私の事は忘れるようにしてきた。一部だけを忘れさせるような忘却魔法は少々複雑だができないことは無い。
ついでに店に来た客も過度な期待をしなくて済むように入り口にも忘却用の結界を張っておいた。長く生きてきたが昔習ったことがいつ生かされるかはまるでわからないものだ。
給料は貰っていたのでもうこの店に来ることは無いだろう。早速守矢神社に向かおうか。
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「……………………つまりはあなたの保護者代わりの神たちよ」
少し怪しすぎただろうか、早苗は私をかなり警戒しているようだ。それもまあ仕方がない。何せ神が見えるのは彼女一人だけだと思っているだろうからだ。
「何故……何故貴方がそれを知っている。貴女は一体何者だっ!」
「おっと危ないわね。大幣の用途はこんなことではないでしょうに」
危ない危ない。冷静に見えるようにしているが、いきなり大幣で殴られかけたので内心は動揺しまくりだ。早苗は温厚な子だと思っていたのに。
「くっ、軽々と避けておいて白々しいにもほどがありますっ!せいっ」
「その辺でやめときな、早苗。あんたに勝てる相手じゃないよ」
「そんな…神に仕える私がこんな人に負ける道理などありません。……おっとすみません、ただの独り言ですよ」
「…………はぁ、そんな嘘は吐かなくてもいいのに。お久しぶりね、諏訪子」
早苗は取り繕おうとしているみたいだが私にも普通に見えているし、声も聞こえているのでその必要はない。
「あぁ、本当に久しぶりだね。もう会えないかもしれないと思っていたよ。今日の昼に来たのもあんただったんだろう?私と神奈子にサインを求めたのも」
「流石神様何でもお見通しね。…あぁ、早苗といったかしら?私は普通に神が見えるわよ」
「そんな……こんなことが」
まあこんな反応になるだろう。今まで散々異端児として扱われてきたのだろうし。未だに自殺していないのは二柱のおかげなのだろうか。
「ま、そういう事さ。で、ぱっちゃん、折角再会したんだしまたこの神社で働かない?」
「巫女になるのは無理よ。でも家事とかならしてあげるわ。早苗ちゃんも学校もあって大変だろうし」
「いやー、助かるね。きっと神奈子の奴も喜ぶだろうね。ついてきな、早苗も」
「あの、一つお聞きしてもよろしいですか?お二人はいつから知り合いなんでしょうか。私の記憶には無いのですが」
「いつだったっけ。長く生きてると時間感覚がおかしくなるからねぇ」
「確か千年二、三百ほど前だったと思うけど。諏訪にはかなり長くいたから懐かしい景色も多いわね」
「まあ人や建物なんかはあの頃と随分違っているけど美鈴が毎朝登っていた山なんかは残っているからね」
「せ、千年?!貴方は本当に何者なんですか?」
「自己紹介がまだだったわね。私の名前はパチュリー・ノーレッジ。種族は人間ではなく魔法使いよ」
「日本人ではないのにそんな昔から日本に来ていたのですか?ヨーロッパから人が来るようになったのも五百年前くらいのはずなのに」
「魔法使いと人間を同じものとして見てはいけないという事ね。実際日本に上陸したのは千三百年ほど前の事なのだし」
「そうそう、ぱっちゃんはかなり昔から日本では有名だったのさ。早苗は陰陽師といえば誰を思い浮かべる?」
「そりゃあ昔から散々習いましたし有名な陰陽師といえば大都庶樺菜に紅美鈴、あとは安倍晴明なんかも有名ですよね」
あれ?この世界では安倍晴明よりも私たちの方が有名になってしまっていたのか。何故か申し訳なく感じる。
「でも大都庶樺菜と紅美鈴はかなり胡散臭くないですか?文献を漁れば数百年に渡って名前が出てくるらしいですし。ただの作り話なんじゃないですか?」
「ところがどっこい、その二人は実在するのさ。見てきた私が言うんだから間違いない」
ところがどっこいとか今時言う人はいないのではないだろうか。というか”見てきた”どころか本人目の前にいるからね。
「えぇ?!でも数百年も生き続けるなんて人間業ではありませんよ」「そう、人間ではないのさ」
「と、いう事はまさかパチュリーさんが……?」
「流石、鋭いねぇ。その通り、ぱっちゃんが大都庶樺菜なのさ。早苗には勝てないと言った意味もわかったかい?」
「まさか、そんな大物だとは思いもしませんでした。しかし大都庶樺菜は紅美鈴とともに五百年ほど前に突然姿を消したはずでは?」
「そのあたりの事は中でゆっくり話しましょう。もうすぐ夕飯時だし私が作りましょうか?」
「あぁ、そうしてくれるとありがたいね。でもいいのかい?家で働いても給料は出せないよ」
「良いのよ。住む場所を借りるだけの居候になるつもりは無いわ。さて、早苗ちゃんもキリの良いところで掃除を引き上げて頂戴ね」
夕食を作るのも久しぶりかもしれない。これから住む場所は確保できたからあとは二柱を説得するだけだ。
早苗side
夕飯はパチュリーさんが作ってくれた。私が作るよりはるかに美味しかったのは少し悔しい。しかし何処か懐かしい味がしたのはやはり彼女が長く生きてきたからなのだろうか。
彼女は元々ヨーロッパの魔法使いの家に生まれた生粋の魔法使いらしい。十五の時に家を出て旅に出るようになり砂漠を超えた中国の方で死にかけていた際に美鈴さんに助けられて行動を共にするようになったらしい。
ヨーロッパから中国、そして日本に来たことを考えても彼女の言語能力はかなりのものだと思う。その頭を私にも分けてほしいものだ。
突然姿を消したのもただヨーロッパに帰りたくなったかららしい。かなりの長い間を日本で過ごしたようだが、その中でも諏訪での滞在期間が最も長かったらしい。自分の事でもないのに少し誇らしい気分になるのはどうしてだろうか。
そういえば守矢神社にも大都庶樺菜と紅美鈴に関して記述された書物があったような気がする。
「パチュリーさんはこの神社で巫女をしたことがあったんですよね。残っている書物には大都庶樺菜が巫女として神に仕えた記録があるのですが」
「懐かしいわね。それは私がまだ来たばかりの頃ね。その時の巫女は今まで生きてきた中で唯一私が師と仰いだ子よ」
「まああの頃から家事は大概できてたわよね。料理の腕はかなり上がったのかしらね。あの頃の味をもう覚えていないから何とも言えないけれど」
「料理の腕は確実に上がったわね。あの子の修行はかなり厳しかったから。そもそも彼女があそこまで厳しくしてきたのは諏訪子、あなたが言ったからよ?」
「さあて、記憶にないね。まあおかげで上達はしたでしょ?」 「はぁ」
諏訪子様も神奈子様も随分と楽しそうだ。それはそうか、再会がおよそ千年ぶりともなれば話が弾まないはずが無い。
それに最近ではお二柱が話ができること自体少ないこと。久々に私以外の人と話すのも楽しいのだろう。私の入る場所はないし洗い物でもしておこう。
諏訪子side
早苗が洗い物に行ったみたいだ。ぱっちゃんが何故今ここに来たのかを聞いておかなければならない。
「ねぇ、ぱっちゃん。あんたは何故今更ここに来ようと思ったんだい?あんたは幻想郷とやらに住んでいるんじゃないのかい?」
「幻想郷の事は知っていたのね。その通り、私は幻想郷にすんでいるわ。私がここに来た目的はあなたたちが消えてしまう前にこちらに引き込むため。諏訪子の事情も分からないことは無いわ。あなたはこの地の土着神だから簡単には離れられないのよね。
でもどうしてわざわざ早苗ちゃんが何処かへ行ったタイミングでその話を振ってきたのかしら」
「そりゃあ早苗はこっちの世界に残るだろうから変に話を聞かれない方が良いと思ったんだよ」
「あなたはもうわかっているでしょう?あの子の異常にあなたが気づいていないはずが無い」
その通り、勿論気づいてはいた。少し前から早苗に神性が付いている、すなわち現人神になってしまっていることに。神の血を引く子が必ずしも神性を持つとは限らない。
むしろ持たずに一生を平凡に終えてしまう子の方が圧倒的に多い。だから今までも私の姿を見る者は少なかった。早苗には生まれた時から神になるかもしれない運命があった。
それが今現人神となってしまった。普通の子ならこの世界に一人残しても問題なかっただろう。しかし現人神になってしまった以上、早苗も消滅してしまう未来があるかもしれないのだ。
私はどうすればいいのだろうか。我が子のようにかわいがった一人の風祝を取るか、この地に対する愛着を取って消滅するか。
「ひと月ほど考えさせてくれ。きっと答えは出す」
「……………………そう、分かったわ。ではこの話はお終いね。何か楽しい話でもしましょうか」
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「はぁ、私はどうすればいいんだろうか」
あれからもう三週間。一人で縁側に座って考え事をするが一向に考えがまとまらない。困ったものだ。
「ため息なんて吐いて少しは楽にしたらどうなの?」
「うわっ、なんだぱっちゃんか。いつからいたの?」
誰もいないと思っていたのにいつからいたのだろうか。
「今さっきよ。それにしてもあなたまだ深く考えていたのね。決断なんて簡単じゃないの。あなたは昔稔里とした約束を忘れてしまったのかしら?」
稔里との約束……あぁ、そうか。なんと簡単な決断だったのだろうか。今まで考えていたことが馬鹿みたいに思える。
「そうか、決めたよ。私も幻想郷に行くよ。早苗も一緒にね」
「良かったわ。いつ行くのかはあなたたち三人で話し合って決めて頂戴。早苗ちゃんにもしっかり幻想郷の事は話しておくのよ」
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『久しぶりだね、稔里。今代の巫女に会うのも二回目になるけどどうして
『お二柱にご挨拶をしようと思いまして。今まで以上に本気で修行をしたいと思ったんです。だから当分会う事ができなくなってしまうんです。でも天人になることができたらきっとまた会いに来ます。それまではどうか元気で過ごしていてくださいね。
いつになるかはわかりませんが必ずまた会いに来ますよ。それまではお別れです』
『そうかい。それはかなり寂しくなるね。でも安心して行ってきな。そして天人として帰ってくるんだよ。じゃあまた会う日まではさよならだね』
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約束は人を縛り付ける枷になるときもある。でも今回はそうはならなかった。この町は好きだが私は私を信仰してくれている二人のために行動させてもらおう。
今回かなり視点の切り替えが多いですが話を進めるためです。展開が急ですが仕方ないと思ってください。風神録は好きですが一つの異変に長くかけたくはないので
恐らく名前の後に何か付けて呼ぶのは早苗が最初で最後でしょう
では次回も読んでいただければ幸いです