行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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奇跡的第四十六話

   パチュリーside

 

 

 諏訪子が乗り気になってからは一気に準備が進んだ。早苗ちゃんにも話はしっかりとしていたようで安心した。彼女も今の環境で一人生きるより、新たな環境で二柱と暮らしたかったようだ。

 

転移するにあたっては主に私がするつもりだ。ただ問題は何処に転移されるかわからないというところだ。紅魔館のある座標から幻想郷の座標は大体割り出せるのだが、狭くも広い幻想郷のどこに着くだろうか。やはり妖怪の山なのだろうか。

 

私のうろ覚えの座標で妖怪の山に転移したならそれはもう運命としか言いようがない。まあ妖怪の山に着いた方が二柱の信仰も集まりやすいだろうしその方が良いだろう。

 

 

「いやー、知らない土地に行くなんて楽しみですね。引っ越しなんて縁がないと思っていましたよ」

 

 

「私もそう思っていたけどね~。神生何があるかわからないものだね。でも燥ぐのもそろそろやめて早く寝な。明日は早いんだから」

 

「そうよ、早苗ちゃんにも重要な役割があるのだから途中でへばらないように早く寝なさい」

 

 

「そうですね。寝付けるかわからないですがおやすみなさい」「おやすみ」

 

いよいよ引っ越しは明日に迫っている。明日の朝ごはんはパパっと食べられるおにぎりで良いだろう。まさか行きも帰りも早朝になるとは思っていなかったが。

 

幻想郷で生活する三人にはスペルカードルールの話はしてある。神遊びとしては十分な遊戯だろう。各々自分に合ったスペルを考えてくれたみたいで良かった。早苗ちゃんのカードに一つ気になるものがあったけど。

 

「今日が終わればもうあなたはここへは戻ってこられないかもしれないわよ。色々見て回らなくても大丈夫なの?」

 

 

「あぁ、見ておきたかったところは昼間に見て回ったしね。神奈子も一緒に」

 

「そう。…やはりここを離れるのは寂しいのかしら?」

 

 

「勿論だよ。どれほどこの地に住んできたと思っているんだい。生まれたのもここだしね。でもいいんだよ、これは私が決めたことだからね」

 

「あなたは強いのね。その精神のあり方、やはり妖怪とは対極に存在するのかしらね」

 

 

「神だからね。さて、私ももう寝るよ。明日は何時に出発するんだっけ?」

 

「五時くらいよ。寝過ごさないように気を付けて頂戴よ」「任せなって、じゃ、おやすみ」

 

 

皆が寝静まった。真夜中の境内には秋を思わせる虫の音が響いていてとても素敵だ。夜中の神社は不気味なものだという印象が強いが、実際そんなことは無い。

 

神社という神域に入った時点で妖怪の力は減らされてしまう。幽霊に至っては無害なものの方が多いので怖がる理由もない。幽霊移民計画によって顕界に連れてこられた幽霊たちも既にほとんど冥界に戻されて転生しているはずなのでそもそも数が多くないし。

 

外の世界で過ごして数か月経ったがやはり私には幻想郷が合っていると改めて感じた。薬もかなり多めに持ってきておいて正解だった。こんな生活を続けていれば薬の消費が速すぎて嫌になってしまう。この薬しか作れないが作るのは面倒なのだ。

 

帰ったら永琳を頼ろうかな。丁度冬にはレミィたちは館からいなくなってしまうし。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

日の出の時間も随分と遅くなってきたものだ。前までは四時くらいになったら明るくなり始めていたというのに。

 

 

「おはようございます、パチュリーさん」

 

「おはよう、早苗ちゃん。かなりよく眠れたみたいね。良かったわ」

 

 

「楽しみで眠れないかと思ったらそうでもなかったですね。神奈子様と諏訪子様は?」

 

「彼女たちならまだ寝ているわ。そろそろ起こそうと思っていたけれど、早苗ちゃん起こしてきてくれるかしら?」

 

 

「えぇ、大丈夫ですよ。では朝食の準備をお願いします」

 

朝食とは言っても私が作るわけではない。今朝はレミィ特製のおにぎりだ。腐ることが無いのを良いことに今まで残しておいたのだ。

 

        ・

        ・

        ・

 

「うわぁ、何このおにぎり。今まで食べたどの料理よりも美味しいかも。ぱっちゃんが作ったの?」

 

「いえ、温かくないでしょう?このおにぎりは料理の得意な友人が作ってくれたものよ。滅多に食べられる味じゃないからよく味わって食べなさいね」

 

レミィが基本的に紅魔館の住人以外に料理を振る舞わないのは体裁もあるのだろうが、無駄に紅魔館を訪れる人を増やしたくないというのもあるのだろう。

 

妖怪は恐れられなければ力が落ちる。だから紅魔館は悪魔の館であり続けなければならないのだ。レミィの料理を食べに人が大勢来るようになってしまえば紅魔館の妖怪全員が人間になめられることになるかもしれない。

 

妖怪側も色々と大変なのだ。今のところレミィの料理の味を知っているのは白玉楼の二人とアリスくらいだろう。紫は食べたことは無かったはずだ。そもそもレミィと紫の相性はそれほど良くなさそうだし仕方ない。

 

 

「味わいたいけどもう出発する時間でしょう?ぱっちゃんと早苗で術式を起動するのよね」

 

「えぇ、そうよ。私の術式だけだとあなたたちにとって重要な目の前の湖は恐らく転移できないからね」

 

 

「私にそのような大役が務まるでしょうか。なんか不安になってきました」

 

 

「大丈夫よ、早苗。貴女は奇跡の申し子なのだから失敗するはずが無いわ」

 

 

「そうだよ、早苗。それにあんたは札に力を籠めるだけ。簡単な事だろう?」

 

確かに早苗ちゃんのすることはそれだけだが籠める力が弱いと術式が上手く発動しないからかなり重要な役ではある。

 

「では早速術式を展開するわ。こういうのは形式が大事だから余計な茶々は入れないで頂戴よ」

 

 

「しないよ。私たちだって自分の存続がかかっているんだ。よろしく頼むよ、早苗も」

 

 

「はいっ!お任せください。えーっと、確かここは…できましたよ、パチュリーさん。しかしもうこの世界ともお別れなんですね。特に未練はありませんが」

 

 

「そうかい?私はまだやりたかったことがあるけどね。住民と話をするとか…まあ夢物語さ」

 

 

「それくらいの方が新天地に向かうには良いと思うわよ。次の地は今までできなかったことができる地なのだから」

 

「そうよ、幻想郷では好きなことをやりなさい。それじゃあ術式を起動するから何かにつかまって頂戴。かなりの衝撃が来るでしょうから」

 

こうなることがわかっていたらこの魔法も改良ができていたかもしれないが、予想だにしていなかった事態なので結局昔使った魔法をそのまま使う事になった。

 

正確には魔法に早苗の奇跡の力を取り入れたものだけれど。ここ数か月はこの魔法の研究ばかりをしていたから手違いはないはずだ。

 

今回早苗に起こしてもらった奇跡はかなり大掛かりな物だったので予め数日間にも渡る詠唱をして特製の札を作ってもらった。そのお札に力を籠めることで術式が完成する仕組みだ。

 

数日間にも及ぶ長い詠唱は普通の人間ではまずできないだろうし、私にも絶対にできない。この術式が起動できるのは早苗ちゃんのかなりの努力のおかげなのだ。この努力も偏に諏訪子と神奈子のためだと思うと二柱とも相当に愛されているなぁ、と感じる。

 

紅魔館と同じように勢力というよりは家族に近い。まあ早苗ちゃんと諏訪子、レミィとフランドールなんかは血がつながっているけれど。

 

大きな衝撃。次に目を開けたら景色は様変わりしているだろう。早朝でまだ明るくなりきってはいないが天狗にはすぐに見つかってしまうだろう。

 

少しばかり変装をしておかなくては面倒に巻き込まれてしまう。私は妖怪の山への干渉はしたくないし、するつもりもない。早く館に帰りたいものだ。

 

 

 

 

「あっ、見てください、神奈子様!諏訪子様!一面紅葉でとてもきれいですよ!」

 

やはり妖怪の山に着いたか。こうなることは運命によって定められていたことなのだと改めて実感できた。

 

 

「おぉ、懐かしい空気だね。ここが幻想郷であっているのかい?ぱっちゃん」

 

「えぇ、ここは間違いなく幻想郷よ。ここは通称妖怪の山。そろそろ天狗が来るでしょうから部外者の私はもう帰っていいかしら?」

 

駄目だと言われるとかなり辛いのだが…。

 

 

「えぇ、構わないわよ。あとは私たちで何とかしておくわ。ここに来られたのもぱっちゃんのおかげよ。ありがとう」

 

「そんなことは無いわ。早苗ちゃんのあの努力があってこそでしょう?存分に労ってあげなさいよ。ではまた落ち着いたら会いましょう」

 

良かった。ささっと館に帰ることにしよう。それにしても幻想郷の空気ってこんなにも綺麗だったのか。当たり前の事だと思っていたけれど案外ありがたいものだったようだ。

 

 

 

   文side

 

 

 何か騒がしいと思って使いの鴉を飛ばして様子を探らせてみると昨晩まではなかったはずの神社と湖が現れていた。こんな大掛かりな引っ越しはパチュリー様や美鈴様が幻想郷にやってきた時以来ではないだろうか。

 

神社が来たという事は外の世界で信仰を失い、弱り切った神がやってきたというわけだろう。それだけの神なら大天狗や天魔様に良いように弄ばれるだけだと思うがどうなるのだろうか。

 

鴉によると神社から一人出て行ったらしい。私なら十分に追いつける距離と速さだ。早速取材を申し込んでみるか。

 

ふむ、外から来たばかりとは思えない程に飛行慣れしているように見える。神力は感じ取れないが巫女というわけでもないような気がする。神社関係者なのは確かだと思うのに。

 

 

「失礼します。私新聞記者をやっております、射命丸文と申します。お時間はありますか?」

 

「げっ」  げっ、って何?!初対面のはずなのにいきなりそれはひどすぎる。

 

 

「いきなりそれはいくら何でもひどすぎませんか?初対面ですよね」

 

「あ、あー、もう面倒だし良いわ。私よ、私。久しぶりね、文」

 

 

「えぇ?!パチュリー様?どうしてあの新しく来た神社から出てきたのですか?」

 

「私とあなたの仲だし話しても問題はないのだけれど、記事にはしないと約束してくれるかしら?」

 

まさかパチュリー様にそこまで信用されていたなんて。感激だ。

 

 

「わかりました。それに約束を破れば後が怖いですし」

 

「そんなに残酷な事するわけないじゃないの。精々私と美鈴の二人であなたの家を襲撃するくらいだわ」

 

だからそれが恐怖以外の何物でもないのだ。パチュリー様なりの冗談のつもりなのだろうか。肝が冷えるからやめてもらいたいものだ。

 

 

 

彼女の話をまとめると彼女はここ数か月間外の世界に行って今朝来たばかりの神たちと何やら交流をしていたらしい。道理でここ最近見ないと思っていたわけだ。

 

その神たちは外の世界で信仰を失い消滅の危機にあったらしい。相対的に力は弱くなっているが、絶対的な力は今でも相当のものらしい。本当に神というのは厄介なものだ。天狗はこれからどう付き合っていくつもりなのだろうか。

 

大天狗や天魔様の決定に従うだけの私たちにとってはどうでも良いことだ。気にしている者はいるかもしれないがどうせ上の決定は絶対な物なのだから変に考えるのもバカバカしい。

 

「さて、私が話せるのはこのくらいかしらね。帰っても良いかしら?」

 

 

「えぇ、どうぞ。最近何やらレミリアさんたちも面白そうなことをやっているみたいですよ」

 

「そう、いよいよなのね。ありがとう。文もこれから大変になると思うけれど身体には気をつけなさいよ」

 

 

「お気遣いありがとうございます。ですが心配いりませんよ。妖怪の身体は丈夫なので」

 

「私が心配しているのはむしろ精神面よ。妖怪の精神は脆いからね。ではまた館にいらっしゃい」

 

 

「はい、また遊びに行きますね。ではまた」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

とりあえずあの神社の監視は椛にでも任せておけばいいだろう。あの子はふざけてばかりいる白狼天狗たちの中では非常に珍しい真面目な天狗だがどうも堅物すぎる。

 

油断が無いのは良いことだがもう少し心にゆとりをもって生活してもらいたいものだ。たまに河童や厄神と一緒に彼女が追加した新しいルールで将棋をしているところを見るが娯楽といえるものはそれくらいなのではないだろうか。

 

休暇をやっても良いが彼女自身が断ってくるだろう。真面目な部下だからこそ逆に困ることになるとは全く思ってもみなかった。

 

 

「おい、射命丸!大天狗様が貴様をお呼びだぞ!さっさと出てこい」

 

 

「はぁ?何故私が呼び出されるんです?悪いことをした覚えはないのですがねぇ」

 

 

「そんなもん知らん!いいからさっさと出向くんだ」

 

乗り気はしないし何故呼ばれたのかも皆目見当がつかないが大天狗に呼ばれたのなら行くしかないだろう。折角ゆっくりできると思っていたのに。

 

大天狗の屋敷なら飛ばせば数秒で着くからそこまで急いで家を出る必要はなかったかもしれない。もう着いてしまった後だけど。

 

 

「失礼します。何か御用でしょうか、大天狗様」

 

 

「山の現状は知っているだろう?まったくあの神たちはいったい何がしたいのだ」

 

愚痴を聞かされるためだけに召喚されたという事はないだろうな。

 

 

「あのー、大天狗様?御用は?」

 

 

「あぁ、すまんな。どうやら侵入者が来たようなのだ。犬走が交戦しておるところだから貴様も応援に行ってやれ。上司として当然だろう?」

 

 

「えぇ、そうですね。では行ってきますよ」

 

面倒事しかない。精神的に疲れてきたがこれもパチュリー様にはお見通しだったのだろうか。数日たってようやくわかる日が来るとは。あの方は一体どこまで先を見ているのだろうか。

 

どうやら椛はやられたらしい。侵入者は先に進んでしまったようだ。追いつくのは容易いが椛を倒すくらいの実力はあるというわけか。

 

 

「あやややや。侵入者の報告できてみればまさか貴方とは」

 

博麗の巫女か。これは椛には分が悪かっただろう。

 

本気でかからないと勝てる相手ではないかもしれないが本気で戦うような事はしない。天狗の誇りと美鈴様達への憧れによって。

 

 

「手加減してあげるから本気でかかってきなさい!」

 

弾幕ごっこという遊びによって人間は異変を解決しやすくなったし、妖怪も異変を起こしやすくなった。その結果としてほとんど毎年のように異変が起きる幻想郷になった。

 

私としてはネタになるものが多いのでありがたい。新聞の発行頻度も少し上がった…と思う。

 

正直これが遊びという事で少しなめていたこともあったし、何より巫女の実力をなめていたこともあって結果は敗北だ。彼女なら強大な力を持つ神相手にも後れを取ることは無いだろう。

 

今代の巫女はまだまだ青いと思っていたけど数々の異変を経て確実に強くなっているようだ。まあまだ十年少ししか生きていないからこれからも成長はしていくのだろうが。

 

負けたら私にすることはもうない。あとは異変が解決されるのを待って取材を敢行するだけだ。

 

だがその前に椛の手当てはしてやらなければならない。最近たまに仕事を頼んでしまっているから少し好感度が下がってしまっているかもしれない。上司はたいてい嫌われ役だからそれでもかまわないんだけど。




ここまでの異変が大体二話で終わっていたのに風神録だけ二話に収まらなかったので今回で強制的に終わらせました

文と椛は特別仲が悪いわけではないです。良くはないですが

急用ができたので次話は来週の土曜日に出します。楽しみにしてくださる方がいるのかどうかは知りませんが、そういう事でよろしくお願いします


では次回も読んでいただければ幸いです
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