レミリアside
間欠泉の異変は結局霊夢が地底の主とそのペット及び妹と守矢の風祝を倒して一先ずは終了したらしい。魔理沙は途中でリタイアしたという事で精神的に参っているのかと思っていたが全然そんなことは無いらしい。
むしろ前よりも一度に持って帰る本の量が増えたとかで、パチェも文句は言いつつ咎めはしないようだ。『次回以降はリタイアしないよう、魔法の勉強をより多くするようになった結果だと思う』かららしい。そんなこんなで紅魔館は今日もいつも通り賑やかだ。
そういえば今日はパチェから私に話があるから図書館に来てくれと言われていたのだった。私にしか頼めない用事だと言っていたが何なのだろうか。
「パチェ~?どこにいるのよ~」
図書館が広いせいでパチェがどこにいるかさっぱりわからない。小悪魔でもいれば楽になるけど。
「…………ここよ。もう来てくれたのね、助かるわ。さて、いきなりで悪いのだけれどあなたはフランドールをどうしたいかしら?」 「フランを?一体どういう事?」
別にフランが何か悪いことをしたわけではないと思うのだが…。まさか大結界を故意に破壊しようとしたとか…?
「あー、聞き方が悪かったわね。あなたはフランドールの狂気をどうにかしたいと思ったことは無いかしら」
「それはあるわよ。でもどうして?…まさか解決策が見つかったの?」
フランの狂気はあまり出てこないために体術は赤子同然。だから戦闘力はフランよりはるかに低いが能力だけは別だ。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』この威力はフランの持つ力に依存する。
使い方が単純であるがゆえに狂気の方もフランと同じだけの力を出すことができるのだ。本能的になる狂気は如何なるものにも能力の行使を厭わない。このままいくと私たち紅魔館の住人が狂気を如何に上手く抑えるか、というのが一番の課題になるかもしれない。
「確実ではないけれど力の弱い今なら何とかできるかもしれない。そのためにレミィには地底におつかいに行ってもらいたいのよ」
確実ではないにしろどうにかできる可能性があるのならば私はただあの子のために行動するのみ。しかし館の主人を使い走りにする居候なんざ見たことも無い。
だが普段は自分で行動するパチェがわざわざ私につかいを頼むというのには何かしらの理由があるのだろう。ならば私に行かない、という選択肢はない。
「地底ねぇ。そういえば規制はかなり緩和されたから行きやすくはなったんだっけ。いいわよ、フランの為なら地の底にだって行ってやろうじゃないの」
「レミィならそう言ってくれると思っていたわ。でもこれはレミィの為でもあるのよ。今はまだわからないでしょうけれど。早速で悪いけれど明日行ってくれるかしら」
「確かにできるだけ早い方が良いものね。それで、私は何をすればいいのかしら?」
「あなたにしてもらいたいことは私がこれから書く手紙を地霊殿の主に届けること。明日訪ねると紫から伝えてくれているから恐らく案内が穴の付近まで来てくれるわ。その子について行って頂戴。地底に降りる穴までは私もついて行くわ」
明日行くことは既に決められていたことだったのか。という事はパチェの私への質問の答えも既に決定されていたようなものだったという事か。運命を操る程度の能力が聞いて呆れそうだ。
というかパチェは八雲紫に伝言を頼んだのか。恐らく地上と地底の往来規制緩和の話し合いの時のついでとしてだろうが、それをあの八雲紫が承諾するとは。
「何も私じゃなくても良かったんじゃないの?美鈴や咲夜でも良さそうだけど」
「言ったでしょう?これは美鈴ではなく咲夜でも勿論私でもない、あなたにしか頼めない事なのよ。さっき私が言った”レミィの為でもある”というのはフランドールの狂気がなくなるかもしれないことに対してのものではない。今はまだ言えないけれどきっと明日になれば判るわ」
パチェにしては珍しくはっきりとした答えが返ってこない。判らなくて気になるし己の運命でも覗いてやろうか。
「言っておくけれど運命を見てスッキリしようとするのは無しね。少なくともあなたが地底から帰ってくるまでは」
「そ、そんなずるいことしないわよ。まったくパチェも心配症ねぇ」
「目が泳いでいるわよ、レミィ。あなたは昔からわかりやすいわ。でもきっとそんな性格の方が地底の者たちからは好かれるでしょうね。絡まれたら面倒なのだけれど」
「うー、やっぱりパチェに隠し事はできないわね。それで明日だったわね。言われた通り楽しみで止めておくわ」
「そうして頂戴。さて、話は以上よ。何か他に質問は無い?」
「他に質問、ねぇ。特にはなさそうだけど…あっ、そうだ。地底って熱源が近いから相当暑いんじゃないの?」
「一応地霊殿が灼熱地獄に蓋をする形で建っているから旧都辺りはそれほど暑くないはずよ。地霊殿内部は…恐らく大丈夫なように造ってはあると思うけれど行ってみなければわからないわね」
「そうなのね。気を付けておくわ。それじゃあ私はもう部屋に戻ってもいいのかしら?」
「えぇ、引き受けてくれてありがとう。また明日よろしくね」
フランの狂気を何とかできれば安心してフランを外に出してやれる。彼女の為にも紅魔館の未来の為にも私は私のするべきことをしよう。
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「それじゃあよろしくね。レミィもお燐も」
「地霊殿まで案内するだけなんだからこっそり死体を運ぶよりも簡単なことさ。だから吸血鬼の嬢ちゃんも心配はいらないよ」
「そう、まあ私は貴方を信じることしかできないんだけどね。しっかり案内してもらうわよ、火焔猫燐」
「気軽にお燐と呼んでおくれよ。しかしわざわざさとり様にお願いとは珍しい」「さとり様?」
「地霊殿の主であたいらの飼い主さ。争いごとは好まないみたいだけど強いから歯向かわない方が良いよ」
うーむ、どのような姿なのだろうか。好戦的ではない分ありがたいが、ごつい妖怪だったら一緒に話しづらいかもしれない。
「とりあえずレミィに渡した手紙をきちんと届けられるようにはして頂戴ね。私はもう帰るから」
「任せなさい。私だって弱くはないんだから大丈夫よ。それにいざとなったらお燐もいるしね」
「おっと、これは責任重大だねぇ。ま、安心してついてきなよ。そんじゃ行くとするかね」
ここから先は地底。聞いたところによると地上では忌み嫌われた者たちが楽しく過ごしている場所らしい。忌み嫌われるという事はそれほどまでに強いか、能力が非常に厄介かのどちらかなのだろう。いずれにしても日の光の届かない地底は結構ありなのかもしれない。
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「それでお嬢さんはどうして地底なんかに?いや、別に地底が悪いところだと言いたいわけではないんだけどね」
「レミリアでいいわよ。そうね。私がここに来たのは愛すべき妹のため、とでも言いましょうか。私の妹が抱えている問題を解決できるかもしれない人が地底にいるらしいわ。それ以上の事は手紙に書かれているみたいで私も内容は知らないわ」
「へぇ、その問題って言うのは何なんだい?」「狂気よ」
「狂気?地底にそんなものを操れる妖怪なんていたっけなぁ」
「狂気を操るのは効果が無かったわ。これは地上の兎で実証済み。だから恐らく別方向のアプローチなんでしょうね」
「専門外だからあたいには難しいね。でも多分さとり様はとても知識量が多いからきっと何かいい案を考えてくれるよ。「だといいけど」ほらそんなことを言っている間に地霊殿だよ」
途中でも厄介そうな橋姫や鬼なんかがいたがお燐と一緒にいるせいか大して絡まれずに済んだ。
「結構広いのね。慣れていない場所でここまで広ければ迷ってしまうかもしれないわね」
「大丈夫だって。客間に案内すればいいのかな…。とりあえずついてきておくれ」
急に不安になるような言い方になったが昔から客は客間と相場が決まっているものだ。少なくとも西洋では。
「それはこの国日本でも同じようなものですよ、西洋とは少々異なりますが」
「うわっ、さとり様?!いきなり出てこないで下さいよ。びっくりするじゃないですか」
これがさとり様なのか?想像していた見た目と違いすぎて脳が混乱する。それにさっき急に心を読まれたような…まるで覚妖怪のようだ。
「おや、覚妖怪を知っているのですか。見た目とは正反対に日本の妖怪にも詳しいみたいですね。申し遅れましたね。私は古明地さとり、貴方の予想通り覚妖怪です」
「私はレミリア・スカーレット、吸血鬼よ」
「なるほど……お燐、あの方を連れてきてくれるかしら。今の時間なら居酒屋にいると思うから」
「は、はぁ。そんな気はしていましたが…。わかりましたすぐに連れてきますよ」
一体誰を連れてくると言うのだろう。居酒屋にいるという事は鬼なのだろうか。あまり絡まれたくない相手ではあるが……。
「誰を呼んだかは今は言えませんが直にわかりますよ。親友のパチュリーさんが貴女を使いに出したのは恐らくこれが理由でしょうね」
さとりのせいで余計にわからなくなった。一体どうしてくれようか。
「そういえばレミリアさんは私の能力について何も思わないのですね。ほとんどの妖怪は忌避するのですが」
「別に心を読まれてまずいことなんて考えないもの」
「自分に正直に生きていれば心を読まれても困ることは無い、ですか。まるで鬼たちと同じような考え方ですね」
だってそうだろう。普通は誰だって隠し事の一つや二つあるものであるが私の場合はそんなものがあってもすぐに館の皆にばれてしまう。そんな隠し事なら作らなければいいのだ。
「ただし館の外への唯一の隠し事は料理が得意な事ですか。私も料理はしますが是非貴方の料理も食べてみたいものですね」
「やっぱりさとりには簡単にばれてしまうわね。そうなると避けられなくなるじゃない。調理器具さえ貸してくれるなら昼食は作ってあげるわ」
流石にここまで知られてしまったら意地でも作らない、という事はしない。
「ふふっ、優しいんですね。…あら、そういうわけではないのですか」
そう、優しさではなくこれは紅魔館の当主としてのプライドだ。楽しみにさせるような考えを持ったのにその楽しみを奪うような事をするほど私は狭量な妖怪ではない、と思いたい。
「なかなか面白い方ですね。心の中で言い訳をしても私にはすべてが見えているというのに」
全てが見えてしまうせいで辛いこともあるのだろう。見たくないものまで見えてしまう、つまりは人間や妖怪の汚いところを嫌というほど見てきたのだろう。
「何か相談があれば乗ってあげるけど、どうかしら?」
「貴方はお人好しなんですね。地上の賢者から聞いていたイメージからは随分と違いますね」
それは恐らく八雲紫との関係上彼女の前では当主として話すことの方が多いからだろう。しかし私がお人好し、か。美鈴やパチェの影響かもしれない。
「パチェ、というのはパチュリーさんの事ですよね。美鈴というのは紅美鈴さんの事でしょうか」
「えぇ、そうだけどどうして知っているの?」
「彼女の知り合いも地底にはいますからね。それに私がまだ地上にいた頃に名前を聞いたことがあるんです。彼女の名前は大都庶樺菜とセットでよく出てきますし旧い妖怪で知らない者は少ないと思いますよ」
強いとは思っていたがそこまで大物だったとは。お父様は一体どんな手を使って彼女を雇ったのだろうか。というか大都庶樺菜って誰だろうか。もしかしたら美鈴と一緒に日本にいたことがあるパチェなのかもしれないが帰ったら美鈴に聞いてみてもいいかもしれない。
「……と、そんな話をしていたらお燐が帰ってきたようですね。入ってもいいですよ」
「全く、人が折角楽しく飲んでいたというのにいきなり連れて来させるとは流石さとりだな。一体何の用なんd……お前はまさか…………レミリアか?」
「お父……様?何故こんな場所にいるのですか?隠居するとは言っていましたけど」
訳が分からない。それにこうなることが分かっていたという事はパチェもお父様がここにいることを知っていたことになる。
「やはりレミリアだったか。ここはパチュリーに薦められてきたのだ。丁度隠居先は決めていなかったしな。八雲の奴に連れてきてもらったがここは私にとっては住みやすい場所だ。何より日光が無いというのが素晴らしい。少々けんかっ早い連中は多いが」
「そうだったのですね。この五百年間一度も会わなかったので最悪死も覚悟していましたが元気なようで何よりです。しかし隠居してまで酒ばかりというのは良くないですよ。きちんとした物は食べているのですか?」
「ぐっ、まさか娘に説教されることになるとは…」
当たり前だ。流石に酒ばかり飲んでいるというのは娘として看過できない。
「そうそう、私は本来さとりに手紙を渡しに来たんだったわね。はい、これよ。私は少し昼食を作ってくるからその間に読んでおいて頂戴。たまにはお父様にもきちんとした物を食べてもらいたいですしね」
「ほう、レミリアは料理もできるようになったのか。いやはや我が子の成長を身に染みて感じるなぁ」
「話をそらさないで下さいよ。まったくお母様も大層苦労なされたのでしょうね」
昔はもっとましだったのだろうが今の状態は見ていられない。丁度さっきさとりに約束したところだったし早速昼食を作ることにしよう。話し合いはその後だ。
「厨房はここを出てすぐの階段を…っと、口で説明するのも面倒ですね。お燐、案内してあげてください」 「了解です、さとり様」
紅魔館でもペットとして何か飼うのもいいかもしれない。咲夜に頼めば何か珍しい動物を捕まえてきてくれるかもしれないし。
第二十話や第二十八話で張った伏線が無事に回収できて満足です。二十八話の方はかなり露骨でしたが
七番目に好きなさとり様が出てきたのでここで私的TOP10が出そろったことになります。関係ないですが次回作書くならさとり主人公で書きたいです
では次回も読んでいただければ幸いです