今回途中のパチュリーの手紙は読み飛ばしても大丈夫だと思います。読まなくても話の流れには影響は出ないはずです
さとりside
もう五百年ほど昔に突然西洋の妖怪がやってきた時は驚いた。そもそも地底は閉鎖的で外から誰かが来ることすら珍しかったのだから。地上で妖怪の賢者と名乗る妖怪がいることは鬼にも聞いていたから知っていた。そのおかげで混乱せずに対応できたから助かった。
今は流暢にこちらの言葉を話す彼だが初めはひどかったものだ。彼にこちらの言語を教えたのは主に関わっていた鬼たちだったが、教え方が適当すぎるせいで習得にはかなりの年月が必要だったようだ。確か五十年くらいかかっていたはずだ。
そんな彼も今は地底で楽しくやっているみたいだ。彼は悪い妖怪ではない。少なくとも私の事を能力のみによって嫌う者たちよりはいい妖怪だろう。珍しい妖怪ではあるが。これは今日レミリアさんが訪ねてきた時にも思ったことだ。やはり親子は似るものなのであろうか。
そういえば彼女にも妹がいるみたいだ。彼女には伝えていないが実は私にも妹がいる。いつもふらふらと何処かへ行ってしまうせいで今どこにいるのかはさっぱりわからないが。
だから先ほどレミリアさんから何か相談はないかと聞かれた時につい相談しようと考えてしまったが踏みとどまることができた。あの子が第三の眼を閉じてしまったのは私にも責任がある。それを事情の知らないレミリアさんに相談するのは少し悪いと感じた。
今は彼女が昼食を作ってくれているみたいなので私は手紙に目を通しておかなければならない。わざわざ地底に頼みに来るほどのお願いとは何なのだろうか。レミリアさんの心を覗いても妹に関する事だという以外はわからなかった。百聞は一見に如かず、一先ず手紙を読めばわかるだろう。
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地霊殿主人 古明地さとり様
急な訪問を承諾していただき誠にありがたい限りです。この手紙を読んでいるという事は、今回地底にまで頼みごとをしに行った理由は大体把握できていることでしょう。確認のためここにも記しておきますが、ずばりレミリアの妹であるフランドール・スカーレットの事に関してです。彼女は生まれ持った強力な能力故か稀に狂気の人格が出てきてしまうのです。狂気の人格になると破壊本能が理性を完全に超越してしまい、片っ端から物を破壊しようとするようになってしまうのです。今はまだ何とか抑えられる程度ですが妖怪は長生きをするものです。これから数百年、数千年が経ってしまえば彼女の狂気の人格を止められる者はいなくなってしまうでしょう。そうならないためにも是非貴方の妹、古明地こいしさんの力をお借りしたいと思っている次第でございます。
博麗の巫女に話を聞いたところ、こいしさんは無意識を操ることができるとの事です。そして昔私と私の使い魔で確認したところ狂気の人格というのは実はフランドールの無意識の状態であるようです。つまり無意識を操りフランドールの狂気の人格を完全に制御してしまいたい、というのが私の考えなのです。勿論こいしさんの能力に頼るだけでなく、こちらでもその補助のための術式は組みます。そもそもこいしさんの居場所の特定が難しいことは理解しております。そちらの方は私の友人の協力を仰いで何とか出来ましょう。
そちらの都合を考えずこちらの都合のみを考えているようで非常に申し訳ないのですがどうかご協力願えないでしょうか。返事は今すぐでなくても構いません。もし協力してもいい、と思われましたらこの手紙に同封してある結晶に貴方自身の妖力を籠めていただければこちらに伝わるようになっています。この結晶は初めに手紙の封を切った者の妖力を記憶しておくように作られています。仮に貴方が古明地さとりではないとすれば私の立てた計画はたちまち破綻することになってしまいますが、レミリアがそんなへまをやらかすわけはないと信じてこのような作りに致しました。もし、協力する気が無いのならば灼熱地獄にでも放り込んでおいてください。魔力の結晶ですので有害な廃棄物とならずに消滅します。
どうか良い返事を期待しております。 紅魔館図書館長 パチュリー・ノーレッジ
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ふむ、特にこれと言って断る理由もないがあとはレミリアさんとの話し合い次第だ。彼女がこいしに協力してもらう事を是とするかどうか、か。まあ答えは心を読む前からわかっているようなものだが。
「お待たせ、昼食ができたわよ」「私もいますよ~」
「あら、とても早かったですね。それにお空も」
…え、これでも慣れない厨房だから手間取った方?普段は恐ろしい速さで料理ができているようだ。味の方はかなり自信がある様子。
これは麻婆豆腐か。彼女の父親には良くなさそうだが。
「あ、お父様は別に作ってありますよ。勿論そんな刺激物を食べさせるわけにはいきません。お父様の分は……はい、これです」
焼き魚に野菜のスープ、納豆と白米とは。というか米とかいつの間に炊いていたんだ。……どうやらお空の力も借りて米を炊いたからここまで早かったみたいだ。芯は残っていないのだろうか。
「……凄く和食っぽいな。納豆なんて食べたことも無いが。まあ売られている物なら不味いという事もあるまい」
「今回使った材料は全て紅魔館で育てて作った物ですよ、お父様。パチュリーが私にこれを持たせていた意味がようやく分かりましたよ。一体どこまでお見通しなのやら……」
レミリアさんがここで料理をすることはパチュリーさんの中では既に確定事項だったのか。それに彼女の父親が不摂生な生活をしていることも。
「紅魔館で……?それは食べても大丈夫な物なんだろうな。折角レミリアが作ってくれたのだから食べたい気持ちはあるのだが」
実際に食べたい気持ちと危ないかもしれないという気持ちが拮抗しているようだ。
「勿論ですよ。育てているのは美鈴ですし加工しているのもパチュリーはじめ信頼できる者たちですからね」
「そうか、ならば安心して食べれば良いのだな。私も麻婆豆腐を食べたかったが致し方あるまい」
「普段私が紅魔館の住人以外に料理をすること自体ほとんどないのですからよく味わって食べてくださいよお父様。それにさとりたちもね」
肉は動物由来のものではなく大豆から加工したものらしい。お空への気遣いなのだろうか。実は特に気遣わなくても大丈夫なのだがこれは言わなければならない事でもないだろう。
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「いやはや、質素なものだと侮っていたが美味しかったぞ。ごちそうさま」
「それは良かったです。料理には少々自信がありますがそういってもらえると嬉しいですね」
「こっちも美味しかったよ。辛さも丁度良かったねぇ」
「それは良かったわ。さとりも満足してもらえたかしら?」「えぇ、とても美味しかったですよ」
これは料理に自信があるのも頷ける。他人にあまり振る舞わないのは……なるほど。地上の妖怪も様々な事情があるみたいだ。
「じゃあ話し合いを始めましょうか。手紙はもう読んだかしら?」
「はい。一応貴方もご覧になっておいた方が良いでしょう。私が初めに読む選択は間違っていなかったようですが」「?まあいいわ」
「ん?そういえばレミリアがわざわざここまで来た用事とは何なんだ?」
「貴方も一緒に手紙をご覧になった方が良いでしょう。私は少し待っておきますから」
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「…………なるほどね。貴方にも妹がいたのね。それで、さとりはこれを読んでどう思ったの?」
「どう、と言われましても。私としては協力するのも悪くはないのですが……いかんせんこいしがどこにいるのかが全く分かりませんし、もしかしたらこいしが嫌がるかもしれません」
「確かにこれは貴女だけの問題ではないものね。でも貴方としては特に問題はないみたいね。それならきっと大丈夫だわ。きっとフランとこいしは気が合うはずだから。それにこの私がこう言っているんだもの」
確かに性格もそれほど違わなさそうではあるが。それにしてもレミリアさんが大丈夫だと言う根拠はまた別のところにあるらしい。私でもよくわからないのは不思議な事であるが。
「レミリアがそう言う根拠が私にはよくわからないのですが」
「私の能力には覚の能力すら干渉することはできない。『運命を操る程度の能力』…他人の運命を操ることは普段はしないけど今回ばかりは仕方ない。なにせフランのためだからね」
「レミリアも立派に成長したものだな。父親としては嬉しい限りだ」
「娘に説教されるのは恥ずかしい限りですけど。さて、さとりが協力に前向きならその結晶とやらに妖力を籠めてもいいわよ。私はこいしの運命を操って定められた時に定められた場所に来てもらいましょう。そのためにも何かこいしの妖力の痕跡があれば簡単になるのだけど」
そんなことでこいしの行動を制限できるのならいつでもこいしに会えることになってしまう。しかし彼女の意思は本物のようだ。
「それでしたらこれなんかどうでしょうか」「よさそうね」
信じ切ることはできない。これは私の種族の問題でもあるのだが。
「………………………………よし、二日後に今度は紅魔館の皆でここに訪れるわ。正午くらいには始められるでしょう。パチェの術式が入るからどうせすぐに終わってしまうでしょうけど」
「…わかりました。ではまた二日後にお会いしましょう。しかしこいしは無意識状態なので本当にどこにいるかはわからないんですよ」
「少しは他人の事を信用してみなさい。貴方には難しいことなのでしょうけど。それじゃあ私は帰るわね、さとり。また会いましょう、お父様」
「………………………………お燐、帰りも送ってあげてね」「はい。お任せください」
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やはり他人を信じることは難しい……いや、そうではない。怖いのだ。他人を信じてしまうと裏切られた時の反動が大きくなってしまう。人間も妖怪も心変わりは一瞬だ。私たち姉妹はいつもそれで傷ついてきたのだ。妖怪にとって精神への攻撃は特に有効になる。だから私は他人を信じることをやめ、こいしは眼を閉じてしまった。裏切られる、という事が無いように。
結果として私は地霊殿に引きこもりがちになり、こいしはもはやどこにいるのかさえはっきりとしなくなってしまった。そのこいしが急に今日帰ってくるとは考えられないのも無理はない。
「大丈夫ですか?さとり様。最近ずっと思いつめたような表情をしていますが。それにもうすぐ紅魔館の皆さんがいらっしゃる時間ですよ」
「ごめんなさいね、お燐。心配をかけてしまったかしら。でも大丈夫よ」
「ならいいんですけど。とにかくお客様を迎える準備はしておかないといけませんね」「そうね」
ペットに心配されるほど思いつめた表情だったとは我ながら恥ずかしいこともあるものだ。
「といっている間にもう来たみたいですね。あたいは玄関まで迎えに行ってきますよ」
前回とは異なり今回は大所帯だ。前回も来たレミリアさん、その妹のフランドールさん、手紙を書いたらしいパチュリーさん、その使い魔の悪魔さん、隙の無い佇まいの美鈴さん、最後に見慣れた帽子をかぶったこいし…………「…………え?こいし?どうしているの?」
「だから言ったでしょう?私の能力に干渉できる者などほとんどいないのよ。世の理からずれてしまっている者を除いてね」
例えば閻魔や博麗の巫女か。しかし本当にこいしが今日ここに帰ってくるなど思ってもみなかった。正直に言うとかなり予想外だった。
「やっほーお姉ちゃん。めでたい色の巫女は捕まえられなかったけどこの人たちが面白そうだからついてきちゃった」
「そういうわけよ。こいしも協力してくれるらしいわ。さっさと終わらせてから昼食にしましょうか。今日は前よりも多くの種類の食材を持って来たから楽しみにしていたらいいわよ」
「失敗しなければ、ですけどね」「あら、パチェの術式に失敗は無いわよね?」
「勿論よ。この術式の研究はもう何百年も昔からやってきた事。様々な装丁をしてきたけれど一番楽な術式に収まってくれたわね」
本当に様々な構想があったらしい。思考の速さが並みの妖怪ではなくあの賢者と同等なのでかなり読みにくく、それくらいの事しかわからないが。
「それでは始めるわ。先ずはフランドール、これを手に固定してそこの魔法陣の中心に立って……いえ、座っていた方が良いわね。今からあなたを眠らせるから」
眠っていた方が無意識を引き出しやすいからか。そして手を握らないようにするのは能力の発生を妨げるため。フランドールが眠った段階で身体全体を固定してこいしの能力で無意識を完全に制御してしまう、という作戦みたいだ。断片的にしか読み取れなかったが。
「眠ったわね。さて、ここからはこいし、あなたの仕事になるわ。この魔法陣に妖力を流して起動してもらえるかしら。恐らくそれだけで無意識は外に出てくるはずよ」
「オッケー。それじゃあ行くよ」
「あなたハ誰?デモ知ラナイ人でモ関係ないヨ。ミンナ壊シちゃエばイっしょなんだカラ!キュッとして…………アレ?どうして?ナンでコンナ事にナッテルの?」
なんておぞましいモノなのだろうか。私の能力が効いていない事から正しく無意識であることはわかる。こんなモノの心など読みたくもないから無意識で助かったともいえる。
「お久しぶりね、狂気さん。これからあなたには辛い思いをしてもらうわ。抵抗してくれても構わないわよ」
無意識が眠ると意識が覚醒してしまうかもしれないから、か。まだ精神年齢(無意識にそんなものがあるのかは知らないが)が幼そうな狂気には丁度良い煽りになるだろう。フランドールさんは自身の分身のようなものを出すことができるようだが無意識の方はその方法すら知らないから拘束すれば抜け出されることは無いらしい。
「フランちゃんが悲しまないようにするためにもこうするしかないのよ。だから許してね」
フランちゃん、か。こいしにも仲良くできる子ができて良かった。今考えることではないと思うが。
「ヤッ、ヤメロ!こんナ狭い檻ナンかに閉ジ込メルなんて!ウぅゥあアァァァ!」
こいしの能力、私にもあまり理解できるものではないが今の狂気の言葉から、恐らく無意識の人格を無意志下の堅牢な檻に閉じ込めたのだろう。姉としては悲しめば良いのか喜べば良いのかわからないが、こいしは無意識を操ることに関しては既に一級品になってしまった。
対無意識に関して彼女の力は絶大だ。恐らくこいしが生きている間は半永久的に閉じ込めることが可能になるだろう。何せ無意識が檻を攻略しようとすることができるのはフランドールさんが無意識になっている時のみ。更に手足を拘束され能力まで封じられているとなれば抜け出すことは不可能だ。
「…………随分とあっけなかったわね。今までできなかったのが嘘みたいだわ」
「ここまで簡単に事を運べたのは全てそこのこいしのおかげよ。彼女の能力が借りられなければまた新たな術式を生み出さなければならなかった」
「それはたとえパチェでもまだ相当な時間が必要だったという事?」
「その通りよ。だから今回は本当に助かったわ。ありがとう、こいし。それに貴方が許可を出してくれなければこいしにも頼めなかったでしょう。さとりもありがとう、この結果を生み出せたのはあなたたち姉妹のおかげよ」
「そんなことはありません。私はただ…………「いいえ。それは違うわ、さとり。確かに貴方は術の完成をただ見守っていただけなのかもしれないわ。でも私たち紅魔館のメンバーからすれば貴方もフランを救う事の一助となったことは疑いようもない事実。礼は受けなさいな」……そうですね。こういう時はどういたしまして、とでもいえば良いのでしょうか」
私が心を読まれる立場になるとは思ってもみなかった。しかし今まで罵声を浴びせられることはあっても感謝されることなど無いに等しかったのでこういう時にどういう態度で接すれば良いのかが全くわからない。
「そうそう、それで良いのよ。今日の昼は私が腕に縒りを掛けて最高級の料理を振る舞うわよ。折角フランがいるからお父様にも会わせてあげたかったけど」
彼は二日前に今日の事を聞いていたはずだ。という事はそろそろここに来てもおかしくはないはずだ。
「その心配はないみたいよ。でもまさか正午きっかりに来るなんてね。地底でどうやって時間がわかるのかしら……。
お久しぶりですね、スカーレット卿」
「あぁ、久しぶりだな、パチュリー。それに美鈴と…ほう、人間か。それに………そこにいる悪魔はまさかあの時の……?」
「そうですよ。私が館に来てすぐに召喚した低級の悪魔です。私たちは小悪魔と呼んでいますよ」
「いやはや、時の流れというのは侮れないものだな。レミリアだけでなくあの悪魔さえこうなってしまうとは。それで、フランドールは無事に出来たのか?」
「はい。今は眠っているだけです。私の料理が終わるまでには起きてもらわないといけませんが」
「そうかそうか。今日はちゃんとした昼食が出るように酒はまだ飲んできていないぞ」
前回自分だけ違う料理を出されたことが相当参っているようだ。結局終始美味しいと言いながら食べていたが。
「それは当然の事ですよ、お父様」
心の中でも相当呆れているようだ。まあそうだろう、特に自身の父親なのだから。
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「今日は本当にありがとう、さとりさんもこいしちゃんも。結構楽しかったからまた来たいかも。それにお父様もまた会えて嬉しかったよ」
「私はついでなのか……まあいいフランドールにレミリア、お前たちが随分と成長していて私はとても嬉しく思ったよ。ただ私も隠居している身だ。だからそう何度も会いに来るんじゃないぞ」
「酒癖を指摘されたくないだけですよね」「おっ、おい!さとり!」
「へぇ、じゃあ定期的に来てお父様に説教しないといけないかもしれませんね?「ぐっ」……冗談ですよ。立場上そんなに頻繁に地底に来れるわけではないですし、地上は地上で楽しいことも多いですからね」
『助かった』って…。親としての威厳が守れるようにここは黙っておいてあげよう。
「それじゃあ私たちはもう帰りますね、お父様。さとりとこいしもありがとう。今日は貴方たちに助けられたしその後もなかなか楽しめたわよ。また会いましょう」
”また会いましょう”、か。彼女の言葉は全て本心。嘘は混じっていない。
「私の方も楽しかったですよ。こちらこそ機会があればまた会いましょう」
だからこちらも本心でお返ししよう。彼女となら姉同士良好な関係を築けるかもしれない。私から会いに行くことはできそうもないが。
調子に乗って書いていたら7500字くらいになってしまいました。最近割と順調に5000~6000で書けていたのですが
前回レミリア視点オンリーだったので今回はさとり視点オンリーで書いてみました
二十一話で狂気は無意識である、という話が出た時点でこいフラのフラグが立ったと気づいた方もいたでしょう。忘れている方がほとんどでしょうが
では恐らく水曜日に出る次回も読んでいただければ幸いです