行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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最近やたらと伏線回収が多いのは最終話が近いからです


成長的第五十七話

   白蓮side

 

 

 今の人間はなかなか強くなったものだ。いくら遊びであるとはいえ私も全力で相手をしたのに負けてしまうとは。

 

 

「私の勝ちだ。とりあえずここから出してくれ。今回の詫びはその後要求するぜ」

 

 

「あぁ、本当に人間は変わらない。欲深さはあの時以上かもしれませんが。しかし私が敗者であることは変わりようもない事実。帰りの安全は保障しましょう。先に船で待っていてください」

 

 

「なんだ?何か用事でもあるのか?それとも名残惜しいのか?」

 

 

「いえ、少し彼女と二人で話してみたいのです。今ここで」

 

ここに来てから一度も言葉を発していない彼女。彼女からも魔力が感じられるという事は魔法使いなのだろう。魔法に精通している者にしかわからないだろうが彼女の魔力の量とその練度は今しがた戦った人間をはるかに凌駕している。

 

彼女は強い。その上さっきの人間とは違い種族としての魔法使いだ。同業者としてこれ程気になることも無いだろう。

 

 

「そんなもの船の中ででもできるんじゃないのか?この船は自動航行なんだr……」「!?」

 

言葉が途切れ急に倒れてしまった。ここの瘴気にやられたか?いや、今の今まで耐えられているのにそのはずはない。となると何らかの病気か第三者の介入か……「っ!」

 

星をはじめ寺の妖怪たちも次々に倒れてゆく。これは確実に第三者の介入だ。未だに無事なのは私と魔法使いの彼女のみ。先ほど一瞬ではあるが驚いた表情をしていたので、彼女が犯人であることもない。

 

しかしここは魔界の中でも他とは隔てられている法界。そう簡単に侵入することはできないはずなのだ。だとすると一体どういうわけなのだろうか。それに私と彼女だけが何もされていないのはどういった理由からなのだろうか。

 

 

「折角二人で話したいと言っていたのにそれに反論するのは駄目よね」

 

「だからと言って気絶させるのはどうかと思うわよ?」

 

 

「いいじゃない。どうせ彼女たちに私たちの姿を見られるのはいけなかったんだから。いずれにしても気絶はしてもらわないと」「はぁ」

 

久々に会う彼女と、とても久しぶりな彼女。封印されていた私にとってはどちらの存在もありがたかった。

 

 

「「神綺様(魔界神)に師匠(パチュリー)?!どうしてここに?」」

 

どうやら彼女も二人の事を知っている様子。師匠は普段から外の世界にいるから知っていてもおかしくはないが神綺様はほとんど魔界から出ていないはず。

 

 

「……貴方は魔界出身なのですか?神綺様をご存じのようですが」

 

 

「…………えぇ、そうよ。まだほとんど誰にも言っていないけど。魔理沙たちが気絶してくれていて助かったわ。それで、貴方こそパチュリーを知っているようだけど」

 

 

「彼女は私の魔法の師匠に当たります。とはいってもたった数年だけでしたが」

 

 

「パチュリーが師匠か。少し羨ましいわね。私も彼女に習う事はあるけど」

 

 

「ちょっとちょっと、何二人だけで話しているの?私たちも話に混ぜなさいよ」

 

「ちょっと神綺、あの子たちが二人で話したいと言ったから他を気絶させたんでしょう?なら私たちが入ってはいけないわ」

 

 

「あー、別に構いませんよ。お二人を拒む理由も特に持ち合わせていませんし。貴方もそれで構いませんか?えーと……「アリスよ。アリス・マーガトロイド。私も別に構わないわ」そういう事ですから入ってきていただいても問題ないですよ」

 

「そう。改めて久しぶりね、白蓮。かれこれ四百年ぶりくらいかしら。修行は怠らずにしっかり続けていた?」

 

 

「勿論です。魔界の神に誓って嘘ではないですよ」「そこは仏に誓いなさいよ」

 

 

「最近あまり見に来れていなかったけど元気そうで良かったわ。アリスちゃんも随分成長したみたいね」

 

 

「ところで神綺様とアリスさんはどういった関係で?」

 

 

「アリスちゃんは私が創った魔界人よ。言ったことなかったかしら。次に創るなら人間にしようかな、って」

 

「それ、言っていたのはもう四百年前よ。神の時間感覚はいつまでたっても慣れないものね」

 

恐らく師匠にだけ言っていたのだろう。私には聞き覚えが無い。しかし魔界神の子か。道理で関係は深そうだったわけだ。

 

 

「いいじゃないの。大抵の神なんてそんなものよ。まあそういうわけでこの子は魔界の出なのよ。私が創ったのにお母さんとも呼んでくれないのよね」

 

 

「魔界の存在は皆貴方が創った者だけど、貴方の事をお母さんなんて呼ぶ人はいないでしょう?だから私も魔界神と呼ぶのよ」

 

「確かにそれも一理あるわね。まあアリスと神綺は久しぶりに会ったんだし少しは話でもしなさいな。私も白蓮と少し話がしたいから」

 

それはありがたい。私も師匠と久しぶりにじっくり話しておきたかったところだ。

 

 

「……仕方ないわね。まあ久々の里帰りみたいなものだしね」

 

 

 

   パチュリーside

 

 

 神綺が次に創ると言っていた人間はアリスの事だったらしい。一つの可能性として考えることはできたが流石に四百年も空けるとは思っていなかった。

 

今回も魔界に来るのは紫に頼んだ。彼女が神綺と知り合っていたおかげでスムーズに神綺のところまで行けたのはかなり助かった。魔界の最奥まで行くのは流石に面倒なのだ。

 

紫は私を送った後すぐに幻想郷に帰ってしまった。少しは残ってくれても良かったのだが彼女も色々としなければならないことがあるのだろう。賢者は多忙そうだ。誘われる前に日本を出ていて良かった。

 

今は神綺の相手をアリスにしてもらって私は白蓮と話をしているわけだ。心配はしていなかったがあれから欠かさず修行に励み魔道具も増えたらしい。魔人経巻もその一つであるようだ。

 

 

「そうです師匠、ここはひとつ手合わせ願えませんか?私もあの頃と比べて強くなったと思っています。一撃すら入れられなかったあの時とは違う事が証明できるのではないでしょうか」

 

彼女の願いは聞いてあげたいが私よりもはるかに適任な者がここにいるだろう。

 

「彼女さえよければ……私ではなく彼女と戦ってみなさい。互いに手の内を知らない相手と手合わせするのは良い経験になるわ」

 

 

「確かに彼女と私なら実力も近いですし良い相手と言えますね。アリスさんが良ければ、ですが」

 

「まあ任せておきなさい。彼女ならきっと了承してくれるわ」

 

          ・

          ・

          ・

 

「…………というわけであなたと白蓮で一度戦ってみてくれないかしら」

 

どうやら気が進まないようだ。まあアリスは魔理沙を追ってただついてきただけだし特に争いも好まないから仕方のないことではある。

 

「白蓮は私の元弟子なのよ。そしてあなたも弟子とあまり変わらないでしょう?師は教え子の成長を見たいものなのよ。頼まれてくれないかしら」

 

 

「……パチュリーがそこまで言うなら引き受けるわよ。ただし負けても何も言わないで頂戴よ?」

 

「勝ち負けにはこだわらないから良いのよ。引き受けてくれてありがとう。白蓮にとってもあなたにとっても良い経験になるといいわね」

 

結局それっぽいことを言ってアリスにも許可がもらえた。それっぽいこととは言っているが言った言葉に嘘はない。アリスは本気を出さないだろうが、それでも成長度合いの見極めにはなる。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「では双方準備はできているわね?……それでは始めて頂戴」

 

魔法使い同士の戦いは基本的に後出しだ。先に仕掛けてしまうとそれへの対策が即座にされてしまうからだ。しかし白蓮は違う。彼女は身体強化を行って戦う。故に常に先手を取りに行く戦い方だ。

 

初めての相手と戦う事の意味がここにある。アリスは恐らく相手の出方を注意深く探っているのだろう。しかし身体強化を行った白蓮にそれは悪手だ。相手の予想外の行動に対応は僅かに遅れる。逆に手の内を知っていれば昔の私のように対策がとれる。まああれは結界術を学んでいたからこそだが。

 

白蓮に不意の一撃をもらうかと思ったがアリスは人形を駆使して防いだようだ。半ば本能的にやったものかもしれないがあの反射神経は素晴らしい。肉体と人形、これで互いに一枚ずつ手札を明かしたことになる。

 

二人にはまだまだ余裕がありそうだ。やはり手合わせは良い経験になる。今まで自分が積み上げてきたものを出すための場。存分に力を出して戦ってもらいたいものだ。命に危険が無い程度のところで。

 

白蓮は一人であるのに対しアリスの方は数十もの人形を展開している。あれだけの数の人形を一度に操作するのには一体どれほどの集中力が必要なのだろうか。そもそも簡単な人形劇の人形を操ることで精いっぱいな程度の器用さでしかない私にはたどり着けない疑問なのだろう。

 

いくら数の有利があっても相手は白蓮。人形たちでは止めるのにも限界がある。現に今優勢なのは白蓮だ。白蓮がかなりの速さで移動している上にアリスは人形たちに集中しているからなかなか追い切れていないようだ。

 

 

「これ程までに器用な人には会ったことがありませんよ。魔法使いにも色々な人がいるものですね。折角ですので魔人経巻のお披露目といきましょう」

 

 

「それは光栄な事ね。ってその巻物はまさか魔界の……?」「えぇ、その通り」

 

魔界の物質は意志を持つものが多い。いくら優れた魔法使いがいても魔人経巻は白蓮以外には扱えない。そのうえ紙媒体ではないため容量は実質無限。白蓮もなかなか恐ろしい物を作ったものだ。

 

ただ白蓮が先ほどまでのように動き回らなくなった分、対処は多少しやすくなったみたいだ。普通の相手なら魔人経巻の方が厄介なものになるがアリスの場合は他の者と比べて対処する手が圧倒的に多い。流石にこれは白蓮も予想外の事だったようだ。魔人経巻はあまり活躍できずに一旦仕切り直しだ。

 

 

「まさかそのような対処の仕方は想定していませんでしたよ。私もまだまだですね」

 

 

「私以外になら効果的だったかもしれないわね。ただ私には全く効かなかったけど。次は私の番よ。とっておきを見せてあげるわ」

 

アリスが何やらとっておきを見せてくれるらしい。彼女が呪文を詠唱するのは珍しい。何が出てくるのだろうか。

 

 

「……魔界人形…「魔界人形とは?」その名の通り魔界で作られた人形よ。作ったのは私。貴方もその巻物を作ったのなら知っているでしょう?この人形は私にしか操れない、私が最初に作った愛すべき人形よ。勿論今までの人形たちとは一味違うわよ?」「…なかなか面白いですね」

 

私ですら知らなかった人形となると相当厳重に保管されていたのだろう。見た目は可愛らしい人形だが感じ取れる雰囲気はそんなものではない。

 

「神綺は知っていたの?あの人形の事」

 

 

「勿論。だって魔界にいた頃は肌身離さず持っていたくらいだもの。あの人形は魔界の物で作られている。ともすれば人形自体に意思が宿ってしまう」

 

「つまり完全自律人形になってしまうかもしれないと。そんな形で夢が叶うのは少し悲しいことだと思うけれどね」「まああの子次第よ」

 

きっとアリスが追い求めているのは普通の材料で作った人形の自律化だろう。もともと意思のある材料で作った人形が自律しても感動が薄い気がする。これは私の勝手な考えだが。

 

人形から感じる雰囲気はさながら悪魔のようだ。こあのような低級の者ではなく初めから上級である者のような圧倒的な禍々しさ、魔法使いにしかわからないような独特の魔力を持っている。流石は魔界産とでも言うべきだろうか。

 

今までの人形を大幅に減らし、今アリスが操っている人形は先ほど召喚した物も含めて僅かに三体。それほどまでにあの人形の制御は難しいという事だろう。しかし人形が減ればその分白蓮からの攻撃の対処はし辛くなる。

 

白蓮も再び魔人経巻を出して構えている。魔界で作られた人形と巻物。あの魔界人形も恐ろしい力は持っていそうだが白蓮を相手にするには不十分だろう。手数で白蓮に対処してきたアリスがその有利を捨てればどうなってしまうのだろうか。

 

 

「その人形の力は認めましょう。しかしその程度の手数では私を相手取ることはできません。教えてあげましょう。私の身体強化を」  超人『聖白蓮』

 

圧倒的な速さ。もはや私たちのような魔法使いの目で追う事は不可能だ。追えるのは天狗などの妖怪だけだろう。目を強化してもキツイ。移動範囲こそ広くないものの攻撃を当てるのは至難の業だろう。

 

対するアリスは再び呪文の詠唱。彼女が普段ならほとんど使わない大型の魔法陣だ。高速詠唱は昔私が教えたものだろう。魔法陣は全く知らなかったものだがその構成はとても美しく見える。

 

 

「――――――――――――、今こそ集え我が娘たちよ」  『人形の滝(フォールオブドール)

 

アリスの一声とともに白蓮に襲い掛かるのは百や二百では足りない程の圧倒的な数の人形たち。白蓮が如何に速く動いても隙間なく襲い掛かる人形たちを躱すことはできない。まさに数の暴力だ。

 

しかしそうなると先ほどの魔界人形は戦闘用ではなくただの布石だったのだろうか。それにあの魔法陣は一体……?

 

 

「いやはや、油断していたつもりは無かったのですが……今回は私の負けです。非常に残念な事ではありますが」

 

経験の差で白蓮が勝つかと思っていたが予想外だった。今回アリスが披露した魔法は私が全く知らない物だったし。

 

「白蓮もアリスも素晴らしかったわ。もはや私が何か言うのもおかしな事に感じるけれど。それでアリス、あの魔界人形はただの布石だったのかしら?」

 

 

「まあそう言えなくもないわね。あの人形には特別な細工がしてあるのよ。私たち魔法使いが苦手とする妖怪、天狗みたいな速い妖怪を相手にする時のためにね。私が高速移動物体を認めたとき、あの人形がその位置を正確に把握し私自身を一時的に操るようになっているの」

 

自分自身を操る、それはとても難しいことだ。自身の持つ主観的な視点に加えて客観的な視点も同時に持たなければならないからだ。しようと思っても簡単にできることではない。並みの人妖なら脳が追いつかないだろう。

 

「恐ろしいことをするのね。それで最後の魔法陣はどうなの?構成に拘っていたみたいだけれど」

 

 

「流石パチュリー、分かってくれたのね。あの魔法陣も本当はもう少しシンプルに出来たわ。でも私が拘ったのは貴女の影響よ。昔見た貴方の魔法陣のように私も美しい魔法陣を描いてみたかったのよ。それで今回採用したのは白銀比の中でも大和比と呼ばれるものよ。上手くできていたようで良かったわ」

 

なるほど。昔アリスと初めて会った時に見せたあの魔法陣を意識していたのか。しかし黄金比に対して白銀比とは相当な拘りが見える。

 

「本当に見入ってしまっていたわ。素晴らしい構成だった。

 

それで白蓮はどうだったかしら?不完全燃焼気味みたいだけれど」

 

 

「やはり見破られていましたか。まさか私が奥義を出す前に決着が着いてしまうとは……情けない限りです。アリスさんのあれは貴女の奥義だったのでしょうか」

 

 

「奥義を持つならさらにその奥義を持つこと。あれも奥義の一つではあるわね。ただ私の作った大量の人形たちを召喚するだけの魔法だけど」

 

「私としてはその後の大量の人形操作の方がしんどい気がするのだけれど…」

 

 

「慣れてしまえばかなり楽になるし、あの時はそれぞれの人形に違う指示を出すのではなく同じ指示を出せばよかったから案外楽よ?」

 

個人的にはそれでもしんどいと思うが。

 

 

「パチュリー?そろそろあの子たちが起きそうよ。私たちは退散しましょう」

 

「分かったわ。では二人ともまた幻想郷で会いましょう。またね」「えぇ」「さようなら」

 

教え子の成長を見るのはいいものだ。私もうかうかしていられないと再確認できたし。




毎度の事ながら自分のネーミングセンスが無さ過ぎて泣きたくなります

白銀比には1:(1+√2)のものと1:√2のものがあります。後者を大和比などとも呼び日本人に好まれる比のようです。ちなみに私も圧倒的に後者が好きです

今回はアリスが勝っていますが、実際の実力は聖の方が少し上です。聖がもう少し早く勝負をかけに行っていたら結果はまた違ったでしょう


では次回は短めでしょうが読んでいただければ幸いです
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