行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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少しどころか相当時間が戻りました。今回は十二話で飛ばした時間の話です。番外編では毎回の事ですが、何となくこの内容を書きたくなっただけです

色々調べながら書きましたから間違いは結構あるかもしれません。見ていられないと思ったら遠慮なく指摘していただいて構いません



神への畏れ

  パチュリーside

 

 

 ここで暮らし始めてからもう二年目も終わるころになった。まだ年も明けていないというのに信州の山奥ともなれば寒さは厳しい。ここからまだ寒くなるのかと思うと少し憂鬱になりそうである。

 

「は~寒い。はい、朝食ができたから並べてきて頂戴」

 

 

「分かったよ。それにしても来年の干支って何だっけ?」

 

料理を運びながら稔里が私に聞いてくる。干支くらい覚えておけばいいのに。今年は確か丑だったはずだ。

 

「来年は確か寅ね。それがどうかしたのかしら?」

 

去年はそんなことは聞かれなかったような気がするのだが記憶違いだろうか。

 

 

「来年はいい物が見れるはずだよ。ぱっちゃんも楽しみにしてなさい」

 

何故か得意そうにしている稔里。そんなことを言われると今から楽しみである。去年は一年の途中からだったからわからなかったとしても今年は年始からいた。数年に一回の出来事が起こるのだろうか。神は意図的に災害を起こすことも可能だし。

 

「そういえばそろそろ神事の方も忙しくなってくるわね。諏訪子と神奈子は気楽で良さそうだけれど」

 

何故かこの神社は神主など他の神職がいないので神事を行うのは全て巫女(風祝)の仕事になる。諏訪子と神奈子は奉げられたりする側なので基本的には何もしない。精々今年一年がどのような年になるのかを稔里に告げるくらいである。

 

 

 

   天の声side

 

 

 諏訪での一年の初めの神事と言えば蛙狩神事だ。これは元旦に蛙を捕ってきて矢で串刺しにしてお供えするという神事である。始まった経緯は不明だが恐らく諏訪大戦において神奈子が諏訪子を打ち負かしたことを示すための神事なのではないだろうか。

 

負けた蛙と勝った蛇。敗者を生贄として勝者に奉げるのは何ら不自然な事ではない。蛙は蛇には勝てないという自然の理の他にも偉大な神への畏怖も含まれているのではないだろうか。

 

蛙狩神事は一年の五穀豊穣などを願う神事でもある。つまりこれをしなければ神奈子のご利益の一つである五穀豊穣が得られないので不作になってしまうのは確実である。その点ではこの神事の重要性はとても大きいと言える。

 

始めた当初は諏訪子も不満が大きかったようだが、今となってはそうでもないようである。生贄として蛙が串刺しにされるのは気分の良い物ではないらしいが、自分が負けたせいだとも考えているようだ。それに神事で贄にされる蛙は二匹である。それ以上はむやみに殺さないので仕方のない事だと割り切っている。

 

今年も大勢の国民が見守る中、見事に蛙を捕らえて奉げることができたようだ。去年と今年に関しては、新たな巫女見習いという形で付き添っているパチュリーが探知魔法で探しているので効率は以前までとは比べ物にならない。捕まえるのは慣れている稔里だ。いずれはパチュリーもできるようにならなければならないのだが。

 

串刺しにして奉げた後は稔里による神奈子への祝詞の奏上が行われる。

 

 

「例のまにまに蛙狩の神事仕えまつりて大贄に仕えまつり…………(かしこ)(かしこ)みも(まを)す」

 

これが終われば国を挙げての大宴会である。二柱にとってはむしろこちらが本番ともいえる。それでいいのかと突っ込みたくなるが本人たちがそれで満足しているからそれでいいのだろう。

 

 

「いやぁ~今年もつつがなく神事が終わって良かったわね、諏訪子」

 

 

「それ、私の前で言うかい?私は可愛い蛙たちを贄にされた身だというのにねぇ。ま、私が神奈子に負けちゃったのが悪いんだけど。それより今年は色々あるからかなり大変な年になるんじゃない?」

 

 

「さてね。それは次の神事の時にわかるでしょうね。それにしても今年はあれもやるのつもりなの?ぱっちゃんももう三年目だから良い頃じゃない?」

 

 

「そうだね。今年はやろうか。神奈子も準備しておきなよ?」

 

 

「えぇ。そう言えば…………」

 

二柱の宴会は夜が更けても終わらない。神の酒量には流石の美鈴もついて行けないようだ。人間たちと一緒にとっくに寝てしまっている。まだ起きているのは神奈子と諏訪子、それに酒をほとんど飲んでいないうえに睡眠のいらないパチュリーだけだ。神たちの夜はまだまだ長そうである。

 

 

 

   パチュリーside

 

 

 蛙狩神事も何事もなく無事に終わった。その後の宴会で結局皆酔いつぶれてしまったのはどうにかしてほしい。美鈴が酔いつぶれるまで飲むのは珍しいが久しぶりの酒でテンションが上がったのかもしれない。二柱は流石に大丈夫かと思っていたが意外とそうでもなかった。

 

どうやら筒粥神事はこの時代まだないようだ。そう言えば凶相と言われる三行半(みくだりはん)と言うのは江戸の頃の物だったか。どうにもそのあたりが曖昧だ。過去の事は本を読めばいくらでも出てくるが、江戸はまだまだ先の未来の話である。前世の記憶しか頼れるものは無いのが辛いところだ。

 

そんなことがあってもまだまだ寒い日が続いている。早く暖かい季節になってくれないだろうか。

 

 

「やあおはよう、ぱっちゃん。今日はいいものを見せてやるから湖に来なよ。稔里と美鈴も一緒にさ」

 

「えぇおはよう、諏訪子。それにしてもいいもの?何かしら」

 

前に稔里が言っていたやつだろうか。「それって稔里は何か知っているの?」

 

 

「いやいや、知らないはずだよ。何度か見たことはあるはずだけどね」

 

どうやら前に言っていたものではないらしい。朝食の後片付けが終わったら稔里、美鈴と一緒に湖に来い、という事だ。そう言えば神奈子の姿も見当たらない。どこに行ったのだろうか。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「稔里ー、行くわよ。それにしても何があるのかしらね」

 

美鈴を山から連れ戻して稔里を呼ぶ。彼女も先ほど仕事を片付けていたはずだ。

 

 

「さあ?でもこの時期だし…………あっ、分かったわ。でも教えない方が良さそうね」

 

思わせぶりな態度だ。余計に気になってしまうではないか。…と話していたら湖に到着した。いるのは何故か神奈子だけ。諏訪子は何処に行ったのだろうか。

 

 

「おっ、来たね。では行くわよ。神の通る道は神によって作られる。湖上には人の通る道も橋も必要はない。はぁっ!」

 

湖面の氷の一部が一気に盛り上がる。出来上がった道の先にいるのは…諏訪子だ。

 

「これは…………御神渡り」「なあんだ。ぱっちゃんも知っていたのね」

 

思わず声に出てしまっていたようだ。しかし御神渡りを生で見られるのは感動ものである。前世の時代では自然現象として片付けられていたとは思えない程はっきりと、神によって道は作られた。

 

「聞いたことがあっただけよ。実際に見たのは初めてだからとても感動しているわ。本当に美しい」

 

御神渡りは建御名方が八坂刀売に会いに行く時の道だとも言われている。一応神奈子のモデルは八坂刀売なので、仕方なく諏訪子が神奈子の方に歩いてくる形になる。諏訪子も道を作れるらしいが、土で作られそうなので神奈子が作っているらしい。

 

御神渡りをするのは諏訪子と神奈子の気が向いた年だけらしい。だから去年は見られなかったのだろう。それにしてもこちらに歩いてくる諏訪子はとても神々しい。普段が神々しくないというわけではないが、諏訪湖の上を歩いている諏訪子は普段の五割増しである。神が歩かれた御神渡り。まさにその名に相応しい素晴らしい光景である。

 

 

 

   天の声side

 

 

 御神渡りのあった湖の氷もほとんど融け、過ごしやすい気候になって来たという頃に七年に一度行う諏訪一の神事、それが式年造営御柱大祭…通称御柱祭である。樹齢二百年程度の樅の木を四本曳建てる。参加者は諏訪の国民たちと稔里、パチュリー、神奈子だ。諏訪子を知らない民はいないが、基本的に諏訪子が表に出てくることは無い。ちなみに美鈴は見学だけが可能だ。

 

「御柱と言えば神奈子が持っているような物なの?」

 

 

「いやいや、そんな大層な物ではないわよ。もっと普通の木さ。ぱっちゃんの仕事は主に死者を出さない事かしらね。曳くのと建てるのは稔里でもできるけど」

 

御柱祭は死者も出る。落下などによる死者をなくすためにはパチュリーの魔法が一番手っ取り早い。間違っても諏訪子が姿を現すことはできないし、美鈴が参加することもできない。

 

「簡単な仕事ね。まあ任せておきなさい。民の命は私が守ってあげるわ」

 

 

「そう言ってもらえると心強いわね。本番は私も参加する側だから私を助けてくれても構わないのよ?」

 

「あなたへの助けが一番不要だわ。私や稔里よりもね。それで、あなたはどういった風に参加するのかしら。そもそも神なのに参加して大丈夫なの?」

 

神事はあくまでも人間が神に対して行う事である。それを神自身がするというのだからよくわからなくなるのも当然だ。

 

 

「私がするのは御柱の一本だけさね。他の三本は人間たちにやらせるから大丈夫よ。それにここの神は一応私なんだから、私が良いと言えば良いのよ」

 

「そんなものなのね。それにしても神は自由ね。仕える者と民はそれに振り回されて大変だというのに」

 

 

「祭りは神遊びとも言うんだからそれくらいいいでしょう?神と遊べる機会なんて滅多にないわよ?」「……………………はぁ」

 

なおパチュリーたちはかなり遊びに付き合わされている。この反応になるのも当たり前である。

 

 

 

   パチュリーside

 

 

 神奈子や諏訪子に振り回されるのも今回が初めての事ではない。以前にも何度もあったことだからすっかり慣れてしまった。抵抗したところで私ごときがどちらか片方にでも勝てるはずが無い。私と二柱の力の強さは天と地ほど違う。妖怪と神を同列に考えること自体が烏滸がましい。聖の神妖平等は少しニュアンスが違うので置いておくとして。

 

だから今私が一番危惧しているのが幻想月面戦争騒動、つまりは第一次月面戦争である。いくら大勢で攻め立てたとしても、相手は八百万の神霊をその身に降ろすチート娘だ。私は参加したくないがいくら止めても紫は決行するだろう。その時に私がついて行くかどうか、それは今はまだわからない。友人の命は大事だが私の命だって大事なのだ。

 

でもそれは今考えることではないだろう。もう御柱祭も始まる頃だし私の役目もきちんと果たさなければならない。御神渡りに続き、御柱祭まで体験できるのはとても嬉しい。それにこれらは全て目の前で神が行ってくれる。前世とは価値の異なるものだ。

 

神奈子が”他の三本は人間たち”と言っていた理由がようやく分かった。なんと一本は神奈子が一人で山出ししてきたのだ。ちなみに重さは何トンあるのかわからないような木である。流石は軍神といったところなのだろうか。かなり長い道のりのはずだが曳いてくるのは一人のくせに一番早かった。

 

 

山出しを終えたら一月ほど空けて今度は里曳きだ。山出しの時点ですでに私の仕事があった。思いがけないところで事故が起きそうになるからヒヤッとする。だが彼らもこの祭りに参加する以上は多少なりとも命を懸けてきているはずだ。助けられなくても文句は言われないだろうが私の気分が悪くなりそうなのでしっかり助ける。

 

この祭りもあと一息だ。私も気を抜かずに最後までしっかり見守らなくてはならない。冠落しから建御柱が最も危ないように感じるのでそこは要注意だ。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「皆さんお疲れ様でした。今回もこの祭事が無事に終了しました事を祝い……」

 

結局あの後は予想とは異なり特に危ないことも無かった。まあ本来私の仕事など無いに越したことは無い。誰一人けが人を出さない、と言うのは流石に不可能だったが、重態に陥っている民はいないので成功したと言えるのではないだろうか。

 

そして相変わらず祭事の後は宴会である。今回は美鈴に釘を刺しておかなければならない。悪酔いはしないがあまり飲みすぎると修行にも差し支えるだろう。飲むな、と言っているわけではない。一杯は人酒を飲む、二杯は酒酒を飲む、三杯は酒人を飲む。酒を飲むなら適量に限る。

 

まだ諏訪に来たばかりだがこれからも二百年以上はここにいるのだから様々な事に慣れていかなければならないのだろう。これから恐らく四十回ほど経験するであろう御柱祭もけが人はなるべく少なくしたいものだ。その前に私たちが神奈子たちから嫌われなければ、だが。




諏訪大社の御柱祭では四つの神社に四本ずつなので計十六本になりますがこの世界では守矢神社だけだという設定なので四本だけです。今回書いた蛙狩神事と御神渡り、御柱祭、今回は書かなかった御頭祭はいつか見に行ってみたいです

筒粥神事や御頭祭はいつからやっているのかよくわからなかったので省略。そんなことを言えば蛙狩神事も鎌倉より前から行われていたのかどうかわからないのですが。ちなみに御射山御狩神事はこの時代まだないはずです。坂上田村麻呂が云々…なので


最近では動物愛護団体が蛙を殺すことを批判して蛙狩神事を妨害したり、死傷者が毎回出ているからという理由で御柱祭を中止させたがる人も多くいるようです。しかし生贄とは神に奉げる物であって決してむやみに生き物を殺しているわけではないのでやむを得ないと私は思います。感じ方は人それぞれですが


では次回はパチュリーが出ないかもしれませんが読んでいただければ幸いです
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