話数で言うと今回は二十三・五話辺りになりますかね
小悪魔side
パチュリー様と魔界に来てから数日が経った。今パチュリー様は魔界神様と何やらお話しているようなので自由にしていいと言われている。昔はできなかった魔界の店巡りでもしてみようか。いや、裏路地でも見に行こう。
魔界と言うと私の故郷であり、嫌な思いでしかない場所である。かつての私は今よりはるかに弱かったが、それにしてもここでの生活はひどいものだった。そう思えるだけ私は恵まれているのだろう。外にはここの環境よりさらにひどい場所もあったりするらしい。彼女も可哀そうなものだ。
――――――――――百年少し前――――――――――――――――
「おいそこのお前たち、このごみでも捨ててこい。おっと、お前ら自身がごみだったか?ギャハハハハ」
下品な笑い方をする嫌な悪魔だが悪魔としての格は私とはけた違いに高い。故に命令に背く事などできない。ましてや反抗するなどなおさらだ。だから大人しくごみを捨てに行かなければならない。私はこんなことをするために生きているわけではないはずなのに。
「反抗しては駄目よ。殺されちゃうわ」「うん。わかってるよ、ちーちゃん」
私たちのような低級の悪魔には名前がない。だから互いを区別するためには渾名で呼び合うしかないのだ。今話しかけてきた子はちーちゃん。単純に力が小さいからだ。同じ要領で実力の低さから私の渾名はひーちゃんである。わざわざ凝った渾名を付けられるほど精神的余裕はない。
力の弱い悪魔を小悪魔と呼ぶのだが、ちーちゃんは私と最も仲のいい小悪魔だ。実は昔一度だけ召喚されていたこともある。僅か数年で契約が切れたとかで帰って来ていたが。
「そう言えばちーちゃんは昔誰かに召喚されたんでしょ?どうだったの?その時は。私は永遠に召喚されなさそうだから話だけでも聞かせてよ」
私の知らない世界をちーちゃんは知っている。そのことについて知りたいし、たとえ召喚されることが無いにしても雰囲気だけは味わってみたいものだ。
「あ~あの時ね。うん、今だから言えるけどあれは最悪だったね。そもそも私を召喚した魔法使いの性格が最低だったもん。契約内容なんてひどいもんよ?確か『五年間、家を魔物の侵入から護れ』みたいな感じだったかな。
普通に考えて無理だよね。中級の悪魔以上の魔物が外にはわんさかいるし、何よりその魔法使いったら魔物を呼び寄せるような魔法薬を調合してたんだよ?正直初日から帰りたかったわね。ここの生活より酷いものがあるとは思ってなかったけどまさかねぇ…………おっ、着いた着いた。しかしごみ捨て場も生活圏から地味に遠くて面倒よね。どうにかならないのかしら」
よほど溜まっていたのか愚痴のオンパレードだ。今の生活も相当ひどいものだがそれを超えるひどさが外の世界にもあるのは驚きだ。
「よっと。確かにね。それで、結局五年間外にいたじゃない。その間はどうしていたの?」
「その間?あぁ、最初より酷かったのは当たり前よね。毎日寄ってくる魔物は勿論私では処理できないから魔法使いは上級の悪魔とさらに契約したの。それだけの対価が払えるほど力の強い男だったのよ。あの魔法使いは」
上級の悪魔と契約するにはかなり強い力が必要になる。私では想像もつかないけど。
「その後は……まあお察しね。その魔法使いと悪魔からも厳しくされたわ。どう思う?毎日自分より強い魔物が押しかけてくる、それを撃退できないから主人とその使い魔に叱られる。雑用は勿論自分一人で食事も三人分用意しなければならない。それに力の差が圧倒的だからか対価すらくれやしないのよ。
結局ね、強い魔法使いって言うのは都合の良い手下が欲しいだけなのよ。言う事に逆らわない…いや、逆らえないほど弱く、鬱憤を晴らすにも丁度良く、対価も必要ない。そんな悪魔がね。だから私たちは弱いけど意外に召喚されやすい類の悪魔なのかもしれないわ。
だからひーちゃんも気を付けて。力の強い魔法使いに召喚されたらできるだけ早く帰れるように努力するのが大事なの。対価を求めてはいけない。私たちはきっと彼ら彼女らの都合の良い駒としか見られていないんだから。そんな人たちには巧言令色で接すると良いよ。どうせ内面なんて見ない人たちなんだからね」
聞けば聞くほど召喚されたくなくなるのは当然の成り行きだろう。悪魔にとって召喚されるということは名誉なことのはずなのに。
「力の強い存在に召喚されて良いことはないわ。だって彼らはいつでも私たちを消せるという事なんだから。召喚術式から抜け出せないってのも厄介よね」
「まあそれは悪魔の宿命のようなものなんでしょ?私にはまだよくわからないけどさ」
私の中には召喚されたくない、という気持ちと召喚されて見聞を広めたい、という気持ちの両方がある。まあ私が召喚されることなんてないだろうが。
――――――――――現在――――――――――――――――
まさかあれから数年後に召喚されることになるとは思わなかったが。しかし急な召喚だったからちーちゃんには何も言えてなかった。だから昔よくいた裏路地に来ているのだ。私たちがよく一緒にいた場所まではもう少し。彼女はまだそこにいるのだろうか。
…………いた。あの時よりさらにさらに痣がひどくなっているようだ。私が一番仲良くしていたのは彼女だが、彼女にとっても一番仲が良かったのは私だったのだろう。その私はもう百年も魔界を空けていた。そしてその間彼女は以前までよりさらにひどい扱いを受けていたのだろう。
「…ちーちゃん?大丈夫?」「!?やっ、やめて!来ないで!」
あらぁ。これは相当精神に来ているようだ。話しかけたのが私と気づいていない。
「ちーちゃん、私だって。ひーちゃんだよ?」「嘘よ!ひーちゃんはそんなに強くなかったわ」
そう言えばそうだった。私はパチュリー様や美鈴さんのおかげで強くなってしまったのだった。気づいてもらえないのも無理はない。あの時の私はもういないも同然なのだ。
もう私にはちーちゃんと話す資格はないのだ。残念だが私はもうここにはいられない。最後に彼女のこれからに幸がありますように。彼女も私のように良い主人に巡り合ってほしい。そうすればきっと幸せになれるだろう。この地獄から解放されるだろう。
私は祈ることしかできない。強くなったと言っても所詮はその程度のものだ。彼女を護ることすら許されない。だからせめて彼女には私からの精一杯の祈りをささげておこう。
――――――――――――――――――――――――――
「あら、こあ早かったのね。もう良いの?魔界巡りは」「えぇ」
「……分かったわ。私はもう少し話があるから部屋の外で待っていて頂戴」
何かじっと見られたがやましいことは無いので平気だ。決して無い。無いったら無いのだ。
パチュリーside
こあを自由行動にして神綺と話していたが、帰って来たこあを見ると何も言えなくなってしまった。彼女自身は気づいていないのだろうがとても悲しそうな目をしていた。昔の魔界を知っていたこあは現状の何かに絶望したのだろう。
こあの過去は彼女自身から聞いている。力が同じくらいの(つまり弱い)親しい友人がいたそうだ。きっとこあはさっきその子に会いに行ったのだろう。方向的には街の方。よく過ごしていたのは路地裏だったか。
「決めたわ、神綺。私の本の売り上げは私がいなければ魔界に寄付するわ。それを使って路地裏まで整備しなさい。驕った奴らが弱者をいじめるのは見ていられないわ」
「ふーん。なるほどね。別にいいわよ。それでいつ本を書くの?」
まだ魔界を出る気は無いからねぇ。
「いつになるかはわからないけれど魔界を出る少し前でしょうね。一週間後か、はたまた十年後かは私にもわからないわ」
本を書くと言うのは確定事項だが。本来なら魔界の問題に部外者の私が関わるべきではないのだろうが今回は別だ。努力してきたこあが報われないのは私の本意ではないのだ。
ここまで来れば気づいた方もいるでしょう。もうすぐ番外編も終わりになります
では次回も読んでいただければ幸いです