行動派七曜録   作:小鈴ともえ

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これで番外編も終わらそうと思います。キリが良いですし自分でもマンネリ化してきたなぁ、と感じますので


パンドラの(過去)

  美鈴side

 

 

「どうかしたの?美鈴。何か考え込んでいたようだけれど」

 

 

「いえいえ、何でもないですよ、パチュリー。少し昔の事を考えていただけですから。それにしても次の仕事は何処でしたっけ?」

 

話をそらすために話題を振るが、如何せんわざとらしい。勿論次の仕事が何処かなど覚えているに決まっているからだ。

 

「次は備前ね。そこまで遠くないし三日もあれば徒歩でも着くでしょう。それにしてもあなたの過去ね。どうせ聞いても教えてはくれないんでしょう?」

 

当然だ。たとえ数百年連れ添ったパチュリーにでも私の過去を語ることはしない。否、できないと言っても良い。私の醜い過去になど蓋をしてしまいたいのだ。

 

 

「勿論です。誰にも語る気はないですよ」

 

私が誰かに語るとすればそれは秦代以降だろう。その前までは到底誰かに語る気にはなれない。特に私が生まれてすぐの頃なんかは。

 

そう、あれはまだ中国最古と言われる王朝"夏"が建って間もない頃だと思う。

 

   ~回顧~

 

私が生まれたのは暑い、というよりは熱い場所だった。生まれた直後から私は自分を認識し、自分の足で立ち上がることができていた。当然だ。妖怪は人間の恐怖の具現。故に生まれた瞬間から自立しているのだ。

 

それを知ったのは生まれてから少し経った後の事だったが、不思議には思わなかった。それよりも不思議だったのは周りがとても熱かったことだ。

 

生まれたばかりの私の周りでは人間たちが走り回り、騒ぎまわっていた。当然だが私は状況が理解できずにただ呆然と立ち尽くしていただけだった。私にとっては不幸な事に人間たちは私と同じような姿形をしていた。

 

故に私は彼らと自分を同じ物として見ていたのだ。しかしその時の私は彼らと自分の大きな相違点を見つけられていなかったのだ。すなわち今で言う服である。私を見た集落の人間たちは一目散に逃げてしまった。私の無駄に丈夫な体は炎を受けても物ともしなかった。ただ熱さを感じながら突っ立っていただけだ。

 

後で聞いた話だが、あの集落はあの日龍によって燃やされていたらしい。龍と言うのは崇高な動物であり、神とも同一視される存在である。かの集落が燃やされたのはその龍の怒りを買った為であるらしい。

 

何でも貢物は一向に差し出さず、その代わりの贄も差し出さなかったとか。普段なら龍は恵みの雨を降らすが、この地域に限っては雨を降らさずに乾燥させた上で火をつけたのだ。作物は収穫できず、挙句の果てに火までつけられた人々は龍を畏れることすら忘れていたのだ。

 

そしてそんな時に私が生まれたのだ。人々の火への恐怖、そして神という名の龍への恐怖。それが私を生んだのだ。そして焼失した集落の跡地にいた私はそこを燃やした張本人である龍に引き取られ、しばらくともに過ごすことになったのだ。

 

神と崇められるだけはあり、私に人間では知り得ないような知識や武術を教えてくれた。今となっては倭国でも常識として定着しつつある知識だが、それも元をただせば中国から渡ってきた知識になる。つまり私以外に龍の教えを受けた人間が何処かにいたのだろう。

 

正直に言うと私はすぐにでも龍の下から離れたかった。私を生む原因になったのはこの龍なのだろうが、実際に生んだのは人間の恐怖である。親面をされてもどうしようも無かったのだ。だが彼女に唯一感謝していることがある。それは今の私に繋がる(私にとっては)重要な言葉をかけてくれたことだ。

 

『お前には才能が無い』

 

彼女からすればただ単純に私を貶めただけだったのだろう。しかし私にとっては励ましにしか思えなかった。

 

『お前には才能が無い』だから努力してでも他者に食らいつけ、と。

 

だから私は努力した。彼女に認められるためではない。私自身が生き延びるためだ。私は炎への恐怖から生まれた存在。だが才能が無いために火を扱う事は到底できない。私は龍への恐怖から生まれた存在。しかし私には崇高さなどと言う物は初めから無い。

 

だから私は人間の武術を習い、それを極めることで自分よりも才能のある人間や妖怪に打ち勝とうとしたのだ。まるで力の無い人間のように武を極めることでのし上がろうとしたのだ。

 

相対する妖怪たちは私を笑った。力ある妖怪たちは人間から武を学ぶ私を嘲った。私の育て親は負けて帰ってくる私を叱った。

 

私はいつも反抗していた。叱る言葉の中に私への期待が含まれていることに気づいていながら反抗し続けた。そうすることでしか鬱憤を晴らせなかったから。そうしなければ自分を保てなかったから。私はひどく弱かったのだ。

 

私に武を教えてくれる人間は少なかった。当然だ。私は人間ではなく妖怪なのだから。

妖怪を弟子に取ってくれるような人間は既に世を捨てた老人に多かった。私には仙人との区別もつかなかったものだ。もしかしたら本当に仙人だったのかもしれない。

 

そんなこんなで千年以上師を変えたりしながら人間の武術を学び続け、ようやく妖力を使わずとも中級くらいの妖怪となら素手で戦えるようになった。

 

この段階で私を育てた彼女は私を自立させた。彼女から最後に貰ったのは龍の文字が入った被り物。色は服と同じだ。

被ることであの頃を思い出しそうになるので最近は被っていない。最後に被ったのはパチュリーと山に籠った時だろうか。

 

時代は周を終え、人間同士の戦争が目立つようになっていた。どうせなら人間の使う武器も扱えるようになっておきたかった。使う機会は無いだろうができることが多いに越したことは無い。

 

残念ながらその頃の時代背景もあってなかなか教えてくれる人間は見つからなかった。ようやく見つけた人間はまたしても戦を捨てた老人だった。いくら老人とはいえかつては戦場を駆け回った男。腕は疑いようもない。

 

私は毎日彼に私淑した。彼の教えは丁寧だったが、少しでも手を抜けば怒鳴られた。まさに模範的な師匠だった。努力を続ける私を彼が褒める。時に叱る、という生活を続けていた。

 

それはまさに突然の出来事だった。毎朝身体を動かしていた彼の姿はどこにもなかった。家は騎兵の乗る馬によって踏みつぶされていた。一体何頭の馬がこの上を通ったのだろうか。誰にも気にされず、私はまた一人師匠を失った。

 

長く生きると言うのは悲しみに耐えながら生きることである。過ぎた時間は二度と戻って来ず、死んだ人間は二度と生き返らない。

私には共に長く生きる相棒が必要だった。だがしかし人間では寿命が短すぎる。妖怪は協調性が無さすぎる。妖怪としてあまりにも歪んだ私が相棒を見つけるのは不可能だと思っていた。

 

そんな時に彼女は現れた。時代は晋。場所は私の住処の近くの砂漠だった。

今にも死にそうな彼女を私の気で応急処置し、部屋で寝かせた。

 

彼女は私の努力する姿を見ても嘲笑しなかった。それどころか彼女自身も努力家だったのだ。彼女は元ある才能に加え努力によって他の力も使えるようになった。それが今でもよく使っている仙術である。

 

それ以外にも生まれつき弱い身体を強くするために山の上で修行をしたりした。そして海を渡り、今倭国に住んでるのだ。

 

   ~回顧終了~

 

 

 

   パチュリーside

 

 

 いつまで経っても美鈴が昔の話をしてくれることはない。彼女の過去は私が思っているほど甘いものではないのだろう。だから無理には聞きださない。彼女が話す気になったその時に耳を傾けられるように。

 

彼女は強い。私ではとても太刀打ちできない程にその実力差はある。

彼女は弱い。その心のあり方がどうしようもなく。

 

彼女はその長い生の中で多くの死を見てきたはずだ。にもかかわらず今でも彼女は見知らぬ誰かの死を直視できない。妖怪として異端である。歪み過ぎているのだ。

私も他人の事を言えない程度には歪んでいるのかもしれない。それでも美鈴のそれは私をはるかに超えている。

 

美鈴の心の傷。残念ながら私にはどうしようもない。何かいい方法を探そうとしても美鈴自身がそれを阻む。

 

あぁ。彼女はきっと今のままで満足してしまっているのだ。到底振り返れない過去を持ち、それでも後ろ暗さを見せないように生きているのだろう。

明るく見せている裏に如何程の闇を背負っているのか。私には理解できない。積み上げてきた年月が違うのだ。

 

彼女と過ごして五百年も経った。だがその年月さえ彼女は()()五百年、と言い切った。彼女がいつから生きているのか、何の妖怪なのか、生まれはどこなのか。はっきりしたところはまだ私にはわからない。

 

彼女も教えてくれる気はないようだ。今はそれでも構わない。彼女の過去を知ってしまえばもう後戻りはできない。もとより後戻りなどする気は無いのだが。

 

美鈴は優しい妖怪だ。困っているなら人間であろうと妖怪であろうと手を差し伸べる。それは救われた私が一番理解している。

 

ある者は妖怪に優しさは不要だという。残酷ささえあれば人間の恐怖を得られる、生きることが可能である、と。しかしそうではない。いくら肉体の丈夫な妖怪といえど耐えられない苦痛は存在する。その時、妖怪に優しさがあれば…と嘆いても仕方ないのだ。

 

優しさとは時として盾にもなる。道端で倒れていた人間を救えば当然退治されにくくなる。人間からの認識が良い方に傾くからだ。

 

美鈴の優しさは天性のものなのか、身に付けたものなのか。それが彼女を護る盾の役割を担っているのは一目瞭然である。また彼女の心の壁となっていることも同様に一目瞭然なのだ。

 

『誰かを傷つけないために』という優しさの陰で彼女は自身の心を護ろうとしているのだ。私はそれを否定しない。それは美鈴の正しいあり方だと思うから。それを否定するのは五百年連れ添った私にはできないのだ。

 

きれいごとを並べているように思うかもしれない。しかしこれは事実なのだ。転生してきて会うまでわからない事だらけなのだ。知っているつもり、はこの世界では通用しない。直に会ってようやくわかる事ばかりだ。

 

私という存在がいる時点でこの世界はバグに侵されているのだ。いつ、どこでこの弊害が出てくるかはわからない。出てこないのが一番ではあるがそう簡単にはいくまい。相手を知り、その上で付き合い方を考えなければならない世界なのだ。

 

私にとってここはゲームではなく現実。簡単な操作だけで世界は回らないのだ。答えの選択肢など用意されていない。登場人物もそれ以外の人妖も全てこの世界で()()()()()のだから。

 

バタフライエフェクトがどこまで影響を及ぼすかわからない。不用意な発言が、行動が、全て己の死に繋がるかもしれない。他者の禁忌に触れることになりかねないのだ。

 

 

   美鈴side

 

 

 

「残念ね。もう五百年近くも一緒にいるのに」

 

パチュリーが本当に残念そうに言う。五百年。龍の彼女を除けば私と一番多くの時間を共にしているのはパチュリーだ。このまま旅を続ければきっとパチュリーは私の一番の理解者になる。まさに相棒。阿吽の呼吸で以心伝心。そのどれもが当てはまる。*1

 

 

()()五百年ですよ。そうですね…いつかパチュリーが私の年齢に追いついたら教えてあげますよ」

 

だがそうなったとしても私から口を割ることは絶対に無い。私の過去は彼岸渡るときであっても話すことは無い。私の過去を暴けるのは私を裁く閻魔ただ一人。そして真に私の過去を知るのは後にも先にも私の育て親ただ一匹だけなのだ。

 

過去を語らないことで謎の多い女性を演じようとしているのではない。これはいわば私の禁忌なのだ。人間も妖怪も誰であっても触れることすら叶わない。そんな物。

 

「それって話すつもりは全くないんじゃないの。はぁ、仕方ないわね。

ところで美鈴。最近はあの被り物を付けていないようだけどどうして?」

 

本当の理由を言うわけにはいかない。そうしてしまうとパチュリーの事だ。彼女の優秀な頭なら結論にたどり着いてしまうかもしれない。

 

「そうですね…この島であんな被り物をしていたら目立って仕方ないでしょう?だからですよ」

 

だから私は嘘を吐く。パチュリーが納得できるように。そして彼女を思い出さないために。結局私は何処まで行っても弱いままなのだ。誰にも傷つけられないように自分の殻に閉じこもっているだけの貝と同じ。

 

いつか…………数千年も経てば誰かがその殻を破ってくれるかもしれない。それはきっとパチュリーなのだろう。一番信頼しているし、信用もしている。

本当ならば私が自分で殻を破らなければならないのだろう。でもそれは今の私にはできない。未来の私でもきっと。

 

だからパチュリー、いつか本当の私を出せるように頑張って頂戴。貴方ならきっと可能に違いないから。

*1
同じ意味であると言ってはいけない




最後はやはり美鈴しかいません。この弱さを知っているのは付き合いの長いパチュリーと紫くらいのものです

本編を完結させてからもダラダラ続けてしまいましたが今回で本当に終わりになります。完結後もお付き合いいただいた読者様には大変感謝しております

エピローグに続き二度目になりますが、改めてありがとうございました
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