パチュリーside
神無月の晦日。早苗ちゃんと共に幻想入りしてきた外のイベントと言えばそう、ハロウィンである。私や紫なんかは入ってくる前から知っていたが、そうでない大半の者にとっては新鮮な物である。かく言う私も幻想郷でするのは初めてなので柄にもなく少しテンションが上がっている。
だって仕方がないじゃないか。こう見えても前世は普通の人間の女子だったのだ。こういうイベントも友人たちと楽しんでいた……はず。
因みに晦日は明日だがパーティーは今夜やるらしい。早苗ちゃんがレミィにいらぬことを吹き込んだようでレミィもそれを真に受けてしまったらしい。
何でも『ハロウィンと言うのは元々悪魔を崇めるための祭りですからパーティーはこの館でするしかありません。ハロウィン自体は31日なのですがほら、クリスマス・イヴとかあるじゃないですか。ハロウィンにもハロウィン・イヴなるものがありまして、30日の夜にみんなで集まってパーティーをするものなんですよ』という事らしい。
前半は間違っていない。前半は。だけど後半はどうしてそうなったと言いたい。ありゃ嘘のオンパレードだよ。今日この館でパーティーを楽しんで、明日はお菓子を貰う事を楽しむという早苗ちゃんにとっては得しかない話である。うんまあレミィもパーティーは好きだしお菓子も好きだから良かったのかな? レミィは作る側だけれど。
見た目相応に貰いに行っても誰も文句は言わないと思うけどねぇ。特にこの世界の住人たちは。ま、霊夢に貰いに行ったところでもらえるとは思えないけど。
パーティーの準備は着々と進んでいる。早苗ちゃんが張り切って声をかけまくったせいで参加者数が去年のロケットの時より多い予定だ。でもそのおかげで手伝いも多い。パーティーや宴会となるとレミィが調理担当から自動的に外れるので手伝いは大助かりだ。
今回は八雲家から藍『好きにこき使ってあげてね』 by紫
冥界から妖夢『早く一人前になってほしいから遠慮なく使ってあげてね』 by幽々子
永遠亭から鈴仙『早く馴染んでもらいたいから連れって良いわよ』 by輝夜
博麗神社から霊夢『手伝ったら豪華なお昼ご飯が食べられるって紫が言ってた』
守矢神社から早苗ちゃん『悪気はなかったと思うんだけどこうも多くなったのは早苗のせいだからねぇ』 by 諏訪子
天界から稔里『ぱっちゃんと美鈴のためなら手伝ってあげるわ』
魔法の森からアリス『足手まといになるかもしれないけれどできることがあれば手伝うわ』
後は私と美鈴と咲夜の計十人体制だ。心強い事限りなし。なんだかんだで皆料理の腕は一級品である。今日はいつもの宴会と異なり洋食メインに作るつもりだから妖夢や霊夢、稔里には相性が悪いかもしれない。手伝いに来てくれたからにはしっかり使わせてもらうけれど。
料理以外の飾りつけはレミィとこあとフランドールに頼んである。ジャック・オー・ランタンは昨日私と美鈴で量産しておいた。と言っても私が庭のカボチャを魔法でくりぬいて美鈴が目や口を彫りぬいただけである。実質仕事をしたのは美鈴だけな気もする。
飾りつけのセンスに関してもあの三人なら恐らく問題ない。特にレミィに関しては館の威厳もかかっているから手を抜くような事はしないだろう。
「ところで早苗ちゃん、いったいどのくらいの人や妖怪に声をかけたの?」
「えっと、そうですね…正確な数はわかりませんが大体で良いのなら。……まずは勿論諏訪子様と神奈子様。そしてなんだかテンションの高かった妖怪みたいな神様たちと厄が移りそうな厄神様。あとはそこにいた河童。飛んでいる天狗には誰彼構わず声をかけましたね。山はそれくらいでしょうか」
天狗はごく一部を除いて来ないだろう。静葉様達がテンション高かったのは仕方がない。秋だから。雛とにとりもきっと来る。去年も来てたし。山だけで七人以上は確定か。
「あとは竹林で偶然出会った妹紅さんと永遠亭の皆さんに、里の慧音さんと阿求さんでしょ。無縁塚では小町さんと映姫さんに会いましたし……あ、そうです、ミスティアさんとリグルさんにも何処かで会いましたね」
永遠亭は鈴仙を寄越したことを考えて確実に来る。妹紅と慧音もそれについてくるだろう。阿求もほぼ確実に来る。多くの妖怪が一堂に会するから。映姫は仕事次第かな。小町は仕事関係なく来そうだけれど。ミスティアとリグルも暇だから来るだろう。あとルーミアも。
「そういえば里で幽香さんにも会いましたね。紅魔館でやると言ったらメディスンさんと来ると言っていましたよ。あとは行ってはいませんが冥界と天界ですね。声だけはかけておきました」
早苗ちゃんが声をかけた者たちだけでも二十以上は確定か。あとは声をかけなくても来るだろう。妖精たちや萃香なんかも合わせればなんだかんだ五、六十もしくはそれ以上来そうである。多いな。それだけの量の料理が作れるかが心配である。レミィがいれば幽々子を抑えることができるが残念ながら頼ることはできない。
「随分多いのね。館には入りきるでしょうけれど料理が足りるかは心配ね……あ、その包丁は使ってはダメよ。絶対に」
使ったら怒られる。誰にとは言わないが普段怒らない分怒った時の剣幕は想像できない。
「そうなんですか? すみません。張り切ったのは…去年は来たばかりでできなかったのでつい、ですかね」
まあそれは仕方ないよね。女子高生だった早苗ちゃんにとっては昔から慣れ親しんでいたイベントだろうし。むしろ去年はよく我慢できたと思うよ。いくらこちらに慣れていないのだと言っても早苗ちゃんならやりかねなかったから。
それにしても早苗ちゃんもたった一年で知り合いが随分増えたものだ。早苗ちゃんをこちら側に導いてきた身としては何とも感慨深い。神奈子たちがいたことを忘れてあのままあちらで過ごすことと今まで住んできた世界を捨ててこちらに来ること。どちらの方が良かったかなんて死んでもわからない事だ。それでも今、早苗ちゃんが楽しんでいるようなら良かったのかなと思う。
「はあい、料理の方は順調に進んでいるかしら?」
「あっ、レミリア。ったく何が『はあい』よ。良い御身分ね。こっちは大変だってのに。少しは手伝ったらどうかしら?」
霊夢は相変わらず毒舌だね。レミィが来たという事はもうすぐ昼食だろうか。
「まあそうかっかしなさんな。私だって手伝えるなら手伝うわ」
「そうでしょうね。ほんっと良い御身分ね。毎日何もしなくても咲夜の美味しい料理が出てくるなんて贅沢の極みよね」
レミィの言葉の本当の意味を理解できたのは
「ふふっ、間違いないわ。……こらこら咲夜、そのナイフを仕舞いなさい。私は昼食が来たから呼びに来ただけよ」
今日の昼食は確か紫からの差し入れで外の弁当だったはず。私が一時期働いていた定食屋が弁当業にも手を出したとか。私の残したレシピも無駄にはならなかったようで一安心である。とても短い時間ではあったがあの店長には働かせてもらった恩がある。私の事は忘れさせたけれど。
レミィが咲夜を止めたのは当然の事だ。咲夜があのまま霊夢に手を出していたらキッチンが無事ではないだろうし咲夜も無事では済まないだろう。霊夢の言葉が頭に来たのは理解できるがここでボロが出ても困る。今は落ち着いてもらわなければならない。
咲夜side
お嬢様に止められていなければナイフを投げていたところだった。私の行動がお嬢様に迷惑をかけることになるというのは頭では勿論わかっていた。しかし思わず行動に移してしまいそうになった。まだまだ未熟である証拠だ。恥ずかしい。
しかし何故……何故お嬢様はご自身の批判を柳に風と受け流すことができるのでしょうか。先ほどの言葉は確かにお嬢様にとっても頭にくる内容だったはずです。それをどうして顔色一つ変えずにやり過ごすのでしょうか。
「咲夜、何をぼさっとしているのよ。もう皆食堂に行ってしまったわよ」
本当だ。いつの間にか周囲にはお嬢様しかいなくなっている。考え込んで周りが見えなくなるなんて。
「お嬢様、私はまだまだ未熟です」
「あら、今更気づいたの?貴方はまだまだ未熟。私だってまだまだ未熟よ。でも未熟であることは伸びしろがあるという事なの。昔パチェにそう教わったわ。貴方はまだまだ強くなれる。もっと完璧になれる素質も資格も持っているの。いつになっても未熟なままでいなさい」
ずっと未熟でいろ、か。常に貪欲に上を見続ける。私の目指す完璧のさらにその先にまだ道があるというのか。
「この館は未熟者の集まりよ。パチェも美鈴も私もフランも、毎日自分を強くするために努力しているの。小悪魔だって弾幕が使い物になるように特訓しているくらいなのよ。だから咲夜、貴方も毎日研鑽を積みなさい。そして誰よりも強くなりなさい」
お嬢様よりも、パチュリー様よりも、美鈴よりも、八雲紫よりも、そしてあの綿月依姫よりも強い力を得た私。今はまだ想像することさえできない程の架空の世界。まさに夢物語。しかしお嬢様がそこを目指せというのならば私は目指しましょう。たとえ何十年かかってでも。
「そんなことより昼食よ、昼食。八雲紫の話によればパチェが外に行っていた時に働いていた店の弁当らしいわ」
「あら、それは楽しみですね。パチュリー様が働くような店です。きっと美味しいに違いありませんよ」
美鈴side
パチュリーがレシピを提供したとあって思ったよりも美味しい弁当だった。パチュリーは普通に温めて食べていたが一応冷めても美味しいをモットーに作っている弁当らしい。
「じゃじゃーん。お手伝いをしてくれたみんなには紅魔館からお礼があるよ! 私が作ったんだ」
妹様が出してきたのはかぼちゃプリン。昨日くりぬいた中身を使った物のようだ。これで昼からの皆のモチベーションも爆上がりである。紅魔館からと言いつつもちゃっかり自分たちの分まですべて用意しているところが妹様らしい。いやどちらかというとお嬢様らしい、かな。お嬢様が苦笑いしているところを見るとそんな感じがする。
「へぇ、とても美味しいわ。レミリア、あんたも妹を見習ったらどう?」
「お姉様はダメダメだからね~。もっと私を見習った方が良いよ?」
あ、ここはしっかり根回しが済んでいたのか。さっきの咲夜さん以上に怖かったけど杞憂だったようで何よりだ。
「でも本当に美味しいわね、このプリン。作り方教えてくれないかしら。姫様が喜ぶかもしれないわ」
確かに輝夜さんなら喜ぶかもしれない。庶民的であるがそれがまた良いのだろう。地上に降りてきてからはかなり庶民的な暮らしをしていると聞いたしその生活も結構気に入っているらしい。
「それはダメ~。でも教えたとしても作れないと思うよ?」 「それは残念」
お嬢様が作る味を再現することは私たちには不可能だ。それこそ料理の道のみを究めているような者でもない限りは、たとえレシピ通りに作ったとしても全く別の物ができてしまうだろう。このプリンを妹様が作ったというのは恐らく嘘ではない。しかし真実でもないだろう。
きっと妹様が作ったという言葉が嘘にならないように、基本的な工程をお嬢様がやって多少の手伝いを妹様がやったのだろう。知っている者からすれば至極簡単な推理。知らない者からすれば決してたどり着けない答え。それで良いのだ。お嬢様は外から
料理はできない。家事は全て従者に任せる。わがままで子供っぽく、面倒は力で解決したがる。
外からの認識などそれでいい。むしろそうであればあるほど館にとってもお嬢様にとっても都合が良い。真実などごく一部を除いて誰も知らなくていい。紅魔館への畏れ、それを最大限得るためには虚像がどうしても重要になるのだ。
「さあ、午後からも頑張って頂戴ね。私たちは装飾の続きをしておくから」
「ありがとうございますお嬢様。料理はお任せください」
ふむ、今のお礼には先ほどのプリン分も含まれているな。確実に。
それにしても洋食というのは本当に難しい。中華なら簡単に作ることができるのに洋食はなかなかうまくいかない。妖夢たちも苦労しているから劣等感は感じないけど足を引っ張っている気がしてならない。この十人の中で洋食と言えばやはり咲夜さんが一番だ。そしてアリスさん、パチュリーなんかが続く。中華なら私が一番だと思うんだけど。
まあそんなことを嘆いていても仕方がない。主に幽々子さんに対抗するために午後からも頑張らなければならない。
フランドールside
「ねぇお姉様、どうしていつもみんなの前では嘘を吐くの?」
パチュリーたちがまたディナーを作りに行った後、今ここにいるのは私とお姉様と小悪魔の三人だけだ。だから聞いてみた。お姉様が作ったと言えばきっとみんなお姉様を尊敬するのに。
「嘘? 嘘なんて吐いていないじゃない。あのプリンは正真正銘フランも作ったでしょう?」
「ずるいよお姉様。あんな言い方をしたら全部私が作ったように思われちゃう。私は少し味付けを手伝っただけなのに。お姉様はいつもそう。自分の手柄をいつも誤魔化す。きっとみんな私が料理をできると思ったに違いないよ」
私はほとんど何もしていないのに食べた人は私を褒めるような目で見てきた。味なんて全部お姉様が付けた物だ。私を褒めるなんて見当違いも甚だしい。
「ならば妹様も料理ができるようになればいいのではないですか? 折角最高の師がここにいるのです。お嬢様と同じ血を持つ妹様ならきっと上手くなりますよ」
「それいいわね。思えば私フランと二人で何かすることが少なかった気がするのよね。丁度良かったわ。フランにその気があるのなら明日の朝食後にキッチンへ来なさい」
私が料理? 片付けられるための物を作る? 私が? できるはずが無い。少なくとも今の私には。もし私の中のこの違和感が消えればあるいは料理がしたくなるのかもしれないけど。
「ごめん、お姉様。私はまだ料理に興味を持てないわ。また興味が湧いたらその時に教えてよ」
お姉様の好意を無下にするのは心苦しいが自分の意志を殺すのもまたリスキーだ。もしかしたらお姉様が大事にしている里で作った特注の包丁を壊してしまうかもしれない。いつかこれが完璧に制御できるようになればまたその時考えればいい。
「そう、残念ね。でもフランがきっぱり断るならこれ以上は言わないわ。さ、続きをやってしまいましょう」
「と言ってももうほとんど残ってないけどね」
もう大方飾りつけは終わっている。あと残すところは玄関の装飾くらいである。邪魔も特に入らなかったし咲夜の指示が良かったので予定よりかなり早く終わりそうだ。
小悪魔side
もう始まるという時間になればどんどん館に人がやってくる。今回のパーティーは特に招待状なんかも作っていないので美鈴さんも門ではなく会場内にいる。来る者拒まず去る者追わず。入りたければ誰であろうと入って来ればいいし出て行きたければ途中で帰っても構わない。
如何に悪意のある妖怪が来てもここに集まる人間、妖怪、神からすれば大抵木っ端である。今夜の会場を乗っ取ることができるような妖怪はいまい。圧倒的な力でねじ伏せられてお終いだ。
「皆の者よく来てくれた」
あ、お嬢様のスピーチが始まった。と言っても紅魔館の住人以外誰も聞いていないんだけど。幻想郷に棲んでいる者たちは人間も妖怪も人の話を聞かない者たちばかりだ。こういう宴になれば主催者の話を聞く前に料理に手を出すのが幻想郷流。
今回はそれを防ぐためにまだ料理は並べられていない。料理が無い事を不思議がっている者ばかりで結局お嬢様の話を誰も聞いていないという悲しい結果になっているのだが。
「今回のパーティーの発案者は知っての通り早苗なのだが……となる。さて、乾杯の準備はできたかい?」
今回はそこそこ短かったかな? 多分去年よりは短かったはずだ。
「乾杯の準備なんて言ったって酒どころか料理も無いぜ……っていつの間に?!」
これは確かパチュリー様の魔法だったはず。机に急に料理が現れるという発想が何処から来たのかは知らないが意表を突き驚かせることには成功したらしい。
「ではハッピーハロウィン!!」
見た目はただのかぼちゃジュースだが中身はかぼちゃ焼酎である。勿論紅魔館産かぼちゃで作った本格焼酎である。何故パチュリー様に焼酎の製法がわかるのかは謎である。そんなことはともかく急に出てきたかぼちゃジュースが実は酒であったという二重ドッキリのつもりらしい。
これ程色を丁寧に付けて香りまで消されていたら誰でも間違える。私だって知らなければ絶対にジュースだと思って飲んでいただろう。周りではむせかえっている人たちばかりである。ご愁傷様だ。実際これはただのドッキリ用の酒らしい。きちんと透明で香りも付いているかぼちゃ焼酎は料理と一緒に数瓶だけ置いてある。今日を逃せば次飲めるのは一年後だろう。期間限定である。
「皆気持ちのいいくらい引っかかるわね。特に紫のあの顔は永久保存の価値があったわね」
「あらパチュリー様。どこに行っていたのです?」
さっきまでは会場のどこにもいなかったような気がしたのだが何処かにいたのだろうか。というか紫さんの驚いた顔なら私も見たかった。超激レアな瞬間だろう。
「ごめんなさいね、こあ。少し前まではキッチンにいたの。何せこの料理の出し方はキッチンからじゃないと上手くいかないようだし」
何故だかわからないがキッチン以外の場所から行うと失敗してしまうらしい。
「パチュリー様でも難しい魔法なんですか?」
確かに高度な魔法であるようには思うがパチュリー様にとっても難しいとなると再現できる者はほとんどないかもしれない。
「いえ、そういうわけではないわ。ただ私がいまいちこれの本になった魔法の原理を理解できていないだけ。この魔法はね、貴方に会うよりもはるか昔に読んだ本から着想を得たものなの。でも理解できなかったから私なりに工夫して再現してみたというわけ。そのせいで恐ろしく非効率になってしまったのよ」
これの本となる魔法はもっと効率的に料理を登場させられるらしい。私に会うよりも
「その魔法使いは今どこにいるんですか? もしかして幻想郷に?」
「今どこにいるのかはわからないわ。そもそも名前もわからないの。かすれて読めなかったから。でも幻想郷にいないのは確かよ。もしかしたら魔界にいるかもしれないわね。あそこは私なんかよりもっと強い魔法使いたちが集まっている場所だから」
パチュリー様以上の魔法使いともなればかなり限られてくると思うのに尻尾もつかませてはくれないか。どこにいるのかわからない以上どこにいてもおかしくはない。だが幻想郷には絶対にいないとパチュリー様は断言した。
明らかな矛盾。パチュリー様はきっとその魔法使いを知っているのだ。その上で白を切る。何か秘密でもあるのだろうか。それとも何か約束でもしたのだろうか。どちらにせよ私に口を出す権利など無いだろうし、聞いても答えてはくれないだろう。
レミリアside
「本当に多いですね、お嬢様」
乾杯の音頭も取り終わって一息ついていたところで話しかけてきたのは我らがメイド長であり自慢の従者。
「えぇ、数年前まではこんな風になるなんて思いもしていなかったわ。特にフランね。あの子今日私の提案をきっぱり断ってきたのよ。精神的にも成長している証だわ。正直かなり嬉しかったわね。そんなことよりはい、これ」 「これは?」
今日手伝ってくれた者たちにだけ手渡しする予定のお菓子である。こちらは正真正銘私が全て作ったものだ。
「蕪のカップケーキよ。ハロウィンとは本来蕪を飾るものらしいわ。だからかぼちゃだけでなく蕪のお菓子も作ってみたの。今日手伝ってくれた労いね。今から他の人たちにも配りに行くのよ」
いくら館の住人だと言っても準備を手伝ってくれたことは変わらない。だから勿論パチェや美鈴、小悪魔にフランの分も用意してある。実は色々あってパチェにはもう渡してあるのだが。
「ありがとうございます、お嬢様。では私もついて行きますよ」
この菓子の意味とは従者たちを労うと同時に主人たちを反省させるというものだ。実はこの菓子の包装は個人の魔力が鍵となって開く仕組みになっている。結界の応用で包装の内部では能力が遮断される。スキマからは取れない。無理に開けると中身が崩れる。つまり主人たちはどうやっても食べられないのだ。
従者をひどく脅せば食べられるのだがたかが菓子一つのためにそんなことをする愚かな主人はいない。八雲紫は別かも。あいつは私が作った物だと看破するだろうから。
「念のために言っておくけれどこの菓子は咲夜が作った。分かったわね?」
「……かしこまりましたお嬢様。もう昼間のような失態は犯しません」
咲夜は不満そうだが仕方がない。こうでもしないと人間からの畏れは無くなる。私たちの力が弱まって困るのは私たちだけでなく八雲紫も同じだろう。パワーバランスの一角が崩壊することになればとんでもない下克上が起きかねない。それは幻想郷の崩壊をも意味するかもしれないのだ。
今日のパーティーの目的は大規模な行事を行うことで紅魔館の価値を高める事。これを見て紅魔館に逆らおうとする者はいないだろう。資金と人材、そして実力。紅魔館の強大さ、その全てを見せつけることで人間からの恐怖を煽ることが目的だったのだ。早苗からの提案はその一助となるきっかけに過ぎない。
悪魔の館が軽視されるなどあってはならない事なのだ。……まあ純粋にパーティーを楽しみたいという気持ちもあったから早苗の言い訳じみた提案も受け入れたのだ。喧噪を楽しむことは悪い事ではない。むしろそれこそが幻想郷。長い物には巻かれておかないと、孤立してしまってはこの館に住む者たち全てが生活しにくくなってしまう。家族を護るためならば当主として如何なることでもしてみせよう。
書き始めたら止まらなかったので長くなりました。恐らくこの小説初となる9000字オーバーです
また何か書きたいイベントがあれば書くかもしれません(保険)