クソゲス☆ド外道ファンタジー    作:ペニーボイス

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15 ノルウェー風味の鉄鋼業者

 

 

 

 

 

 

 敵の数はおそらく5人。

 その内3人は騎馬に乗っている。

 馬の駆ける速度は人間のそれとは比べ物にならないが、徒歩の人間が優位に立つ場合もあった。

 狭い場所や地形の酷い所では、馬は人間を追っていけない。

 だからこそ彼は追手の内3人からは確実に逃れるために…或いは時間を稼ぐために…欝蒼とした森の中へと駆け入った。

 

 背の高い樹木が彼を囲み、足元がその根に時々引っかかる。

 ふらつき、鈍り、偶に転ぶが、しかしそれでも彼は足を止めるわけにはいかない。

 背後から聞こえる追手の声は、正確に彼のことを捕捉している証左でもある。

 今ここで立ち止まれば彼に明日はない。

 

 しかしながら、彼はやがて立ち止まった。

 止まるという行為が彼にとってどれほど不利益な行為であったとしても、彼は止まるしかなかった。

 目の前に重々しい甲冑を装備した騎士が10人ばかりいれば致し方のないことだろう。

 

 

「…お話をしたいだけだと言ったはずです、僧侶殿。」

 

 

 騎士達の内、最も華美な装飾を施した男が口を開く。

 僧侶は足を止めつつも、次善の策を考えていた。

 

 

「話す?…ははっ、私はただの聖職者です。辺境伯親衛隊の騎士様にお話しすることなど何も…」

 

「辺境伯様がお話しをされたがっています。生前の先代の武勇伝をお聞きしたいと。悪いようには致しません。」

 

 

 嘘を吐きやがれ。

 僧侶は心の内に毒づく。

 剣士が王宮前の大広場で公開処刑されてから、彼は公国を超えて方伯領へと至り、更には女魔術師の誘拐を受けて辺境伯領にまで逃げてきた。

 国王がここに来て、魔王討伐の貢献者達を殺して回る理由は一つしかない。

 彼らの影響力を恐れているのだろう。

 

 僧侶が考えている内にも追手が彼に追いついた。

 騎士達や追手達は右へ左へ歩んで行って、今や僧侶を囲い込んでいる。

 完全に退路を塞がれた僧侶に、抵抗の術は残されていなかった。

 

 

「くっ…この、愚か者共!国王の策謀に疑いも持てぬのか!?」

 

「国王陛下に策謀があるのかないのか、それを判断するのは少なくとも私ではありません。…連れていけ、辺境伯様がお待ちだ。」

 

 

 

 騎士達とその配下は手早く僧侶を縛り付けると、乱暴に馬車の中へと放り込む。

 直衛も馬車に乗り、御者が手綱を握ると、1番華美な装飾を施した騎士…親衛隊長は馬車と隊列を辺境伯居城へと向かわせる。

 随分と時間がかかってしまったと、親衛隊長は思っていた。

 ハンザブルグまではあと15マイル。

 危うく取り逃すところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺境伯居城

 執務室

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうど昼飯を食べ終わってから3時間経った時、私の小腹が空腹感を訴え始めた。

 昼飯はダニエラさんが拵えてくれたスパゲティ・ペスカトーレだったが、そいつを食べ終わってから3時間何をしていたかと言えば、新式装備部隊の編成と運用方法についてカリウス将軍と話し合っていたのだ。

 

 珍しい事に、私とカリウス将軍の意見は驚くほど一致した。

 鉄鋼業ギルドの長によれば、改良型のハンドキャノン…通称『マスケット』は極々簡単な、最低限のみの加工を施す事で順調な調達が可能だという。

 我々は2人とも、あんな"消耗品"に大枚叩いて装飾なんぞ施したくもないという意見だったし、量産を最優先事項とする事に合意した。

 

 運用方法についても話は淡々と進んだ。

 グスタフのレポートによれば、方伯軍は弓矢より飛距離はあるものの精度は期待できないハンドキャノンを密集隊形で用いる事によって不足分を補っていた。

 我々も、もちろんその方法に倣う必要があるし、しかし倣っただけでも足りない。

 方伯軍ハンドキャノン隊はパイクや槍を持った魔族の近接歩兵に対処できずに一方的に蹂躙された。

 ハンドキャノン隊に近接戦闘能力がないのだから当然ではあるが、現実を直視するのであればこの事態に対策を設けねばならない。

 

 

 我々が考えた対策は2通り。

 1つはオーソドックスな方法で、要するに"合いの子"だ。

 ハンドキャノン隊とパイク隊を混成にして遠近両用の部隊とする。

 もちろん、それまでの兵科を組み合わせるものだから余分な訓練やコストを掛けずに済むという美点があった。

 ただ、欠点もないわけではない。

 ハンドキャノンとパイクという、2つの異なる武器を同一の部隊で扱った場合、その部隊には2通りの命令系統が生じる事になるのだ。

 命令系統はすべからく一元化される方が望ましい…攻撃においても防御においても。

 敵に衝撃を与えた直後に続けて迅速な攻撃を加えるためにも、より効率的な防御拠点の構築と火力の連携を行うためにも。

『船頭多くして船山に登る』とはよく言われる諺だが、軍隊の頭が"双頭の鷲"では困るのだ。 

 

 

 

 より効率的な運用を目指すのならば、ハンドキャノン隊にパイク隊をくっつける以外の選択肢を取らねばならない。

 もしその選択肢がないのであれば、優先順位と克服の難易度を見比べて、その如何を勘案して決断する。

 決断に必要な材料は多くの場合人に頼るが、よほど重大な場合は自身の目で確かめるに限るのだ。

 

 

 執務室の中央テーブルには辺境伯領内を代表する鉄鋼業従事者達が集っている。

 鉄鋼業といえば青いヘルメットを被った作業着のおっさんを思い浮かべる方も多い事だろう。

 私も当初はその頭でいたが、しかし我々は今ファンタジアなノスタルジック世界にいることを忘れてはならない。

 ギルドという名のカルテルが幅を利かせ、共産党なぞ見る影もない今、職人達を経営・監督し、労働組合に代わって福利厚生の弁を図るのは親方だった。

 

 

 エルドリアンは辺境伯領の内でも指折りの親方だ。

 前戦争時代には勇者パーティの豪腕・剣士に装備を献上した事もある。

 この剣がとある中ボス戦で重要な役割を果たしたらしく、若き日のエルドリアンは一躍時の人となった。

 

 時は無情にも流れていき、剣士に笑顔で剣を貢いだ若造も、今では立派な顎髭を蓄えた親方となっている。

 多くの職人達をまとめ上げ、指導し、監督して今日この日まで食わせてきたのだ。

 その気苦労は彼の容姿のさまざまな箇所に投影されている。

 浅黒く焼けた肌、白髪混じりの頭髪、でっぷりと肥えた体型…そして使い古された、ヴァイキングを彷彿とされる仕事着。

 

 

 ヴァイキング風の仕事着は、恐らく精錬加工によって生じる火花から肌を保護するための装備であろう。

 彼が選んでここに連れてきた職人達も同じような服装をしている。

 そのヴァイキング共が私の目の前で食事をしている様は圧巻だった。

 

 

 

「…すんませんねえ、辺境伯様!俺たちゃあ普段この時間に昼食を取るんでさあ!!」

 

「い、いや、急に呼び出したのは私の方だからね…かまわないんだが…もしアレならダニエラさんに頼んで何か持って来させようか?」

 

「いんやだとんでもねえ!領主様にそんな手間をおかけするまでもないでさぁ!こんな立派なテーブルで飯を許してくれただけでもありがてえ!…それに俺たちゃあいつも飯を持ち歩いてます!」

 

「そ、そうか。ならいいんだが。…何を食べてるんだい?」

 

 

 猛烈な食事をする彼らの内、1人のヴァイキングが立ち上がった。

 よく見ればその1人だけが白い肌をしていて、恐らくは…たぶん、きっと…女性なのだろうと判別することができる。

 どうやらヴァイキング達の弁当はこの女性が用意したらしく、彼女は胸を張って私の質問に答えた。

 

 

「ス●〜ム、ス●〜ム、ベーコン、アスパラ、ス●〜ム!!」

 

 

 ヴァイキング達が貪る弁当の内の一つを指差して、甲高い声を挙げる彼女。

 どうやら、この世界でもランチョンミートはス●ムと呼ぶらしい。

 彼女は続けて別の弁当箱を指差す。

 

 

「ス●ム、ベーコンエッグ、ス●ム!ス●ム、ス●ム、ソーセージ、ス●ム!ス●〜ム、ス●〜ム、ス●〜ム、ス●ムとス●ム!!」

 

「「「ス●〜ムス●〜ムス●〜ムス●〜ム♪」」」

 

「おだまリィイッ!!おだまリィイッ!!」

 

 

 女ヴァイキングが紹介を続けると、食事を取っていたヴァイキング達が歌い始める。

 彼女が歌うヴァイキング達に甲高い声で喚き散らすと、その傍に座っているエルドリアンは頭を抱えて深いため息を吐いた。

 そりゃあな。

 部下達が領主の目の前でモン●ィパイソンやり出したらそうなるわな。

 

 

「すんません、領主様。」

 

「……いや、気にしなくていい。彼女は?」

 

「嫁のヒルダでさぁ。こう見えて料理の腕は一品で、こいつの作るス●ム料理と来たら…」

 

「「「ス●〜ムス●〜ムス●〜ムス●〜ム♪」」」

 

「おだまリィイッ!!おだまリィイッ!!」

 

 

 

 

 

 しばらくするとヴァイキング(鉄鋼業者)達の食事は終わり、私はようやく本題に入れることとなった。

 エルドリアンを先頭に整列し、皆が私の言葉を待っている。

 私はコーヒーを一口やってから、深く呼吸を吐き出して話し始めた。

 今日この日彼らを居城に呼びつけたのはなぜなのか、その理由を。

 

 

 

「………あるモノを作って欲しい。加工は難しいかもしれないが、君たちの改良した発火方式なら理論上は可能なモノと見ている。」

 

「なんですかい、これは?」

 

「改良型ハンドキャノン…マスケット部隊に近接戦闘能力を持たせるための装置だ。構造は単純に見えるが、それなりの強度が必要になる。」

 

「………できないことはないでしょうが、お時間はいただきたい」

 

「可能な限り早急に頼む」

 

「待ってくだせえ、辺境伯様。俺たちゃあマスケットの生産で手一杯なんでさあ。俺たちだけじゃあとてもじゃねえが」

 

「資金は用意できる。マスケットの製造にはギルド外の業者も当たらせたまえ。君たちはこの装置を優先するんだ。」

 

「!?…辺境伯様!?まさか俺たちが作り上げたマスケットの図面を、タダでくれてやれてやれって言うんですかい!?」

 

「………では、こうしよう。ギルド外の業者がマスケットを生産する場合、その業者は君たちのギルドに対して一定の額を納めなければならない。」

 

「………」

 

「要するに、『ライセンス生産』だ。これなら価格の崩壊は起きにくく、粗悪な模倣品も出回りにくい。ライセンスの決定権は…エルドリアン、君にあるわけだから、殺生与奪の選択はいつでもできる。」

 

「なるほど…」

 

「バックアップは心配するな。"臨時収入"が入ってね…当分はそちらに優先するし、ライセンス生産に関する辺境伯令は本日中に公布する。…だから、くれぐれも頼むよ?」

 

「わかりやした、辺境伯様。何とかしてみます。」

 

 

 

 ヴァイキングならぬ鉄鋼業達が出て行った後、入れ違いにダニエラさんがやってきた。

 会合が終わるまで別室で待つように伝えておいたのだが、それでも彼女の事をみると正直ホッとした気持ちになる。

 どうやら、その内心は顔に出ていたようで、ダニエラさんは笑みを浮かべながら私の顔面をおっぱいで挟んだ。

 

 

「君主とは寡黙なモノだ、ハニー。…ハニーの顔と来たら随分とよく"喋る"。」

 

「ふぉふぇんふぇ、ダーリン。ふぁふぃふぁふぉう」

 

「まあ、正直なところ、我もハニーと離れるのが寂しいよ。…ところで、親衛隊が遂に僧侶を捕らえたらしい。今こちらに後送中だそうだ。」

 

 

 ダニエラが私の顔面をおっぱいから解放する。

 まだ鼻先に残るダニエラさんの残り香を感じながらも、私は執務机の上にある地図を見た。

 例の少女が僧侶を目撃したのは…

 

 

「ここだ、ハニー。親衛隊長も危うく取り逃すところだった。」

 

「ハンザブルクまでおよそ15マイル。ステファンの予想通りだったな。…しかしまあ、間に合って良かった。」

 

「いよいよか、ハニー?」

 

「ああ、ダーリン。モノが揃って、教皇に僧侶を届けたら…いよいよ状況開始だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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