クソゲス☆ド外道ファンタジー    作:ペニーボイス

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18 オスター河畔の戦い

 

 

 

 

 

オスター河畔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「斥候に出した連中から報告は?」

 

「…それが……帰ってきません。川を渡る手前の情報までは持ち帰って来たのですが…そこから先に派遣した斥候隊は誰一人として……」

 

「なら間違いない、敵はあの森に隠れてる。」

 

 

 方伯軍は陣地の設営に一晩丸々使ったわけだが、おかげでどうにか辺境伯軍への迎撃態勢が整った。

 オスター河の浅瀬を正面に布陣した彼らは、新鋭のハンドキャノン隊を中心として古典的な防備を築くことに成功したのだ。

 方伯軍副官は完全に安心とまではいかなくとも、少なくともこれで時間稼ぎができるはずだと踏んでいる。

 何のための時間稼ぎかというと、彼らの後方にいる民間人の避難及びオスター河畔に展開する主力以外の部隊のゲリラ化だ。

 

 副官自身、圧倒的な軍事力を誇る辺境伯軍との戦いに正面きって勝てるとは思っていない。

 だが、この陣地で敵に相応の出血を強いる事ができれば、今度は連中が犠牲を払って手に入れた領土と領民そのものが重大な負担となるだろう。

 ハンドキャノンを持った徒歩兵が、分散し、占領軍に一撃を加えて退避、連中は有効な手立てを打てずに損耗を増やすハメになる。

 やがては占領政策に行き詰まり、この土地から出て行かざるを得なくなるはずだ。

 

 

 副官は改めて自分の陣地を見渡す。

 理想的とは程遠いが、効果は発揮できるはずだ。

 彼は敵の第一撃は騎兵によって行われると予想している。

 辺境伯軍の重騎兵といえば、王国内に知らぬ者はいないのだ。

 彼が敵の司令官なら、騎兵による前線突破、その後まっすぐ方伯居城を目指す事だろう。

 だが連中には誤算がある。

 方伯軍は前回の魔族侵入の後、ハンドキャノンをより増産させた。

 貴族の所有であった徒歩兵部隊の指揮系統を近衛騎兵側の本営に統一させるために、副官はこれまで散々骨を折ってきたのだ。

 その効果の程はまもなく現れる。

 敵は指揮系統も疎らな方伯軍など重騎兵のみで片付けられるとタカを括っているに違いない。

 大きな代償を支払えば…もしかすると…退却さえするだろう。

 

 

 

「副官殿!前方の林縁を!」

 

 

 ついに敵方が動いたらしく、彼の側にいた兵士が声を上げた。

 見れば敵の重騎兵隊がオスター河の渡河を開始している。

 

 

「やはり騎兵で来たか!ハンドキャノン隊に射撃準備命令!統制は私が行う!」

 

 

 彼が心血を注いだ指揮系統の改善は早くも機能し始めている。

 命令から一拍を置いて、陣地にいる全てのハンドキャノン隊が装填を始めた。

 三角帽子を被った彼らは元は農民で、だからこそ副官は彼らにこの戦争の目的を語り、宣伝して闘志を奮い立たせのだ。

 "これは我らが畑を守る戦いである"と。

 徒歩兵部隊も近衛騎兵も、前回とは比べものにならないほど士気を挙げている。

 迫りくる重騎兵隊の轟音に怯む事なく、臆する事なく未だ誰も押金に手をかけていないのはその証左であろう。

 

 

 重騎兵隊は尚も突進をやめなかった。

 連中はハンドキャノンの威力を見縊っている。

 あの重厚な鎧は間違いなく辺境伯親衛隊のものだ。

 奴らの鼻っぱしをぶん殴ってやろう。

 だがまだだ。

 まだ引きつけねばならない。

 

 

 馬蹄が地面を叩く音、振動がやって来る。

 しかし副官は右手を挙げただけでまだ撃たせはしない。

 いや、まだ。

 まだだ。

 まだ引きつけろ。

 

 

 彼は自身の思う絶好のタイミングで、右手を一気に振り下ろす。

 統制されたハンドキャノン隊は、その合図によりハンドキャノンの押金に指をかけ、そしてハンドキャノンは火縄と火薬を接触させて小さな鉄球を打ち出した。

 鉄球は高い初速で飛んでいき、重騎兵の厚い鎧をも貫いていく。

 重騎兵隊の第一派の足が止まり、連中の何人かが倒れ、そして大勢は早くも逃げ出し始めていた。

 

 

「うおおおおお!やったぞ!」

 

「重騎兵をやってやった!」

 

「再装填急げ!再装填!」

 

 

 方伯軍の陣地からは歓声が上がる。

 副官も今度こそハンドキャノンが有効に活用された事で自信を深めた。

 だからこそ自身の計画に従い、ハンドキャノン隊の一歩奥にいた近衛騎兵に命令を下す。

 

 

「敵は足を鈍らせた!今だ!連中を追撃しろ!」

 

「近衛騎兵隊抜刀!突撃!!」

 

 

 敵の親衛重騎兵は明らかにハンドキャノンの統制された射撃に狼狽していた。

 多くの者は一旦退却を試みている。

 しかし追撃するは第6近衛騎兵隊、方伯軍でも屈指の強者だ。

 

 騎兵隊長が怒声を張り上げ、近衛騎兵達が雄々しく突撃していく。

 逃げ遅れた親衛重騎兵を討ち取りながら、森に逃げ込む残党を刈り取らんとしていた。

 

 やはりな、と副官はほくそ笑む。

 連中はハンドキャノンの真価を理解していなかった。

 高い代償を払った今、彼らはようやくその真価に気づいたわけだが…今となってはもう遅い。

 重騎兵隊を追う我らが近衛騎兵を見ながら、副官は彼らが敵を殲滅する様子を思い浮かべて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、実際は…ハンドキャノンの真価を理解していなかったのは副官の方であった。

 

 

 

 親衛重騎兵隊が森に逃げ込んで、近衛騎兵隊はそれの追撃に向かう。

 だが、彼らが森に入らんとした刹那、逃げ場のない河の浅瀬に至った時、森の林縁から幾つもの閃光が走ったのだ。

 

 閃光の次に轟音が鳴り響き、近衛騎兵隊は蜂の巣にされていく。

 方伯軍のそれよりも統制された銃火と、幾十にも重ねて放たれる射撃に、近衛騎兵はなすすべもない。

 気づけば方伯軍が仕留めた親衛重騎兵よりも遥かに多くの近衛騎兵が、その銃撃に倒されている。

 

 

 副官は衝撃のあまり言葉を失った。

 

 

「…………()()()()()()()…だと?」

 

 

 そんなはずはない!

 連中、あれだけの数のハンドキャノンをこの短期間に揃えたというのか!?

 それに林縁には火縄の煙一つさえ上がっていなかった。

 もしあれだけのハンドキャノン隊を潜ませていれば、嫌でも煙に気がついたはずなのだ!

 

 

 疑問の答えはやがて林縁沿いから姿を現して、オスター河の渡河を始める。

 ピッケルハウベに黒い制服、そして方伯軍が持つ肩打ち式から随分と洗練されたデザインの"ハンドキャノン"。

 辺境伯軍の徒歩兵部隊は素早く渡河を終え、隊列を組んでこちらへ前進を始める。

 ざっと見ただけで、方伯軍が劣勢に陥ったことは明らかだった。

 敵の数はこちらの3倍。

 そして徒歩兵部隊の全てが改良型ハンドキャノンを装備している。

 悠然と向かって来る隊列とその背後から響いてくるドラムの音が恐怖心を掻き立てた。

 

 

 

 辺境伯軍のハンドキャノン隊はやがて射撃姿勢を取る。

 我に帰った副官は、配下のハンドキャノン隊へ統制をかけた。

 

 

「撃ち方用意!まだ撃つな、引きつけるんだ!」

 

 

 幸い、連中はまだハンドキャノンの適正な射程距離を抑えていないらしい。

 連中が射撃姿勢を取ったのは、こちらのハンドキャノンの有効射程より僅かに遠い場所だった。

 流れ弾が当たらない事はないが、ハンドキャノンは1度撃てば再装填に時間が

 

 

 

「撃てッ!!」

 

 ドドドドムッ!!

 

 

「ぐわあっ!」

 

「ぎゃああああッ!」

 

 

 副官の自信は音を立てて崩れていく。

 敵は我の有効射程の外側から、極めて統制された銃撃を、我々が行うより精密に行った。

 こちらのハンドキャノン隊の第一列は射撃姿勢を取っていて、立姿故に敵の弾幕をモロにくらってしまった。

 挙句、従来のハンドキャノンより余程早く再装填まで済ませてしまったのだ。

 もはや恐怖に駆られた元農民のハンドキャノン隊兵士は陣地から逃げ出し始めていて、副官にそれを止める術はない。

 

 

「着剣!!」

 

「「「「着剣!!」」」」

 

 

 副官の理性も、程なく崩壊した。

 それは敵のハンドキャノン隊が刃渡りの長い剣をハンドキャノンの銃口付近に装着した時だった。

 その動作一つで、3個ハンドキャノン連隊が3個パイク兵連隊に早変わりした。

 敵の士官が「突撃!」と叫んだ時、方伯軍副官には、もうできることなど何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺境伯領

 辺境伯居城

 

 

 

 

「そういうわけで、敵の野戦軍は文字通り壊滅したそうだ、ハニー。」

 

「………犠牲になった親衛隊員には特別の葬儀を手配しよう。教皇様も来てくださる。」

 

 

 

 私の配下の軍隊は方伯軍の守備陣地を、まるでバターにナイフを入れるようにサクッと攻略した。

 1番の勝因は、やはり新型のマスケットであろう。

 

 エルドリアンの開発チームは、銃手の顔付近に火種が来る点火方式を嫌がった。

 火縄方式は命中精度こそ高いが、危なっかしいし、何より火縄の維持は大変な労力になる。

 代わりに彼らが提示してきた点火方式は、所謂フリントロック方式だった。

 これなら火縄を維持する必要はないし、もう一つの利点もある。

 

 それは銃剣の装着が可能になると言うことで、それはマスケットを装備した徒歩兵部隊が素早く突撃・追撃部隊に変身できることを意味していた。

 これならマスケット部隊のケツにパイク兵部隊をくっつけて行かせずに済むし、何より指揮系統を複雑にせず、尚且つ圧倒的多数の人員を正面に配置できるのだ。

 

 従来のハンドキャノンとは異なり、構えて狙えるデザインに進化したことで、射撃はより精密になり、当然装填もより早くなる。

 シュペアーに命じて、我々のマスケット隊には薬包も装備させていた。

 尚更装填速度は上がるし、一々火薬量を調整したくて良いので射撃も均一になり、そして簡単な訓練で誰でも扱えるようになる。

 とはいえ、農民を徴収する気はなかった…彼らには彼らの役割がある。

 我々の手元には高度に訓練された職業軍人からなる徒歩兵部隊がいる。

 マスケットの簡便さは、この勇敢な兵士を再装備させるのに一役買ったのだ。

 

 

「…ああ、ハニー。やはり()()()()()が気になるのか。案ずるな、誰もがハニーの考えを分かってくれている。」

 

 

 ダニエラさんが、恐らくは渋いツラを晒していた私の顔を優しくおっぱいに挟み込む。

 彼女の言う通り、親衛隊を囮として使ったのは良心の呵責に苛まれる出来事だった。

 

 

「ハニーは敵の切り札である近衛騎兵…特に第6近衛騎兵を排除したかった。敵の切り札を残していればこちらの手立てさえ制限を受けかねないからな。だから連中を誘き出して掃討する必要があった。」

 

「………」

 

「ほら、我でもちゃんとハニーの考えを分かっているんだ。亡くなった勇敢な将兵も分かってくれるさ。」

 

「………何度も言うけど、彼らの葬儀は」

 

「分かってる、分かってるよ、ハニー。手配は済ませておいた。だから、ハニーはハニーにしかできないことをしてくれ。」

 

 

 

 ダニエラさんの言う通り、私にはまだやらねばならん事が盛り沢山とある。

 私は自身のケジメをつけるために、やはり思いっきり吸い込んだ。

 何をって?…オパイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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