クソゲス☆ド外道ファンタジー    作:ペニーボイス

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22 自由都市

 

 

 

 

 自由都市ハンザブルグ

 市長室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コン、コン、コン

 

「開いている、入りたまえ。」

 

 

 ドアがノックされ、1人の男がそのドアを開いてやってくる。

 彼はこの自由都市を警護する傭兵軍の責任者であり、その任務は城壁の内と外に分けられていた。

 つまりは、壁の内側では警察任務、外側では軍事任務にあたるのだ。

 最近は100年もの間この街を守り続けてきた城壁に挑むような愚か者もいないので、彼ら傭兵軍は専ら城内の治安維持に当たっている。

 

 そんな彼は今日、彼らの雇い主である市長の執務室にやってきたわけだが、本来の要件に入る前に、まずは目の前で机に向かって執務を行なっている雇い主のお粗末な身辺警護状態に対しての責め句を言い渡すことにした。

 

 

 

「ドアを3回ノックしただけで相手を入れるのか?…無用心にも程がある。」

 

「それだけを言うためにわざわざこの部屋に来たのかね。心配せずとも私の首を狙うような輩はおらんよ。」

 

「何故そう言い切れる?」

 

意味がないからだ。私の前任者も、恐らくは後任者も、現状の市政から大きく路線変更をしようとはしない。つまりはね、私を殺しても代わりは幾らでもいると言うことだ。」

 

「アンタは殺されるかもしれないんだぞ?怖くはないのか?」

 

「ああ〜怖いね。だが、そうならないために君たちを雇っている。ここに忍び込んで切り取ったりすげ替えたりしても大して変わらない首を狙っている輩を城壁の外に留めておくのが君たちの仕事だ。余計な心配はしなくて結構!」

 

 

 市長はそう言って、人懐こい笑みを浮かべる。

 傭兵隊長は深いため息を吐きつつも、「はいはい、わかってますよ」と言わんばかりに両手を挙げた。

 彼は市長とは長い付き合いだが、この笑みの"威力"は変わらない。

 この笑顔の素敵な初老の男がまだ現役の商人だった時から傭兵隊長は彼の護衛をしていたが、この男が笑みを浮かべながら説得した時は、必ずと言って良いほど商談相手は殆ど全てを妥協したのを何度も見ている。

 

 

 市長はそんな傭兵隊長の様子を見ながらも、書類仕事の手を止める事はない。

 何せ王国中の商取引の中心地こそ、このハンザブルグなのだ。

 この街の市長には、その商業都市を運用するためのありとあらゆる便宜を図る職務が課せられている。

 まさに寸刻を惜しむほどの仕事量があった。

 

 しかしながらこの人好きのする市長は、それほどの仕事と向かい合っていても古い友人を蔑ろにする事はない。

 彼は机上でペンを指先のように操りながらも、目の前の傭兵隊長とのやり取りを続ける。

 

 

「君の事だから、そんな事を伝えるためにここに来たわけじゃないだろう?」

 

「ああ。耳の早いアンタの事だから知っているとは思うが…昨日高級娼館で喧嘩があった。」

 

「勿論知っているとも。酔っ払い共の喧嘩だが、先に殴ったのは、"面白いヤツ"だったな。辺境伯お抱えの商人、アレハンドロだ。」

 

「殴られた方も"面白い"ヤツだった。」

 

「ああ、酔っぱらった娼婦だろう?高級娼館の娼婦が客を挑発するなんて、たしかに面白い」

 

「そうじゃねえ。…こいつは噂に過ぎねえが、殴られたのは共和国薔薇騎士団の団員らしい。」

 

 

 市長のペンがピタッと止まる。

 彼はそのままペンを傍に置き、腕組みをして傭兵隊長の顔に見入った。

 

 

「共和国が?…何故?」

 

「こいつも確証のない話だが、アレハンドロは何かしらの薬物を共和国の連中に運んでいるらしい。取引相手はあの共和国のマフィア・アグノエル家で、アレハンドロは連中と組んでボロ儲けしてる。」

 

「たしかに、市の届出では奴は奴隷商人だが…金回りは良い癖に、奴の"商品"に上玉はいない。その話が本当でもおかしくはないな。」

 

「アグノエル絡みの噂に昨日の喧嘩、こいつは偶然か?」

 

「………」

 

「それに…アンタも感じているだろう?全てがチグハグなんだ。アレハンドロは粗末な商品しかないのに金回りは良い、奴のケツを持ってる辺境伯は領内に産業もないくせに方伯との戦争に勝つ、共和国は危険を冒してウチを嗅ぎ回る…一体何が起きてやがる?」

 

 

 市長は腕組みをしつつも椅子から立ち上がる。

 組んだ腕の内の一本は彼の顎へと向かい、その手はやがて顎を抱えた。

 彼が考え込むときはいつもこうなるし、それは傭兵隊長も何度も見ている。

 

 

「………この都市が標榜する理想とは、何だと思う?」

 

「さあな。俺は傭兵だ。理想とは縁がない。」

 

「"自由"だよ。自由な取引、自由な思想、自由な生活。自由こそがこの街をハンザブルグとなし得る最も重大な要素なんだ。」

 

「………」

 

「…私が考えるに、この街の自由に対して良くないことが起こっているようだ。私は施政者としてこの問題に対処しなくてはならない。…アレハンドロと辺境伯の関係をもう一度洗ってくれ。積荷が何か分かれば、アグノエルと共和国の方も片付くはずだ。頼むぞ、この街の概念そのものがかかっている。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻

 アレハンドロ私邸

 

 

 

 

 

 城壁に囲まれた都市の中で自然の緑を見つけるにはどうするべきだろう?

 それはきっとこうだ。

 "金持ちの邸宅を見つければ良い"

 

 

 アレハンドロは享楽主義のブルジョアのようだった…NKVDに見つかれば即座にラーゲリ送りにされる類いの。

 彼は我々との取引で得た富によって、城塞都市の馬鹿高い土地を大量に買って豪勢な邸宅を建てていた。

 様々な商店が集う市を抜けてすぐのところに、観葉植物に覆われた敷地があり、そのど真ん中に金ピカの邸宅がある。

 整えられた芝の奥にはプールまで備えられていて、私は誤ってコロンビアにでも来たのではないかという気分になった。

 

 豪勢な邸宅の豪勢な門の前に立っていると、奥の邸宅からアレハンドロの使用人がこちらに向かってやってくる。

 

 

「辺境伯様ですね?お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」

 

 

 ウチの居城よりも豪勢なのではないかという邸宅に魅入っていた私とダニエラさん、それにアンドレアスは乗ってきた馬車を使用人に引き渡し、別の使用人の案内で邸宅に迎え入れられる。

 邸宅からは、これまた豪勢なセーブルのコートを着込んだアレハンドロが2人の美女を侍らせてやってきた。

 アレハンドロの服装とは対照的に、2人の女はペラッペラのベリーダンサー風衣装に身を包んでいる。

 2人とも別嬪さんだが、残念なことに胸のサイズはダニエラさんには及ばない。

 だから私は変に興奮することもなく、平静を保っていられる。

 保っていられるからソーシャルディスタンス保ってダニエラさん。

 さりげなくおっぱいを背中に押し当てないでもらえません?

 浮気を心配してるなら杞憂でしかありませんわよ?

 あとその鬼の形相やめて?

 お2人さん引いてるでしょ?やめてあげて?

 

 

「遠いとこからわざわざすみませんねえ、辺境伯様。」

 

「いやいや。商売はどうだ?…順調かな?」

 

「ええ、おかげさまで繁盛してますよ。問題がないわけじゃありませんが…心配には及びません。」

 

「心配に及ぶかどうか決めるのは私だ。昨日は商館で喧嘩したらしいな?」

 

「大したことじゃありませんよ。ただの痴話喧嘩です。」

 

「だが相手は共和国の警察組織だったらしいじゃないか?…ここに来る道中に色々な話を聞けたが、私としては君の軽率さが心配になってきた。何度も言ってるが、私が君を選んだのは」

 

「"慎重で口が固いから"…そうですね、辺境伯様。昨日のはやり過ぎました。それに注意を怠った。二度とやりません。」

 

「今回は許そう。だが次はないぞ?…さて、本題に入ろう。」

 

「事前に頼まれていた項目はまとめてあります。立ち話もなんですから、どうぞ奥へ。」

 

 

 

 案内人は使用人からアレハンドロに変わり、我々は邸宅の中へと進んでいく。

 2人の美女は途中で抜けてよくわからない部屋へと入っていき、その部屋からは何か燻したような臭いが漂っていた。

 この男が商品にも手をつけているのは知っていたが、納金を怠らない内は締め上げるつもりもない。

 ただ、流石に主要取引相手との面会前に"キメる"ようになったら、私はこいつを殺す命令を出さなければならないが。

 

 

 アレハンドロは…当然の事だが…今はシラフのようで、書類で散らかっている書斎に入ると、私に見せるために纏めておいた資料を並べ始めた。

 

 

「これが、ハンザブルグの警備状況です。…余計な事を申し上げますが、こいつはかなり"ホネ"ですよ。」

 

「分かってる。…ふん…なるほど、たしかにこいつは"ホネ"だな。」

 

「傭兵軍の規模は大きくはないが…我々の思っていたよりかは大規模だぞ、ハニー。」

 

「それに地形にも難があるね。ハンザブルグの東西は森に囲まれ、北には大河が流れてる。城壁に達する前に、野戦でこちらの戦力を削ってくるはずだ。地の利は向こうにあるから…」

 

 

 ダニエラさんとアンドレアスが言うように、この都市に真正面から挑むのは無謀がすぎる。

 とはいえ地形のせいでゴリ押し以外は難しい。

 守るに容易く攻めるに難しいとは、この城塞都市のために用意された言葉のようにすら思えた。

 

 

「攻め入るとすれば…それもこの都市を陥落させて維持できるほどの兵力を持ち込むとすれば、南側からしか手はないな。傭兵軍の装備は分かるか?」

 

「ええ、辺境伯様。連中は新しい小火器を配備したようです。何でも火薬を使う類のモノで、名前は…えっと…」

 

「…まさかとは思うが…ライフルか?」

 

「ええ!はい!そう、ライフルです!…何故ご存知なのですか?」

 

「ライフルの数はどのくらいだ?恐らくそれほど大量に供給されてはいないと思うが。」

 

「はい、腕の良い猟兵を中心に全体の4分の1を配備しているようです。」

 

 

 なんてこった!

 ようやっとマスケットを手に入れたと思ったら今度はライフル銃かよ!

 私は軽く目眩を覚えて座り込む。

 

 

「ライフルはこちらのマスケットの倍以上の射程距離から、数倍の精度で弾丸を放てる。一列横隊のマスケット隊など…いや、それより怖いのは指揮官への狙撃だ。統制の取れていないマスケット隊は…畜生、オスター河畔の再来だぞ。」

 

「それもこちら側で、ね。アレハンドロ、傭兵軍のライフルは前装式かい?」

 

「はい。何しろ装填に時間がかかるようです。」

 

「そうなると"初期"のライフル銃か。…いいや、ダメだ。王国との衝突すら控えている。我が軍に必要以上の損害を被ってまでここを制圧する余力はない。」

 

「ではどうするハニー?」

 

「………()()()()()()()()()()()()はなんだと思う、ダニエラさん?」

 

「………?」

 

 

 私は次の手の取り掛かりを絞り出しつつあった。

 この都市の傭兵軍と正面切って戦うのはあまりに危険が過ぎる。

 ではどうするか。

 こちらの兵力で傭兵軍を削れないのであれば、連中を自壊させるしかない。

 そして自壊させるには、この国全体に大きな衝撃を与えなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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