クソゲス☆ド外道ファンタジー    作:ペニーボイス

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26 俺たちずっとズッ友だよ☆

 

 

 

 

 

 辺境伯領大聖堂

 

 

 

 

 

 

「………ゲルハルト・フォン・ノルデンラント…主に祝福されし北部の守護者…汝はダニエラ・ラ・フェルリータを妻と定め、いかなる時も支え合い愛し合うことを誓いますか?」

 

「誓います」

 

「ダニエラ・ラ・フェルリータ、汝はゲルハルト・フォン・ノルデンラントを夫と定め、いかなる時も支え合い愛し合うことを誓いますか?」

 

「誓います」

 

「大変結構、それでは誓いの接吻を」

 

 

 ダニエラさんとプルァトニックキッチュを終えた時を持って、私とダニエラさんはめでたく夫婦となった。

 今より昔、まだ先代魔王と勇者達が戦っていた時には教皇様が有力諸侯の結婚に立ち会うことは普通のことだったらしい。

 ところが平和な時代が訪れると、この伝統は急速に色褪せてしまっていく。

 国王がいつ頃から教会のチカラを邪魔に感じていたかは知らないが、その思惑が手伝っていたことは日を見るより明らかだろう。

 

 辺境伯が教皇様の立ち合いの下挙式したことで、この伝統も再び陽の目を見ることになった。

 これまで長い平和のためにあまり顧みて来られなかった辺境伯領最大の聖堂もこの儀式の為に大掛かりな修復作業が行われていたし、他地域よりはマシとはいえ宗教との関わりが薄れていた辺境伯の住民達も再び主の教えに戻りつつある。

 それはつまり教皇様の教えに忠実な信者の確保に、私が細やかながら貢献させていただいたことを意味した。

 

 

 

 挙式を終え、私とダニエラさんは教皇様と対談することになった。

 

 

「わざわざご足労いただき、誠にありがとうございます。」

 

「いえいえ、私こそお招きいただき本当にありがたく感じていますよ。…あなたの領民達は以前にも増して信仰に篤くなっていますね。この伝統が復活したことで他の諸侯の領民達も目を覚ますと良いのですが。」

 

「あとはあの欲深い国王と不信心な自由都市の連中くらいなものでしょう。」

 

「ええ、そうですね。私たちは彼らの目を覚まさせてやらねばなりません。」

 

 

 ここまでは良し。

 私と教皇様の利害は完全に一致している。

 

 まず、言うまでもなく国王は両者共通の敵だ。

 方伯領の戦後処置会議はまさしく良い例だが、教皇様と国王の対立は修復が不可能なレベルに達している。

 しかし教皇領がその総本山を置く公国が政治に無関心な国王の親族によって管理され、その国王の親族が教皇領の傀儡となっている現状教皇領の包囲は避けられるにせよ、教皇様にとってはすぐ南に広大な国王直轄領が広がっていること自体が脅威なのだ。

 聖騎士隊の精強さは有名だが、国王軍の本格侵攻に耐えられるほどの数はいない。

 教皇様が国王と対立しつつも直接的な対決を決断できないのはこの為で、逆に国王は教皇様の宗教的権威から彼を攻撃できないのだ。

 だからこそ国王は教会の影響力を削ぐべく、チマチマと宗教的な伝統をもみ消してきた。

 平和な時代がこれを手助けして、人々は信仰から離れがちになった為、教皇様は軍事的な同盟者が必要になる。

 

 一方私もまた、国王に対して脅威を感じている。

 共和国と帝国が座るグレートゲームへの復帰を夢見る国王は国内の統一を急いでいた。

 私と方伯の戦争で両方が消耗すると踏んでいたのだろうが、結果は全くの予想外だったに違いない。

 その上、私は方伯領の分割会議に教皇様の影響力を持ち込んだ。

 国王からまず間違いなく"敵"として認識されているし、国家全体の長となる権力者と張り合う為には、戦争の正当化のためにもそれに見合うような別の権力者が必要となる。

 国家の権威に頼れないなら、宗教の権威に頼ろう…そういうわけで私も教皇様との同盟関係が必要になった。

 

 国王は私達共通の敵。

 そして敵の敵は味方、教皇様は味方…出来れば永遠に"ズッ友"していたい。

 

 

 次に自由都市。

 私はこの都市を資源確保と流通支配の観点から制圧したい。

 国外でしか産出しない希少資源とその流通経路を握れば、国王の軍隊はじわじわと壊疽していく。

 そうなれば私達はこの国で最も規模の大きな軍隊を撃ち破ることができるだろう。

 

 教皇様としても、やはりこの自由都市は抑えておきたいに違いない。

 というのも、自由都市の商人達は教会の影響力を国王の影響力と同等に嫌っていたからだ。

 国中で最もカネとモノが集まる市場から締め出されているわけだから、教会がこの町に参入しないだけでどれだけの損失を招いているか想像に難くない。

 

 

 だからやはり、この点でも私たちは共通の利害関係…"ズッ友"だと判断できる。

 ゆえに今日。

 そう、こんな…素敵なダニエラさんと誓いのキッチュをした直後だからこそ、教皇様にある提案をぶち上げねばならない。

 

 

 

「教皇様、単刀直入に申したいことがございます。」

 

「おお、辺境伯殿。あなたは息子も同然です、なんなりと…」

 

「私は自由都市、並びに国王との戦争準備を進めております。」

 

「!!」

 

「我々は近いうちに、まず自由都市を攻撃するでしょう。しかし私達が使う方法において、国王の参戦は免れません。私の同盟者たる教皇様への攻撃にも踏み切るでしょう。」

 

 

 普段温和な表情を崩さない教皇様が初めて渋柿を噛んだようなお顔をなされる。

 無理もない。

「これからあなたの領地は攻撃され、その原因は我々が作ります」と宣言されたのだから。

 

 

「それは………時期が早いのではないでしょうか」

 

「いいえ、教皇様。あの貪欲なる国王は、国内の精神的支柱であるあなたの権威ですら奪おうとしておるのです。じわじわと、目に見えぬよう卑劣なやり方で!」

 

「………」

 

 

 教皇様の表情が困惑から薄ら怒りを含んだ表情に変わる。

 指摘されたくないことを指摘された人間の表情だ。

 しかし私は引かないし、引くわけにはいかない。

 私自身のためにも、ダニエラさんのためにも、そしてこの"ズッ友"のためにも。

 

 

 

「…ハニー、今日は我とハニーが結ばれためでたい日だ。その話はまた別の日に」

 

「いいや、ダニエラさん。今話しておかないと。…教皇様、不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありませんが、私がこのお話を今日のような日にしたのは気紛れではありません。これは私の覚悟でもあるのです。」

 

 

 教皇様はそこで私達が見たことのないような、少しばかり恐ろしげな表情をなされる。

 それはミサの時に壇上で浮かべるものでも、私と教皇様がこれまで交わしてきた"お願い"レベルのやり取りで浮かべるものでもない。

 国内最大の宗教的権威が、自らの保身と利益を天秤にかける、シビアな政治的判断を思慮するときの顔だった。

 

 

「……あなたの作戦を行動に移せば、間違いなく教皇領は攻撃を受けます。聖騎士隊は勇敢ですが国王の総攻撃には持ち堪えられません。あなたの軍は自由都市攻略に向かうのですから、私達は援軍を期待できない。」

 

「我々は今動員軍という新しい部隊を編成中です。簡易な訓練しか積んでいませんが、攻撃には使えなくとも防御においては使い物になるでしょう。彼らを防衛の為に派遣します。」

 

「国王の常備軍は常に訓練を重ねた職業軍人で編成されています。申し出はありがたいが…国王軍の主力攻勢に持ち堪えられるとは思えません。」

 

「ええ、ですので教皇様におかれましては開戦と同時に我が領に避難していただければと」

 

馬鹿なことを!

 

 

 教皇様はここで初めて声を荒げる。

 正直私としてもこれは言いたくなかったが、現実的に考えるならばこの提案は避けることができないものだ。

 だから私は謝罪しないし、したくともできない。

 

 

「私は同盟者を見誤ったのかもしれませんね!我が領は1ミリたりとも国王に明け渡しません!」

 

「明け渡せと申し上げるわけではありません!たしかに国王は一時的に土地を得るでしょうが、ノルデンラント家の名に賭けて必ずや取り返します!その為に自由都市を短期間に攻略する作戦計画まで準備してあるのです!」

 

「その作戦がうまくいく担保はないのでしょう!?…その場合はどのように責任を持つのです!?」

 

「私の首で治るのなら、教皇様には辺境伯領をお譲りします!!」

 

 

 そういう問題じゃない、そんなことは分かっているつもりだ。

 だが私が突然立ち上がりながらそんな事を言ったせいで教皇様は些か圧倒なされたようだった。

 

 もちろん私は自分の首を差し出したくはないし、教皇様がこんな男の首をもらってもきっと嬉しくないだろう。

 しかし私の"覚悟のほど"を示すには十分だったようで、やがて教皇様は怪訝な顔をしながら私に問いかけた。

 

 

「何故…そこまでなさるのです?国王が己の欲深さゆえに破滅することもあるでしょう…それを待ち、機を見て」

 

()など!そんなものはありません、教皇様!国王が己の欲に破滅するにせよ、その寿命により衰えるにせよ、いずれはその前に国王は教皇様や私に対して遅かれ早かれ牙を剥くのです!」

 

「………」

 

「教皇様も感じていらっしゃるはずです!国王は教会影響力低下に腐心している!この国の領民達が信仰から離れていったのは教皇様のせいでも、長引く平和のせいでもありません!国王が卑劣にも裏で糸を引いておるのです!国王にはそれだけの理由がある!」

 

「………」

 

「自由都市を抑えればこの国の流通を支配できます!さすれば国王軍の主力部隊といえど干え上がらせることができるでしょう!国王軍は防御に徹する動員軍との戦いで消耗し、次いで我が百戦錬磨の主力部隊の餌食になるのです!」

 

「…………」

 

「躊躇してはなりません、教皇様。"避けられぬ戦いであれば先手を打つべし"…国王が次の手を打つ前に、私に先手を打たせていただきたいのです。そしてその為には教皇様のご協力が不可欠です。」

 

 

 教皇様の表情から恐ろしげな感情が消え去って、それは再び思慮と困惑と渋柿のそれになる。

 しばし長い間考え込んだ後、教皇様は私の顔を覗き込んだ。

 そうしてやっと、私に声をかける。

 

 

「…辺境伯殿。ここまで率直に胸の内をお話しくださるとは…検討させていただきたい、とお答えしたいところですが、私としても国王の謀略は見るに耐えぬものがありました。…もはや砲火は避けられぬのかもしれません。」

 

「………」

 

「分かりました、辺境伯殿。一時とはいえ国王に領地を明け渡すのは癪ではありますが、それがあの強欲な悪魔を打ち倒す助けになるのでしたら………ご協力致しましょう。」

 

「!………誠に、誠に有難い幸せにございます、教皇様!」

 

「あなたもわざわざこのめでたい日に、私から疑念すら向けられかねないお話をしたのです。これはあなたの覚悟のほど、そうですね?」

 

「はい、教皇様」

 

「ならばあなたは本当に良き信徒です。私の判断にも、間違いはなかったようですね。」

 

 

 教皇領は温和な笑みではなく、"宗教的権力者"としての顔のまま、私にそう仰った。

 これが意味するところは、私はとうとう教皇様の本心の…その一端かもしれないが…信頼を勝ち得たということだろう。

 つい達成感故に泣きそうになったし、ダニエラさんも私の気持ちを汲んでから両目に薄ら涙を浮かべてくれている。

 浮かべながらおっぱいに私の顔面を受け入れる準備をしてくれている。

 今日はオパインをオーバードーズするからなこの野郎!

 

 

「…さて、辺境伯殿。そうなると、私たちは何をご協力できましょうか?」

 

「教皇様、まずは金を買ってください。」

 

「はい?…金、ですか?金山ならばそれこそ教皇領に」

 

「いいえ、違います。そうではなく、国王の金を買い込むのです。我々も勿論、この国中の金を買い込む予定です。」

 

「それは…何のために?」

 

「実を申しますと教皇様、この国の銀は、まもなくゴミクズになるのです。」

 

 

 

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