クソゲス☆ド外道ファンタジー    作:ペニーボイス

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2 純然たる劣勢

 

 

 

 

 

 

 資金力は全てを決定する。

 金があればモノが買え、人を雇え、場合によっては権力さえ手に入れられるのだ。

 勿論、金ではどうにもならない問題もある。 

 だが、金で解決できる問題の数は、きっとどうにもならない領域を凌駕している事だろう。

 昔見た、ある映画の主人公が放ったセリフを今でも覚えている。

 "ほぼ全ての人間には値札がついている"

 勿論、値札がついていない連中もいる。

 金で無理を通そうとする時、気にしなければならないのはそういった人間の存在だ。

 

 しかしそんなことを気にするのは、充分な金を手に入れてからでも遅くはない。

 ともかく、今は金が必要なのだ。

 私は最初から、手段を選ぶつもりはなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を目指さんとしている。

 …どのみちこの国に手段などありはしない。

 選択肢を選べるほど、国庫は潤沢ではないのだ。

 

 

 

 転生した私が治めることになった辺境伯領は深刻な食糧事情に見舞われ、貴重な資金源は食糧輸入に消え、めぼしい産業もなく、産出する資源も増産の見込みが立たないモノだった。

 ただし、鉄鋼業と石英の産出は光るモノがあり、資金を注ぎ込めば伸びそうな気配はある。

 肝心の金はないのだが。

 

 

 反対に、カリウス将軍が執拗なまでに侵攻したがっている、隣国の方伯領は真逆の状態にある。

 肥沃な土地と豊富な食物に支えられる伸び盛りの産業、安定した鉄鋼の産出、比較的熟練の技術者達。

 良質な鉄鋼石の輸出と、周辺地域を圧倒する製品の質は、この地域の国庫を潤わせている。

 そしてその潤った国庫と蓄積された技術力は、時代を先駆けるモノを産み出す素地を形成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 方伯領

 方伯領軍本営

 軍技術開発部

 

 

 

 

 

 まるで複数の雷鳴が同時に炸裂したかのようだった。

 何か長い筒のようなモノを担いだ新兵の列が、標的として立てられた10枚の板を完膚なきまでに"撃破"する。

 その様子を後方から眺めていた『方伯』は…元来無口な人間にも関わらず…感嘆のあまり、隣に控える『方伯領軍司令』に感想を述べた。

 

 

「ほぅ、素晴らしい。この武器さえあれば脆弱な徒歩兵でも騎兵隊を撃破できるな」

 

「勿論です、方伯様。これでもし魔王軍の残党が北部から攻め入っても安心です。この武器があればあのおぞましい魔王軍騎兵であっても、徒歩兵は"臆することなく"、"遠距離から"、"安全に"、撃破することができます。」

 

「………辺境伯領は信用ならん。不甲斐ない奴らのせいで、何度魔王軍の侵入を許したことか…」

 

 

 

 辺境伯領の東隣に位置する方伯領は、東側を険しい山々、南側を『大公領』、西側を辺境伯領、そして北側の長細い、突出した地域を魔王国と接する国土から形成されていた。

 

 北側の魔王国と接する、ほんの短い距離の国境は、絶えず方伯領の悩みの種となっていた。

 今より遥か昔、辺境伯領軍と方伯領軍のやる気のない、たった10分の戦闘でその領有が決まったこの地域は、独特の地形から『三角地帯』と呼ばれている。

 この地域は肥沃な土地を含んではいたものの、その三角形の頂点は魔族が侵入を試みる突破口でもあったのだ。

 

 国王より魔王軍撃退を命ぜられていた辺境伯には、魔王配下の軍勢から王国全体を守る使命が与えられていた。

 方伯領はその見返りとして、辺境伯領に多大な食糧や物資を送り込んでいたのだ。

 だが、辺境伯領軍は、時として魔王の軍勢に耐えきれず、この三角地帯の頂点から方伯領への侵入を許した。

 その度に方伯領は少なくない損害を被り、辺境伯領軍の不甲斐なさに憤りながらも、どうにか魔王軍の南進を食い止めてきたのである。

 

 

 

「この新しい武器、『ハンドキャノン』があれば、もう辺境伯領軍の騎兵隊を頼る必要はありません。辺境伯に食糧を送る必要も。殿下の軍隊は国そのもの…つまり、国民全員を強力な徒歩兵とすることができるのです。」

 

「…司令、この武器の使い道はそんなつまらない事で終わるものでもなかろう。」

 

「…と、言いますと?」

 

「辺境伯領を攻め落とす。」

 

「なっ!…しっ、しかし、方伯様!辺境伯領には何もありません!有力な産業も、有益な資源も!ただ悪辣な魔族との境界線が増えるのみです!」

 

「そのような事、貴様に言われるまでもない。…だからこそ、狙っておるのだよ。魔王が死んで随分と時が経つ。勇者が死んだ今、国王陛下は魔王の娘を始末なさるだろう。国の長なき魔王国など烏合の衆でしかない。」

 

「………」

 

陛下は魔王国への侵攻を諸侯に命ずるはずだ。…そこで一番乗りするのは我々だ!魔王国は未知の領域!無論危険もあろうが、得られるモノも多いに違いない!このチャンスを貧乏な辺境伯なぞにくれてやる道理もなかろう!」

 

「な、なるほど!」

 

「我々の手には稀代の宝物、ハンドキャノンがある!魔王軍も辺境伯も恐れることはない!」

 

「しかし…方伯様。いくら方伯様のお志がご立派でも、国王が辺境伯との衝突を快く思うとは思えません。」

 

「…ふむ、貴様も中々繊細な奴よのぉ。案ずるな。戦争の理由なぞ待てば幾らでも出てくるものよ。それに、待てば待つほど、我が軍勢にとっても力を蓄える時間となるであろう!はっーはっはっはっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺境伯領

 辺境伯居城

 執務室

 

 

………いつものメンツを残して出て行け。…カリウス、シュペアー…それにシュタイヤー…アンポンタン…

 

 

 

 方伯が高笑いをしていた頃、辺境伯の執務室では、それまで執務室に詰めていた大勢の官僚が、その部屋の外へと追い出された。

 追い出した当の本人である私は、怒りに震え、近視のために掛けていたモノクルを震える右手で外して、目の前の地図に置く。

 地図を広げたテーブルのすぐ前では、ムスっとしたカリウス、油汗塗れのシュペアー、目頭を抑えるシュタイヤーがそれぞれの心境を抱きながら、私の方を見ていた。

 

 

 

「………全く産業がないっ!金がないっ!」

 

 

 私は突如怒り狂い、愛用しているハズの万年筆を地図に叩きつける。

 そのくらい、私の我慢は限界を迎えていた。

 

 

「魔王軍とあれだけ戦って発展したのが馬具と武器だけなのか!!…ボルシッチ!!」

 

 

 延々と怒り続ける私。

 執務室の外では官僚達が壁を通して聞こえる辺境伯の怒鳴り声に、顔を青くしていた。

 給仕長の女性など泣き出してしまい、傍の秘書に慰められている。

 

 

「そもそも国王の命令に忠実過ぎだ!!先代は何を考えていた!?魔王軍を撃退した後の事は頭に無かったのかよ!?視野狭過ぎの先代なんてファイっ嫌いだ!!

 

「じゃからワシが軍勢を率いて方伯領に攻め入ろうと…」

 

「兵站に回す金がねえっつってんだろうが!!単細胞なんてファイっ嫌いだ、ヴァーカッ!!

 

「状況を変えるためにも無理を通さぬとならぬじゃろう!我が軍の騎兵隊なら方伯領の素人共なぞ…」

 

「長い槍をただ持っただけの農民徒歩兵だけならまだどうにかなったかもしれん。だが、その方伯領がハンドキャノンを完成させやがったんだ!!チクショーメェェェェェェ!!

 

 

 私は万年筆を再び持ち上げて、再び地図に叩きつける。

 

 

「ハンドキャノンのような武器があればど素人の農民での騎馬隊を封じられる!ウォッ!騎兵の最大威力である突破力が破砕されればいくら優秀な騎士でもただの的にしかならん!その配慮がタルァンカッタァ!!…それとも督戦隊でも設けてただただ突撃させ続ければいいのか、スターリンのように!!」

 

 

 一通り怒鳴った私は、当然ながら疲れ、元いた椅子に座り込む。

 目の前にいる3人組は、不服や不安を抱えながらも、しかし、この新しい辺境伯が抱える問題も充分に理解しているようだった。

 

 

「…何か資金源を探さねばならん。先代は勇気だの武勇だのに取り憑かれてやるべき事をやってこなかった…それか、こういうのしか頭になかったんだ!"オッパイプルンップルン"!」

 

 

 ついに辺境伯の頭がどうにかなったかと顔を見合わせる3人組。

 

 

「前にも言ったが…将軍、あなたの作戦を遂行するためには兵站を強化せねばならん。そして兵站の強化には金が必須なんだ。金策を練らなければ我々は追い詰められ……最悪の場合には方伯領から侵攻を受けることになるかもしれん。」

 

「「「………」」」

 

「…ところで、あいつはどこに行った?」

 

 

 それまで3人組は沈黙していたが、私の質問に、長い長い間を置いて、シュペアーが答える。

 

 

「アンドレアス様なら、魔王国との国境地帯に向かいました。」

 

「国境地帯?…なんで?」

 

「何でも、"地質調査"だそうで。」

 

 

 

 はぁぁぁ…

 まったく、あの自由人め!!

 

 

 

 

 

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