辺境伯領内
某孤児院
誰も殺されはしなかったが、2人の孤児が連れ去られた。
そこにいる誰もが、襲い掛かってきた野盗に抵抗する事ができなかったのだ。
だから、孤児院を襲った3人の野盗達は好き放題に振る舞い、シスターやマザーを脅しつけている間に子供を物色、金庫を漁り、食糧庫から貴重な食べ物を持ち出した。
3人の野盗が去った後、そこには空っぽの金庫と食糧庫、泣きじゃくる子供達、それに悲しみを堪えるシスターと、自身だけはどうにか正気を保とうと奮闘するマザーのみが残される。
「…シスター・フローレンス、我慢するのは良くありません。貴女はこの孤児院のためにどんな辛い日々も耐え抜いてきました。心の休息を咎めるほど、主は残酷ではありません。」
「ですがマザー…ぐすっ、子供達の前で私が泣いてしまっては…」
「ならば懺悔室へとお行きなさい。子供達は私の方で面倒を見ます。辺境伯様への報告も。…あの部屋であれば、主以外は誰もいません。さあ、早くお行きなさい。」
限界を迎えそうになったシスターは、駆け足で懺悔室へと向かう。
そのまま部屋のドアノブに飛びついたが、彼女はそこで一度目の前のドアに掲げられた彫刻を目にして動きを止める。
そこにあったのは主の彫像で、彼女は自身の行為が主の怒りを買い、今度の事は主の怒りの罰なのではないかと思ったのだ。
だが、すぐに思い直してドアを開く。
彼女が毎日目を通す聖書に書かれている事が本当なら…主はそれこそ"残酷ではない"。
彼女が犯した罪も、きっと赦されるはずなのだ。
シスターは懺悔室の中に飛び込むと、ロザリオを手に取り、長年そうやってきたように祈りを捧げ始める。
「あぁ、主よ…我らが父よ……どうかこの愚かなる羊をお許しください…」
とうとう限界が来たのか、泣き始めるシスター。
「うっ、えぐっ…私はかけがえのない友との約束をッ…ひぐっ…はだぜまぜんでじだ!!」
シスターの涙は止まらない。
…だが。
彼女の表情は段々と険しくなっていく。
孤児院を襲った悲劇をただ単に悲しんでいるというより、孤児院を襲った者共への復讐を誓ってすらいるように見える。
「友は言いましだ!…『アタシが犠牲になる事で、この世が救われるのなら』…!しかし私は約束を果たせず、立派な志を持つ彼女を裏切ってしまった!!」
もうシスターは泣いてすらいない。
その表情を支配するのは憎悪と憤怒。
怒りに震える彼女の懺悔は、次第に宣言へと変わっていく。
「"あの子達"は巻き込まれるべきではなかった!彼女はそのために私を頼ったのです!悪辣な者共が彼女の意志をぶち壊しにしたのなら、私も奴らの意志を破壊する事をどうかお許しください!!」
いよいよ語気が強くなるシスター。
その形相は鬼のそれへと変わり、そしてその心は"かつて"のモノへと変わり果てている。
『我が名誉にかけて、悪逆非道を叩き割らん!我は弓、我は槍、我は剣!!闇の中から打って出て、また闇の中へと帰る者!!いざ、我の正義を果たさん!!!』
彼女はその昔にある人物達と共に戦った者の1人であった。
だが、魔王討伐後も彼女は他の誰よりも地味な生活を続け、その名が広まることはなかったのだ。
だからこそ、王国からも、"悪辣な賊共"からも見過ごされていた。
彼女が野盗に抵抗しなかったのは、子供達の目の前で惨殺劇を繰り広げたくなかったからであり、決してその実力がないわけではない。
シスターはかつて、共に魔王と戦った者達からこう呼ばれていた。
孤児院から幾ばくか行ったところでは、3人の辺境伯親衛隊員が、この日"
彼らは辺境伯直々の命令であの孤児院から2人の子供を連れ去るように命ぜられていたのだ。
正直、気の進まない仕事だった。
彼らはまだ先代の辺境伯が生きていた時代に、困難な試験と厳しい訓練を乗り越えてきて親衛隊に入隊したエリート達なのだ。
その誇りと正義感は、此度の任務に存分の疑問を投げかけている。
「新しい辺境伯様は…何故このような事をお命じになられたのか…」
3人の内1人から、ついポロッと本音が溢れた。
彼は3人のうちでも最も若く、その若さ故に正義感は人並みならぬものがある。
その事は3人の内で最も古参のメンバーである『親衛隊隊長』もよく理解していて、しかし、立場上の義務も果たした。
「我らが親衛隊のモットーは"変わらぬ忠誠"!…訓練校で叩き込まれなかったか?」
「はっ!隊長!申し訳ありません!」
「…とはいえ、お前の言うことも分からんではない。確かに辺境伯様に忠誠を誓った身とはいえ、子ども拐いなぞしているのだからな。」
「隊長も疑問を?」
「他の皆には言うなよ?…先代の辺境伯様は頻繁に兵舎を回られ、我々ともよく酒を酌み交わしてくださったが、新しい辺境伯様はそういった事はなさらない。あの方の人となりは、正直俺にも分からん。」
「………」
「ただな、坊主。それだけで新しい辺境伯様を評価するのは間違いだ。………まだあの方が幼い頃、他家のご子息と模擬剣術試合をなされていたのを見た事がある。相手はあの方よりも大きな少年だった。…そこで、あの方は何をしたと思う?」
「…さあ。」
「片膝をついて、頭を垂れた。」
「なっ!?戦わずして負けを認めたのですか!?」
「いいや、まさか!あの方は跪く時に片手も地面に置いて、砂を掴んで相手の顔にぶちまけたんだ!」
「いやいやいやいや、大問題じゃないですか!?そんな卑怯なやり方するなんて…」
「…坊主、お前たちの世代は本物の戦争を知らんからな…戦争には"ずるい"も"卑怯"もない。勝者が全てを決める事ができ、敗者には何も残されない。騎士道精神を磨くのは立派だが、それは勝つか負けるかした後の話だ…戦いの最中に持ち出すものじゃあない。」
「……そう…なんでしょうか…」
「そんな顔をするな、坊主!あの方もあの方で立派な領主であることに間違いない。…さて、と。孤児院から"拝借"した物に手をつけるな、後で別の連中が孤児院に返しにいく。そろそろ行くぞ、帰りの道中も気を抜くなよ?」
親衛隊長はそう言いつつも、自身の愛馬に乗せられている、手と足を縛られて猿轡をはめられた少年を見やった。
この少年は孤児院で殆ど唯一"青年"と呼べる年頃の子供で、彼ら親衛隊員が野盗のフリをして襲いかかった時も他の子供達を庇うように飛び出してきたのだ。
…もし、辺境伯様のご命令が本当ならば。
この子供の行動には納得のいくモノがあったし、妙に辻褄も合うような気がする。
だが、親衛隊長はそれを2人の部下に話すわけにもいかなかったし、話そうとも思わなかった。
辺境伯様は彼に"絶対に他言無用"と念を押していたし、親衛隊長もその言葉を信頼の証と受け取っていたからだ。
…………………………………
辺境伯居城
執務室
私の下で働くことになったダニエラとかいうお色気暴発爆裂おっぱいイケメンダークエルフは、手土産とばかりに素晴らしい情報をもたらしてくれた。
さっそくその情報を下に親衛隊長を派遣。
すると、このおっぱいパツンッパツンッダークエルフの情報が本物であった事が確認された。
それが、あの子供についての情報である。
親衛隊長が連れ去った子供は、私が目的を果たす上で重要な役割を果たしてくれることだろう。
いやあ、もう馬鹿デカおっぱいダークエルフさんに感謝っすわ。
もう本当に素晴らしいよ、このおっぱいおっぱいダークエルフさん。
マジでありがとう、おっぱい。
「そんなに礼を並べる必要はない。我も我とて、さっそく新しい君主の役に立てたことを嬉しく思っている…もっと我を頼っても良いのだぞ、我の王子様♡」
「うん、めちゃくちゃ頼るね、おっぱいさん。…ところでおっぱいさん何でこんな情報持ってたの?」
「ふむ、そんなに知りたいのか?我のプリンスは仕方のない子だなぁ。」
私は自分自身を変態だと自負している。
もうとんでもない変態野郎である。
何たって馬鹿デカおっぱいダークエルフさんと執務室で2人きりになり、辺境伯専用の椅子に座って、その馬鹿デカおっぱいを側頭部に感じながら、馬鹿デカおっぱいと会話しているのだから。
「ダークエルフは黒魔術の使用に長けている種族だ。プリンスが新魔王様の黒魔術を見たように、あのような事もできる。だから先代の魔王は我らダークエルフを人間側への"斥候"として多用した。」
今現在、このおっぱいダークエルフの耳は、典型的なエルフ耳ではなく、人間のそれになっている。
それは彼女がこちら側…つまり人間界である辺境伯領の、更に辺境伯領主の執務室にいても不思議ではないようにするためだった。
つまるところダークエルフは黒魔術によって、人間に"擬態"できるのである。
「"斥候"…スパイ、いや、間諜とか言った方が近いのかな?」
「おお!まさにその通りだ、我のプリンス!えらい、えらい♪」
「キャッ☆キャッ☆」
おっぱいダークエルフのダニエラが私の頭をその馬鹿デカおっぱいに挟み込み、私はもう大興奮♪
転生してよかったぁ〜、そう思えたのは転生以来初めてである。
だって考えてみてくださいよ、クソクール系おっぱいイケメンダークエルフがおっぱいおっぱいしてくれるんだよ!?
最高じゃん!
「………ゲルハルト…君はついに…」
「残念じゃ…」
「こんなお姿を見たら、きっと先代も…いや、歴代辺境伯ノ御先祖サマモ、草葉ノ陰デ皆泣イテヲルゾ」
「…辺境伯様、どうかこのシュペアーだけには話しかけないでくださいね?」
「うおおおおお!?お前らいつの間にいやがっ」
「危ない、我の王子様!」
ぽよんっ♡
バギィッ!!
「ヘブヘェッ!?」
私は驚きのあまりひっくり返りそうになったが、ダニエラが私の背後から支えてくれようとした結果、後頭部が彼女のおっぱいに当たって跳ね返された。
中々の強度で仰け反ったエネルギーをほぼほぼそのまま「ぽよんっ♡」と返されたので、私は目の前の机に顔面から着地したのである。
鼻腔の中から鉄っぽい匂いを感じながら、私は目の前でドン引きにドン引きしている閣僚達に反論を試みた。
「お前ら部屋入る前にノックぐらいしろよおおお!!」
「ノックしたよ…きっと、そこのおっぱいに夢中で気付かなかったのだろうけど」
「武人が君主に物申すモノではないが、君主たる者、安直に色欲に走るのはどうかと思うぞ?」
「これでは辺境伯領の未来が心配じゃ…」
「帰っていいですか、辺境伯様」
「あんまりだ!!何なんだお前ら揃いも揃って!!ただ単に癒されてただけだろうが!!」
「「「「自重自重自重自重自重自重」」」」
「全員一致で否定してくんじゃねえ!!…で、何の用なんだ?」
どうにか落ち着きを取り戻した私は、閣僚達にそう尋ねる。
隣ではおっぱいダークエルフのダニエラがハンカチを持ってきて、私の鼻から出続けている鼻血を拭き取ってくれていた。
人間に擬態した彼女は、表向きは『私の許婚』という事になっている。
こんな褐色おっぱいが、明らかにサイズの合っていない服を着ておっぱいおっぱいしてるのに誰からも不思議がられないのは、彼女が黒魔術によって閣僚達の記憶を少し書き換えたからだ。
よって私とアンドレアス以外は真相を知らない………すらっと恐ろしい事するよね?
全員が全員、とっておきの報告をしたかったのに君主がおっぱいおっぱいはしゃいでたとか言いそうなツラをしてたから、きっと"あの件"の準備が整ったのだろう。
そうは思いつつも、閣僚達に尋ねたのだが、案の定カリウス将軍が自信満々に応じる。
「…我が軍の精鋭達は準備を整えておる!ご命令とあらばいつでも任務をこなせようぞ!」
「うん、了解した。…かなり待たせてしまったし、規模も限定的だが…将軍、貴方の待ち望んでいた"侵攻作戦"だ。万事滞りなく進めてもらいたい。」
「勿論、言われずとも分かっておる!…分かってはおるけども婚約者とベタベタしすぎ」
「るせえ!何度も言うんじゃねえ!!…ともかく、これでようやく本腰を入れれるな。それでは、諸君。状況を開始しよう。」
閣僚達は…特にシュペアーは…未だ侮蔑の視線を交えながらもそれぞれの執務へと戻っていく。
私は横にいる許婚兼おっぱいに、一つ頼み事をした。
それは彼女がここへ来た理由、新魔王への連絡である。
こんなにおっぱい連呼してるSSはそうそうないと思います