クソゲス☆ド外道ファンタジー    作:ペニーボイス

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8 人質の盾作戦

 

 

 

 

 

 

 方伯領 

 三角地帯北部

 

 

 

「だ、第二列、前へ!!撃て!!」

 

 

 甲冑を被った隊長が命じたにも関わらず、ハンドキャノン隊第二列は射撃を行うことができずにいる。

 第一列の一斉射撃は号令通りに行われたが、しかし、敵の魔族達はこの新しい新兵器を見てさえ勢いを緩める事はなかった。

 ハンドキャノンが雑多な魔族で構成されたこの敵集団の第一派を薙ぎ払った時、彼らは確かに一時足を止めた。

 だがそれも数瞬のことで、魔族達は再びハンドキャノン隊の方へと突進を始めたのである。

 

 

「第二列!何をしている!撃て!撃て!」

 

「隊長!第一列が浮き足立っています!射撃準備にはまだ時間がっ」

 

「このままでは蹂躙される!…もういい!各個射撃!撃て!撃て!」

 

 

 隊長の焦りは確かに理解できるものがあるだろう。

 実は新兵器によって狼狽ているのは、どちらかと言えば方伯領軍の方であった。

 彼らはこの火薬の射程と衝撃力が、脆弱な敵歩兵隊の進軍意思を破砕すると過信していたのだ。

 だが、彼らの言う脆弱な敵とは…彼らが知る由もないが…退路を絶たれた政治犯達であった。

 彼らは自分達が生き残る為には、もう前に出て人間を駆逐し、そこに住み着くしかないという事を十二分に理解していたのだ。

 新魔王はよほどのお人好しらしく、追放する政治犯達に武装を許した。

 生き延びて体勢を立て直せば、新魔王への復讐さえ夢ではない。

 そう信じる彼らにとって、例え目の前に轟音と死を振りまく兵器があったとしても足を止めるという選択肢はなかったのだ。

 

 

 隊長は各個射撃を命じたが、これは全く持って逆効果だった。

 命中精度を期待できないハンドキャノンは、散発的な射撃によって見事なまでにその利点を失う。

 いくら長弓や弩より射程が長くとも、当たらなければ意味はないのだから。

 

 

 魔族の侵入軍はいよいよ勢い付いて、ハンドキャノン隊の正面に迫りつつある。

 隊長は金切り声を上げて伝令を呼んだ。

 

 

「本営に伝言!この防衛ラインはもう持たない!射撃を行いつつ後退する!行け!」

 

 

 伝令は隊長のメッセージを記憶して早馬を飛ばす。

 しかし、悲しいかな、隊長がこの世で発した言葉はそれで最後になった。

 隊長の後頭部には近距離で発射された矢の先端が突き刺さり、甲冑はその衝撃力と貫通力から彼の後頭部を守ることができなかったのだ。

 伝令が去って隊長が"新たな旅立ち"を迎えた直後、魔族の歩兵がハンドキャノン隊の隊列に突っ込んだ。

 近接戦闘力を持たないハンドキャノン隊はただただ蹂躙されるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 方伯領軍

 本営

 

 

 

 

 

 

 

「報告!第44ハンドキャノン隊は壊滅!」

 

「第31ハンドキャノン隊は退却中!」

 

「第6近衛騎兵隊は包囲されました!」

 

 

 次々に報告が舞い込む本営に、件の伝令の言葉が届いたのは隊長が死んでから6時間後の事だった。

 それまでに方伯が自身を持って送り出したハンドキャノン隊の、実に30%は消耗するか、全滅するか、包囲されるか、或いは後退している。

 伝令が伝言を持ってきた第15ハンドキャノン隊もそのウチの一つで、本営に伝言が伝わる頃には50%の人員を喪失…つまり全滅していた。

 

 

 しかし、方伯領軍司令はそれでも慌てる事なく、ただただ考え込んでいる。

 情報伝達を伝令に頼るこの時代、情報が遅れるのは当たり前で、それ故に軍の司令官はその遅れを見込んだ決定を任されていたのだ。

 

 

「………」

 

「司令、ハンドキャノン隊は有効な手立てを打てておりません。我々の近衛騎兵隊は数が足りず、幾つかは包囲されております。」

 

「………」

 

 

 本営中に緊張が走る。

 方伯領軍司令が考えるその様は、威風堂々たるもので、その考えを妨げる行為は不遜とされてきた。

 それでも司令の副官が口を出したのは、危機感からであろう。

 こちらが送り出した新兵器は過信とこの陰惨な結果を招いた厄介者であり、敵を食い止める為には別の方策を打ち出さねばならぬという危機感。

 

 司令もそれを踏まえてか、ようやく口を開いた。

 

 

「…そう急ぐな。辺境伯領軍の援軍は呼んであるな?」

 

「はい。伝令の報告では、すぐに増援を派遣するという事でした。」

 

「ならばそこまで慌てる必要もない。ハンドキャノン隊の殆どはロクな練兵も間に合わなかった農民共だ。…残念な結果になったが今回は諦めるほかなかろう。」

 

「………」

 

「我々には強力な騎兵隊が必要だが、それはもうまもなく得られる。だから今しばらく待っておれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立派な顎髭を蓄えて、ずんぐりと肥えたグスタフという男が、頗る重たい鎧を着て、自身の馬に乗る。

 馬はその重量に抗議の声を挙げるが、グスタフはまるで気にしていない様子だった。

 馬を歩かせ、自身の配下を見て回る。

 彼は辺境伯軍第4親衛騎兵連隊の隊長であり、もう50を迎えようとしているものの、若い頃は勇者とともに魔王の軍勢と戦っていた大のベテランだった。

 

 

 グスタフは今日、元々の配下である第4親衛騎兵連隊に弩とパイクを装備する親衛歩兵連隊を一個加えられ、その指揮を任されていた。

 軍の準備は万端。

 元々より、辺境伯から出されていた出撃準備命令によって、これらの準備は比較的早期に整えることができた。

 彼のような部隊指揮官にとって、トップの意思決定が早い事は殊更に助かる。

 

 辺境伯はまた、彼や、彼と同じような高級指揮官に、単純極まりない命令を与えていた。

『方伯領軍を援護し、方伯領内の魔族を一掃せよ』

 グスタフのような男にとってこの手の任務は得意中の得意で、彼自身はむしろ喜んですらいる。

 

 彼は自身の配下を一通り見て、その準備ができている事を確認すると、各隊の長に対して前進命令を下す。

 彼らは既に方伯領との国境沿いに展開していて、命令があればすぐに越境できる体制にあり、そしてその命令は下ったのだ。

 

 

「いつかは方伯領を攻め落とす為に越境したいものだな」

 

 

 絵空事とは自分でも思いつつ、彼は隊の先頭に躍り出た。

 だが、彼の願いはまもなく絵空事ではなくなることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第4親衛騎兵連隊とその付属とされた部隊が越境する少し前、彼らとは別の連隊に属する親衛隊員達の内一個小隊ほどが密かに越境していた。

 表向きは第4親衛騎兵連隊の後方連絡支援という任務を与えられていたが、その割には二頭立ての馬車を引き連れていて、その装備は連絡支援に必要な機動性を阻害しているように見える。

 だが、方伯領の国境を守る兵士がそんな考えに至るわけもない。

 方伯領の国境警備兵は既に自領の北部で魔族の侵入があった事も知っていたし、二頭立ての馬車は補給の都合で用立てたモノだろうと結論つけた。

 彼ら自領の為に来てくれた援軍に敬意さえ表して、別働隊の一個小隊を快く通したのだ。

 

 

 

「位置は間違いないんだよね?」

 

「ああ、我の王子様。そこにいなければ、女魔術師はとっくに首を吊っているか、どこかでのたれ死んでいるか、さ。」

 

 

 方伯領の国境警備兵は二頭立ての馬車を確認さえしなかったが、その馬車の中には2人の人物が載っていた。

 辺境伯と、"許嫁(ダニエラ)"である。

 

 

「どっかでのたれ死になんて困るぞ、おい。彼女には何としても生きていてもらわないと…」

 

「ほほう、我の王子様…よほどその女が気に入ったようだな。」

 

「気に入ったどころじゃない、いなきゃ困る。せっかく国庫の有り金を叩いて軍を動員したのに、肝心の目標を逃すなんてあってたまるか!」

 

 

 本来なら、私だってこんなハイリスクな任務に出向きたくはない。

 だが、リターンが"ハイ"という言葉を軽く超えているし、リスクの半分はもう支払ってしまったので結局出向く事にしたのだ。

 こういった大事なことは自身の手でケリをつけてしまうのがいい。

 しっかりと人生の舵を取れ。ニーチェの言うところの"自分の脚で"だ。

 

 

 馬車はまもなく目標となる廃教会に差し掛かりつつあった。

 周囲に建物はなく、朽ちた教会がただ一つあるのみ。

 一個小隊は予め決められた通りに分散して、退路を塞ぎ、周囲を巡回している。

 実際に突入する親衛隊員と私の馬車だけが、廃教会へとまっすぐ向かっていた。

 

 

 

 教会は大層立派な建物に見えた。

 昔はこの地域の中心となる存在だったのだろう。

 だが、大昔の魔王軍の侵入はこの辺りまで脅威を与えたらしい。

 住民達はより安全な南方へ逃げ出して、その生活の中心となっていた教会の職員も場所を変えたに違いない。

 今では、朽ちた建物がそこにポツリとあるばかりだ。

 

 

 馬車が止まり私はピッケルハウベと、かなり小型化された弩に弓矢を装填する。

 これだけ小型だと威力は限定的だろうが、まくまで護身用ということだろう。

 横に座るダニエラも、同じように弩を装填した。

 

 

 6人の親衛隊員達が廃教会の入り口に集い、突入の体勢をとっている。

 入り口に1番近い位置取りをしているのはかなり大柄の男で、2番目はこの前私の命令で孤児院から子供を連れ去った例の親衛隊長だ。

 親衛隊長は6人の男達と目配せすると、先頭の大男が廃教会の朽ちた扉を粉砕する。

 長剣を抜いた親衛隊員達がその後に続いて、廃教会の唯一の出入り口である扉から突入していった。

 

 

 幾ばくか物音が響いた後、親衛隊長が髪の長い中年女性を捕まえて廃教会から出てきた時、私は自身の幸運とありとあらゆる神々に感謝を捧げた。

 新魔王の協力を仰ぎ、国庫の金をかき集め、出兵までした努力は決して無駄ではなかったようだ。

 

 女は乱暴に衣服を掴まれて、私の馬車に乗せられる。

 両手首は身体の後ろでしっかりと縛られていたが、両目は鋭い眼光で私を睨みつけていた。

 私は正直少し圧倒されたが、圧倒的優位にいる事を自身に言い聞かせて口を開く。

 

 

 

「初めましてと言うべきでしょうな、女魔術師殿。」

 

「クソッ!一体どこでアタシの情報をッ!」

 

「我々には独自の情報網があるのです。」

 

「へえ!そいつは驚いたよ!アンタ達、魔王軍との戦争を忘れたっていうの!?……新しい辺境伯だな?一体いつから辺境伯は国王の従順な犬っコロになってしまったのか!」

 

「これは失敬な。我々としてはあなたを国王に引き渡す気などありません。」

 

 

 

 女魔術師の表情を見るに、私の言葉を信じていないのは明白だった。

 だから、彼女には嘘を信じ込ませるよりも、こちらの目的を伝えたほうが余程有効だろうと私は思う。

 そして私はその思いを実行に移す。

 

 

「取引をしたいんです。我々はあなたの身の安全を保障します。国王にも、方伯にも手出しはさせない。」

 

「………」

 

「これまで逃げ隠れには随分とご苦労なさったでしょう。もう心配はありません、我々は」

 

「対価は何?」

 

 

 女魔術師が第九代勇者と魔王を征伐した時、彼女はまだ十代…つまりは勇者と同年代だったという。

 あれから何十年!

 そんな彼女も今では熟女と呼べる年齢にほど近い。

 例え彼女のキャラボイスを田中敦●女史がやってたとしても私は驚かないし、むしろ順当だとすら思う。

 この世界の平均寿命は決して長くはないのだが、カリウス将軍やシュタイヤー、それに第4親衛騎兵連隊長が現役な割には、勇者の死は()()()()

 そのせいで剣士も、僧侶も、女魔術師も"割"を喰ったのだ。

 その逃亡生活の中で培ってきた胆力というものもあるのだろう。

 彼女の眼光によって、私は再び圧倒される。

 

 

「……我々があなたに求めるのは、ある物質の製造と提供です。我々の専門家によれば、あなたにとって造作もない」

 

断る

 

 まだ話してる途中なんだけどなぁ。

 

「アンタからは()()()()()()を感じる。魔王や国王と同じような…アンタが何を企んでいるにせよ、アタシは協力しないよ。」

 

「………なら、残念ですが。」

 

「ああ、国王にでも何でも引き渡しな。或いはその弩でアタシの脳天を打ち抜いてくれれば助かるんだけどねえ。」

 

「ははっ。…ああ、いや、私の言う"残念"はそう言う意味ではありませんよ。より"道徳的な"残念、という事です。」

 

 

 何を言ってるのか分からない感全開の彼女をそのままに、私は馬車の外にいる親衛隊長に向かって頷く。

 親衛隊長はその合図によって定められた手筈の通り、自分の馬へと戻っていった。

 そして馬の後ろに()巻きにして乗せていたある人物を連れてくると、馬車のドアを開け、女魔術師の隣に押し込んだ。

 

 

「………母さん…」

 

「…ッ!あ、あなた!…クソッ!このッ!腐れ外道ォォォオオオッ!」

 

 

 女魔術師が雄叫びを挙げて立ち上がりかけたが、その対面に座るダニエラが弩を脳天に押しつけて座らせる。

 私自身も彼女と同じように、()巻きにされている人物の脳天に弩を突きつけた。

 

 

「このサイズの弩では騎士の甲冑を貫通する能力なぞないでしょうが…この子供の脳味噌をシシケバブにすることならできる。」

 

「クソッ!クソッ!その子を離しな!呪い殺してやる!」

 

「離す?…ほっおう、いいでしょう。御望みであらば王都にでも解放しましょう。"女魔術師の呪われた血を受け継ぐ子供"…王都の近衛兵が喜んで狩りに来そうだ。」

 

「クゥッ!」

 

 

 ここまでで分かる通り、この前親衛隊長が孤児院から連れ去ったこの子供は、女魔術師の子供だ。

 それどころか、第九代勇者の子供でもある。

 

 

「あなた方は随分と悠長なロマンスに耽っていたようですね。この子が産まれたのは…控えめに言って15 年前でしょう。いやはや驚いた。そんなお歳で子供を設けるとは。」

 

「黙れッ!これ以上勇者を貶すなら殺すッ!」

 

「…ふぅん。確かに、これは失礼が過ぎたかもしれない。……さて、取引に戻りましょう。我々にご協力いただければ、この子とあなたは我々が責任を持って保護します。」

 

「………ッ!」

 

「断るなら…勇者とあなたのロマンスもここで終わりだ。」

 

 

 

 

 

 結局、第九代勇者と女魔術師のロマンスは終わらなかった。

 私は望んだモノを手に入れたのだった。

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