サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
首を横に振ったすぐ後、彼女は自らそこへと飛び込んできた。
自分が構えた刀の切っ先へ、彼女の胸が刺さるように。
「──ッ!!」
声にならない悲鳴をあげたのは、刺された側ではなく、刺した側だった。
自分の手の中で命が散っていく感覚。それがハッキリわかった。
明らかに生気を失っていく彼女。
その無理に笑みを浮かべているのが痛々しく、見ている彼の心を抉る。
「違う。僕は……僕はこんなこと、望んじゃいなかった」
「ふふっ……やっぱりウメくんは、『僕』の方が似合うよ……『俺』なんかよりも、ずっと、しっくり……くる、ね」
「
幼なじみの笑みから力が失われていくのは明らかだった。
「医者に行く。まだ……まだ間に合う。間に合うはずだから」
そんな言葉に彼女は首を横に振った。それにあわせてポニーテールにまとめられた髪がゆっくり揺れる。
「ううん、もう……ダメなのは、わかってる……から」
「そんなことない!」
力なく振られた彼女の首に対し自分が強く首を横に振り、彼女の言葉を否定する。
「ウメ…くんだって……わかってる、でしょ?」
弱々しく上がった彼女の手はゆっくりと目の前にある顔に延び、そしてその目から流れる涙にそっと触れる。
「だから、泣いてくれて……いるん、だよね。あたしの、ために……」
「……諦められるわけないだろ! 鴬歌が、鴬歌が死にかけているのに!!」
泣いているのを自覚し、感情が爆発する。
「イヤだ!! 死ぬな、鴬歌!! 死ぬんじゃない!! 言ったじゃないか、ずっと一緒だって。梅に
その言葉に彼女は場違いに、力ない笑みを浮かべで答える。
「フフ……ウメくん、梅の木にくるのは…鶯じゃなくて、メジロなんだって……でもね、あたしは、ずっと……これから先……見守っててあげるよ、ウメくんのこと……」
そして最期の力を振り絞り、精一杯の笑顔を浮かべる。
「最期に、アレ……食べたかったな。また……作って、ね……」
腕から失われる力。
そして最後に笑みを残して消える表情。
閉じられた目が開くことは、もうなかった。
それが、その言葉が彼女が最期に発した言葉となった。
─1─
「──ッ!」
目を覚まし、自分の体を定期的に揺さぶる振動で
抱き抱えるように持っていた荷物にも異常はない様子で、彼は顔を上げ車窓から外を見る。
汽車は大きな川を渡っている様子だった。
故郷の水戸を出てもうどれほど経っただろうか。眠ってしまった関係で時間的にも地理的にわからなくなっていた。
「……大丈夫かい? お兄さん」
そんな梅里の様子をて、対面から声がかかった。
見れば中年の女性が心配そうな顔で見ている。
「うなされていたみたいだったけど……」
それで合点がいった。そして見ていた夢もハッキリと思い出す。
いい夢とは全く言えない。言ってしまえば悪夢の類だ。
でも、梅里はそれを単純に悪夢と断じることはできなかった。実際に起こったことであり、決して忘れてはいけないことだから。
「……大丈夫ですよ。心配していただいたようで、ありがとうございます」
笑みを浮かべて頭を下げると、彼女は心底ホッとした顔で笑みを浮かべた。
そんな相手の反応を一度は不思議に思ったが、抱えた荷物の中にある細長い包みを見つけてなるほどと納得する。
その包みを見る者が見れば、中に刀を収めるものだとわかるだろう。実際に入っているのだが、それを知らずとも目の前で刀を抱えた男が夢でうなされていたらさぞ落ち着かなかったことだろう。
(これだけ見れば完全に不審者だよなぁ……)
突然に乱心して刀を出して暴れる、ということは心が病んだ人ならばあり得る話だろう。声をかけたのも意外と一大決心だったのかもしれない。
梅里の笑みでその不安が解消されたからこそのホッとした様子だったのだ。笑みが自然と苦笑へと変わる。
それをきっかけに、また、さらに安心させるために梅里はその女性と世間話をした。
「さっきのは何て川ですか?」
「利根川だよ。それを知らないってことは、お兄さんはこっちの方の人じゃないんだね?」
意外な河川名に梅里は驚いた。
「え? じゃあここは……」
「ええ。茨城を出てもう千葉に入ってるよ」
群馬県から栃木県と埼玉県、さらには茨城県、千葉県との県境を流れる川であり、『板東太郎』の異名を持つ利根川は関東地方を代表する大河だ。遠く離れた茨城県の中央にある水戸で生まれ育った梅里でも名前だけは知っている。
「今のが……」
故郷の近くを流れ、よく目にしていた那珂川との光景の違いを比べつつ、同時に今自分がいるのが茨城ではないことが、目的地に近づいたことを意識させられた。
聞けば女性は千葉と茨城の県境付近に住んでおり、野菜の行商をしているらしい。確かに彼女の目の前には大きな荷物があり、そこには多くの野菜が見えた。
「立派な野菜ですね」
見えた野菜を評すると、彼女は少し驚いた様子だった。
「わかるのかい?」
「ええまぁ……実家が料理屋を営んでるもので」
思わず苦笑する。その経験からつい出てしまった言葉に、梅里自身も少し困惑していた。
「そうかいそうかい。で、兄さんの目的地は?」
「帝都です。そこで働き始めるので」
「ということは料理屋さんで修行?」
「いえ、そうではないんですが……」
それ以上詳しくは言うわけにはいかず、梅里は苦笑を浮かべたまま人差し指で頬をかいた。
「なるほどねぇ……でも帝都も近頃物騒だって聞くからねぇ。気をつけるんだよ」
「そうなんですか?」
「ええ、ええ。なんでも怪蒸気が出て暴れただの、奇怪な化け物を見ただの、お客さんやら同業者からそんな話をチラホラ聞くからねぇ」
不安そうにする女性の姿に梅里は思わず刀が入った袋を握っていた。
そう、彼は──その怪蒸気や魔を討つために帝都へと向かっているのだから。
【よもやま話】
─はじめに─
初めまして。ヤットキ 夕一と申します。
まずは本作品を目にとめていただいたことに篤きお礼を申し上げます。
この『サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごくなり~』は2000年ころに書いたサクラ大戦の外伝SS『サクラ大戦外伝~其は夢のごとし~』をリメイクしたものです。
元になった『サクラ大戦外伝~其は夢のごとし~』はサクラ大戦の舞台である帝国華撃団の一部隊である(当時は存在くらいしか明らかになっていなかった)霊能部隊・夢組をメインにして、オリジナルの隊長、隊員達、組織図を構築して、ゲーム版サクラ大戦と話数の時間をほぼ合わせたものでした。
当時は夢組の設定がほとんど明らかにされておらず、役目が除霊、お祓い、御札・御守りの発行、予知や過去認知による戦術サポート、その他霊力による各隊の支援、くらいしか明らかになっていませんでした。
その後、書き始めてまもなくTVアニメ版のサクラ大戦が始まり、巫女服型の戦闘服を身にまとった名も無き隊員たちが登場したくらいでした。
そんな中で書いたので、本作オリジナルの部分がかなりあります。
また私自身、サクラ大戦を1~5(含む熱血)と新サクラ大戦、花組大戦コラムス系、小説版、くらいまでは追いかけましたが、ゲームボーイで発売されたものや、「ミステリアス巴里」、それに夢組隊員も出ていたらしい「百花繚乱夢物語」や、DSで出た「君あるがため」はやっておりません。
それと、漫画の方も追いかけておらず、特に奏組というのは最近調べて知ったレベルです。
調べて設定だけ見たら、やってることが被ってるわ、楽団に所属して楽器演奏で戦ってたりと吹きました。(笑)
──という次第でして、リメイクにあたってその設定まで入れて改訂するのはもはや不可能なレベルですので……特に百花繚乱夢物語に出てきた夢組隊員達や奏組等の設定とは矛盾いたしますので、その点ご了承ください。
ちなみに夢組戦闘服は、女性用として作中に出てくるのは百花繚乱~のものではなく、TVアニメ版の夢組隊員が着ていたものをイメージしてます。男用のは神職が着るような狩衣をイメージしたオリジナルのものにしてます。
本作をリメイクとして出した経緯ですが──旧作は無事に全10話で完結した後、続編『サクラ大戦2外伝~其は夢のごとし2~』(こちらは未完)やそのオリジナルヒロインの妹をヒロインとした『サクラ大戦3外伝~ルーアンの魔女~』(こちらは完結)と書かせていただき、『サクラ大戦4外伝』まで構想はあったのですが、私自身の就職やら忙しくなった関係で、先述のように『2』の途中で未完となっていたのです。
その後、昨年末の「新サクラ大戦」をきっかけに熱が再燃し、今までのリメイク案を素に、そこから設定を煮詰めてできたのが今回の『~ゆめまぼろしのごとくなり~』となります。
当初の予定では「『夢組』隊長だからって夢相はないわ~。正直、文章が「夢」って文字ばかりで鬱陶しいし」と主人公の名字を「夢相」から「武相」に変えるくらいの構想だったのに、その後も書かずに設定ばかり長年煮詰めた結果は、登場人物の名前がほぼ全員変更、むしろ一番変わってないのが主人公という事態になりました。
旧作ではまったく構想に無かった「2」以降の設定を盛り込みつつ、再スタートを切ることになった本シリーズ『サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~』をどうぞよろしくお願いします。
─冒頭─
旧作では水戸駅からの出発ですが、今回は夢という形での回想シーンからの開始。
内容はといえば、旧作では『2』からの設定である幼なじみとの悲劇。梅里の名字と『1』の段階からこの設定を入れたかったのがリメイクの動機でもあります。
冒頭のセリフは「Gガンダム」のドモンの台詞のオマージュ。キョウジに自分を討てと言われて一度だけ「僕」に戻るあのシーンは大好きです。
ちなみに第2話のラストを受けて鶯歌の台詞を追加しました。
─1─
このシーンを書くにあたり、当時、蒸気機関車で水戸~上野間がどれくらいかかったか調べましたが、結局わかりませんでした。ですので水戸の出発時間と車内での時間は誤魔化すために書いてません。
とりあえず時速換算で計算してみたらと5時間くらいででるのでそれ以上だと思うのですが……行商のおばちゃんが乗っている時間って上りは普通なら朝のはず。整合性とれなくなるので深く考えないことにしました。
場合によっては土浦あたりで一泊していたかもしれません。茨城最南の取手で一泊だと利根川わたるまで居眠りする暇もありませんし。でもそうすると、時間的に水戸を出たのが前日の午後ということに。そんな遅い時間に出て一泊するくらいなら早く出るべき。
──うん、やっぱり考えるのやめよう。