サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─2─

 ──上野公園での騒動、つまりは真宮寺さくらが帝国華撃団に入隊してから数日が経った。

 

 未だに上野公園の桜は咲いており、帝都市民達も「今年の桜は長持ちするな」と噂をしたり、その恩恵で長い花見期間を堪能する等していた。

 そんな中で、大帝国劇場は公演に向けて準備を進めつつ、食堂に関しては公演とは関係なく毎日の営業を行っていた。

 昼のピークが過ぎて客席がまばらになった頃を見計らって、男が一人やってきた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──以上が調査結果だ」

「なるほどね……」

 

 やってきた男から資料を手渡されたコックコートに濃紅梅(こきこうばい)の羽織を上に着た男はまとめられた資料を矢継ぎ早にめくりつつ、中身をざっと見ている。

 やってきたのは短髪で鋭い目をした男で、コックコートの男はそれとは対照的に永くも短くもない髪に大人しそうな目をしている。

 梅里と宗次だった。

 梅里は資料を見終えると宗次へと返す。資料の中身は真宮寺さくらが上野公園で脇侍を真っ二つにした件の調査報告書だった。

 

「そう言えば、あの場に居たんだろう?」

「偶然に、ね」

 

 梅里と宗次の関係はまた少し変化していた。隊長研修期間ともいうべき時期を経て、宗次が花やしき支部へと戻るころにお互いにタメ口で話すようになっていた。

 それは宗次が「上司には敬語を使う」と、梅里は「年上な上に前任者のような人には敬語を使う」とお互いに主張した結果、妥協点としてどちらも敬語を使わない、というところで落ち着いたのだ。

 

「あの時、気が付いたことはなかったのか?」

 

 宗次の問いに梅里は首を横に振る。

 

「そう言われても、到着したときにはすでに倒されていたから……」

「ふむ。小耳に挟んだんだが、あの時は伊吹隊員が米田支配人から迎えを頼まれていたのを強引に付いていったらしいな。こうなるのを知っていたのか?」

 

 予知・過去認知班で予知したという報告は宗次にはないが、緊急案件で梅里に直接連絡をしたのかもしれないと思ったのだ。

 その判断は正しいと思うが、事後報告で副隊長である自分に報告がないのは困る。

 だが、梅里はそれにも首を横に振った。

 

「まさか。さすがに違うよ。ただ、なんとなく嫌な予感がしたから」

「嫌な予感? それだけで動いたのか?」

 

 さすがに眉をひそめる宗次。

 責められているようで、梅里は苦笑しつつ人差し指で自分の頬をかく。

 

「まぁ、そうなるね。とはいえ危険が迫ればアレが教えてくれるから、それも多少はあったのかもしれない」

「アレ?」

「そう、僕の刀。聖刃(せいじん)薫紫(くんし)

 

 『聖刃・薫紫』は梅里の実家である武相家に伝わる魔を祓う刀の一振りである。

 また特殊な能力として身近に危険が迫ると霊気が立ちのぼってそれを教える力を持つ。かずらと上野公園に居たときにいち早く気が付いたのはそのおかげだ。

 しかしその能力も万能なものではない。あくまで身近なものに限定されるし、どんな危険かもわからない。

 あくまで危機察知であり予知ではないのだ。

 とはいえ、少なくともこの前の件で言えば出発前に察知するなどということはあり得ない部類に入るし、それを他でもない梅里自身がよくわかっていた。

 それを説明すると宗次はなんとも言えない複雑そうな表情を浮かべた。

 梅里もこじつけくさくなったという自覚はある。

 

「確証無し、か。霊能部隊だから直感を信じるというのはわかるが、やはり部隊を動かす判断材料とするには、今の軍では難しいな」

「そうかな? 魑魅魍魎と戦う時なんて最終的には直感に頼ってたところも多かったと思うけど」

 

 実家でのことを思い出しながら梅里が答えるが、宗次はやはり厳しい顔をしている。

 

「個人ではそうでも組織を動かすとなればそうもいかないものだ。現に帰ってきてから白繍にこっぴどく怒られたそうじゃないか」

 

 そう言うと一転してニヤリと笑う宗次。それに対して梅里は如実に参ったと言わんばかりにゲンナリした顔になる。

 

「米田支配人からの依頼で迎えにいったんだけど、話を聞いてくれなくてさ」

「逆に言えば、あれに遭遇しなかったらさらに怒られていたんじゃないのか?」

 

 そう言われて苦笑する梅里。確かにそうなっていた可能性は高いと思えた。

 

「ともかく、今のところ敵の目的は不明。単独で行動をしていたところから偵察の可能性が高い、といったところか?」

「う~ん……なんか、気になるんだよねぇ。偵察にしても何を探してたのか。それが気になる」

 

 宗次が話をまとめようとすると、梅里が難色を示したので困惑した。

 

「また、勘というヤツか?」

 

 苦笑気味の宗次に梅里は素直にうなずく。

 

「うん。自己満足みたいなものだけど、再調査をしてもいいかな?」

「その決定権はお前にあるぞ、夢組隊長」

 

 宗次が答えると、「あ、そうか」と梅里も苦笑を浮かべた。

 

「メンバーはどうする?」

「調査の腕に定評のある調査班員と僕、それに他数名かな。誰かいる?」

「調査の腕がもっとも良いといえば、白繍(しらぬい)だな」

 

 宗次が挙げたのは食堂副主任の名前だった。

 

「え? そうなの?」

「なんだ、意外か?」

「正直に言えばそうだね。他にその方面に適した特殊な能力を持ってる隊員はいるでしょ?」

「広範囲の探査なら霊力と楽器を使った反響を調べる伊吹。長距離のピンポイントな観察なら『千里眼』の遠見。対人の捜査なら心を読める『サトリ』の調査班の支部付副頭。それぞれの得意分野なら白繍は勝てないだろうな」

「そうだよね。やっぱり」

 

 うんうんと頷く梅里。そんな彼の様子に宗次は苦笑を浮かべる。

 

「だがな、梅里。白繍はそんな連中を差し置いて調査班の頭になっているんだぞ。能力が低いわけないだろ」

「あ、そうか。言われてみれば……」

 

 とはいえ、梅里が隊長になったときにはすでにせりは調査班頭になっていたのだ。

 そのせいで梅里はなぜせりが調査班頭なのかを深く考えたことなどなかったのだ。元からそういうものだと思い込んでいた感が強い。

 メンバーを見直して改革しようという意識がなかったのは、すでに適材適所の配置がされているという信頼からだ。

 それを新参者で他のメンバーのことをよく知らない自分が配置をいじるのは悪手であるという判断である。

 

「人並み外れて鋭敏な霊感と霊視力はもちろん、声ならぬ声を感じ取る霊的な霊媒能力もずば抜けている。その他の霊的な感受性を見れば、白繍の総合的な能力は他を軽く凌駕する。他と比べてオンリーワンな特殊な能力こそ無いが、実力で(かしら)の地位にいるんだよ、アイツは」

 

 そう評価した宗次だったが、一転してため息をついてさらに続ける。

 

「もっとも、感情を表に出し過ぎてあまりそうは見えないというのが難点だがな。オレもアイツにはだいぶ噛みつかれて苦労した記憶しかない」

 

 それは梅里も実感のあるところなので苦笑する。

 せりは気になったことはズバズバと言ってくる傾向がある。ただ、それも霊感が鋭敏なせいで「気になること」が他の人よりも敏感になっている可能性がある。

 とはいえ梅里も宗次も嫌われているように見えるのは間違いのないところなのだが。

 

「そうか。う~ん……」

 

 改めて人選を考える。せりへの評価を改めたが、それでも梅里はついこの前こっぴどく叱られたばかり。多人数での行動ならともかく、少人数での調査で行動を共にするのはなんとも気まずいというのが正直な感想だ。

 そして今回の調査対象を考慮する。脇侍が単体で出現した理由となるものの探索・発見である。確かに鋭い霊感は欲しいところだが、具体的に「これ」というものを探すわけではない。その上、脇侍が現れた付近を含めた広大な範囲が対象となる。

 それならば──

 

「──うん。かずらちゃんだな」

 

 伊吹かずらの広範囲な音響探査。これが一番効率がいいと梅里は判断した。他の者でもギヤマンのベルでも広範囲な探査はできなくもないが、その精度はかずらの演奏と耳に比べたら格段に劣る。

 

「わかった。伊吹にはそっちから伝えてもらって構わないか? 春公演に向けた楽団の練習で帝劇に来ていると思うが」

「了解。じゃ、よろしく」

 

 話を終えて席を宗次が立とうとするとすると、梅里がなにかを思い出した様子で付け加えた。

 

「そうそう、今日また新人が来るらしいんだけど……」

「最近多いな。それで?」

「花組の隊長になる人らしいんだけど、司令が様子見で華撃団のことは隠すからバレないようにしろってさ。宗次もだけど隊員達に本部に来るときには気をつけるように伝えてくれないかな」

「……あの人は、たまによくわからないことをする」

 

 沈痛そうにこめかみを押さえる宗次。

 

「わかった。調査の当日は主任が抜けるから食堂に応援をよこす必要もあるし、キチンと全員に伝えよう」

「誰が来る予定?」

「白繍とつめる必要があるが……おそらく大関になるだろう」

「ホウライ先生か。彼女とは一度、食堂で一緒に仕事したいんだけどな」

「アイツの料理の腕は確かだからな。そのうちすることになるだろうさ」

 

 話を終えて改めて宗次は席を立つ。

 食堂から帝劇の外まで歩きつつ宗次は、梅里の考えるそんな心配よりも調査班頭の自分をはずした上で梅里が調査に行けば白繍せりの機嫌が悪くなるのは明らかで、それをどう説明するか心配した方がいいのではないか、と思いつつ歩いていた。

 

「──ん?」

 

 そして外に出たとき、通りの向こうからやってくる人の内の一人が目に付いた。

 梅里に出した資料にあった花組の新人、真宮寺さくらと共に歩いている男である。

 その男は余りに目立つ格好──真っ白な海軍の軍服──をしていた。

 

「あれは……大神か!?」

 

 大神 一郎。彼のことを同じ海軍出身の宗次は知っていた。

 

「花組隊長と言っていたが、アイツが来たのか……」

 

 大神は宗次の同期であり、顔見知りだった。

 隠すからバレるなという梅里の言葉を思い出した宗次は、大神に声をかけることなくその場を去った。

 




【よもやま話】
 梅里と宗次の相談シーン。
 宗次、いいヤツになったなぁ。と思う。前回とはまるで別人。次の─3─も含めて。
 大神と同期なのはその方がやりやすそうだから。そして加山も含めて同期なのにかたや花組や月組隊長に対して夢組副隊長なのは、大神・加山の優秀さを示して一歩退いて敬意を示してます。オフィシャルに対して、私が。
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