サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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 武相 梅里の仮の姿が大帝国劇場の食堂主任であるように、巽 宗次にも仮の姿はある。

 彼は今、その仮の姿である作業着に帽子を被った姿になって、浅草にある帝国華撃団の支部の地上部分、遊園地の花やしきを歩いていた。

 手には箒とチリトリ。目に付くゴミをサッと掃いて回収し、近くのゴミ箱に捨てる。

 

「あの、すみませんが……」

 

 と客に声をかけられ、園内の案内をすることもよくあること。

 それが、宗次の世を忍ぶ仮の仕事だった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「……お疲れ様だな、『浅草の母』」

 

 作業着姿の宗次が歩いていると、占いの館から出てきたアンティーラ=ナァムを見かけたので声をかけた。

 その声にティーラは足を止め──

 

「その呼び方、やめてください」

 

 ──と、実に不快そうにしながら振り返った。

 そんな彼女の反応に、宗次は思わず苦笑する。

 

「それはすまないな。しかし、そう呼ばれているそうじゃないか」

 

 からかうような言い方に、もともと感情表現が乏しいティーラは眉をひそめた。

 

「自称したわけではありません。勝手に呼ばれているだけです。そもそも私は結婚の経験も出産の経験もありません。それなのに母だなんて……」

 

 珍しく感情を露わにするティーラを見てよほど嫌なのだろうと思い、宗次はそれ以上触れないことにした。

 そして話題を変える。

 

「ところで一つ、聞きたいことがある。予知のことなんだが……」

「わかる範囲でならお答えできますが?」

 

 宗次が切り出すと、ティーラはすぐに真面目な顔になった。自身にとって得意分野なのでそういう反応になったのだろう。

 

「俺にはそういう能力がないから予知というものがよくわからない。この前の上野での一件で隊長が『嫌な予感がした』からとかずらに同行してあの場に居合わせた。これも予知なのか?」

「そうだと思います」

「ならば、隊長は予知能力者ということでいいのか?」

「……それは少し違いますね」

 

 歩きながら二人は話す。

 

「私の場合になりますが、意図せずに急に予知が来るときもありますが、例えばここでしている占いのように、意図して未来を見ようと試み、断片的ですがある程度は見ることができます」

「……何? 見えるのか?」

 

 思わず引く宗次。だが、顔色を変えてすぐに謝った。

 

「あ、いや。スマン。未来がわかるという感覚が理解できなくてな。不快な思いをさせた。申し訳ない」

 

 自分の反応でティーラが顔色を変え、すぐに寂しそうに苦笑したのがわかったからだ。それで宗次は、このティーラという女性は未来が見えることで良いことよりも悪いことの方が多かったのかもしれないと思い至った。

 

 一方、律儀に頭を下げる宗次に対してティーラはきょとんとしていた。

 彼の推測通り、ティーラの予知能力は彼女に幸せだけを与えたものではなく、むしろ不幸や悲しみの方が多かった。

 その力を知った者は恐れて排除するか、近づく者は都合良く利用しようとする者ばかり。いずれもがティーラ自身ではなく予知能力のことしか見ていなかった。

 今までの数少ない例外が、ティーラをスカウトしたあやめであり、能力よりも彼女の心を案じてくれた初めての人だった。

 目の前の男が、それと同じような反応をしたのは、ティーラにとっては意外だった。

 少なくとも一ヶ月くらい前、彼が隊長心得時代のときはそうではなかったとティーラは感じている。

 不確定で根拠や証明が困難なのが霊能力であり、それを駆使する部隊が夢組であるはずなのに、軍のやり方を第一としたため活動の根拠を求めたのだ。

 成果を示しやすい除霊班や錬金術班、見た目がわかりやすい封印・結界班はまだよかったが、念写のような物が残るのを除いた調査では根拠を示しづらい調査班に風当たりが強く、またティーラ達の予知・過去認知班は根拠も示せなければ断片的な情報になってしまいがちで「信用性が皆無」とほぼ無視されていたに近い。

 その頃、宗次に女性隊員からの風当たりが強かったのは、調査班と予知・過去認知班の頭がともに女性だったので仲間意識から攻撃的になったせいもあるだろう。

 

「……変わりましたね」

「ん? なにか言ったか?」

 

 下げていた頭を戻して宗次が問うてきたが、ティーラは首を横に振って誤魔化した。

 

「いえ、気にしないでください。話を戻しますが、能動的な予知はあくまで断片的にでしかありませんし、より多くの情報を得るには水晶玉のような特殊な器具の補助やより多くの霊力を必要としますし、そもそも見えないことも多々ありますから、実際には難しいものです」

「普段は占いをしているそうだが、その見えない場合はどうしているんだ?」

「あくまで『占いの館』ですから。見えずともタロットで占うくらいはできますよ」

 

 ティーラが微笑んで答えると、宗次は「なるほど」としきりに感心していた。

 

「隊長の場合はおそらく意識して能動的に使っているものではないので、自分でも根拠や理由がわかってないのだと思います。それで『嫌な予感』という表現にしているのではないでしょうか」

「説明できないから勘か……」

 

 確かにそう言ってしまえば理由を説明する必要はないし、自分で深く考える必要もない。

 

「参考になった。ありがとう」

 

 宗次が礼を言って去ろうとしたとき、ティーラがふと何かに気が付いた様子で止める。

 

「副隊長、上野の再調査の件ですが……」

「あれなら隊長と伊吹副頭、それに遠見を向かわせようと思っていた」

「それに、千波(ちなみ)を入れられませんか?」

八束(やつか)を? それは別に構わないが……」

 

 戸惑う宗次が根拠を求めていることを、ティーラにはわかった。

 

「『勘』です」

「まったく……意地悪な副支部長だな。了解した」

 

 微笑を浮かべて言ったティーラの言葉に宗次は苦笑いしかできなかった。

 




【よもやま話】
 宗次&ティーラのシーン。
 旧作だとこの二人が話しているところの印象があまりなかったりします。夢組の支部長と副支部長なのに。
 こんなシーンを増やしていきたい二人です。
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