サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─4─

 

 上野公園で梅里達が再調査を行う日が来た。

 

 

 その前のことになるが、宗次の予見したとおり梅里が調査のことを話すや、やはりせりにさんざんお小言を言われた。

 「なぜ、隊長がいく必要があるんですか」を皮切りに小一時間問いつめられたのだが、営業が忙しくなる時間を迎えたためにどうにか時間切れで解放されている。

 そもそもの再調査理由が梅里の「なにかひっかかる」という非常に曖昧な物であったにも関わらず認められたのは、梅里の勘を信じられたというよりも、隠密行動部隊・月組による情報収集の(たまもの)である。

 

 昨今、脇侍などの魔操機兵で騒ぎを起こしている『黒之巣会』を名乗る組織の活動が活発になり、近々大きな動きがありそうな気配を捉えていていた。そのため今回の梅里起案の再調査も、些細な動きも見逃さないためにということで米田やあやめにも承認されたという経緯があった。

 ただ、再調査なためにその規模はあまり大きくはない。梅里とかずら、それに特別班も含めた支部所属の隊員数名という少数精鋭で行うことになったのは当初の予定通り。 

 そして調査を開始して数刻、事態は急転直下の展開を迎えていた。

 まさにその場所に多数の脇侍が現れたのだ。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 上野公園にバイオリンの音が響きわたる。

 優雅な調べは咲き誇り舞い散る桜の光景には似合うものであったが、その中を蹂躙する蒸気噴く鉄の塊の姿には不釣り合いだった。

 それを奏でているのは巫女服のような衣装に身を包んだ少女。

 両肩の下付近に接続用の丸い端子のような物が付いたその服は帝国華撃団夢組の女性用戦闘服。幹部メンバーはそれぞれ袴の色が違い、その娘のは少しくすんだような黄緑──萌木(もえぎ)色だった。

 

「止まって!」

 

 幼い兄弟の前に庇うように立った彼女は、その演奏と自身の霊力で起こした衝撃波を、向かいくる魔繰機兵・脇侍にぶつけて足を止めた。

 怯えて動けなくなっていた兄弟だったが、脇侍の動きが極端に鈍ったのと間に立った一心不乱にバイオリンを奏でる可憐な娘の姿に勇気づけられて、どうにか逃げていく。

 

「お姉ちゃん、ありがとう」

 

 演奏に合わせて舞うように揺れる三つ編みにした髪。幼い少年の去り際のお礼の言葉に応えられるほどの余裕は、彼女にはなかった。

 彼女が出し続ける衝撃波を受けつつ、脇侍はぎこちない動きで手にした刀をどうにか振り上げ、それを一気に振り下ろして己を縛る力を絶つ。

 

「──ッ!!」

 

 悲鳴をあげなかったのは乙女組での訓練の賜物だろう。悪に立ち向かうべき帝国華撃団の一員が無様に悲鳴をあげるわけにはいかなかった。

 そこにあるのは迫り来る動きを取り戻した脇侍という絶体絶命の危機。

 しかし、次の瞬間──

 

「はッ!!」

 

 気合い一閃。煌めく白刃が走り、脇侍は胴の部分で上半身と下半身に分かたれた。

 地面に落ちて重い音を響かせながら一瞬でガラクタと化していた。

 

「大丈夫? かずらちゃん」

 

 そう声をかけてきたのは男性。

 肩の下付近の接続用端子こそ共通だが、女性用の巫女服と対になるように神職の服である狩衣風のデザインである男用の夢組戦闘服をその身にまとい、それは隊長を示す白に染められ黄色の装飾が施されている。

 手には霊刀『聖刃・薫紫』を握るその人は帝国華撃団夢組隊長の武相 梅里、その人である。

 彼は刀を納めつつ、長くフワフワした髪を三つ編みにした、萌木色の袴をはいた夢組隊員へと歩み寄った。

 

「隊長、ありがとうございます」

 

 梅里に助けられたのは伊吹かずらだった。梅里同様に正式に入隊して一ヶ月にも満たないが、夢組調査班の副頭に抜擢されるほどの霊力と才能の持ち主だ。

 そんな彼女でさえ、脇侍に対しては霊力のこもった衝撃波と振動で動きを止めたりダメージを与えるのが精一杯で一撃で倒すことなんて不可能だった。それほどに脇侍は強い。

 

「一太刀で脇侍を両断するなんて、すごいです!」

「そんなことないよ。刀だからできるだけさ。それに花組の新人隊員にできたことを夢組の隊長ができなかったら笑われちゃうからね」

 

 危機一髪を助けられたこともあって興奮気味にかずらの言葉に、梅里は冗談めかしつつ答える。

 実際、脇侍は強い。

 梅里も倒せているがそれは一対一の状況が作れているからにすぎない。たとえ味方が複数いようとも、敵が複数の状況で相手にしたときはここまで容易にはいかないだろう。

 それは脇侍の攻撃に対して生身では防御力が皆無だからだ。敵の攻撃一つ一つが常に命の危機であり、避けられなければそれまでとなる。

 そういう意味で、真に魔操機兵と互角に戦える帝国華撃団の戦力は花組の持つ霊子甲冑しかない。

 

「かずらちゃん、本部には連絡した?」

 

 梅里の問いにかずらは首を横に振る。

 

「それが、駄目なんです。何度やっても通信機が反応しなくて。それに本部もですが、そもそも友軍や一緒に来てる人達にも連絡が付きません」

「やっぱりそっちもか。僕のも通じなくて壊れたのかと思ったけど、こうなると通信妨害の可能性が高い。分散していたのが仇になったな」

 

 今回の調査は少数精鋭。そのためほぼ単独か二人組で広範囲に広がっている。梅里とかずらが近かったのは偶然だった。

 

「ともかく……あれはッ!」

 

 梅里の視線が急に鋭くなるや刀を抜きつつ振り返った。

 その方向では新たに現れたもう一体、脇侍が手にした鉄砲でこちらに狙いをを付けようとしている。

 

「──武相流奥義之壱・三日月斬!!!」

 

 刀の間合いから遙かに離れているその場で刀を振りかざす梅里。

 すると銀色に輝く梅里の霊力を受けて光を放つ刀が迅り、その名の通り三日月型の斬撃となった霊力塊が放たれる。

 脇侍が発砲するその前に直撃し、鉄砲が破壊されて脇侍が怯む。

 その隙をついて素早く距離をつめた梅里が、再度一太刀で決着をつけた。

 梅里が使う武相流の剣術は、魑魅魍魎と戦い続ける中で、様々な間合いに対処できる複数の奥義があった。獣の姿のものや空を飛ぶもの、人の身を遥かに超える大きさのものと対し、討滅する必要があったからだ。

 その剣術は武相家の祖が学んだ柳生新陰流の流れをくむ剣術をベースに、霊力で魔を討つことに特化している。「光にて闇を祓う」を信条にしているその力は、闇夜を照らす月光の属性を帯びる。

 

(すごいすごい。噂には聞いてたけど、隊長ってこんなに強いんだ)

 

 そんな梅里の姿、そして強さにかずらは心の底から感激していた。

 自分の力では動きを止めるのが精一杯の脇侍を破壊するその姿は、彼女の目にはとってまさにヒーローのように映った。

 

「──危ない!!」

 

 そのヒーローが警告の声を出す。

 

「え?」

 

 その梅里と目が合うかずら。

 

(ということは、つまり危ないのは──私!?)

 

 嫌な気配に顔を上げると、脇侍が放ったロケット弾が放物線を描いて飛んでくるところだった。

 回避は──着弾して付近を焼くその範囲から、逃げることは不可能。

 思わず目をつぶるかずら。

 

「奥義之参、満月陣!!」

 

 そんな声が聞こえた瞬間、急に体がふわっと浮く感覚に襲われる。

 覚悟していた痛みがいつまでもこないことを不思議に思い、恐る恐る目を開く。周囲は銀色の光に包まれていた。

 

「……なに、これ?」

 

 そして自分の体勢に気が付く。肩を抱かれ、膝を抱えられ、いわゆるお姫様抱っこというモノだ。

 

「ええーッ!?」

 

 梅里を中心に球状に囲む銀色の光のフィールドの中に、抱きかかえらえたかずらも入っており、その梅里の顔は思いのほかかずらのすぐ近くにあった。

 抱えたまま滑るように着地した梅里があまり見せない鋭い目を向ける。その先には砲撃を加えた脇侍がいた。

 即座に反撃に移ることができないのは、現在両手が塞がっているからだ。

 その梅里が睨みつける砲撃型脇侍が、急に体勢を崩す。

 脇侍に脈絡もなく飛来した、先端に分銅がついた長い鎖が絡まったのだ。

 その直後──

 

「隊ッちょおおおおおうッッ!!」

 

 鎖に引かれ、彼女はものすごい勢いで飛び込んできた。

 その真横からの衝撃にさしもの脇侍も思わずよろける。

 そしてその勢いのままに、手にした赤熱している大鎌の切っ先を脇侍に叩き込み、そこから切り裂く。

 同時に跳躍して離脱。脇侍の爆発を背後に梅里の前に着地した。

 緋色袴の夢組女性用戦闘服を身にまとい、その手には大きな鎖鎌を持った彼女。短いながらも燃えるような赤い髪をなびかせた得意げな顔で、かずらを抱えたままの梅里を見た。

 

「帝国華撃団夢組除霊班頭・秋嶋紅葉、ただいま参上じゃ!!」

 

 そう言うや高めていた霊力を抑えたのか、赤く色を変えた上に逆立っていた髪の毛が元に戻って落ち着く。

 そしてじっと梅里を見つめる目は、さながら誉められるのを待っている飼い犬のようだった。

 だが梅里から出たのはお褒めの言葉ではなかった。

 

「紅葉? どうしてここに……ってそうか、八束か!」

 

 疑問。そして自己解決。

 そんな梅里の前では紅葉が──

 

「あの、隊長。参上、したんじゃが……」

 

 ──と、少し寂しそうに見ていたが、当の梅里本人は気づいていなかった。

 

(……隊長、大丈夫ですか?)

 

 ちょうど梅里の頭にまさに今名前を出した隊員からの念話が伝わってきたからである。

 八束(やつか) 千波(ちなみ)

 彼女は夢組内、いや華撃団の中でもきわめて希有な能力を有しており、その能力は念話。いわゆるテレパシー能力である。

 精神感応系の能力を持っているのは彼女の他にも数名いるが、彼女は念話能力を持つ上に、彼女一人で複数人をつなぐ念話のネットワークを構成できるほどで、他とは比べ物にならないほど強力なのだ。

 

(連絡が遅くなって申し訳ありません。なかなか隊長につながらなかったので本部への連絡を優先していました)

(戦闘中だったからかな。悪かった)

(いえ。でも、そういうわけで本部への脇侍出現の報告は完了しています)

(知ってる。応援で来た除霊班頭と合流したからね)

(なるほど。さすがの早さです)

 

 千波の紅葉に対する評価には若干の呆れが入っているような気がしたが梅里は突っ込まなかった。

 

(それと遠見隊員が『千里眼』で確認しましたが、隊長の近くにいる脇侍はそれで終わりです。中心は寛永寺の方ですが、そちらはまもなく花組が到着して対応予定になっています)

(了解。花組には夢組の紅葉以外の本部にいたメンバーが付いてるのかな?)

(その通りです)

(じゃあ、塙詰副隊長と和人で封印・結界班の指揮を執ってもらって。現場の隔離と戦場の確保をお願いしてくれるかな)

(了解。伝えます)

 

 戦場の拡大防止と余計な民間人の進入防止、それに秘密部隊である帝国華撃団花組の情報防衛のために、霊力で強力な障壁を作り出して封鎖するのも夢組の任務である。

 梅里の指示を受けた千波によって指示が伝えられ、そのように夢組は動き出したはずだ。

 自分も向かう必要があるだろうが、そこまで急行する必要性はない。

 

「あ、あの……隊長?」

「ん? ああ、どうかした? かずらちゃん」

 

 千波と念話で話していた梅里は、近くで聞こえた声に意識を元に戻す。

 

「い、いえ、そろそろ下ろしてくれないかな~って……わ、私的にはまだこうしていてもいいんですけど……あ、いえ、紅葉さんの前でずっとこの姿勢はさすがに……」

「あ、ゴメン」

 

 顔を赤くしてオロオロしながら言ったかずらの言葉で、梅里はお姫様抱っこしたままなのを思い出した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 この後、脇侍よりも強力な魔操機兵まで出現した騒動は、初出撃した隊長である大神 一郎の指揮を受けた花組の活躍によって程なく鎮圧されたのであった。

 




【よもやま話】
 時間軸的には、ゲームの『サクラ大戦』第1話の戦闘の直前くらいです。そう、実はまだ旧作の第1話の部分すら終わってないんです。
 最初は梅里にバッサバッサと脇侍を斬らせたものの、「これだと霊子甲冑いらなくね?」となったので脇侍の数を減らして説明を入れました。
 脇侍と生身で戦うのって結構ヒヤヒヤなんです、実は。それでも果敢に倒す梅里と紅葉ですが、紅葉が恐れないのは戦闘バカだからで、梅里が恐れない理由は後で明らかになります。
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