サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
──上野公園での騒動から2ヶ月ほど時間が過ぎた。
この間に起こったのは、黒之巣会がついに表立って動き始めたということが真っ先にあげられる。
上野公園での騒ぎの翌月、芝公園で通信網の破壊を狙った帝都タワー襲撃では敵の首魁である天海がその姿を見せた。
花組の活躍でそれを退けた華撃団だったが、次の大規模な襲撃では黒之巣死天王の一人、「蒼き刹那」の操る魔操機兵・蒼角の攻撃によって花組隊長の大神一郎が負傷してしまう。
幸い命に別状はなく無事に復帰したものの、その後には敵の挑発に乗せられた副隊長のマリアが単独で飛び出し、危機に陥いった。
しかしそれを挽回しながらの築地での戦いに於いて、大神とマリアの活躍によってついに蒼角を撃破し、敵幹部である蒼き刹那を討ち果たしたのだ。
そしてその結果の報告の席で、米田は窮地に立たされていた。
「そいつはできません! 危険すぎる!」
軍服を身にまとった米田の反論に、会議に居合わせた者達は皆一様に苦笑を浮かべた。
この会議は軍の上層部と官僚のものであり、ここでは中将である米田であっても発言力はそれほど高くはない。周囲が高すぎるのだ。
実際、この席にいる者のほとんどが米田を下に見ているだろう。
そんな敵地のような中でも、華撃団が挙げた大きな成果は光を放つ──はずであった。
「素晴らしい戦果ではないか、米田くん」
「敵幹部……黒之巣死天王、だったか。それを討ち取ったそうではないか」
会議が始まるや、そう手放しで誉めた軍上層部や政治家連中に米田も我が子を誉められるような気分でまんざらではなかった。しかし──
「その幹部が使っていた魔操機兵とやらを回収したというのは本当かね?」
──という軍部の発言あたりから雲行きが怪しくなってきた。
「ええ、あくまで残骸ですが……」
そう答えながら面倒くさいことになったと米田は思った。その次に言い出すことに予想が付いたからだ。
「それをどうにか有効活用できないものかね?」
「聞けばそれ一体で帝国華撃団の霊子甲冑を複数相手にして互角に戦ったそうじゃないか」
「それをこちらで使えれば、大幅な戦力アップが期待できるな」
そら見ろ、と米田は心の中で毒付く。
だが言われるがままではいけない。これの危険性を一番よく知っているのが華撃団だ。
「こいつの動力は妖力。我々華撃団の隊員達が使う霊力とは似て非なるものです。確かに強力ではありますが、禍々しい力が強すぎてとても制御できるようなものじゃありません。華撃団では浄化した上で跡形もなくスクラップにしちまおうと考えています」
「あまりにもったいないな、それは」
米田の言葉に即座に反論がでる。声の方を見れば大物政治家の発言だったとわかる。これを覆すのは相当に困難だ。
ふと視線を感じてそちらを見れば軍の関係者──米田とは対立している派閥の軍人がほくそ笑みつつこちらを見ているのが見えた。
(あの野郎……チクショウ! 出来レースかよ)
米田が気が付いたときには手遅れだった。
ここは華撃団の華々しい成果を報告するための場などではなく、最初から追い込むための狩り場だったのだ。もし魔操機兵を有効に活用できれば、次に来るのは霊子甲冑不要論だろうし、有効に活用できなければその責を押しつけてくるに違いない。
「我々も趣味や道楽でキミの華撃団とやらを後押ししているわけではないのだよ、米田君」
「蒸気技術で後れをとっている欧米に対抗するために、その霊子甲冑をさらに強力なものへと進化させるべきではないのか?」
「その可能性のある技術が目の前にあるというのに、調べもせずに見過ごし、無駄にしようというのなら我々も看過はできんな」
その浴びせられる集中砲火に、米田は降参する以外に手はなかった。
「それはできません! 危険すぎますよ!」
数日後、奇しくも自分が会議でいったのと同じ言葉を、米田は聞くことになった。
場所は大帝国劇場の支配人室。周囲に米田を追いつめた敵達の姿はなく、傍らに立つのは帝国華撃団副司令の藤枝あやめであり、目の前で米田に先ほどの言葉を言ったのは、帝国華撃団夢組隊長の武相 梅里である。
「脇侍の調査でさえ、体調不良や場合によっては失神者まで出しているんですよ?」
「その報告は受けているし、百も承知だ」
「だったらなぜ!? 僕も見ましたがあの禍々しさ、尋常じゃありません。下手に刺激して
(オレもアイツらにそう言ってやりたかったよ)
目を閉じて梅里の抗議を聞きながらそう思いつつも、軍で上からの命令は絶対なのは他ならぬ米田が一番よく知っている。
そして今回の命令は華撃団のさらに上から下りてきたもので覆すわけにはいかないのだ。
「とにかく、できません!」
それを覆そうとあがくのが民間登用した隊長とはなんとも皮肉なものだ。
「命令だ。やれ。いいな?」
「梅里クン、申し訳ないけどこれは決定事項なのよ。華撃団ではなく軍上層部からの──」
「あやめ、余計なことは言わんでいい」
とりなそうとしたあやめの言葉を、目を閉じながら遮る米田。
その姿勢に、梅里は余計に感情を高ぶらせる。
「人が死んでもいいんですか!?」
(良いわけねぇだろうがッ!!)
喉まで出掛かった言葉を、米田は真一文字に結んだ口の中で歯を食いしばり、どうにか飲み込んだ。
その様子を見た梅里は悔しげに、そして最大級の不満げな態度を隠そうともせずに──
「武相 梅里ッ! 失礼いたしますッ!!」
投げやりな態度で一礼すると、憤然とした態度で支配人室から出て行った。
「──オレが、これを素直に受けてきたとでも思ってやがるのか?」
退室の礼さえせずに出て行ったその背中が消え、今度は米田が不満をぶちまける。
「支配人……」
「わかっているさ。アイツが、ウメのヤツがぶつける不満こそオレの本音だよ。アイツがオレの気持ちを代弁してくれている。だから心のどこかでスカッとしてやがる。もっとも、その直後にそれが言えない自分に気がついて、余計に鬱屈がたまるがな」
米田の独白に、あやめはなんとも言えない困った顔をするしかない。
「コイツが他の隊長だったらどうなる? 「了解」の一言で済ましちまう。楽さ、ああ楽だとも。なぁ、加山」
「……ま、そう言うでしょうねぇ。我々は」
いつの間にか米田の傍らには一人の男が立っていた。
髪をオールバックにしたその男の名前は加山雄一。帝国華撃団が誇る偵察部隊、月組の隊長を務めている者だ。
「風組も雪組も。まぁ、大神は違うかもしれませんが、それでもここまで感情を露わに不満をぶつけたりはしない」
まるで子供のわがままだ、とまではさすがに言わなかった。
「しかし、だからこそ司令が夢組の隊長を巽ではなく彼にした理由がわかった気がしました」
「ほう?」
米田に促され、加山は説明を続ける。
「夢組はその活動を霊力に頼るところが大きく、逆に言えば感情に成果が流されやすい。敵と戦う花組であれば悪を許さないという心があれば誤魔化せるでしょうが不満をため込むのは悪い結果を生むでしょう」
「たしかにデリケートな霊力操作を必要とする夢組では、軍隊式の統率方法ではまとめられなかったわ。その盲点に私たちが気づけなかったせいで巽クンには悪いことをしてしまった」
すまなさそうな表情を浮かべるあやめに対し、加山はそれを笑い飛ばすような笑顔になった。
「いやぁ副司令、そんなことはありませんよ。立場こそ副隊長だがアイツも階級的にはオレや大神と同じですから。それに話題の夢組隊長、武相 梅里と出会ったことでこの数ヶ月でだいぶ成長したように見えますよ、同期の目から見ても。結果オーライってヤツでしょう」
実際、巽 宗次は上に不慣れな隊長ができたせいで、それを支えることで水を得た魚のように活躍している。
その姿は隠密活動をしている加山もよく目にしているし、耳にも「巽副隊長、最近なんか良いよね」という声が多く聞こえてきている。
「まったく、オレの出世の邪魔をしないでいただきたいものですね、副司令」
「そんなことを言って、本当は嬉しいのでしょう? 加山クン」
あやめに返され「かなわないなぁ」と言いつつ、加山は一礼して部屋からその姿を消した。
「ま、巽のヤツがフォローしてくれるか」
「私もそう思います、司令」
そう言いながらもあやめは様子を見つつ、自分もフォローしなければと思った。
【よもやま話】
はい。旧作の2話と3話ぶっ飛ばしました。というのも、2話はリストラされたヒロインの登場回で、3話は紅葉の元になったキャラがヒロインの話でしたので、バッサリ切りました。ヒロイン削減の結果ですね。
旧作第4話がせりの元キャラのヒロイン回だったので、ようやくここで追いついたことになります。しかしすでに─5─なんですが、書ききれるのでしょうか。