サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─8─

 結果的に、調査は予定時刻に実施されることとなった。

 案の定、せりが付近での戦闘を理由に査察官にくってかかった。

 しかし「離れているじゃありませんか。巻き込まれやしませんよ」と却下されている。

 彼女がしつこく食い下がらなかったのは、先ほど強固に反対していた梅里が割り切って万全の準備をしたという話を聞いたのと、査察官のまとう軍人の気配に圧倒されたせいだった。

 華撃団、それもせりが勤務する本部の帝劇に普段いる軍人といえば昼行灯の米田、誰にでも優しいあやめ、それにモギリの大神──いずれも軍人が持つ冷酷さのようなものを見せることはない。

 軍人という点ではせりと接点の多かった宗次もそうだが、衝突はしたが感情的な場面が多く、今にして思えば宗次の『有無をいわさぬ態度』という威圧感はこの査察官よりも無かった。

 妥協した形になった夢組だったが、査察官はそれでおさまらなかった。

 

「ここまで準備したのですから、これもついでに調査しておくべきじゃないですか? もったいないですよ」

 

 保管してあった脇侍を見つけると、そう言ってさらに介入したのである。

 比較的状態のいい、まるで動かない人形のような脇侍を足でコンコンと小突きながら──

 

「こんなものの調査でさえ、手間取っているそうじゃないですか。失神者を出したりして」

 

 ──と、悪意たっぷりで見下す。

 悔しさをこらえる宗次を見てせりも同じく感じるのと同時に、宗次がこういうことを言われるのを避けるために、隊長心得時代にあそこまで頑なに命令に忠実になろうとしていたのだと思い知らされもした。

 さすがに蒼角の残骸とは別の部屋に保管した上で、蒼角終了後に調査を行うこととして準備万端整ったのだが──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「「イリス・エクスプローゼ!!」」

 

 そのころ浅草では、黄色い霊子甲冑と白い霊子甲冑──アイリスと大神の合体攻撃が黒之巣死天王の一人、モヒカン頭の大男である白銀の羅刹が乗り込んだ魔操機兵・銀角をとらえていた。

 アイリスがいなくなるというトラブルの中での出撃だったが、花組はアイリスの救助に成功。そして様々な困難を乗り越えて羅刹との直接対決まで持ち込んでいたのである。

 もちろん、その捜索や戦場形成に夢組の目立たぬサポートがあったのは忘れてはならない。

 そして今、まさにとどめの一撃が放たれ、それが決まったのだ。

 耐久以上の攻撃を受け、ついに崩壊していく銀角。

 

「ク、クソォ!!」

 

 銀角の操縦席に羅刹の無念の叫びが響きわたる。

 自分は敗れ去っていくのか。

 このままではあの世で兄──蒼き刹那に顔向けができない。

 兄の仇すらとれない自分の身がもどかしく、悔しかった。

 

 

「あ、兄者アァァァッ!!」

 

 

 脳筋を絵に描いたようなその見た目とは裏腹に、敵を自らの元に強制召還できるほど強い妖力を持った羅刹の、魂の叫びがこだました。

 その怨念は、浅草近郊へと大きな波紋のように拡散していった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──浅草の戦闘が終わったとき、まさに調査は始まろうとしていた。

 封印・結界班が蒼角の残骸を取り囲み、正座している。

 せりもその輪の中に入り、もっとも中心的な役割を担うことになっていた。

 その中で結界の展開をしつつ、自身の霊力を走らせて調査まで行うという二足の草鞋のような状況だが、今いるメンバーではどちらも自分と同程度にこなせそうな人もいないので担当するしかなかった。

 

「調査作業を開始する。総員、準備!!」

 

 宗次の声が建物内に響きわたる。

 それを合図に他の隊員たちと共に結界を展開させようと神経を集中させたときのことであった。

 急に頭に声が響く感じがあった。

 

(なに? 誰?)

 

 その野太い声はきわめて不快なもの。その不快さは声色と言うよりも、そこに込められた思い、いや怨念がせりに嫌悪感を抱かせるのだった。

 そんな中でも気を取り直して精神を集中させる。自分がそんな影響を受けているのだから他もそうなっている可能性がある。中心的な役割を担う自分がしっかりしなければ瓦解してしまうという判断からだ。

 しかし異変はすでに起こっていた。目の前の蒼角が細かく振動しているのに気づいた。

 あきらかに様子がおかしい。

 展開した結界には早くも蒼角側から圧力がかかり始めている。

 

「いかん! 今すぐに中止だ!!」

 

 せりが指摘する前に宗次が大きな声をあげたことにホッとする。この異変が外でも把握していると分かったからだ。

 その隣にいた査察官がなにやら騒いでいたが、状況が分からずに続行しろとか言っているだけだろう。

 ──その瞬間、せりの背中を冷たいものが走り抜けた。

 

「ッ!! みんな!!防いでッ!!」

 

 悪寒を感じたせりが瞬間的に反応してあげた声に、封印・結界班の隊員達はすぐ呼応した。

 取り囲んでいた各員が両手を前に突き出し、結界を強化する。

 結界が出力をあげて蒼角の残骸を押し包む。この状態ならば人を乗せない搭乗型の魔操機兵ならば十二分に止められるはず。せりはその確信が持てていた。

 だが、敵は別の場所からやってきた。

 せり達のいる部屋の壁を突き破ってきた影がいた。別の部屋に保管し、後で調査するはずだった脇侍である。

 

「なんだとッ!!」

「う、動きを止めていたではないか! 壊れているのではなかったのか!!」

 

 宗次と査察官が驚いて声をあげている。

 結界を維持しつつ、せりもどうにかそちらを見れば、脇侍の損傷はほぼ完全に復元していた。

 

(いったい、どういう状況よ!!)

 

 何が起こっているのか、せりには分からない。

 せりでさえそうなのだ。他の隊員にももちろん動揺が走っている。動揺が霊力の乱れを呼び、結界のほころびを生もうとしていた。

 

「副隊長ッ!!」

 

 せりが危険と限界を感じて声をあげる。

 それに応じるように、宗次も声をあげた。

 

「総員退避!! 夢組、逃げろ!!」

 

 宗次の必死に叫びを背景に、脇侍は夢組隊員に目もくれず蒼角の元へと行く。

 指示に従い、他の隊員たちと逃げる最中、せりは脇侍の様子を油断無く見ていた。

 

「──えぇッ!?」

 

 その目が驚愕に染まる。

 蒼角の残骸まで脇侍が到達すると、それを中心にして一瞬で球状の闇が発生し、その姿を包む。

 それが晴れたときには蒼角の残骸を身にまとった脇侍がその場にたたずんでいた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 その情報は即座に銀座の帝国華撃団の本部がある大帝国劇場へともたらされ、アイリスの無事な保護と二人目の死天王撃破にわくムードに冷水をかけることとなった。

 それは浅草の花やしき近くにいた梅里達夢組も同様で、すでに一報が入っていた。

 だが、その情報は近くの施設で行っていた調査作業中に謎の爆発事故、としか入っておらず。詳細は全く分からない。事故直後からその施設とは通信が遮断されているからだ。

 他の隊員たちに待機を指示した梅里は、現地本部である天幕まで戻ると、通信で直ちに転進する旨を米田に具申した。

 しかし返ってきたのは待機命令だった。

 

「──なぜですか!」

 

 梅里が通信機に怒鳴る。現地本部となった天幕には周囲に人はおらず、梅里はその感情の高ぶりを人目を気にする必要もなくぶつけていた。

 

「今、華撃団は一戦交えた直後で消耗している。加えて状況がさっぱり分からん。この状況で強行突入は危険だと判断した」

 

 米田の言うとおり、特に花組は死天王・羅刹との戦いでの消耗は激しい。この浅草からも一足早く帰還し、本部の地下ドックで霊子甲冑の整備を受けている頃だろう。

 

「仲間が! 取り残された隊員たちがいるんですよ! それもほとんど夢組の者ばかり。せめて僕らだけでも──」

「ならん! 消耗が激しいのはお前達も一緒だ」

 

 米田の厳しい声が通信機から響く。

 今回の出撃での夢組はいつも通りに戦場の形成などを普段通りに行っていたが、封印・結界班の精鋭を別任務である調査に向かわせていたため、その負担はいつも以上だった。封印・結界班頭の和人がいたおかげでどうにか維持できたが、その分、消耗が激しい。

 花やしきでの戦闘な上に夢組支部長が不在のため、普段は戦場に出てこない副支部長のティーラが滅多に見せない紫色の袴の女性用夢組戦闘服を着て指揮を執っていたほどだ。

 それほどまでに夢組もギリギリである。

 

「……人が、死ぬかもしれないんですよ」

「そんなことは分かってる! 今、月組が件の施設に偵察をかけているからもう少し待て。状況が判明次第、花組の再出撃も含めて指示を出す。待機だ。いいな! 絶対に動くなよ!!」

 

 それで米田からの通信は切れた。

 

「……ッ」

 

 ため息をつく梅里。

 ゆっくりと顔をあげる。

 そして狩衣風の夢組戦闘服に損傷が無いのを確認する。

 その内側に仕込んでいるシルスウス鋼製の籠手や臑当てを確認、普段は重いので嫌っていた帷子を着込み、その上から改めて夢組戦闘服を着た。

 最後に得物である聖刃・薫紫を確認し、それを改めて腰に帯びた。

 明らかな、普段とは比べものにならない重装備。これから向かうところ、やることを考えれば備えるに越したことはない。

 そうして、天幕から外に出る。仲間たちが待機しているのは少し離れた場所だが、そちらへとは逆方向に踏み出した。

 

「……待機、ではないのでしょうか?」

 

 そう声をかけられて、梅里は足を止めた。いつの間にか背後に人影がいる。

 帝国華撃団夢組の巫女服風の女性用戦闘服。その袴を明るく鮮やかな赤紫──紅紫色やマゼンダとも言われるその色に染めた彼女は帝国華撃団夢組副隊長の塙詰しのぶだった。

 

「うん、そうだよ。みんなは待機していて。そして以後の指揮は塙詰さんに任せる」

「承りましたが……武相様は?」

「ちょっと、行ってくるよ」

 

 扇で口元を隠したしのぶに対し、振り向いて笑みを浮かべる梅里。しのぶの細い目が彼をジッと見つめる。

 

「命令違反ではありませんか?」

「かもね。でも、僕は耐えられないんだよ。僕以外の誰かが傷つくことが、いや僕の知ってる誰かが僕の前で死ぬことがね」

 

 変わらず笑顔でそう話す梅里の姿に、しのぶは彼が持っている闇を垣間見た気がした。

 

「米田司令は救出作戦を考えておられるはずですが、それまで待てないのですか?」

 

 しのぶの問いに梅里は躊躇うことなくうなずいた。

 

「その間に手遅れになるかもしれない」

 

 梅里の笑顔が乾いたものになる。

 

「塙詰さん。僕はね、もう知らない間に間に合わなくなってました、なんて後悔は二度としたくないんだ」

 

 後はよろしく頼むね、と言い残し、梅里はしのぶの前を立ち去っていく。

 そんな彼の後ろ姿を見てしのぶは──

 

「……それは、詭弁でございましょう? あなたの本当の目的は違うはず」

 

 その目がわずかに開かれる。

 梅里に対し、面と向かって言えなかったその言葉を、誰にでも言うでもなくつぶやいた。

 




【よもやま話】
 これから向かうせりとのイベントに向けたシーン。
 それと、実は花組の戦闘シーンがほぼ旧作のままだったりします。
 後半は、ゆくゆくは現時点では漠然と頭に描いているしのぶ回への伏線になってくれたらなぁ、という気持ち。
 第2話もやっとクライマックスへ……という雰囲気です。
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