サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

17 / 66
─9─

 

 ──そこはさながら野戦病院だった。

 

 意外と大きかったその施設内で起こった大きな爆発。

 それによる破壊から避けられた地下施設のその場所に、巽 宗次をはじめとした調査に参加した者達は封印・結界班が施した障壁を生み出して安全地帯を作り出していた。

 そこでは負傷者の手当てや結界の維持、繋がらない外への連絡への試み等、狭い空間で多くの人が動き回っている。

 蒼角の残骸をまとった脇侍は最初の爆発でこちらを見失ったらしく、あれ以降の接触はしていないのが不幸中の幸いだった。

 

「怪我人の程度は?」

「幸いなことに、ほぼ軽傷者ばかりです。ただ一人だけ……」

 

 宗次の確認に一般の隊員が答え、気まずそうにその負傷者を見る。

 血に染まった軍服。割れなかったもののヒビが入った眼鏡。査察官が苦しげに床に横になっていた。

 

「まったく、誰のせいでこんなことになったと思ってるのよ」

 

 そう言って感情を顕わにするのはせりだ。

 彼女も性根は優しく普段なら怪我人をいたわる人ではあったが、今回ばかりはさすがに横たわった監察官を睨んでいる。

 その周囲にもそれに賛同するような声が起きかけたとき──

 

 

「──やれやれ。“黙ってください”」

 

 

 その言葉に、周囲は口を封じられ、その場がしんとなる。

 

「少し、静かにしていてください。治療の邪魔ですよ」

 

 査察官の傍らでその容態を見ながら、感情少なくそう言ったのは、袴の色は濃緑の夢組戦闘服の上に、帝都が江戸と呼ばれていた頃から町医者達が着ていた黒い『十徳』という広袖の上着を羽織った女性隊員だった。

 

 

 町医者であることにこだわる彼女は群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、

 名医と言われた町医者の家で代々培われ継承した豊富な知識と、叩き上げられたスキルが医師としての彼女の武器。

 夢組錬金術班副頭、大関ヨモギ。人は彼女を「ホウライ先生」と呼ぶ。

 

 

 初代の大関(おおぜき)蓬莱(ほうらい)以来、江戸の町民を癒し続け、歴代の後継者が「大関蓬莱」を名乗ったために、今代にして初の女医である彼女もまたホウライ先生と呼ばれているのだ。

 髪をボブカットにしているヨモギは、普段は半眼な目を診断のために大きく見開き、また査察官の腕などをさわりながら反応を見ていた。

 

「助かりそうか?」

「意識はありませんが、すぐに止血すれば危険はありません。もっとも止血しなかったり止められなかった場合には、輸血用血液もありませんし、ポックリ逝ってしまうかもしれませんね」

 

 近づいての宗次の問いにヨモギは診断を続けたまま、やはり感情少ない口調で答えた。

 

「あまり好意を抱けるような人間ではなかったが、一応は軍のお偉いさんだからな。大丈夫か?」

 

 宗次の問いにヨモギは顔を上げて答える。

 

 

「──大丈夫ですよ。“失敗しません”から」

 

 

 あとはその彼女の宣言通りだった。

 持ってきていた鞄から取り出した器具で、査察官の傷を難なく縫合し、傷口を消毒、その処置を終える。もちろん査察官は一命を取り留めていた。

 その治療を後目に、宗次は調査に参加していた遠見 遥佳を呼び出していた。

 

「状況はどうだ?」

 

 魔眼を使った千里眼、それも遠視だけでなく透視まで使った彼女は少し疲れた様子で答えた。

 

「付近周辺は閉鎖されているようっスが、花組の姿はないっス。それに夢組も。いるのは月組で、出入口は爆発でことごとくつぶれたので進入口を探しているよう感じっスね」

「蒼角は?」

「あたしらと月組の間の地点をウロウロしてるっスね」

「……このままだと月組が危険だな」

 

 思案顔になる宗次。

 こちらも危険な状況だが、月組しか来ていないということは本部がこちらの状況をほとんど把握できていないと推測できた。

 もし脇侍が蒼角の破片を吸収して暴れ回っている状況が分かっていれば、少なくとも脇侍と戦える隊員を含めた夢組か、蒼角の力を警戒して花組が出張ってくるか、少なくとも情報があれば付近で待機しているはずだ。

 危険度の認識がないままでの接敵は危険だが、今はその上に敵の危険度が高く看過できないほどだ。

 

「御苦労だった。まだその力が必要になるから休んでいてくれ」

「了解っス」

 

 下がる遥佳と入れ替わるように、せりが近寄る。

 ちょうどよかったとばかりに宗次はせりに声をかけた。

 

「一人、外に報告役を出すぞ」

「え? 救援が来ているんじゃないんですか?」

 

 遥佳の報告が聞こえていなかったせりに宗次は頷いた。

 さらに、こちらの状況を全く把握できていないだろうという推論と、このままでは進入を試みている月組が非常に危険であるという危惧を話した。

 

「それは確かに、そうですね」

 

 月組達は身軽さを売りにしているが、蒼角もまた非常に素早い。まるで花組の霊子甲冑が一回動く間に二回動いているかのように感じるほどの早さと身軽さだった。そして今の蒼角モドキはそれに準ずるくらいの動きをしている。月組隊員たちとの相性は悪い。

 

「とりあえず、この場は大関に任せてオレと白繍で外に向かう。十中八九、例のアレと遭遇するだろうから、その場合にはオレが全力でお前を逃がす。白繍は絶対に外にたどり着け」

「いいえ、外に行くのは私じゃなくて副隊長が適任だと思います」

 

 せりの反論に宗次は思わず眉をひそめた。

 

「オレが? 蒼角モドキを相手にお前では戦えないだろ?」

「私もそう思います。だからそうなったら副隊長を送り出して私は逃げに徹する。戦闘能力が高い方が単独での突破や予想外のことが起きても対処できると思うから」

 

 せりの得物は弓矢。その分、接近しての戦いは不得手である。距離をとって戦えなくなったときには非常に厳しい。

 非常に素早く動き、距離を詰めてきやすい蒼角モドキは相性がよくないのだ。

 万が一にも1対1で戦って突破しなければならなくなった場合には非常に困難になるものの、逆に牽制や逃げに徹することができる状況であればまだマシだった。

 宗次は握った拳を口元に当てて思案する。

 

「一理あるな。ただ問題は、見た目は一般隊員を放り出して現場責任者が真っ先に逃げ出したという形になってしまうことだ」

「それは……確かに」

 

 苦笑を浮かべるせり。

 

「事情説明のため、オレの名誉を守るためにも絶対に死ぬんじゃないぞ、白繍」

 

 そう冗談めかして宗次がニヤリと笑った。

 




【よもやま話】
 ここまで書いて、やっと終わりが見えてきた感じでホッとする。
 名前だけは出ていた錬金術班副頭・大関ヨモギがついに登場。どういうシチュエーションで出すか迷っていたのですが、ポっと出の査察官のおかげで登場が決まりました。
 ええ、やっぱり女医といえばあの台詞ですよ、ドクターX。それがやりたくて旧作の町医者をリメイクしましたから。
 と言いたいところですが、実は彼女の能力でもありまして、言葉による「暗示」がそれです。登場シーンで黙らせたのもその力を使ってます。「失敗しない」と言うのは自分に暗示をかけている、という設定です。
 もっぱら衛生兵なので戦闘シーンは今後もおそらくありません。「~2」まで書いたらその最終決戦くらいで戦う構想がありますが……遠いなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。