サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─11─

「……鶯歌は、幼なじみだったんだ」

「うん」

 

 感情を落ち着かせた梅里はポツリポツリと話し始め、せりはそれに頷いて応える。

 膝を抱えて座る梅里は、まるで自分よりも年下になったかのようにか弱く見え、せりは弟の護行(もりゆき)のことを思い出した。

 梅里の独白は続く。

 

「子供のころから一緒で、大きくなりながらもそれが途切れることもなく、僕が料理の修行をし始めても、働く場所は違っても、一緒に笑ってた。そんな関係だった……僕が、この手にかけるまでは」

「──ッ!?」

 

 その内容に思わず声が出そうになった。手にかけた、とは尋常ではない。

 だが、それをこらえて黙って聞き続ける。彼がそうするのには相当の理由があったのは間違いないとせりは確信できた。そうでなければあの霊が梅里を心配しているなんてことはありえない。

 

「あれは、本来なら僕が一年前に華撃団に入るのが決まってたころで、軍に入るならその前にせめて婚約はしておけって言われてた。そのころ、水戸に降魔が出たんだ」

「降魔が?」

 

 梅里の実家が茨城県の水戸だとはせりも聞いていた。

 

「それを討つ役目を負っていた僕は戦った。追いつめた。ヤツの腕を切り落とし、それからトドメを刺して討滅した。そう思ったけど……それが、失敗だった」

 

 膝を抱える腕に力が入る。

 

「降魔を追っていた僕が夜中に出歩いているのを、不審に思った鶯歌が隠れて様子を見ていたんだ。斬り飛ばした腕が彼女の隠れている方へ飛び、その手に生えた鉤爪が、彼女の腕を傷つけ……そして、種を植え付けられた」

「降魔の、種?」

「ある程度の力を持った降魔は、まれに人を降魔へと墜とす種を植え付けることがあるんだ」

「そんなことが……」

 

 せりは背筋が凍る思いだった。

 降魔はもちろん知っている。魔を祓う神社の長女として、また巫女としてそれは口伝として教えられていた。しかしこの華撃団に入るまではお話の中のことと思っていたし、まして梅里の実体験による話は口伝とはまるで違うリアリティをもっていた。

 

「一ヶ月くらいして、また人が傷つけられるような事件が発生した。傷口からまた降魔だと思ったんだけど……犯人は、鶯歌だった。消滅を逃れるために種となって鶯歌に取り付き、その体を乗っ取りかけていた、倒したはずの降魔だったんだよ」

「……」

 

 なにも言えなかった。その後の話は予想がついたから。

 

「傷ついた腕だけ降魔化させられて、まだ意識が残る鶯歌は僕に自分を斬るように言った。でも、僕には……できなかった」

 

 膝を抱える腕にさらに力が入り、顔を膝に埋めるようにして梅里の懺悔は続く。

 

「ためらう僕が持った刀の切っ先に、彼女は自ら飛び込んだんだ。僕は、鶯歌を助けることも、介錯することも、できなかった」

 

 不意に、梅里が顔を上げる。

 今までに見たことがないほど、弱々しく、悲愴な梅里の顔だった。

 

「大事だったから、大切だったから、僕は、彼女を……失いたくなかったんだ」

 

 泣き崩れる梅里。

 そんな彼を、先ほど見えた霊のようにせりは優しく抱きしめるのだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──ゴメン。情けないところ、見せた」

 

 悲しみの感情を爆発させた梅里だったが、それが落ち着けば揺り返しが待っていた。

 帝国華撃団という軍の一部隊の隊長ともあろうものが、さすがに醜態をさらしすぎた。

 梅里とせりは同年代とはいえ、いや、同年代だからこそ恥ずかしかった。

 

「今のことは忘れて」

「ん~、どうしようっかな」

 

 今まで黙って聞いていたせりが意地悪そうにそう言ったので、梅里は思わず彼女の方を見た。

 からかうような笑みを浮かべていたせりは、一転して厳しい顔で人差し指をピッと立てる。

 

「誰にも言わないから、あなたも約束して。命を大事にするってことを。今後は今回みたいに自分の命を投げ出すようなことはしないって」

「う……」

 

 梅里は躊躇った。さっき言った死に場所を求めて帝都にやってきたというのは本心からだ。その気持ちを綺麗さっぱりなくすことには抵抗がある。

 

「鶯歌さん、悲しそうにしてたわよ。あなたが自暴自棄になってたら、責任感じると思うけど」

「……確認するけど、本当に見えたんだよね?」

 

 梅里には見えなかったし未だに見えないので、半信半疑なのだ。

 とはいえ、聞いた特徴は概ね合致してるし、鶯歌の姿をせりがあらかじめ知ることなんて不可能だ。

 せりが頷くと、梅里は大きくため息をつき

 

「わかった、約束するよ。命を粗末になんかしない」

「じゃ、指出して」

 

 せりがそう言って「指?」と戸惑う梅里の手を掴むと、その小指に自分の小指を絡めた。

 

「ちょ、ちょっと……」

「指切りよ。絶対の約束、だからね」

 

 そう言って手を振り、指切りをする。

 その手が離れ、手を見ていた梅里とせりの視線が交錯する。

 

「「──ッ!!」」

 

 お互いに気恥ずかしくなって視線を逸らし合った。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんな気恥ずかしい空気もつかの間だった。

 梅里は不意にまとっていた空気を変えて立ち上がり、腰の刀にそれを伸ばす。

 

「一応、断っておくけど、いきなり約束破る気はないからね」

 

 梅里がそう言って刀を抜く。

 愛刀の『薫紫』がオーラを放ち、危機を告げていた。

 見れば離れた場所にはこちらを警戒するように蒼角モドキが立っている。

 それを確認して息をのむせり。

 

「でも、どうするの? そろそろ月組のルート確保も終わるでしょうし、追い払えば……」

「いや、倒そう」

 

 と、梅里がアッサリ言ったので、さすがにせりは面を食らった。

 

「──え? ちょっと。簡単に言うけど、できるの?」

 

 さっき、自力で時間を稼いだからわかる。こちらの攻撃はほとんど通じてないように思えた。

 倒すなんてできるわけがない。せりにはそう思えた。

 

「今の僕とキミなら、できると思うけど」

 

 梅里がせりの方を見て、目と目があった。

 そのとき、なぜかせりにもそれが共感できた。この人と力を合わせれば倒せる。そんな確信が胸にわいてくる。

 そしてその感覚が、とても心地よいものなことに気づき、そして初めての感覚に戸惑っていた。

 梅里が刀を構える。

 正眼ではない、体の前で構えた刀の刀身の、その峰に左手を添えるような独特な構えだ。

 

「──奥義之参、満月陣」

 

 銀色の光となった霊力が、彼自身を中心に球状の光となって包み込む。

 そして、そこでせりが手にした梓弓──『神弓・光帯』に自身の霊力を通す。

 その名の通りに光、それも青白く光る雷光を帯びさせると、その弓を手に奉納の神楽舞のように、静かに舞う。

 やがて捧げられた雷光を受けて、銀の光球は青白く色を変え、梅里のまとった光はその雷光を帯びていく。

 言葉が自然と頭に浮かんだ。

 

神鳴(かみな)りよ、紫電となりて、我が君を照らせ……」

「満月陣・紫月(しげつ)ッ!!」

 

 せりが詠うように声を出し、梅里が満月陣を変化させる。

 梅里の剣術は月の属性だが、その本質は「鏡」である。相手の力を受けてその性質を変えることができる。「月は己のみにて光にあらず」というのが梅里の流派の口伝でもある。

 今の満月陣は陰陽道でいうところの強い木気──雷の霊力を帯びていた。

 

「雷鳴!」

 

 せりの言葉に応え、天が轟く。

 

「雷光!」

 

 吠えた梅里に呼応するように、落雷が掲げた刀へと集まる。

 爆発的に強烈な光を放つや、梅里の姿がまるでかき消えるようにその場から消える。 直後、一瞬で蒼角モドキの目の前へと至り──

 

「「ざああぁぁぁぁんッ!!」」

 

 すれ違いざまに、雷光を帯びた刀が迅り、そして梅里自身は敵の後ろへと駆け抜ける。

 後を追うように迅り、弾ける紫電の残滓。

 さらにその後で、蒼角モドキには剣筋がいくつも走るや細切れになってその破片をまき散らした。

 梅里が刀を振り、帯びた電が吹き散らされ、梅里は刀を鞘に収めた。

 

 

 ──こうして、蒼角の破片が巻き起こした騒動は、決着となった。

 

 




【よもやま話】
 梅里の悪夢の真相です。
 旧作では原因になったものを、当時読んでいた『鬼斬丸』という漫画の影響を受けて「鬼」としていたのですが、降魔の「種」を思い出したのでそれを絡めて降魔に変更しました。
 うん、悪いことはなんでも「降魔の仕業」にして、よく説明できないことは霊力やら妖力のせいにすればあとはきっとなんとかなる。たぶん。
 梅里とせりの合体必殺攻撃は「満月陣・紫月 雷鳴雷光斬」です。
 「雷鳴雷光」という名前の部分は『最強ロボ ダイオージャ』の主役ロボット・ダイオージャの必殺技「雷鳴剣 雷光雷鳴崩し」から。モーションは全く関係ないです。
 『科学戦隊ダイナマン』のダイナロボの「科学剣 稲妻重力落とし」から取るのと迷ったのですが、雷or稲妻アピールが強い方にしました。
 雷光と雷鳴の順を逆にしたのは演出の順番の都合です。
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