サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
数日後の夜。営業終了後に、食堂では夢組幹部が集まっていた。
その日は公演日で夜の部もあり、非常に盛況だったので、応援でホウライ先生──大関ヨモギも帝劇に来ていた。
「さて、情報共有したいものがある」
そう言ったのは、時間を合わせてわざわざ支部からやってきた宗次だった。
全員に渡した資料に載っていたのは、
「こいつは『
白銀の羅刹が駆る魔操機兵・銀角との浅草での戦闘はタイミング悪く夢組が分断された形になってしまい、苦戦を強いられた戦いで記憶にも新しい。
「その戦闘前に、黒之巣死天王の羅刹が手ずから操作して打ち込んでいたもの。その様子を月組隊員が目撃して撮影した、という状況だ」
宗次の言葉に一同は再びそれを注視する。
「コイツの詳しい効果は現在調査中だ。だが浅草に埋まっているのは調査班が念写して確認している」
皆の視線が調査班頭のせりに集まり、報告を受けていたせりはうなずいた。
「なかなか骨が折れた、とは聞いてるわ。ダウジングでおおよその場所を特定したけど妖気の妨害がひどくて。どうにか撮影できたのがコレよ」
せりが言っているのは、月組隊員が撮影したのとは別の画像だった。しかしこちらの方はなかなかにひどい有様で、ピント調整が甘すぎてボヤっとしか写っていない。
それでもなんとか判別できるのは、「楔」の特殊な形のおかげだろう。
「埋まってイルのであれバ、掘り出せバ、いいのではないですカ?」
「コーネルの言うとおり、それができれば越したことはない。だが、色々問題がある。まずコイツが何かわかっていないことだ」
「それこそ除去してから考えればいいのではないですか?」
紅葉が手を挙げて発言するが、宗次は首を横に振った。
「なにかわからないということは、なにが起こるかわからないということでもある。堀りだそうとした瞬間に暴走、搭載してる蒸気機関を
「……爆弾ということはないのでしょうか。花やしきが華撃団の支部と気がついて、それを付近に設置していったという可能性もあると考えられます」
宗次の言った爆発という言葉からそれをイメージしたのはしのぶである。そしてそれに答えたのは釿哉だった。
「あ~、おそらくだがそれはない。オレたち練金班も真っ先にそれを疑ったからな」
花やしき支部の直近に爆発物が埋設されたのだとしたら一大事である。
もし敵が花やしき支部の存在に気がついているのなら最も高い可能性となるのはしのぶの着眼点からも明らかだ。
「完全に解析できないまでも見た結果、そういう機構は確認できていない。まぁ、見た感想になっちまうが、もし爆発させるだけだとしたらコイツは大きくて複雑すぎる」
釿哉が腕を組んで難しい顔をしながら解説した。
「爆弾ではないというのは僕もそう思う。そもそも爆弾ならとっくに作動させてるだろうからね。黒之巣会が花やしき支部に気がついているなら、こんなでかいものを設置しておいて、御丁寧に今まで爆発させずに待っていてくれるわけがない」
その説明を梅里がフォローする。華撃団の施設とわかっていれば即座に爆破しているだろうし、気がついていなかったにしてもここまで巨大な爆弾を花やしきに設置する理由が弱い。
帝都には花やしき以上に人が集まるところや、政府要人が集っているようなテロの標的となるいくつもある。
それに埋めてあるとはいえ長期間放置すれば、見つかる可能性は日増しに上がるのだから長期間爆発させない理由は見当たらない。
「解析は錬金術班には引き続き行ってもらうとして、本題はそこじゃない」
宗次が最初の「楔」が写った資料を手にした。
「これを他の場所にも設置されていないか、確認することだ」
「他にも埋められていると?」
和人の問いに宗次はうなずく。
「あくまで可能性の話だ。コイツの埋設は羅刹という敵幹部が直接行っていたのだから黒之巣会にとってはかなり重要な作戦だろう。浅草でしか行われなかったという可能性はあるが、他でも行われなかったかを確認するべきだとオレは思う」
宗次はそう言って梅里を見た。
それに対してうなずく梅里。
「爆弾ではないとすればなんなのか、って考えたんだけど、敵が何らかの儀式や呪法をしかけていたとしたら、その要になるものが設置されたという仮説も立つからね」
様々な可能性を考えたが、おそらくそれが一番可能性が高いと思っている。
「もし敵の狙いがわかれば、今まで後手後手に回っていた華撃団が、先手を打つきっかけになるかもしれない」
「確かにワレワレは、敵が出たところヲ叩いてイルだけですからネ」
コーネルの言葉に梅里はうなずいた。
「そのためにも、今まで黒之巣会が出現した場所を中心にコレか類似するようなものが埋まってないかを確認する」
「今までといいますと、主なものは上野、芝、築地……でしょうか?」
指折り数えるしのぶにうなずく梅里。
「そう。浅草はもう確認してあるからね。ただ、どこにあるかはさっぱりわからないから大規模な調査になる。おまけにひょっとしたら無駄骨になるかもしれない。それでもやる価値はあると僕も思ってる。みんな、協力してくれないかな?」
梅里が言うと、せりがくすくすと笑い出した。
「隊長、なんで問いかけるのよ。そこで命令しないと締まらないじゃないの」
「あ……そうか」
梅里が決まり悪そうに宗次を見る。彼は大きくうなずいた。
しのぶを見る。もう一人の副隊長も、力強くうなずく。
見渡せば、誰もが一様にうなずいてくれた。
「ありがとう、みんな」
梅里が頭を下げるのを見て、皆一様に「こっちの方がうちの隊長らしいな」と思っていた。
「──さて、ここから先はオレが説明する」
そう言って得意げに出てきたのは、錬金術班頭の松林 釿哉である。
「さっきの「楔」だが、調査の上で厄介なのは、コイツが地中にある、ということだ」
「さっき地中に埋められたと言っていたじゃないですか。なにを当たり前のことをいっているのですか?」
不思議そうな目で言う紅葉に、なにかバカにされたような気がしてイラッとくる釿哉。
「あのなぁ、その当たり前に埋まっているものを、お前はどうやって発見し、それを証拠とするのかな?」
「それは地図にでも記して……」
「場所はそれでいいかもしれないが、それが間違いなく埋まっているという証明を、どうやってするつもりなのか、と訊いているのだよ、秋嶋クン」
釿哉の責めに、困り果てる紅葉。
「う……掘り返す?」
「それができれば解決しとるわ! さっきの話、お前はなにを聞いていたんだ! 浅草と同じように、念写で撮影してそいつがあるのを確実に記録する必要がある。霊力反応だけでは囮を埋められている場合には騙されることになるからな」
「なるほど。その通りですな」
釿哉の言葉にうなずく和人。
「で、そこで問題になるのが、さっきせりの報告にあった念写が大変だという話だ。そのときに必要なのが──コイツだ」
そう言って取り出したのは、カメラのような機械だった。
「なにそれ?」
せりの問いは他の全員の疑問を代弁するものだった。
「こいつは、妖気の妨害をも突破できる念写用のカメラ、『ヨクトレール』だ!!」
バーン、と写植が入りそうなポーズで掲げた釿哉だったが、他の反応は薄かった。
冷めた目で釿哉と機械を見ている。
「あれ? これのスゴさ、わかってない? 念写だとピントを合わせるのも勘任せで失敗しやすいし、おまけに人によっては念写するたびに高価なカメラを壊す人もいるらしいんだけど、そんな心配をしなくていいように念写専用のカメラを作ったわけで……」
「いや、それは助かるんだけど……やっぱり名前が、ね」
梅里が人差し指で頬をかきかながら言った。
それに梅里と釿哉を除いた全員が見事にうなずく。
「なにをッ! この斬新なネーミングに何の不満があるというのか!!」
「いつもと同じの3秒で考えたようなネーミングじゃないの!! 良く撮れる? ふざけ過ぎ」
あきれた様子でそう言ったのは、せりだった。
「やれやれ、凡人はコレだから困る」
肩をすくめる釿哉の行動と発言に、せりの表情がムッとしたものになった。
「毎回そんなことはないが、今回のは特に違うぞ! 狩りを意味する『ヤークト』と手がかりを意味する『トレイル』、つまりは痕跡を捕まえるという意味で組み合わせた結果生まれたのが、この『ヨクトレール』という名前だ!!」
そう言って胸を張る釿哉に──
「ヤークトはドイツ語で、トレイルは英語ですガ?」
──コーネルの一言が突き刺さる
釿哉はしばらく胸を張ったまま固まっていた。
が、急に逆ギレして騒ぎ始めた。
「──ッ!! チクショー!! お前ら寄ってたかって言いやがって! なにか、お前らはアレか! 『撮影くん』とか『念写くん』とか『盗撮くん』の方が良かったって言うのか! ああん!?」
「『盗撮くん』はさすがによろしくないのではないでしょうか……」
困ったように苦笑するしのぶ。
するとそこへ──
「……なんか、ウチの発明品の悪口が言われてる気がするんやけど」
ひょっこり、眼鏡をかけ、髪を二つの三つ編みに纏めたチャイナ服の娘が現れた。
帝国華撃団花組の
同じように錬金術班の頭としてざまざまな道具や資材、それに薬に至るまで開発に関わっている釿哉とは顔見知りだった。
「出たな! 紅蘭!!」
自分のネーミングセンスを酷評されて攻撃的になっている釿哉が噛みついた。
「なんやなんや、誰かと思えば
いきなり始まった口げんかに、見ている一同はあきれた感じで「どっちもどっちじゃないの」と思った。
すると、ふと『ヨクトレール』を手にした紅蘭が目を輝かせる。
「ん? これは……ここがこうなって、ふむふむ……念写で……いや焦点が自動で合うやて? これ、すごいやないの」
「だろ? そうだろ? この自動ピント合わせ機能のすごさ、わかるか?」
「悔しいけど、さすが釿さんや。……そうや。これに透過と、望遠と、拡大、それに過去写、未来写まで機能を付けたら……」
「ダメだダメだ! 機能を盛りすぎだ! シンプルが一番だろ!」
意気投合しかけたと思ったら、また喧嘩し始めた。
「まとめられるものはまとめて多機能にした方が、それ一つですむやないの!」
「それだと壊れたときにまとめて使えなくなって困るだろうが! シンプル・イズ・ベスト! 特化こそ美徳!!」
「現場に機材をぎょうさん持って行く方がナンセンスや!」
機能を一つに絞るべきという信念の釿哉と、多機能こそ至高と言い張る紅蘭。
その二人の終わりの見えない争いに、夢組の面々はどうしたものかと考え始めていた。
【よもやま話】
ちょっとカオスになりすぎたと反省。
前回ちらっと紅蘭が書きづらいと言ってしまったので、今回出してみました。ええ、気がつけばほとんどしゃべってないわ。知らんけど。