サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─4─

 松林 釿哉の説明は、李 紅蘭の乱入と始まった技術論争で完全に中断していた。

 そのおかげですっかり会議という雰囲気ではなくなり、空気はだれ始めている。

 それは梅里も同様で──

 

「……隊長、ちょっといい?」

 

 そんな梅里に小声で話しかけてきたのは、いつの間にか近くにきていたせりだった。

 

「さっき言ってた「楔」の調査なんだけど、あれよりも優先して欲しいことがあるの」

「あれよりも優先って……よほどの事態かい?」

 

 梅里が驚いた様子でグッと迫ってきたので、せりは思わず目をそらす。

 

「あ、えっとそれは……まぁ、とにかく、この前言われた深川の調査、あれをかずらと行ってくれないかしら?」

 

 言われて思い出す。

 あれは深川で、最近になって怪蒸気の目撃が相次いでいるという話があり、そのための周辺調査だったはずだ。

 とはいえ付近に幽霊屋敷と呼ばれる家があり、それにまつわる怪談とゴチャゴチャになっていて、どうにも信憑性が低い。

 言ってしまえば見間違いのような話、という事前報告だったと梅里は記憶している。そういう意味では危険度は低いように思えた。

 梅里は視線を動かし、かずらを見る。彼女もまた夢組の調査班副頭という幹部なために今回の会議には参加していた。

 だが、明らかに元気がない様子だった。今まで居なかったのかと思うほどで発言もしなかったし、釿哉の説明にも興味のあるなしどころかただ話を聞き流しているようにさえ見えていた。

 

「まぁ、あの案件なら危険はないから大丈夫だろうけど……」

 

 その元気のない原因が自分にあるとは思っていない梅里は、いつも通りにかずらが危なくないように、と真っ先に考えていた。

 

「でもさ、せり。アレって僕がいく必要、ある?」

「……やっぱりあなた、かずらを意図的に危険な任務から外してたのね」

 

 せりの指摘に不思議そうな顔をする梅里。

 

「そうだけど?」

「それじゃあダメなのよ」

 

 ため息混じりに言うせりに、梅里は余計に疑問を深める。

 

「なにが?」

「かずら、あなたに嫌われてると思ってるわよ、梅里」

 

 言われて驚く梅里。

 

「は? え? なんで?」

 

 

「そうです。なんでですか? なぜ名前呼び捨て?」

 

 

 突然会話に割り込んできたその人に、せりは驚きの目を向ける。

 

「──はい?」

「いつからお二人は名前を呼び合う「すてでぃ」な関係になったんです?」

「「はぁッ!?」」

 

 驚く二人に声をかけてきたのは大関ヨモギだった。彼女がいつもの半目で梅里とせりを見比べる。

 

「ちょ、ちょっとヨモギ。私と、う…隊長はそんなんじゃないから……」

「あ、白繍嬢。別に動揺も否定しないでいいですよ。私は特段、隊長に興味あるわけではないですし」

 

 そう面と向かって言われるのも傷つくものだなぁ、と思う梅里。

 

「それに広めたりしませんから。(わたし)的にはぶっちゃけどうでもいいので。あ、でも由里さんあたりに買収される可能性もありますね。ですから、先行投資するのがオススメです。強要はしませんが」

「さらっと脅してるんじゃないわよ」

 

 そんな風にせりが抗議するとそれが聞こえたのか、釿哉がヨモギの方を見る

 

「こら、ヨモギ! お前、夢組なんだからオレの味方しろよ」

「はぁ、そうですね……がんばれー、釿さーん。きゃー、すてきー、かっこいー」

「応援が雑すぎる。お前なぁ」

 

 そう言って抗議する釿哉を、ヨモギは冷めた目で見る。

 

「いえ、これくらいで妥当でしょう。あなたの作るものは用途が限定されすぎているのは事実ですから」

「そうなのかい?」

 

 梅里の問いにヨモギがうなずく。

 

「はい。鼻の穴を洗うだけの機械とか、のどの奥のためだけの消毒薬とか、そこまで特化する意味が分かりません」

「そういうのが暮らしを豊かにしていくんだよ! それにほら、アレだ! 光武専用芳香剤。あれは好評だったぞ!」

 

 そんな釿哉の反論に、ヨモギは──

 

「確かにそうですね。神崎嬢には「いい発想ですわ!」と言われてましたし、マリア嬢も「これなら長時間の行動でも耐えられそうね」と言われ──」

「だろ?」

「実際、付けてみたら臭いが強すぎて桐島嬢には「くせー」と大好評……」

「え? そんなこと言われてたの?」

 

 ショックを受ける釿哉。

 

「気づいてなかったんですか? それと、あの花やしき支部の地下トイレに設置した珍妙な機械。あれも不評です」

「珍妙な機械?」

 

 せりが眉をひそめると、ヨモギはうなずいて説明した。

 

「お尻の穴に水を拭かけて洗うという、前代未聞、驚天動地の変態機械でした」

「──え?」

 

 想像したのか、顔を赤くして「うわー」とドン引きするせり。

 

「なッ!? オレの『シリウォッシュ』の快適さが、お前らにはわからんのか!」

 

 そんな彼の主張に、男も女も軒並みドン引きである。

 あのしのぶさえも眉をひそめ、普段見せない瞳が見え隠れするほど不快そうにしていた。

 ちなみに名前はフランスの菓子パン「ブリオッシュ」のように愛されるように──らしい。フランス出身のアイリスが聞いたらさぞや激怒して、いつぞやの大神のように電撃のような衝撃をくらうことになるだろう。

 

「これが普通の反応です。ほら、明日にでもすみやかに花やしき支部の女子トイレから撤去してくださいよ。おかげで一部屋誰も使わなくなっているの大迷惑です」

「マジか。ショックだわ」

「──釿さん、発明に失敗は付きものやで」

 

 ニヤニヤと慰める紅蘭に、釿哉は吠える。

 

「うるせぇ! オレのは失敗じゃねえ!」

 

 釿哉にしてみれば、完成直後は「すごく画期的なものを作ってしまった」と浮かれ、勢いに任せた親切心で男性用と女性用の一カ所ずつにつけたのだが……

 太正の時代は『シリウォッシュ』──水洗浄便座が受け入れられるにはまだ早すぎたようだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──そんなこんなで後半はすっかりグダグダになった会議ではあったが、その『ヨクトレール』という念写用撮影機は複数台作られて配備されているので、確実に使うようにと指示されたところで解散となり、人がバラバラと出て行った。

 そんな中で、かずらだけはその流れに乗ることなく、ぽつんと残っていた。

 

「……おや、会議は終わりですよ? 居眠りでもしているのですか?」

 

 そんなかずらに声をかけたのはヨモギだった。

 かずらがヨモギを見る。その顔色の悪さにヨモギは思わず彼女の額に手をあてた。

 

「ふむ……熱はないようですね。体のだるさはありますか?」

 

 首を横に振るかずら。それに合わせて三つ編みにしたふわふわの髪がわずかに揺れた。

 

「体に異常はないようですが……」

 

 問題は心の方か、とヨモギは判断した。

 だがそれは専門外──いや、ある意味専門ではある。

 彼女は霊力を使った特殊な能力がある。言霊を使った暗示だ。

 それで一時的に元気を出させることは可能かもしれないが、それは一時しのぎでしかないのだ。

 

(……正直、面倒ですね)

 

 心の中でため息をつきつつ、「地雷を踏んだ」とヨモギは思った。

 しかし具合が悪そうな人を放っておけないのもまた医者の(さが)なので仕方がない。

 さて、どうしたものかとヨモギが思ったとき、かずらが口を開いた。

 

「あの……どうしたら失敗しないんですか?」

「前向きになることですよ。今のあなたのような後ろ向きの姿勢では失敗を呼ぶだけです」

 

 即答するヨモギ。だがその返答はかずらにとって余りに鋭すぎた。

 うつむくかずら。それをヨモギは半眼で睨む。

 

「ふむ……私から聞きたくてそれを聞いたのに受け止めずに現実逃避ですか? それなら聞かないでほしいものですね。ええ、まったく時間の無駄です」

 

 ますます顔をうつむかせるかずら。

 

「もし、時間を無駄にするつもりがないのなら、“顔をあげなさい”」

 

 反射的に顔を上げるかずら。

 

(──え?)

 

 そんな自分に自分自身が一番驚いた。

 もちろん、上げさせられたということには気づいてない。

 

「なるほど、よろしい。では教えてあげましょう」

 

 いつもの調子でヨモギはうなずき、説明を始める。

 

「事前に準備を整える。これは基本です。その上で、自分に自信を持つこと」

「自分に自信を持つ……」

 

 今の自分には厳しいことだとかずらには思えた。

 その表情でヨモギはかずらの内心に気づく。

 

「今の自分に自信が持てないのですか?」

 

 それにうなずくかずら。

 

「例えばあなたが今日、大失敗して自信を失っていたとしましょう。それなら昨日の大失敗していない自分の自信を思い出しなさい。そして、明日の大失敗を乗り越えた自分の自信を思い描きなさい」

 

 情感を込めず、淡々と話すヨモギの言葉は不思議とかずらの弱った心に染み入った。

 

「人は今を生きるのであって、今だけを生きているわけじゃないんですから」

「ホウライ先生……」

「今までのあなたはそんなに情けない人ではないはず。認められたこと、誉められたこと、数々あるはずです。それを大切になさい。それらを思い描き、そして自分に言い聞かせるのです。失敗しない、と」

「失敗、しない……」

 

 かずらの言葉にヨモギはうなずく。

 

「これであなたも“前向きになれる”」

「はい!」

 

 かずらのいい返事にヨモギはもう一度うなずき、

 

「では調査、がんばってください」

「はい。任せてください」

 

 自信を取り戻したかずらは頭を一度下げてから部屋から出ていく。

 それを見送り、かずらの姿がなくなると、ヨモギはため息を付いた。

 『暗示』を使った反則のようなものだが、これで前向きになってくれればいい。骨折した骨がつながるまで支える、添え木のようなものなのだから。

 

「ま、気休めとはいえ、きっかけになればいいですね」

 

 やれやれ、と思いつつ彼女もその部屋を去った。

 




【よもやま話】
 ─2─で書いたように、そこでしのぶフラグ立てたのは急に思いつきでやったけど、元々の構想ではここでしのぶフラグ立てるつもりだったらしい、自分。このウォシュレット回でどうやってフラグ立てようと思ってたんですかね、私は?
 ちなみに当初は─3─と一緒のシーンになってましたが、結構長めになったので分けました。そうしたら逆にかなり薄い感じの話が二回続くことになったのは反省点です。
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