サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
かくして梅里とかずらが参加して深川の調査任務を行うことになった。
当日は早朝からの任務だった。
しかし夏の日の出は早く、すでに明るくなっているような状況であった。
まだ暑くなる前にやってきた場所は深川の外れ。
その付近で目撃される脇侍の調査──のはずなのだが、どうにも信憑性に疑問が残るものだった。
目撃証言は曖昧で、数も少ない。
おまけに近くには幽霊屋敷と呼ばれている旧華族の放置された屋敷があり、怪談のネタにされているような有り様。
こうなってくると夏という時期も相まって、怪談話から発展して「幽霊が出た」が時事ネタの「脇侍が出た」に変換されたのではないか、という疑いが強い。
正直、眉唾ものではあるが、脇侍が出たという情報があれば万が一に備えて調査はしなければならないのだ。
「──そんなわけで目撃情報も曖昧だから、調査範囲もかなり広くしないといけない」
と、説明する梅里。
夢組の活動ということで、すでに戦闘服へと着替え、腰には愛刀を帯びている。
「なるほど……そうなんですねぇ……」
そう言って相づちをうつ、かずらもまた袴の色が萌木色という特別な夢組戦闘服姿だった。
そんなかずらの様子は、端から見てちょっとおかしかった。
「かずらちゃん、ちゃんと聞いてる?」
思わず梅里が聞くほど、ボーッとしているように見受けられる。
「え? 大丈夫ですよ。ちゃんと聞いてますよ」
キョトンとした顔でかずらはそれに答える。
しかし、内心は久しぶりの梅里との任務に舞い上がっていた。
(やったああぁぁぁぁッ!! 久しぶりの隊長と一緒の任務!! うん、ここで頑張っていい所見せて、私を見直してもらわないとッ!)
心の中でガッツポーズを決めるかずら。
(曖昧な目撃情報の調査ってことは、時間がかかるということですよね。その分、一緒にいられる時間も長くなるということで……)
などと見事に乙女脳になってしまっている。
どこまでも前向きな姿のかずらは、ここ最近見られていた落ち込んでいたような様子が無く、梅里は違和感を感じていたのだ。
もちろんそれには理由がある。この前のヨモギが施した「暗示」が思いのほか効き過ぎてしまい、気持ちが──とくに梅里に対する気持ちが前向きになりすぎているからである。
「……それならいいけど。広範囲の調査だから、かずらちゃんの反響探査に期待してるからね」
そんな梅里の言葉には──
(隊長が期待してるって……私の能力を評価してくれてうれしいです)
ニコニコ顔になるが、すぐに──
(でも、あまりに早く終わってしまうのは、もったいないですよね……)
そう考えて困り顔になる。しかし──
(かといって、あまり時間がかかってはの役に立たないと思われてしまいます。ガッカリされるのは絶対にイヤです!)
そうして決意を新たにし──
(とにかく一生懸命がんばろう。そしてありがとう、せりさん)
調査を計画してくれたせりに感謝していた。
もうとにかく表情がころころ変わる。そんなかずらの様子に梅里も「変だよなぁ」とは思っていたがわざわざ指摘するのもどうかと思っていた。
そしてかずらはせりに感謝していた。
そう、感謝しているのだが──
「さぁ、今日はがんばりますよ! 妹よ!!」
「はい、姉様ッ……」
かずらの横では、同じ顔をした二人の女性隊員が気合いを入れ合っていた。
お互いにサイドテールの髪型で、それが右か左かというくらいしか違いがない。
「特別班四天王が一人!
「同じく
「「本日は、よろしくお願いいたします!!」」
二人そろって、梅里に向かって元気よく敬礼していた。
……ちなみにサイドテールが右から出ているのが絲穂で、左から出ているのが絲乃である。
──さて、この前日のこと。
「明日の調査だが、このメンバーで間違いないのか?」
花やしき支部の執務室で計画書を見ていた宗次は隣にいたティーラに確認した。
「どれですか? ……ええ、間違いないですね」
「ほう。あの調査を梅里が担当したのか?」
「まぁ、そのあたりはいろいろあるようです」
宗次の言葉に、普段あまり感情を見せないティーラが珍しく苦笑する。
「むぅ、いろいろと言われてもな。事情を知っているのか?」
「ええ、まぁ。カズラのスランプが原因らしいのですが……」
それで梅里とかずらがメンバーになっているのか、と宗次は納得した。
しかし──
「この程度の任務に、この4人はさすがに過剰じゃないのか?」
ついこの前、梅里が今まで黒之巣会が現れた場所の再調査を命じたばかりである。そんな矢先に、眉唾な噂の調査に、それも夢組隊長と幹部、隊長直属の特別班の4人編成とはあまりにやりすぎだ。
宗次の突っ込みに、苦笑どころか笑い出したティーラ。
不思議そうに見る宗次に、ティーラは答える。
「それを決めた人は、それほどの事態だと思ったのでしょう」
相変わらずくすくすと笑うティーラにを訝しがりつつ、宗次は確認する。
「決めたのは誰だ? 梅里か?」
「いえ、調査班の案件ですから、調査班頭ですよ」
「白繍が? いったいなぜ……」
「さぁ? 乙女心、ですかね」
そう言ってティーラは相変わらず笑っていた。
──舞台は再び再調査の場へと戻る。
(せりさん、なんでこの二人付けたんですかぁ)
さっき感謝したせりに思わず手のひらを返すせり。
特別班所属の近江谷 絲穂と絲乃の双子の姉妹が梅里とせりの他に派遣されていた。
もちろんそれには理由がある。
編成したせりの言い分では「調査担当にかずらと、その警護に戦える隊長。それに何かあっても対応できる汎用性の高い特別班の【双子】を付けました」とのことで、問い合わせてきた宗次にも押し通している。
特別班は隊長直属なのだから、梅里に付けるのはある意味当然なのだが──
「さぁ、見ていてくださいよ、隊長! いきますよッ!」
「私も……がんばります」
ギヤマンのベルによるダウジングが始める二人。
しかも「はッ!」とか「やぁッ!」とか謎の掛け声を挙げている。ダウジングをするだけなのに。
こんな感じでこの二人、とにかくうるさい。
特に姉の絲穂の意気込みがすごく、無駄にテンションが高く、基本的にノリが熱血なのであった。
妹の絲穂は少し恥ずかしそうにしながらも、それに付いていくあたりは同じ穴のムジナである。
──それこそが、編成を組んだ人の真なる狙いでもあった。
「この二人を付ければ、間違ってもいい雰囲気になんてならない。絶対に間違いも起きない。うん、完璧」
計画書を作りながら密かに拳を握るせり。
──そんな感じで、まさか裏切られていたとは知る由もないかずら。
少しガッカリしながら、梅里を盗み見る。
彼もまた、双子と同じように、ギヤマンのベルを取り出して調査しようとしていた。
「ん? かすらちゃん、どうかした?」
「い、いえ、別に……」
「時間をかけると暑くなる一方だから、さっさと始めちゃおう」
そう梅里に笑顔で言われ、かずらは自分がバイオリンをケースから出してさえいないのに気が付く。
「あ、いけない。ごめんなさい」
慌てて取り出して握りしめ、またこっそり梅里を見ると、その様子を見ていたらしく笑顔を浮かべられ、かずらも思わず照れ隠しの苦笑を返す。
それからは調査一辺倒だった。
近江谷姉妹はそれぞれ気合いを入れて周辺を調査して回り、危うく妹の絲乃が危うく日射病になりかけた。
梅里も最初は姉妹同様にギヤマンのベルでダウジングをしていたのだが、絲乃がフラフラになったのを見て絲穂に看病を任せ、かずらを心配してすぐ近くにやってきた。
かずらは自分の霊力を音にのせてその反響を聞いていたのだが、今のところ怪しい反応はない。場所を変える等していると、梅里が近づいてきた。
「無理しないようにね」
と言って、日傘をさしてその影にかずらを入れた。
「え? 隊長、日傘持ってきたんですか?」
「ああ。といっても僕のじゃなくて、塙詰副隊長が昨日のうちに「暑くなるでしょうから持って行った方がいいですよ」って渡してくれたんだよ」
「しのぶさんが? さすがですね」
日傘を見ながらかずらは感心していた。そういうところに気が回るのは、大人な女性という感じがして、かずらもそうなりたいと憧れる。
「……さて、それにしても反応がいまいちだなぁ」
それがある程度、調査を進めての梅里の感想である。
かずらの音響探査に反応はなく、他三人のダウジングもこれといった成果はない。
そんな中、唯一の成果が──
「反応するのはこの屋敷くらいですね……」
かずらが屋敷を見上げる。
梅里たちは事前情報のあった幽霊屋敷のすぐ近くにいた。
ちなみにそれ以外にはかずらの演奏にも梅里達のダウジングにも反応はなく、もちろん脇侍の姿もない。
調査に一休みをいれているのが現状で、この幽霊屋敷を指で指し、「あの怪しい建物こそ諸悪の根元では!?」と騒いだ絲穂はいない。少し離れた場所の大きな木陰で、ダウンした絲乃の面倒を見させている。
「反応があるといっても、なんか違うんだよね」
「私もそう思います。魔操機兵が持つ
困惑気味に眉根を寄せて、かずらがそう言ったときだった。
突然、梅里がかずらの両肩を掴む。
「ひゃん!」
驚いて梅里を見ると、彼はまじめな顔でかずらをジッと見つめていた。
「隊長。きゅ、急になにを……」
両肩を掴んだ梅里は、そのまま草むらにかずらを押し倒す
「な……なにを。隊長!?」
「しッ!」
梅里は人差し指を口の前に立てて、かずらに静かにするよう促す。
「え? え? でも……」
「静かに……ちょっとの間だけでいいから。たぶん、すぐ済む……」
ジッと見つめられて梅里に言われ、かずらは思わず黙り込む。
しかし、内心では──
(ええええぇぇぇぇぇ────ッッッ!!)
心の中に大音量の大声を響かせ、顔を真っ赤にしていた。
(そんな隊長、強引すぎます。こ、こちらとしましても心の準備というものが……あぁ、お父様、お母様、お許しください。でもこの人ならきっと、お二人のお眼鏡にかなうんじゃないかと……)
思わずギュッと目を閉じて、手を胸の前であわせて握る。
体を強ばらせ、ジッとしていた──のだが、
(ないかと…………ないかと…………あれ?)
いつまで経ってもなにも変わらず。不思議に思ったかずらが怖々と目を開けると、目の前にはかずらの方ではなく、かずらの頭の上の先をジッと見つめる梅里の顔があった。
「あの……隊長?」
「うん、もう少し静かに、ね」
梅里はかずらごと草むらに隠れ、何か様子を伺っているようだった。
それに気が付き、そして自分の勘違いに気が付き、かずらは顔から火がでるほど恥ずかしくなってくる。
(あぁー、もう! 私ってば何を考えてるの……)
しかし、梅里も梅里だと思う。
もう少し説明があってもいいだろうし、形的には押し倒しているのだから。
そんな気恥ずかしさからどうにか立ち直ると、かずらは梅里が何を見ているのか気になった。
そちらの様子を見ると──
「──え? 脇侍?」
思わず声がでていた。音量を押さえられたのは上出来だろう。
なにやら少し離れた屋敷の敷地内に脇侍が数体集まっている。
そしてその中心には──
「あれって……」
「……黒之巣死天王の一人、紅のミロク」
赤い着物の花魁風の出で立ちは、この場にはまったくそぐわないのもあってかなり目立っている。
彼女の目の前には、蒸気を吹き上げる機械がなにやら稼働しているように見えた。
「オン キリキリ バサラ ウンバッタ オン キリキリ……ええい、まだ打ち込む事はできぬか……やはり、この屋敷をなんとかせねば……」
悔しげにその機械と屋敷をにらむミロク。
それを見たかずらが小声で訴えた。
「隊長、あれ……」
「ああ、わかってる。浅草に埋められていたヤツだ」
これは収穫だ。やはり予想通りにあれは爆弾などではない。この屋敷を破壊するのにわざわざ埋設する必要なんて考えられない。
となれば、魔術等の儀式に使うものだろう。ミロクが埋設を試みた時に真言を唱えていたのもその証拠だ。
梅里は気づかれないようにゆっくりと立ち上がり、手を貸してかずらも立ち上がらせる。
そしておもむろに取り出したカメラで撮影する。しかし距離は遠く、視界が通っていないので「楔」を撮影できるわけがない。
それが、普通のカメラならば、だ。
「それ、この前の『ヨクトレール』……」
「そ。撮影完了したし、気づかれないうちに退くよ」
「は、はい……」
声を抑えてうなずき、ゆっくりと足を進めて距離をとる。
その速度はきわめて遅かったが、その甲斐あって、気が付かれることなく離れることができた。
屋敷の敷地から出た梅里とかずらはとりあえずホッと一息をつく。
──それが、油断だったのかもしれない。
「おーいッ! 隊長ーッ!!」
「──なッ!?」
その大声に梅里とかずらは絶句する。
見れば、二人を見つけた近江谷 絲穂が大きく手を振っていた。
「何ッ!? 今の声は……脇侍ども、確認してきなさい」
背後ではミロクのそんな声が聞こえている。
「マズい! かずらちゃん」
梅里が抱えようとするが、かずらはそれを察知して距離をとり断った。
さっきの勘違いを思い出して気恥ずかしかったのだ。
「大丈夫です。私も走れます!」
「わかった。急ぐよ!」
梅里とかずらはあわてて絲穂の方へと走り始める。するとその後ろにもう一人、そっくりな人影があった。
「しめた! 絲乃も起きてる!!」
梅里が呟く。
「隊長? いったい何事ですか!?」
訝しがる絲穂とその後ろの絲乃に向かって、梅里は短く叫ぶ。
「飛ぶぞ! 準備!!」
それで意味が分かった二人は顔を見合わせると、2、3歩の距離をとって向かい合った。
そして二人は霊力を高め、そして同調させ、さらに高めていく。
「あれは……」
かずらも聞いたことがあった。近江谷姉妹は双子の二人の霊力を同調させることで増幅させ、常人ではできない特殊能力を使うことができると。
例えば、全員が高い霊力をもつ花組の中でも、特に高いとされるアイリスにしかできない瞬間移動を、それも他人を巻き込んで行うことができる。
今使おうとしているのはまさにそれだ。
後ろで聞こえた蒸気が噴き出す音に、かずらがそちらを伺うと脇侍の姿が見えた。
しかし梅里もかずらも、もうすぐ近江谷姉妹のところへたどり着くことができる距離だった。
そして二人の霊力同調は、すでに最大へと高まっている
間に合う──そう思った時だった
「──えっ!?」
かずらの足がもつれた。
振り返ったせいで体勢がわずかに崩れ、しかも後ろを見たせいで足下の注意がおろそかになっていたのだ。
地面に叩きつけられる体。
「──ッ!!」
その痛みをこらえて前を見ると、近江谷姉妹の間に、梅里はすでに入っている。
姉妹の霊力はさらに高まり、まさに最高潮だ。
(──置いて行かれる!)
かずらがそう思って思わず手を伸ばす。そして──。
「なッ!?」
「「隊ちょ──」」
二人の間から梅里が離れ、かずらの手を取る。
姉妹の瞬間移動が発動したのはそのときだった。中途半端な言葉を残してその姿が消えている。
「隊長、どうして……?」
「いいから! 走るよ!!」
せりの手を引き、走り始める梅里。
その二人に気づいた脇侍が追跡を始めると、さらにその後方から現れたのは──
「なに!? 貴様らは!!」
紅のミロクだった。
彼女は梅里たちを見るや、その戦闘服から帝国華撃団と判断して指示を出す。
「追え! 絶対に逃がすでないぞ!」
──梅里とかずらの必死の逃走劇が始まった。
【よもやま話】
特別班四天王の3人目、4人目が登場。
もう少しうるさい感じのイメージでしたが、意外と出番がなかったのでそれほどでもありませんでした。
姉は熱血バカ。妹はちょっと弱気だけど一生懸命それについて行く、というタイプです。