サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
本部へと帰還した近江谷絲穂・絲乃の姉妹によって、梅里とかずらの危機はすぐに伝えられた。
捜索班が組織され、また脇侍の出現も確認されたことから事態を重く見た米田は花組を召集する。
しかしその直後、花組隊員が集まる前に待ったをかけたのは、花やしき支部から通信を使って連絡をしてきた夢組副隊長の巽 宗次だった。
「……いったいどういうことだ、巽」
米田が真意を測りかね、帝劇本部の作戦司令室から花やしき支部の通信越しに尋ねる。宗次の傍らにはその直下の部下である夢組副支部長のティーラまでいる。
「花組の出撃は控えていただきたいと思いまして」
「そいつはすでに聞いてる。理由はなんだ?」
「前回、前々回と花組出動直後に重大な案件が発生しているというのもありますが……まだ花組の投入は早計かと思われます」
まず最初に宗次はそう言った。そんな彼を見て米田は促す。
「……話してみろ」
「近江谷姉妹が戻ってきてからしばらく経ちますが、隊長と伊吹隊員は完全に行方不明です。通信はもちろん八束の念話にも出ません」
「それはこっちも聞いている。敵に捕まっちまったってことか?」
もっとも考えたくない可能性である。
「それはないと思われます。遠見の千里眼では敵幹部が付近を探し回り、その後も脇侍が探し回っているのを確認してます。捕まっているのならそんなことはしないでしょう」
「それは分かる理屈ね。でも、それなら余計に急ぐべきじゃないかしら?」
あやめも疑問を呈した。本来ならその意見を無視してでも出撃を強行するところだが、それを退けるほどの強い意志を、米田は宗次から感じていた。
「武相隊長が通信にも念話に応じないのは理由があってのことだと思われます。隊長たちを最後に確認した屋敷周辺を遠見が見ても発見できなかったのも、周辺に潜伏すれば味方に発見される確率が高いにも関わらずそこを離れているということです」
追いつめられてその場を離れた可能性は否定できないが、それでも遥佳の千里眼を知っている梅里なら、その周辺にどうにか残って助けを待つはずだ。
「……梅里くんは、あえて逃げている、ということかしら?」
「その可能性が高いと思われます。隊長達の行動は、まるで見つけられるのを拒むような行動ばかりです」
ふむ、と米田も話を聞いて考え込んだ。
「それに考慮すると、ウメの目的として考えられるのはミロクの目を屋敷から遠ざけようとしているってところか?」
「おそらくは。連絡が取れないのも狙いが傍受されるのを恐れてかと」
「なるほどな。しかし問題は、なぜそんなことをしているか、ということだが……」
米田も腕を組んで悩む。
「……推論ですが、この幽霊屋敷には黒之巣会絡みでなにかがあるのではないか、と思われます」
「まぁ、そう考えるのが一番自然だな。しかしいったい何があるってんだ?」
米田の問いに「わかりかねます」と宗次が首を横に振る。
「なら、ここの調査をやるしかねえな。巽、お前は誰を向かわせるのがいいと思う?」
「神崎、桐島、それに大神隊長の3人がいいかと思います」
「なるほど、すみれにカンナに大神のヤツか──って、オイオイ! 夢組じゃねえだろうが!」
米田の指摘に巽が頭を下げる。
「おまえが冗談を言うなんて珍しい──いや、お前は冗談なんて言うタイプじゃねぇな」
「無論、本気です」
「その意図は、なんだ?」
「夢組は戦闘服でこの屋敷以外を探るべきかと思います」
「……陽動か」
うなずく巽。
「屋敷周辺を探れば、敵が隊長の追跡よりも屋敷を優先する恐れが出てきます。逆に隊長を捜しているそぶりを見せれば、何かを知っている隊長と我々が合流しようとするのを阻むことに注力し、屋敷が疎かになると思われます」
「なるほど。見事な作戦だ。しかし、屋敷の調査を花組を向かわせるのはなぜだ? 夢組で別働隊を出せば済む話だし、それが無理なら月組でも──」
「月組では霊的なものを見落とす可能性があります。それと……」
巽は言いよどみ、躊躇する。
「……予知か? ティーラの」
米田の確認に宗次が答えをためらっているうちに、ティーラが答えた。
「はい……花組のためには、その3人で向かうのが良い、と」
米田は少し思案した様子だったが「わかった」と了承した。
「恐れ入ります」
「なに、花組の奴らを出動させるつもりで呼んじまったからな。ちょうどいい」
「ええ、そうですね」
米田が冗談めかして言い、あやめもそれに苦笑する。
「なんとなくお前たちの狙いもわかってる。それが解決してくれると、『浅草の母』が保証してくれるのなら安心じゃねえか」
「米田司令……」
そう言う米田に不満げな顔をするティーラ。しかしさすがに米田には抗議ができない。
「おそれながら司令、その二つ名はティーラが嫌がります。できればやめていただければ、と」
「──え?」
ティーラは諦めていたのだが、抗議したのは宗次だった。それに驚いて思わず彼の方を見てしまう。
「お? そうなのか、ティーラ。そいつは悪いことをしちまったな」
あっさりと受け入れて謝る米田。
「ま、それもそうか。若い未婚の娘さんに対して『母』はねえよな。悪ぃな、ティーラ」
「い、いえ……」
逆に恐縮してしまう。そんなティーラがそっと宗次を盗み見るがその視線に気づくこともなく、宗次は生真面目に前を向いていた。
「あとはアイツらの霊感を生かすため、先入観持たせねえように最低限の情報だけ渡して調査させる、こんな感じでいいか?」
「……私はそれで。塙詰副隊長の異論がなければ」
「面倒くせえヤツだな。オイ、しのぶ。大丈夫か?」
米田やあやめの近くに待機し、今まで聞いていた副隊長の塙詰しのぶに確認すると、彼女は「よろしいかと思います」と返事をした。
しかし「ただ──」と付け加える。
そして彼女は通信画像の先のティーラへと視線を向ける。
「──あなたの予知や能力で隊長の位置は見えないのでしょうか? ティーラ」
その問いに、ティーラは困ったような顔をした。
「今のところ、見えません。少し前から思っていたのですが、私の未来視は隊長に及びづらいように思えるのです。隊長の属性の関係にも思えるのですが」
「──どういうことだ?」
興味を持った米田が尋ねる。
「隊長の属性は闇夜で闇を払う月光と聞いていますが、その本質が「鏡」であるとお聞きしました。鏡そのものを「見る」というのは存外に難しいのです」
「ハァ? 鏡なんざ毎朝見てるだろうが……」
「それは「鏡に映った自分の姿」を見ているのです。私たちは鏡そのものを見ているのではなく、「鏡に映った像」を見て鏡があると認識しているのです」
ティーラの説明で米田は小難しい顔をしながらガリガリと頭をかく。
「分かりにくいったらありゃしねえが、ウメを見ようとすると、「鏡」であるアイツに映るものが見えちまって本人のことは分かりにくいってことか?」
「その通りです」
それにティーラが頷くと、米田は腕を組んだ。
「興味深い話ではあるが、そいつは任務が終わってからだ。夢組は梅里とかずらの捜索にあたれ!」
「了解いたしました」「了解しました」
宗次としのぶが応え、ティーラが敬礼する。
「……ただし、屋敷の調査が終わるまで見つけるなよ」
付け加えた米田はニヤリと笑った。
【よもやま話】
宗次と米田の会話ですが、最初はティーラが直接米田に話しているという形で完成したシーンでした。でも宗次が出てきた方がスッキリする気がして、代わってもらったのですが、しのぶからティーラに質問させる必要があるのをすっかり忘れてて、あわててティーラをその場に居させたという経緯があります。
あれ説明させないと後々で困るんですよね。