サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~ 作:ヤットキ 夕一
「あ~、もう。なんでこうなるのよ!!」
そう言って夢組調査班頭の白繍せりは頭を抱えた。その大きな動きに応じて、頭の後ろに左右二つある短めのお下げが揺れる。
今は、行方不明の梅里とかずらのために出動した夢組の指揮を、副隊長の塙詰しのぶと錬金術班副頭の大関ヨモギと共に執り、深川で捜索中だった。
完全に裏目に出た。というのがせりの感想だ。
まず、あの任務を単純なガセ情報と甘く見てしまったこと。怪談話の現代アレンジと判断したのがそもそもの間違いだ。
それに起因して、少人数で調査メンバーを組んでしまったことも失敗だった。脇侍が数体いるという情報があったので警戒するメンバーも含めて倍以上の人数でやるべきだった。
(そこはかずらに気を使いすぎた、という点もあるのよね……)
ため息交じりで自分に弁解するせり。
そして何よりも肝心な三つめ──梅里とかずらが行方不明になっていることだ。
これまた少人数で向かったことが原因なのだが、これは対策を講じていた。
(あの二人を付けたのは、なにも邪魔しようっていうだけじゃないんだから)
少人数でも何があっても対処できる──最悪の場合には緊急避難で離脱できるようにと特別班の【双子】、近江谷 絲穂と絲乃を付けた。にも関わらず、そうなってしまった。
経緯は聞いたのでやむを得ない状況だったのはわかっているし、どうしても助けにいくと聞かない絲穂を、宗次が苦労して説得しているのを見ている。彼女の態度からもわざとじゃないというのは理解している。理解しているが──
(なんで、あの二人を、残して帰ってきちゃうのよ~!)
こともあろうに、双子だけで帰ってきたのはさすがにマズい。
梅里とかずらが二人きりということになるのだから。
(そう、マズいのよ。マズいわ。マズすぎる……かずらはなんだか梅里のことをやたらと慕ってたし、梅里は梅里でこの前はしのぶさん相手にデレデレしてたような見境無いヤツだし、なにかの拍子で押し倒したりしてるんじゃないでしょうね。それにピンチに二人でいると吊り橋効果? とかいうのもあるってこの前読んだ本に書いてあったし。なにより二人きりで逃避行なんてちょっとうらやましいシチュエーションはぜったいに──)
「──白繍嬢? 手が止まってますけど。やる気あるんですか?」
「は、はいぃッ!?」
自分の世界に入り込んでいたせりは一緒にいた練釿班副頭のヨモギに声をかけられて素っ頓狂な声をあげた。
そんな反応で出てしまった大きな声を聞いたしのぶは、感情が読みにくい細い目のまま、眉根をひそめて問いかける。
「あの……なにかありましたか?」
「い、いえいえ、なんでもありません。なんでもないわよ!? ほら、一刻も早くうめ──」
「うめ?」
「埋められているかもしれない隊長をさがさないとッ!」
不思議そうに首を傾げるしのぶに対し、冷や汗を垂らしながらごまかすせり。
そんな彼女をヨモギが半眼で見る。
「──それ、隊長死んでますね。おお、しんでしまうとはなさけない。なーむー」
「ちょっとヨモギ! 縁起でもないこと言わないッ!!」
「……言い出したの、白繍嬢なんですが」
問いつめたはずのヨモギにジッと見られ、せりは気恥ずかしくて思わず視線を逸らした。
そこからはせりの鬼気迫るような調査姿勢があったのだが、それでも二人は見つからなかった。
そんな彼女を見て、他の隊員達は「行方不明の隊員(自分の部下のかずら)を一生懸命探す班頭」として「部下思いの良い人だな」「やっぱりせりさんって思いやりあるよね」「優しくて面倒見がいい」と高評価をしていた。
そんながんばるせりの姿に、しのぶは苦笑しつつ声をかける。
しのぶは作戦の意図を理解しているが、それを機密保持のために周知徹底はしていない。せりのがんばり過ぎには正直、困り果てていたのだ。
「あの、せりさん。少し休憩した方がよろしいのではないでしょうか?」
「いいえ、まだ……まだ大丈夫よ」
「そうはいっても霊力を高めて探査していらしたから顔色が……」
「ですね。これ以上は医者として止めるべきところではありますが。それとも
「ヨモギさん!」
瓶入りの飲み薬をプラプラと弄びながら見せるヨモギを、さすがにしのぶが注意する。
だが、顔色悪いせりはフラフラしながらも、それを受け取ろうと手を伸ばした。
「いけません!」
あわててその手首をつかむしのぶ。
「なんで? 早く見つけないと、隊長もかずらも待っているんだし……」
「そのせいで、あなたが無理をしすぎるのはよくありません」
「でも……」
そこまで一生懸命なせりに、しのぶは「なぜ?」という疑問が浮かんできていた。
しのぶとしてはせりの与えられた仕事をがんばるという姿勢は理解できた。
梅里という隊長は夢組の要だし、かずらもせりから見れば部下にあたる。それを助けようという気持ちは理解できる。
だが無理をしてまで、ということが理解できない。無理をすることでかえって効率が悪くなる。それならば部下に命じて自分は休憩し、体調を整えてからまたやればいいことだ。
わざわざ非効率的なことをやるのが理解できなかった。
「なぜ、そこまで……無理をしてまで探すのですか?」
「……決まってるじゃない。大切な……仲間だからよ。かずらも、隊長も」
「仲間……」
「そうよ。しのぶさんもそうでしょ? 私たちや、それに一緒に陰陽寮からきた人たちの為なら、がんばれるでしょ?」
「え……?」
せりに言われて困惑する。
しのぶは頷けなかった。
彼女にとっては意外な質問だった。そんなことを思ったことなど無かったのだから。
もちろんせりを仲間だとは思っている。食堂の幹部メンバーも、陰陽寮から来て自分を陰日向で支えてくれている者達や、もちろん行方不明中の梅里やかずらも。夢組は仲間であるという思いはある。
だからお互いにフォローしあおうという気持ちもあるし、協力してことにあたるのは当然という仲間意識は持ち合わせている。
だが、それ以上はない。
例えば今にも崖から転落しそうな仲間がいたとしたら、せりなら急いで駆けつけ手を伸ばしてその手をつかむだろう。
だが、しのぶは違う。自分が引き上げられそうな程の軽さなら手をつかむだろうが、そうでなければロープなどの資機材を持ってくるか、助けを請う。間違いなく。
もし自分が手をつかんだところで共に落ちればより事態が悪化するだけだ。確実に助かる、または損失が少ない方を選ぶべきだろう、と考える。
だから頷くことができなかったのだ。
「と、とにかく、やはり体調を壊したら元も子もありません」
「だからその回復剤で……」
再びヨモギの方へと手を伸ばすせりを見て、しのぶは慌てて止めに入った。
「ええっと……それにほら、何が入っているかわかったようなものではありませんし……」
「あ、効能は保証します。飲んで大丈夫です。死にはしません」
「ヨモギさん!!」
空気を読まないヨモギを再び注意する。
だが、その隙をついてせりが瓶をつかんだ。
「あ!!」
呆気にとられている間にせりが蓋を開けると一気に飲む。そして──
「あ、ら……わた、し……?」
声を出して、もたれ掛かるようにせりがしのぶに向けて倒れた。あわてて受け止め、確認するとせりは目を閉じている。
そして寝息を立てていた。
「死にはしませんが寝ます。というオチだったのですが、どうでしたか?」
ホッとするしのぶ。そして、閉じたような目では分かりにくかったが、ヨモギを睨んだ。
「ヨモギさん、あまりこのようなことは感心いたしません」
「言ったじゃないですか。医者として止めるべきところだ、と」
しのぶは呆気にとられた。あれを取り出したときから、ヨモギはすでにせりを強制的に休ませるつもりだったのだ。
(本当に食えない方ですね……)
そっとため息をつき、彼女のことを見る。ヨモギは飄々とした様子で周囲を見渡していた。
「さて、今度は私たちががんばるとしますか? 塙詰嬢……」
「ええ、そうですね」
疲労している隊員にせりを任せ、しのぶも捜索作業へと戻った。
【よもやま話】
せりって、自称策士だけどだいたい失敗する、というキャラですよね。
ちなみにしのぶは他の人にも策士と認められててちゃんと策が発動して決まるタイプ。
かずらは策士と思わせることなく、他の人の策は見抜くし、ちゃっかり利用するタイプ。
ヒロイン3人はこんな感じじゃないかと思ってます。
せりも空回りするタイプだよな、と思わせるあたりはある意味、宗次と近かったのかもしれない。喧嘩してたのは似たもの同士だったからなのか。