サクラ大戦外伝~ゆめまぼろしのごとくなり~   作:ヤットキ 夕一

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─8─

 ──さて、その頃。

 

 行方をくらませていた梅里とかずらは、少し離れた別の廃屋に隠れていた。

 ミロクと脇侍に追跡された梅里達だったが、上手く逃れたり、やり過ごしたり、時には見つかって追いかけられたりとしながら、あの幽霊屋敷からは距離をとっていた。

 

「あの、隊長……なんで、通信、しないんですか?」

 

 息を整えながらかずらが尋ねてくる。

 

「無線は妨害されているかもしれないし、傍受の危険が高い」

「でも、八束さんの念話なら……」

「それも紅のミロクの妖力を考えたら安全とは言えないんだよね」

 

 そう言って苦笑を浮かべる。

 

「妨害はされないかもしれない、いやむしろ繋がるようにしているだろうけど、それが罠で盗聴される危険が高い。それくらいアイツの力は強そうだ」

 

 今までの黒之巣死天王、梅里が上野では別方面にいて見なかった黒き叉丹はともかくとして、蒼き刹那や白銀の羅刹よりも妖術、魔術といった事に長けてそうな印象を受けている。

 

「とにかく、今は逃げるしかないかな」

「そう……ですよね」

 

 しょぼんと落ち込むかずら。

 こうなってしまったのも自分のせいだ。後ろを気にしたせいで転んでしまい、逃げられたはずの隊長まで巻き込んでしまった。

 手をつかんでくれたのは本当に嬉しかったが、それも一時のこと、こうして考えるような時間ができてしまうと、自分を責める考えばかり浮かんでしまう。

 この大失敗のせいで、ヨモギがかけた暗示はすっかり飛んでしまい、元のネガティブ思考に戻ってしまっていたのである。

 

(本当に私、ダメダメだ……)

 

 この絶体絶命のピンチ、しかもそれに梅里を巻き込んだことに涙が出そうになる。

 

「ゴメンね、かずらちゃん」

「え……?」

「いや、こんなことに巻き込んで」

「そんな……悪いのは私じゃないですか。私があのとき転ばなければ、こんなことにはならなかったのに」

 

(……そうじゃないんだけど、なぁ)

 

 と梅里はひそかに思う。

 梅里のねらいは宗次が予想したとおり、ミロクをあの幽霊屋敷から引き離すことだった。

 あの「楔」の邪魔をしているのは、あの幽霊屋敷がまとっていた霊力であることは間違いない。となれば次に黒之巣会──紅のミロクが考えるのは屋敷の霊力を封じるなり霧散させるなりすることだ。

 前の会議で出た黒之巣会の狙いについては、ヤツらがこの帝都に魔術的なものを仕掛けようとしていると、梅里は今回のことで確信できた。

 そうなれば、あの場所は間違いなく魔術的なポイントである。それを押さえられるのを防がなくてはいけない。

 あのときの梅里達ではあまりに戦力不足だった。まともに戦えるのは梅里くらいだろうし、たとえかずらの演奏によるサポートがあっても脇侍をどうにか全滅させるのがせいぜい。

 敵の援軍があればどうしようもないし、たとえ無くてもそれからミロクを討つことまでは現実的ではなかった。簡単に倒せるほど弱いとは思えない上に、今までのことを考えればミロクにも専用の魔操機兵があってそれを使ってくるはず。

 もし、ミロクが自分たちを全滅させたら、華撃団に感づかれる前にどうにかしようと作業を急ぐはずだ。それは、近江谷姉妹の瞬間移動で無事に逃げおおせても同じ。たとえ花組が出動しても、多数の脇侍が人目を気にせずあの屋敷の封印活動を行えばおそらく間に合わない。

 そこで梅里は、あえて自分が残り、幽霊屋敷の重要性にには気が付いて無いフリをしながらミロクを引きつけようと考えた。付近に梅里という帝国華撃団がウロチョロすれば近づけさせないようにするという考えは、実際のミロクの行動と合致したことからも間違っていなかったという証明になっている。

 

(その上で屋敷から引き離す……)

 

 梅里はそう考えた。

 現場責任者のミロクを引きつければ作業は遅れるし、バレてないと思いこめば多数の脇侍を使っての作業するような目立つような行動も避けるはずだ。

 正直、賭けだった。

 これで時間が稼げても事態が好転するかはわからない。だが、やらなければ間違いなく相手の目論見が完遂され、目的にまた一歩近づかれてしまう。その完成がまだ遠いのかすぐ近くなのか分からないし、そもそもこれが最後の一つなのかもしれない。そう思えばたとえ分が悪くても動くしかなっかった。

 誤算は、目撃現場から離れる前に、早々に敵に気づかれてしまったことだ。

 それを近江谷姉妹の瞬間移動で、かずらを含めた3人を離脱させるという軌道修正を行おうとしたが、さらにトラブルが起きてかずらを退避させることができなかった。

 これは痛恨の極みだった。か弱いかずらをこんな場所に連れてきてしまったことが悔やまれる。

 責任を感じて梅里は謝罪したのだが──どうやらかずらは勘違いしているようだった。

 

「……私、最近、何をやってもダメなんです。公演の演奏では足を引っ張るし、コンクールの結果は散々だし、夢組の活動だって……マリアさんの時も、アイリスの時も、せりさん達がピンチの時も、何も役に立てませんでした」

「それは……」

 

 楽団やコンクールのことはともかく、夢組の活動については梅里の責任でもある。

 

「隊長はスゴいです。なにをしても完璧で」

「僕が完璧? そんなことはないよ、全然……」

 

 梅里の胸がズキリと痛む。

 自分が完璧であれば、あんなことにはならなかった。

 ──先月の一件、そしてせりのおかげで過剰に自分を責める気持ちは無いが、その思いは今も残っている。

 

「だって、すごいじゃないですか。入隊したらいきなり隊長だし、ほかの隊長さん達はみんな軍人さんなのに隊長だけは違うし。それに……上野で私のこと、助けてくれたし」

 

 少し顔を赤くして、かずらは梅里を盗み見る。

 梅里は遠い目をしてなにかを思い出しているようだった。

 

「隊長になったのは米田司令のコネがあったからだよ。黒之巣会が動き出さず、時間があったら宗次がきちんと動かしていたはずさ」

 

 梅里はそう言うが、かずらはそうは思ってなかった。当時はまだ乙女組だったが夢組の手伝いをよくしていて、その空気の悪さは感じ取っていた。

 

「上野は、あれは当たり前のことをしただけだよ」

「それでも! それでも私にとっては、大きくて、すごく大事で、特別なことだったんです!」

 

 思わず詰め寄るように近づいていたことに気づいたかずらは、慌てて身を元の位置に戻す。

 

「……私、今はこんなにダメダメですけど、ちょっと前まですごかったんですよ? 親の薦めで始めたバイオリンは、みんなすごく誉めてくれて。賞も取って。天才だって言われて──」

 

 その手元には皮肉にもバイオリンがあった。

 普段、かずらが使っているものではなく、弾くための弓共々に錬金術班が補強した上、戦場でも調律が狂わない特別製のもの。弾き心地はなるべくかずらのものに合わせてくれている。

 

「乙女組でもそうだったんですよ? 潜在霊力が強くて、演奏に霊力を乗せられるのも珍しいっていわれて、それに込められる霊力の強さも、コントロールも天才的だって、本当にすごいって言われて……霊子甲冑は相性がダメで動かせなかったんですけど。それでも乙女組の頃から夢組を手伝ってて。乙女組では最優等だったんですよ」

 

 そんな自分の誇らしい成績をはなすかずらだったが、とても自慢しているようには見えなかった。

 うつむき、どこか寂しげに話す姿は本当に弱々しい。

 

「だから、勘違いしちゃってたんです。ごめんなさい、隊長。私、隊員失格ですよね」

「……なんのこと?」

 

 だから急に顔を上げてそう言われても、梅里は突然の変化についていけなかった。

 

「教えてください! 私が何をやって隊長にあきれられたのか!」

「僕が? かずらちゃんを? 呆れる? ……なんで?」

 

 梅里は驚きのあまりきょとんとした顔でかずらを見た。思わず質問に質問で返してしまった。

 

「その理由を聞いているんじゃないですか!」

「そういわれても、呆れてなんかないけど……」

「ウソです。だって上野公園での出撃のあと、一緒に仕事してくれなくなったじゃないですか!」

「そう、かな?」

「そうです! それだけじゃありません。芝公園の花組支援も! 築地も! 浅草も! みんな出撃するような大きな事件の時、私だけ待機じゃないですか!」

「あ~、それは……そうだね」

 

 確かにそうだ。それは梅里も記憶している。

 

「私が、上野公園で失敗したから、だから隊長は……」

「違うよ、失敗なんてしてない。ただ……あのときから怖くなったんだ」

 

 梅里は思い出す。上野公園での再調査で、逃げ遅れた人をかばうかずらに向かって脇侍が刀を振り下ろすところを。

 

「怖く、なった?」

「そう。あのとき、かずらちゃんは危なかった。場合によっては殺されていたかもしれない。それが芝の時も、築地の時もよぎっちゃってね」

「そんな、私は……」

 

 どう言っていいか分からず、かずらは梅里から視線を外し、うつむき加減に下を見る。

 

「ゴメンね。僕のせいなんだ。僕はもう目の前で誰かの……大事な、人の命が失われるのを見るのは耐えられなかったんだ」

「大事な人の、命?」

 

 かずらは思わず視線を上げて梅里を見る。

 思わず胸がドキッとした。梅里に、ひそかに思い焦がれる人から大事な人と言われて。

 

「そう。一度失ってしまったから。僕の大事だった人の命を、目の前で……」

「え? それってあの人の──」

 

 かずらがそう言いかけた時、梅里達が隠れていた廃屋が大きく揺れた。

 離れた場所の壁に穴があき、そこから脇侍が入ってくる。

 

「まずいッ! バレたか!!」

 

 梅里がかずらをかばうように前に立つと、脇侍の背後から声がする。

 

「……ようやく見つけたぞ。ネズミ共」

 

 女の声が響きわたる。

 そうして現れたのは紅のミロクだった。

 




【よもやま話】
 梅里とかずらのシーン。
 ここで重要なのが「大事な、人の命」という梅里の台詞。
 梅里的には「人の命が大事」という、言い換えれば「命は宝だ」とまるでエクスカイザーのようなことを言っているのですが、恋する乙女のかずらには「大事な人の、命」と伝わってます。(でも「鶯歌の命」のことを考えるとある意味合ってる。)
 日本語って難しいですね。
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